夏はきらいです…

※未成年飲酒の表現があります。
※お酒は二十歳になってから






八月。
暑いし怠いし日差しが強いし、とてもしんどい。


『夏はきらいです……』


「んー。くたっとした刹那はぬいぐるみ感が増して良いね」


「ぬいぐるみ感wwwwwwwwwwwww」


「まぁ私らは暑くなくて助かるけどね」


悟にぎゅうぎゅうと抱き込まれつつ、適度に凍らせた教室の中でだるーんとする。
暑さはこうやって凌げるけど、日差しがつらい。


『太陽が憎い……』


「吸血鬼かwwwwwwwwwwwww」


『奴は肌を焼くんだ…皮が剥けて痛いんだ…もう少し控えめに光っとけよ。自己主張激しすぎるんだよ…』


「wwwwwwwwwwwwwwwww」


「太陽に苦情wwwwwwwwwwwwwwww」


三人がゲラ。
くっそ、悟だって夏が苦手そうな見た目してるじゃん。首筋に額を押し付けると、擽ったそうに笑われた


「なぁに?かわいいね」


『とてもいらいらする』


「テディおこだよwwwwwwwwwww」


「太陽におこwwwwwwwwwwwwwww」


「俺らどうしようもねぇじゃんwwwwww」


『おまえらにおこ』


朝は良いよ?でも昼間は無理。そもそも夏も学ランとか頭が可笑しい。
判るよ?少しでも呪霊からの損害を防ぐ為だって。でもそれならもっと薄手の制服に結界でも付与する研究しろとは思っている。


『早く夕方来ないかな…太陽がいや…』


「夏って呪霊が増えてクソ怠いよな。猿共わざわざ肝試しとかするじゃん?テメーらのみみっちい肝なんか試してんなよってカンジ」


「そう言うな。人間は退屈だと刺激が欲しくなるんだよ」


「刺激ってわざわざ夜っつー視覚の不調と加勢も来ない状況っていう二重のデバフ掛けなきゃ得られねぇモン?
そもそも猿共はなんで身を護る武器すら持たずに廃墟に行くの?せめてスタンガンは持ってけよ。呪霊には効かねぇけど。
懐中電灯を武器ですって真面目な顔して言って良いのは黒川だけだわ」


「黒川を弄るのはやめてあげな。戦闘中は人格変わるレベルだよ、彼」


「え、そんなに?」


「私も見た事ないな。刹那は?」


『純粋にバスターゴリラだと思いました』


黒川くん、戦闘になるとスイッチ入る系だった。
結界で自分の木刀に呪力を纏わせたかと思えば、次の瞬間には飛び掛かって呪霊の頭をカチ割っていたのだ。
細身なのに瞬発力が凄い。あれはゴリラ。


「なんなのwwwwww呪術師ってゴリラばっかじゃんwwwwwwwwww」


「悟??????なんで私を見るのかな??????」


『ママの圧よwwwwwwwwwwwwww』


「ゴリラママwwwwwwwwwwwwww」


笑顔で圧を掛ける傑に皆で笑う。
暫く笑ったあとに、ふと真面目な顔で悟が言った


「つーか、準一級までの呪術師でゴリラじゃねぇのって刹那だけじゃね?」


『待って???語部さんゴリラにするの可哀想』


「あ?アイツはゴリラ。だってアイツ、傑投げられんだぞ」


『えっ』


悟の言葉が信じられず、傑を見る。
にっこりと笑ったままで彼は頷いた


『えっ、嘘でしょ?』


「本当だよ。組手の練習中だったかな。私の攻撃をいなして投げたから、純粋に彼女の膂力だけ、とも言い難いけど」


『……呪術師はゴリラ…???』


傑を投げるってヤバいな?無理じゃん。こんなゴーリキーみたいなキン肉マン投げるとか普通無理じゃん。
そう考え、ぱっと座椅子を見た。
目が合うとへにゃっと笑うそいつを指差し、叫ぶ


『NOゴリラ!!』


「は???????」


「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「NOwwwwwwゴリラwwwwwwwwww」


爆笑するパパとママ。青筋を浮かべた悟がぐっと顔を近付けてくる。


「は??????俺だって傑投げられんだけど?????それなのにゴリラじゃねぇのってなに??????」


「ゴリラになりたいのかおまえwwwwwwwwwwwwww」


『非力とは言っていない。しかしゴリラではない』


「しかしwwwゴリラではwwwwwwwないwwwwwww」


「じゃあゴリラの基準言えよ。語部もゴリラなのに俺だけ違うとか非力ですって言われてる様なモンだろ」


『体術にある種の獰猛さは欲しいですね』


「真面目に解説するなwwwwwwwwwww」


「獰猛さ?…甚爾みたいに殺しに特化しろって?」


『あれもゴリラ。でもあれはラストゴリラ』


「ラストwwwwwゴリラwwwwwwwwwwww」


「もうやめてwwwwwwわけわかんないwwwwwwwww」


硝子と傑が死んだ。
それを見て、悟とハイタッチする。


『「うぇーい」』


笑い袋が動かなくなったのを指差して笑う。途中で悟がウィンクして来たので、あ、これは笑わせて潰す気だなと気付いた。
でもぶっちゃけ何処から冗談なのか。悟はゴリラになりたいのか?


『悟って?ゴリラになりたいの?』


問うと、悟はべぇっと舌を出した


「やだね。俺は細マッチョなんですぅ。胸筋ムキムキ逆三角形ゴリラなんか誰がなるかよ」


「マッチ棒が僻むなよ」


「あ゙??????」


「うるせー。喧嘩なら外でやれや。燃やすぞ」


硝子がライターをちらつかせると、睨み合っていた二人が静かに座り直した。パパが強い。

















「夏と言えば?」


『海』


「花火」


「ビール」


『「「まてまてまて」」』


硝子がしれっと放った単語に全員がツッコミを入れた。
ビール?未成年では?私達まだ十七では?
驚く私達を尻目に、硝子がジョッキを呷る動作をした。妙に似合うのは何故なのか。


「夏油だってチューハイの味見ぐらいならした事あんだろ」


「あれはジュースだよ」


「ほら見ろ犯罪者め」


「裏切り者!!」


『首を差し出せ』


「まってwwwwwwチューハイ飲んだだけで重罪wwwwwwww」


「ラッパーか。韻踏んでんじゃねぇよ」


『ラッパーwwwwwwwwwwwww』


「案外似合うなwwwwwwwwwwwww」


悟の一言で腹筋がやられた。
笑う私の髪を三つ編みにしながら悟が言う。


「酒ってさぁ、美味いの?あれってアルコールが大脳新皮質の働きを鈍らせて、本能フルオープンになるから免罪符として飲みたいんだろ?
酔っちまえば性欲に従順になっても許されるって甚爾が言ってた。アイツ酔わねぇ癖に」


「伏黒先生が大体悟に変な事しか教えないのは何なんだろうね?」


「あとカルアミルク?とか、ロングアイランドアイスティー?とかスクリュードライバー?ってのを刹那に飲ませたら良いぞって。
キスインザダークとかビトゥイーンザシーツとかも言ってたな。カクテルの名前って長ぇのばっかなのなんで?呪文?」


「嘘だろレディーキラー勧めんのかあの教師」


『レディーキラー?』


「度数キツいのに飲みやすくて、気付いたら酔ってましたってヤツだよ。男がお持ち帰りを狙ってたりする時に勧めたりする。
あとで代表的なものを教えるから、気を付けてね」


『はーい』


「え?お持ち帰り?酔った刹那おぶって家に帰れって事?甚爾何考えてんの?」


「コイツが一歳児で良かった」


「下半身で生きてなくて良かった」


「ん????なんか良く判んねぇけど馬鹿にしてんのは判った。表出ろ」


『褒めてるんだよ』


「どこが??????」












「────という訳で、飲んでみろ」


「せんせー!!未成年で飲酒するならず者が居まーす!!!!」


「治外法権って言葉を知らないのか馬鹿五条。家ん中まで夜蛾センはパトロールに来ないっつーの」


『へー、沢山あるね』


「焼酎が多いのは硝子の趣味かな?」


テーブルに並べられた缶と瓶の数々に悟が騒ぎ、私と傑はラベルを眺める。
渋い焼酎のラベルから可愛い色合いの缶チューハイまで、種類は様々。
どういう味なのか想像が付かなくて、傑を見る。


『傑、飲みやすいのってどういうの?』


「お酒に初めて触れるなら、チューハイとかが良いんじゃないか?甘いし、そこまで度数は高くないから女性にもオススメだよ」


「じゃあ俺チューハイ飲む」


「サト子ちゃんはこの中から選びな。刹那はどうする?」


「焼酎いっとくか?私のオススメがあるぞ」


生き生きした顔で硝子が焼酎を指差すと、其方に返事する前に肩を抱かれ、引き寄せられた。
こんな事をするのは悟しか居ない。
見上げれば、私をぎゅうっと抱き込んで舌を出した


「初心者に焼酎とか難度高過ぎだろ。刹那がアルコールに弱くて頭痛くなったり吐いたりしたらどうすんの?
先ずはチューハイで様子見がベターだって」


『………………』


「………………」


「………………」


無言で三人で目を見合わせた。
え?これほんとに五条悟?
こんな気遣いの塊が?
え????だれ???????


『悟…?クズを何処に落としてきたの…?悟がクズじゃなきゃただの完璧超人なんだよ…?正気に戻って…???』


「ねぇ怒っていい??????」


「クズをwwwww拾えとかwwwwwwwww」


「うそだろwwwwwwwwwwwwwwwww」


「オマエら全員マジビンタ」


「安定のクズwwwwwwwwwwww」


「もうむりwwwwwしぬwwwwwwwwww」


『うん。悟はクズじゃないとね!』


「オマエらには優しいと思いますけど???」


青筋を浮かべた悟に三人で笑う。
うん、判ってるよ。悟は優しい。
…でもほら、クズじゃないとね?そんなのただの顔面国宝だから。
からかわれていると判っているんだろう、へにゃっと笑った悟にぎゅうぎゅうに抱き込まれた。つぶれそう。


『ワタガ、デルヨ!!!!!』


「さとるっちwwwwwwww」


「急にさとるっちのマネwwwwwwwww」


「なんでwwwwwwwwwwwwww」


力の抜けた腕の中から抜け出して、チューハイを吟味する。
グレープに紅茶にグレープフルーツにレモンにピーチ&マンゴー。まぁ色々ある。
直感で選んだのは紅茶。
缶を手に取り、やっと復活した笑い袋達に声を掛ける


『皆何にするの?』


「あー腹痛い……俺が好きそうなのどーれだ!」


『お前はピーチ&マンゴーだよ!』


「せーかい!え?なんで判ったの?」


『いや悟判りやすいじゃん』


きょとんとしている悟に此方がきょとんとした。いや、悟判りやすいからね?
私達五条悟検定特級持ってるし。


「んふふ、刹那俺の事めっちゃ好きじゃん?愛してるの?」


『ははは』


…愛という言葉はどうにも口にしづらい。それがたとえ、冗談でも。
笑って濁す私を抱き締めて、悟はへにゃっと笑った


「だいじょうぶ。わかってるよ」


頭を撫でて、悟が言う。
とても優しい声で。柔らかな笑顔で、言うのだ。


「俺愛してる。安心して、刹那」


『……そういうトコだぞ五条悟』


「照れてる?かわいい。もっと見せろ。ふふ、かわいいね」


「………なんだろうな。五条って、刹那にだけは懐が海なのウケる」


「知ってるかい?ああいうの、巷ではスパダリというらしいよ」


『パパ、ママ、助けて。私が羞恥心で死ぬ』


「甘酸っぱ過ぎて死ぬって?それを見てる私らも死ぬから安心しろ。一人じゃない」


「パパに助ける気がないwwwwwwwww」


結局皆でケラケラ笑い、笑いの波が収まった所でお酒を選んだ。
硝子は私でも知っている、王の付く有名な焼酎。傑は祭りと名の付くこれまた有名な焼酎。私と悟はチューハイ。
四人でテーブルの前に向かい直すと、悟が缶を掲げた


「かんぱーいっ!!!」


「「『かんぱーいっ!!!』」」


缶とカップを高く鳴らして、一口含む。
紅茶ベースの味の後、苦味に似た独特な風味が喉を滑り落ちる。


『んー、アルコールって不思議な味だね?』


「ふふ、慣れないと最初はびっくりするよね」


にこにこしている傑は平然と焼酎を飲んでいて、大人だなぁ、と感じてしまう。硝子もすました顔でカップを呷っているし。
そういえば、悟は静かだがどうしたんだろう。
ふと隣を見て、目を丸くした


『え?悟?』


………悟がテーブルに伏せていた。
髪から覗く髪も、首も、それどころか手まで真っ赤だ。
まさか一気飲みした?
缶を持ってみるが、重い。何なら開けただけと言えそうな重みがある。


「悟?酔ったの?」


「缶チューハイ一口で?嘘だろ?」


『でも真っ赤だよ?』


「ったく、見せろ」


溜め息を吐いた硝子が腰を上げ、ダウンした悟を診察してくれる。
脈を測り、目蓋を捲って硝子は診察結果を述べた


「酩酊状態。多分、アルコールに極度に弱いんだ」


『へぇ……缶チューハイ一口で…?』


「弱い奴は少量で反応するからな。可哀想に、コイツは一生酒の良さを理解出来ないんだ」


「それは可哀想に……」


「うるせー……あたまいてー…」


『悟、水飲む?』


「のむ……」


ぐでっとなった悟に水を渡せば、大きな手がゆっくりとコップを掴んだ。
補助しつつ水を飲ませる。硝子はさっさと自分の席に戻り、カップを握っていた。おい医者の卵。


「うう…せつな……あたまいたい」


『大丈夫?横になる?』


「横向きに寝かせろ。万が一吐いても吐瀉物で窒息しない」


『悟、ソファーで横になろうか。歩ける?』


「やだ」


『えっ』


何故…?
凭れ掛かってきた悟はそのまま下に降りていき、もぞもぞと私の膝に頭を乗せた。
頭を何度か動かして、丁度良い位置を見付けたのか動かなくなる。
目を閉じてすやすやと寝息を立て始めた悟に、思わず三人で目を見合わせた。


「……寝たな?」


「寝ましたね」


『ぐっすりです』


「掛けるものを取ってくるよ」


『ありがとう、傑』


ぽんぽんと私の頭を撫でた傑が席を立つ。
眠る悟を頬杖を着いて見下ろしながら、硝子が言った


「レディーキラーの前にレディーにチューハイでお持ち帰りされそうな下戸とか笑う」


『それ悟に言っちゃダメだよ。拗ねるから』










弱点見っけ










刹那→酒には強くもないが弱くもない。ゆっくり飲まなきゃ頭痛に襲われるタイプ。
ふとした時に顔を出すスパダリの片鱗にクズを何処に落としてきた???と動揺する事が増えた。良い変化。

五条→アルコールは怨敵。許すまじ。
傑がお持ち帰りするなら「ああ、ヤるのね」という回答に行き着く癖に、自分が刹那をお持ち帰りと言われると「ああ、酔った刹那の介抱ね?まっかせろー!」になるポンコツ。
最近刹那限定で本格的にスパダリになり始めた。良い変化。

夏油→酒は決して弱くはない。楽しく飲むのが好きなタイプ。
五条が刹那限定で海の様に広い心を見せる様になって成長を感じた。
それを私達以外に向けられたらなぁ…無理?そっかぁ。

硝子→ザル。というかもう、ワク。浴びても酔わない。楽しく美味しく永遠に飲むタイプ。
五条が刹那に最適解しか出さないのを見て「コイツ、刹那限定で完璧超人じゃん」と笑っている人。
ただし刹那が照れている時は此方も五条の可愛さにやられているので、死ぬ時は皆一緒。



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