手伝う気は?ない?そっかぁ

それは五条と俺と語部が一緒になった日の事だ。
ぶっちゃけ俺達の経験値の為の任務。五条はほぼ付き添いの様なもので、俺と語部が祓うのを時たま眺め、殆ど煽り、結構な頻度で携帯を眺めていた。おい給料泥棒


「終わった?時間掛かりすぎ」


息を乱しながら祓除を終えた俺達に向けられたのはそんな言葉で、語部が笑顔で刀を構えた。


「殴りたいあの美貌」


「羨ましい?オマエよりずっと可愛くて綺麗で格好良いでしょ?あげないけど」


「黒川!!!五条がムカつく!!!!」


「落ち着きなさい語部。五条が失礼なのは何時もの事だろ」


「オマエも俺に失礼だわ」


肩パンしてくる五条に苦笑いして、刀を握る語部を宥めた。
やめなさい、斬れないから。疲れるだけだから。日本刀って結構重いだろ?ムキムキになるぞ?嫌だろ?
そう言ってどうどうと声掛けしていると、しれっとした顔で五条が言う


「なにソイツ。マジでゴリラじゃん」


「キュートなゴリラちゃんに首チョンされたいのだーれだ!!!!」


「そんなニッチな趣味の奴夜中に廃墟に行くタイプの猿しか居ねぇよ。馬鹿なの?
つーかオマエ程度が俺の首獲れる訳ねぇじゃん。
これ1+1より簡単な事実なんだけど?馬鹿なの???
実はひらがなのあもちゃんとした書き順で書けないんじゃない?????
馬鹿なの???????」


「駄目だ黒川、見るのは好きだが絡まれるとこんなに腹立つなんて聞いてない。なんだこいつイラつく。
とてもイライラするんだけど私は何にこの苛立ちをぶつければ良いの????」


「呪霊にぶつけろよ。なに?なんでゴリラは直ぐ壁とか山とか吹っ飛ばしにかかるの?オマエらの憧れドンキーコングなの?
なに?樽持ってぶん投げちゃう感じ?蔦登ってターザンごっこやっちゃう感じ?
オマエらがウホウホ言ってバキバキ殺っちゃう建物とかガードレールとか普段誰が直してると思ってんの?
工事専門の猿と巻き戻しに特化した呪術師だよ。オマエらがウホウホするとソイツらがひいこら言いながらつるはし持って直しに来るんだぞ。
可哀想だろ?蟻の命も労ってやれよゴリラ♀」


「死なねぇかな。こいつ今すぐ隕石当たって死なねぇかな」


「隕石落ちてきたって俺は殺せませーん。残念でしたぁ!!!!」


べろべろばぁ、とわざわざサングラスをずらして見せた目で上を向いて大きく舌を出した五条に俺が思うのは、お前が言うなの一言だ。
直ぐ壁とか山とか吹っ飛ばすのお前。建物とかガードレールとか殺っちゃうのもお前。蟻の命を労れないのもお前。
つまりブーメラン。とてもブーメラン。
無言の俺から何かを察したのか、五条が俺に二度目の肩パンを見舞った。
おい、モブの命を労れ。















煽る五条にぎゃあぎゃあ吼える語部を宥めながら、俺達は高専に戻ってきた。
何時だって荘厳な建物を眺めながら校舎に向かおうとして、足を止める。


……校舎の前に、男子生徒が一人立っていた。


はい、明らかに面倒なフラグです


「どうします?回り道すりゃ多分気付かれずに済むと思いますけど」


「あ?黒川、ビビってんの?ダッセ」


「いやいや黒川は正しいですって。アレ明らかにフラグじゃん?
俺、待ち伏せしてるぜ!って吹き出し出てるでしょ」


「吹き出し見えるとかオマエの脳味噌どうなってんの?俺らに絡んでくるとも言い切れねぇだろ。
つーかオマエらのどっちかでしょ?俺イイコだから心当たりねぇもん」


「アンタは心当たりしかないでしょ???嘘、心当たりないとかメンタルどうなってるの…???生きてるだけでストレス与えてくるタイプじゃん…」


「ブッ殺すぞゴリ子」


「刹那ちゃんに言い付けんぞクズ」


「エッ」


五条が語部を二度見した。
勝ち誇った様な顔をした語部を暫し凝視して、それから鼻を鳴らしてサングラスのブリッジを押し上げた


「言われても平気だったわ。刹那はオマエより俺の事信じるし優先するから全然平気。俺、オマエより愛されてるから。
言えばぁ?言っても結局優先して貰えないけど。精々俺と刹那の仲の良い光景見てハンカチ噛んどけばぁ?」


「くっっっっっっっっっっっそムカつく!!!!死ね!!!!!!」


「罵倒のボキャブラリー貧困に喘いでんな。
ムカつくと死ねかっ飛ばして睨むのって歌姫と同じ反応だよね。脳味噌渇いてんの?辞書でも引いてもう少し語彙力鍛えれば?」


五条のこの煽り癖はどうにかならないだろうか。
そして語部、無言で刀を出そうとするな。やめなさい。どうせ敵わないしそれは人としてアウトだからやめなさい。
竹刀袋の紐を全力で掴んで阻止する。
そんな俺と語部を見て、五条は馬鹿を見る目を向けてきた。大体お前の所為。


「つーか今日は早く帰りてぇんだよ。猿が退け」


「何かご予定でも?」


俺が訊ねると、五条は深く頷いた


「刹那が唐揚げ作ってるし硝子がココア淹れてくれるって言うし傑が皆でトランプしようって言ったんだ!!
だから俺今日ちゃんと任務に行ったの!!頑張ったら唐揚げだから!!!!」


「子供か!!!!!!!!」


「は???????一歳ですけど何か???????」


「こういう時ばっかり一歳のフリすんなよ!!!大体お前私らに任務ぶん投げて遊んでたじゃん!!何を頑張ったと言うの!?!?!?!?」


「オマエらの子守り」


「寝言は寝て言え!!!!!!!!」


語部が吼えた。
でもそれは俺も同意する。
お前はただ着いてきてただけ。寧ろ此方が子守りをしていた。
無言の俺をちらりと見て、五条が肩パンして来た。
だからモブを労って?お前そんなほっそいのにゴリラだよ???


「時間が勿体ねぇ、直球だ。
おい!!!どけ雑魚!!!!!!」


「これはひどい」


「一緒に居るって思われたくねー………」


しかし五条は俺の襟首を掴んでいる。逃げたい。
ずるずると引き摺られながら男の許に向かう。
此方を真っ直ぐに見つめている男子生徒は、五条を悲壮さまで滲ませる表情で暫し見て、そして────土下座した。


「あ?」


これには五条も怪訝そうな声を出す。
困惑する俺達の前で、男は言った


「五条様に伏して頼みがございます!!!!」


「うるさ。誰。なに」


冷たい。五条が冷たい。
端的に平淡に返される声音が機械みたいでめちゃくちゃ怖い。
え?これが数秒前まで語部をからかって遊んでた人間歴一年?嘘でしょ?別人じゃん。温度差が激しすぎてグッピーが死んだ。
驚く俺を掴んだまま静かに見下ろす五条の前で、男子生徒は、爆弾をぶん投げた。


「どうか!どうか!!家入硝子か桜花刹那を我が来馬にお譲り下さりませんか!!!!」


「────────あ゙?」


………遠くに放り投げられた。
それを理解した瞬間、轟音が響いた。













地雷を踏むなら踏みますよって言って欲しい












五条→散々駄々を捏ねてしすせに甘やかしてもらう条件で子守り(ただのヤジ係)になった人。
最後におこ☆

語部→五条悟は遠くから鑑賞するには良いが絡まれたら死ぬ程腹が立つ。

黒川→地雷を踏むなら踏みますよって言って欲しい。
語部をからかって遊ぶのはやめて欲しい。
肩パンもやめて欲しい。

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