ナズナ

※やばい
※いかがわしい
※五条が喘いでる
※相変わらず倫理はお出掛け中ですので御注意下さい。













────ふと、空腹を覚える事が増えた気がする。


さっきご飯は食べたんだけどな。
首を傾げる私を見て悟が問い掛けた


「刹那?どうしたの?」


『んー…ちょこっとお腹空いたなって』


「珍しいね。さっきお昼は食べただろう?足りなかった?」


『いや、足りた筈。……うーん?』


「ほんと珍しい。刹那、ちょっと診ようか?」


『いやいや、大丈夫だって。ちょっとお腹空いただけだし』


今日はうどんだったし、腹八分目までしっかり食べた。
だから足りなかったなんて事は有り得ないのだけど。
首を捻る私の前に、コトリとティーカップが置かれた。
それを置いた悟が隣に座り、脚を組む


「刹那、それ飲めよ」


『なにこれ、紅茶?』


「そ。最近買ったの。飲んでみて」


悟に薦められ、薄紅色の紅茶を口許に寄せた。
ふわりと薫るすっきりとした甘さ。
ゆっくりと口を付けて、液体を咥内に招いた。
最初に感じたのはとろりとした蜜の様な甘味。
その後にレモンの様な風味が抜けて、最後にバニラの甘さが舌を撫でた。
甘いけれど、くどくはない。初めて飲んだ味に目を丸くする。
私の反応を眺めていたんだろう、悟が楽しそうな笑みを浮かべながら此方を覗き込んできた。


「どう?」


『美味しい!なにこれ、ブレンド?』


「んふふ、秘密」


何処で買ったんだろう。繊細な味わいがとても美味しい。
もう一口飲んで笑う私に、悟がにっこりと笑った


「たっぷり味わえよ。俺の愛情がたっぷり詰まってるからね♡」














────日によって、日差しが気になる事が増えた。


『まぶしい……あたまいたい……』


「熱はないね。鎮痛剤打っとくか?」


『大丈夫…ごめんね硝子』


「気にすんな。あんたは何時も頑張り過ぎなんだよ。少しダラダラしたって罰なんざ当たらないさ」


『うう…パパ……』


「私の娘は可愛いな」


夏の日差しが強い日に頭痛に襲われる事が増えた。
医務室のベッドに転がる私に冷却シートを貼って、硝子が一度デスクに向かった。
それから此方に戻ってくると、私に口を開ける様に言ってくる


「飴だ。頭痛はそれから意識を逸らせば楽になる事もある。舐めときな」


『ありがとう』


赤い飴が口の中に放り込まれた。
ミントみたいな味がすっと抜け、その後にラムレーズンに似た甘さがくる。
何という味の飴なんだろう。美味しい赤色を口の中で転がしていると、硝子が優しく笑って頭を撫でた


「気に入った?」


『美味しい。ありがとう硝子』


そういえば、頭痛も少し収まってきた気がする。
呟いた私に、硝子がゆるりと微笑んだ


「ふふ。ほんとに可愛いな、刹那は」













────自然治癒能力が、高くなった気がする。


『もう治った』


「ああ、包丁で切った傷だったっけ?」


『そう。速いなぁ……実は反転術式使える様になったとか?』


「ふふ、そうなってくれたら刹那が傷付かなくて済むし、私も嬉しいな」


『ママ、すき』


「私もだよ可愛い娘」


両手を広げてぎゅうっと逞しい身体に抱き付く。良いな、筋肉良いな。羨ましい。


「そうだ、刹那。これあげる」


そう言って傑が取り出したのはキャラメルだった。
綺麗な赤色の長方形。包装されたそれを私に握らせ、傑が笑う


「この間伏黒先生の手伝いを一緒にやってくれただろう?そのお礼だよ」


『別に良かったのに。でもありがとう』


「どういたしまして」


貰ったそれを早速口に放り込む。
ライムの爽やかな味が最初に来て、そのあとにほんのりと苦味を帯びたチョコレートの風味。最後に柔らかなプラリネが舌をなぜた。


『最近皆美味しいのくれるね。何処で買ってるの?』


めちゃくちゃ美味しい。
笑いながら訊ねると、傑がふわりと笑みを浮かべた


「ふふ、ちょっとね。刹那にだけあげる、とっておきだよ」












────のそり、動く。
覚束無い手付きで俺の首もとに手を伸ばすと、のそのそとシャツを引っ張ってきた。
黒い頭が首筋に埋まる。
かぷり、と音がしそうな程下手くそなその行為に、俺は小さく笑った。


『ん、んぐ……』


躊躇いが強いのか、純粋に下手なのか。牙は浅く皮に食い込むだけで、突き破る気配はない。
かぷかぷと甘噛みをされている気分になりながら、俺は綺麗な黒髪を撫でた。
暫く待ってみたものの、首筋は擽ったいだけで痛みなんか来やしない


「ヘタクソ、もっと口開けろ。おねだりじゃなくてちゃんと牙使え」


ちくちくと何度も押し付けられる未熟な牙に業を煮やしたのは此方だった。
刹那の後頭部を掴み、首筋に押し付ける。
ぶつ、と肉が絶たれる音が鈍く聞こえた


『んぐ…!!!』


「オラ、啜れよ。反転術式は回さないから、好きなだけドーゾ」


頭を解放してやると、そのまま刹那は動かなくなった。
牙の穿たれた箇所から滲む血を啜っているのだ。じゅう、と肌が吸われ、背筋がぞわぞわした


「ンーーーーーーーー、オマエの牙ってこういう時厄介だな」


────後天的吸血鬼化。
それが今の刹那を蝕む変化だった。
恐らくは天与呪縛の一種であろうそれ。最初に気付いたのは、血を吸われた俺だった。
少し前。
刹那は今の様に俺に覆い被さり、首筋に牙を突き立て血を啜っていた。
……菫青の瞳を、ぼんやりと赤く染め上げて。


「は………ほんと、牙の効果どうにか出来ねぇかな…コレ気持ちいいけど嫌いなんだよ…っ」


じゅう、と小さな口が首筋を吸い上げる。
下手くそな吸血鬼は吸血さえも下手くそで、じっくりと時間を掛けて俺の血を飲むのだ。
つまり、その間ずっと催淫効果のある牙が突き立てられているという事で。


「悟、大丈夫か?」


扉が開いて、顔を覗かせたのは傑だった。
…大丈夫か?とか言いながら笑ってるのホントなんなの?????


「顔。せめて笑わねぇ努力出来ねぇ?」


「ははは、可愛い吸血鬼に性欲掻き立てられてる五条の至宝とか面白すぎるだろ」


「はー…んな事言っちゃう?マジ…っキツいんだぞコレ…んっ」


「………百合かな?」


「ちんこ付いてんだよボケカステメーのケツに消火栓ブッ刺すぞコラ」


「ははは、真っ赤な顔だと説得力がないよ、サト子ちゃん」


「あ゙ぁ゙ブチ殺してぇ」


ぞくぞくする感覚は気持ちいいけど、嫌いだ。快楽に浸り、自分が思考もせずただのケダモノに堕ちる感覚が嫌いだ。


…でも刹那に噛まれるなら、俺が良かった。俺だけが良かった。


だから硝子にも傑にも譲らず、地獄の様な甘い疼きを甘受している。


「……愛だねぇ」


「は……つーか、あんま見んなよ…っ…サト子ちゃん照れちゃう♡」


「じゃあ暫く鳴かされときなサト子ちゃん。私と硝子はリビングに居るから、イロイロ終わったら来なよ」


「おー……あとで覚えとけ」


「さぁ?何の事かな。ああ、サト子ちゃんがにゃんにゃん言ってたのは覚えとくね」


「死ね」


傑が戸を閉めて去っていった。
確か吸血鬼は四から六分の間に、人間の15%以下の血液を摂取する計算だった筈。…でもコイツは三十分掛けて多分5%程度。
ヘッタクソなのだ。もうストロー差して飲んで欲しい。


「ぁ……っクソ…もう少し上手くなれっつの…」


吸い付く小さな口の奥、舌がぬろりと滲む血を舐め取った。
身体が牙を経由して送り込まれた成分にまんまと乗せられ、体温が上がる。呼吸も乱れる。
心拍が上がればその分血を飲みやすいだろうが、はたしてこの下手くそはどうなのか。


「ふ…ぅ…っ……っぐ…」


じゅるじゅると啜られ、身体が跳ねる。
さらさらの髪が首筋を擽るだけで、吐息が漏れる。
柔らかな身体が触れる部分が熱い。火でも吹くんじゃねぇの、俺。
ちゅ、ちゅ、と何度も吸われ、ぐっと歯を噛み締めた。
バクバクと早鐘を打つ心臓も、股間が痛くなるこの身体の浅ましさも、漏れる声の甘ったるさも、ぜんぶぜんぶ気持ち悪い。


「ぅ…んッ」


……ああ。
気持ちいいのは、嫌いだ。













「せつな、おれねむい」


『?寝不足?』


「ウン」


『そっか。横になる?医務室行く?』


「ひざ」


『あー…』


単語を呟いて、悟は宣言通り私の膝を占拠し目を閉じてしまった。
すやすやと気持ち良さそうに眠りだした悟の髪を撫で、木陰からのんびりと空を見上げる。
暫く眺め、それからポケットに入れてあったチョコレートを取り出した。
さっき悟に貰った真っ赤な正方形を、口に放り込む。
最初に感じたのはとろりとした蜜の様な甘味。
その後にレモンの様な風味が抜けて、最後にバニラの甘さが舌を撫でた。
甘いけれど、くどくはない。


『……紅茶のチョコレート版?美味しいな』











の為に










刹那→吸血鬼になってた。
最近日差ししんどいしちょいちょいお腹すくなぁ、程度にしか異変に気付いてない。アホ。夜中の空腹による吸血行為にも気付いてない。アホ。
さが可笑しくなるのは大体お前の所為。

五条→吸血鬼の餌になりたい(真顔)
悦楽が苦手なのはそれが子作りに直結すると考えているから。
簡単に言うと身体だけ高校生の中身一歳児に媚薬ブチ込まれてる様なモン。毎度半泣き。
でも刹那に噛まれるなら自分が良い。
噛まれまくっているのでそのうち吸血鬼になる。そしたらお互いに血を啜り合うリサイクルが始まる。
血はバニラや蜂蜜がとろりと溢れるけれど、レモンも薫る繊細な味わい。

夏油→噛まれて喘ぐ童貞をからかいに来た。
今日も娘が可愛い。吸血鬼になろうが娘が可愛い。
多分五条が吸血鬼になったら巻き込まれて吸血鬼にされる人。
血はライムの薫るビターチョコ。でもプラリネの甘さも持ち合わせた風味豊かな味わい。

硝子→刹那の血液を調べたりしている。
定期的に三人で採血し、トレーに入れて固めている。
夏油が吸血鬼になったら壮絶な攻防戦の末噛まれそうな人。
血はミントの後にしっとりとラムレーズンを楽しめる芳醇な味わい。



ナズナの花言葉「あなたに私のすべてを捧げます」

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