冬は好きだ。
しんとした空気が好ましいし、雪が降れば尚良し。
…ただ寒さに弱いらしい巨大猫がマジで猫になるのが難点である。
『悟、おはよう。君は今日ご飯当番です』
「んぅ………」
声を掛けるが目は開かなかった。どうやら起きたくないらしい。
首筋に擦りつく白い頭をぽふぽふと叩いて解放をねだった
『悟、取り敢えず私を離して。ご飯代わりに作ってくるから』
「やだ……ゆたんぽ…」
『朝まで湯タンポしてあげたでしょ。ほら、おはようするよ』
「やああああああだああああああ…さむいいいいいいいい………」
『子供か』
ぎゅうぎゅうに抱き着いてくる悟の背中に手を伸ばし、布団をひっぺがす。
急に羽毛布団と離婚させられた悟はびっくりしたのか、開かれた蒼い瞳がまん丸く晒された。
信じられない事に直面したネコチャンみたいな顔をしている。
「…せつな?なんでこんなひどいことするの…?おれきらわれることした…?」
『起きなさい。それかもう当番代わってあげるから、離しなさい』
「や」
『どっちが?』
「どっちも」
『イヤイヤ期かな』
モコモコの猫耳フード付きのパーカーを着た男が擦り付いて寒いと訴える。いやめっちゃ暖かいわ。ぽっかぽかだわ。逆上せない?大丈夫?
…これは失敗した?布団を被せていた方がまだ穏便に逃げられたのでは?
絡み付く長い腕をどうにかして外そうともがいていれば、ばふっと羽毛布団が上から降ってきた。
『ん???今のどうやったの?』
「足に引っ掛けて、ぶんってした」
『いや変に器用。ほら離して。もう傑が準備始めちゃうよ』
「傑ならあと八分遅刻しても許してくれる」
『計画的に遅刻するなバカ猫』
どうやったって離す気はないらしい。
大きく溜め息を吐いて、私は両手を悟の首もとに突っ込んだ。
ふにゃっと笑ったアンポンタンに触れたまま────掌の温度を下げる
その瞬間悟が飛び上がった
「冷たぁっ!?!?!?!?」
『おはよう悟。じゃあ私は朝ご飯手伝ってくるから、十分したらおいでね』
「せつなきょういじわるだ……いじわるテディだ…」
『はいはい。意地悪なクマですよ』
枕元に畳んでおいたクマの耳が付いた黒いモコモコパーカーを羽織り、恨めしげな目を向けてくる悟を放置して部屋を出た。
身支度を整えてリビングに向かうと犬耳のモコモコパーカーを着た傑が卵焼きを作っている最中だった。
此方を見た傑がふわりと笑う
「あれ、刹那?おはよう、早いね?」
『おはよう傑。巨大猫が寒くて起きたくないみたいだから、交代で来ちゃった』
「まったく悟は……じゃあお味噌汁を頼んでも良い?」
『はーい』
「今日俺はテディちゃんに意地悪されました。なので俺も意地悪します」
「急に宣言したな」
「それは悟がなかなか起きないからだろ」
『そうだそうだ』
「だって寒い。冬寒いじゃん。布団から出たくない」
「こら。悟の代わりに刹那がご飯当番してくれたんだから、ちゃんとお礼言いな」
「刹那、ご飯当番代わってくれてありがとう」
『どういたしまして』
「でも意地悪するね」
「何でだよ」
教室の中央、もふもふの塊が四人でわちゃわちゃしている。とてもかわいい。なにあれ?天国?皆天使だった?
「オラ意地悪だ!ぎゅーーーーーっ!!!」
『ぐえっ』
「死ぬ!死ぬクソバカ!!」
「悟待ってwwwwwww何で私達まで巻き込まれてるのwwwwwww」
「え?ノリ?」
「ノリでwwwww硝子が死にかけてるwwwwwwww」
「殺すぞ白髪!!!!」
『硝子がおこだよwwwwwwwwwwwwww』
「かわええ……かわええなぁ………」
「すげぇ。もこもこ団子だ…」
皆でお揃いのもふもふパーカーを身に纏い、五条に纏めて抱き締められてわちゃわちゃしている姿が問答無用でかわいい。
なんだあのパーカー耳だけじゃなくて尻尾まで生えてやがるけしからんかわいい。
白猫にすりすりされてる黒いクマちゃんかわいい。黒い犬にもサンドされて苦しんでる茶色いウサギちゃんかわいい。
かわいい。ハイかわいい。
可愛いので世界が平和になります。さしすせの笑顔は万病に効く。
「あーーーーーーー、死ぬかと思った」
『硝子、大丈夫?』
「なんだよちょっとぎゅーってしただけだろ?」
「ははは、硝子は照れてるんだよ」
「オイ主犯共、お前らも心配しろよ」
もふもふ団子がこんなに心に効くとは聞いてない。よし、私はこれから可愛いもふもふをさしすせに貢ごう。
普段から呪霊をブチ転がして荒んだ心にさしすせは効く。めちゃくちゃ沁みる。
もうアレでは?公共電波でさしすせのわちゃわちゃを流せば世界平和は成し遂げられるのでは?
いやそうなったらきっと死後さしすせは英霊の座に連れていかれるな?
なに?世界平和の功労者だしルーラー?でも五条は明らかにバーサーカーじゃない?大丈夫?一番サーヴァントの素養ある男が一番暴走気味なの大丈夫???
「硝子ちゃんと夏油は絶対キャスターじゃん。刹那ちゃんはキャスターかギリあの水の虎に乗っとけばライダーじゃん。
でも五条はどうやったってバーサーカーなのなんで???」
「さぁ?破壊行動が多いからじゃないか?」
「あー…ルーラーいけそうなのって刹那ちゃんだけだよな…夏油は呪霊乗ればライダーだけど、やっぱあいつキャスターだよな…
判る?五条先生ならルーラー許せるけどあの五条悟はバーサーカーなの伝わる???」
「あー………うん、伝わる。アレっすよね?要は大人の落ち着きがない、というか」
「そう、それ!虎杖達に見せてた先生ムーヴがなきゃあの五条なんかただのクソガキです。私をゴリラ♀と呼んだのは死んでも許さない」
「完全に私情じゃねぇか」
悪いか。五条悟腹立つ同盟に私と歌姫先輩所属してますけど何か。
黒川を睨んでまたもふもふパーティーに目を向けた。
寒いのか、もふもふは四人でくっついていた。体格差が恐ろしくかわいい。女子二人を挟んだ男子二人のもふもふ団子かわいい。
え?あの人達同い年でしょ?私と同い年でしょ?十七?え?十七であんなに可愛いって何事?
天使?天使なの?さしすせは世を平和に導く天使だった…???
「語部、落ち着きなさい語部。全部口に出てるから」
「はっ!!!!!!!」
世界平和は尊さより