生贄?嫌ですけど…???

「────謹んで初春のお慶びを申し上げます。
皆様お健やかに新春をお迎えの事と存じ上げます。
旧年度は誠にお世話になり、大変有り難う御座いました。
皆様の御健康と御多幸をお祈り申し上げます。本年度もどうぞ、宜しくお願い致します」


ラグに付いた指先までぴんと伸ばした悟が、美しい所作で頭を下げた。
横並びに三人で正座した私達も静かに頭を下げる。
その体制で、数秒。
ゆっくりと姿勢を戻した所で、ぴんと張り詰めた空気を纏っていた男がその雰囲気を霧散させた


「…よし、新年の挨拶終わり!ぜんざい食べたい!!」


「……今の今まで御三家の次期当主だったのになぁ」


「一瞬で一歳になったわ」


『ははは…じゃあ私ぜんざい温めるから、悟お餅焼いて』


「はーい!」


笑顔の悟を連れてキッチンに向かう。
悟にお餅は任せる事にして、圧力鍋にたっぷり入ったぜんざいを火にかけた。
お玉でぐるぐる混ぜる私の隣に並んだ悟が鍋を覗き込む


「おー、たっぷりあんじゃん。全部食って良いの?」


『皆で分けて余った分は良いよ』


「やった」


小豆から作ったぜんざいだ。甘いのが苦手な硝子も食べられる様に砂糖を少なめにしたのだが、果たしてこの甘党は満足するのだろうか。


「やーきっもち♪やーきっもち♪」


『何か違う意味に聞こえるね』


「嫉妬の方のヤキモチ?」


『そうそれ』


トースターにお餅をセットする悟がくすくすと笑った。傑と硝子はリモコン争奪戦を始めている。戦うお正月と格付けで揉めている様だ。


「んー……オマエらが俺ほっといて他の奴と仲良くしてたらヤキモチ妬くかも」


『へぇ』


「刹那ってヤキモチ妬く事あんの?」


『んー…?』


トングを握る悟に問われ、首を捻った。
別に三人が誰と仲良くしていても仲が良いんだな、としか思わない様な気がする。
沈黙した私の声なき答えに気付いたらしい悟があー、と呟く


「ない感じ?」


『うん。私より他の人と居て楽しいなら、それはそれで仕方無いし』


「んー……なんつーか、もう少し欲張っても良いと思うんだけど」


『でも相手に望まれなかったら意味ないじゃん』


「望ませる様に仕向けるんだよ」


『聞くんじゃなかった』



















「おめでとう、傑。本日付でお前は特級呪術師となる。これからも力に溺れず、励む様に」


「ありがとうございます」


傑が夜蛾先生から受け取った学生証には特級呪術師の字が印刷されていた。
国内で三人しか持っていないその称号に拍手すると、擽ったそうに笑った傑に頭を撫でられる


『おめでとう傑!今夜はお赤飯にする?』


「ありがとう刹那。赤飯の素ってあったっけ?」


「うわ、胡散臭い笑顔で載ってんな」


「硝子、もう少し娘を見習って」


「壺売りそうな笑顔ですね」


「語部さん、君とは一度お互いの認識を擦り合わせた方が良さそうだ」


「なんで写真って証明書ばっかり変になるんでしょうね…」


「黒川、君もあとで語部さんと一緒に校舎裏ね」


「傑、写真映りヤバくね?指名手配みてぇ」


「表に出ようか悟」


笑顔で青筋を浮かべた傑からそっと硝子の方に避難する。二人が言い争いを始める前に先生がデコピンで止めた。


『先生、これから悟と傑は単独任務がメインになるんですか?』


「恐らくはそうなるだろうな。それでも刹那、お前が二人のどちらかの任務に組み込まれる頻度はそこまで変わらないだろうから、心しておけ」


『えっ、なんで?一級連れていったらお荷物では?』


悟も傑も最強だ、一年で昇級してからずっと一級のままの私なんかが居たら邪魔だろう。現に悟は一人の方が強いぐらいだし。
質問した私を見つめ、先生が厳かに言った


「問題児のやる気を上げられるなら、特級と一級の任務を抱き合わせでやらせろと上がうるさくてな……」


「「『あっ(察し)』」」


「「ああ…(察し)」」


「誰それ?そんな奴居んの?」


問題児本人が不思議そうな顔をしながらボールペンタワーを作っていた。
隣からいきなりペンケース盗んだと思ったらまたしょうもない事を始めている。
お前だよ、気付け。


「問題児には、テディベアを与えると効率が上がるらしい。刹那、済まんが生贄になってくれるか」


『嘘だろ?????』


「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「マジかよwwwwwwwwwwwww」


「生贄wwwwwwwwwwwwww」


「教師の台詞じゃないwwwwwwwwww」


「うわ……」


何処に生徒に生贄になれなんて抜かす教師が居るんだ。
というか元凶。お前だ悟。爆笑してるけど原因はお前。笑ってないで問題行動やめなさい。


「でもさぁセンセ、特級の任務にほんとに刹那連れてって良いの?俺が抱っこしてて良いの?」


「良いぞ。一級が刹那の担当、特級はお前達の任務だ。時間厳守して呪霊でスラムダンクをしなければ刹那を抱えていても問題ない」


『オイ待て教師。常識はどこ行った???』


「呪霊でwwwwwwwwスラムダンクwwwwwwwww」


「スラムダンク駄目なの?じゃあボーリングは?」


「呪霊で遊ぶな」


「wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「壁打ちもダメ?」


「呪霊で遊ぶな」


「判った。クリケットするわ」


「何が判ったんだお前は」


「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


最早何の話をしていたのか判らなくなる勢いで悟がやらかしていくんだが。
なんで?なんで先生私を生贄にするの?
良く考えて?私を抱えた悟が特級祓いに行くんだよ?片手間に祓われちゃうんだよ?もう呪霊が可哀想でしょ?止めよう???


『先生!拒否権はありませんか!』


「ない」


『なぜ……』


「刹那、考え方を変えてみろ。
お前は悟に抱えられているだけであちこちの名産を食べられる。
お前が祓うのは一級だし、万が一も悟と傑が居れば起きる筈もない。
抱えられるだけで旅行が出来るなら安いもんだろう」


「説得してるwwwwwwwwwwwww」


「なんだこの教師wwwwwwwwwwww」


「刹那ちゃんを一生懸命説得してるwwwwwwwwwwwwwwww」


「めちゃくちゃだな……」


三人がゲラ。お前ら自分に関係ないと思って……
問題児である悟は隣でにこにこしている。こいつはこいつで絶対「一緒に任務行ける!」程度にしか捉えてない。
黒川くんもう少し声を大にして非難して。私の味方君しか居ないの


『……悟』


「なぁに?」


へにゃっと笑った問題児に溜め息しか出てこなかった。


『……せめて、呪霊を祓う時は降ろしてね…』


「?なんで?抱っこしたまま祓うに決まってんだろ」


『祓われる呪霊の身にもなれよ可哀想だろ』










もうすぐ来るよ、運命が












刹那→術式反転を会得しない限り一生一級。出来たとしても最強コンビより弱いので、多分ずっと一級。
そもそも最強コンビが危険な目に遭わせたくないと考えるので、仮に特級昇進の話が来ても五条の手で人知れずメシャアされる。
上の判断により生贄のテディベアに正式就任した。
これから特級と一緒に動く事が増える。
つまり:ママのイベント()フラグが立った。

五条→折々の挨拶はきちっと行う派。
宝物には真摯でいたいので、季節の挨拶はきっちりする。
でも五条先生だと「あけおめー!ことよろー!」とかやりそう。
ぜんざいは砂糖を追加してもらった。
これからの任務はテディを抱っこして行っても良いとの事なのでにっこり。

夏油→特級に正式就任した。
もっと強い呪霊が欲しいなぁ、と思っている。
正月は戦うお正月派。
刹那との任務は今まで通り。
つまり:■■村イベントに娘と参加決定。

硝子→甘すぎないぜんざいが美味しかった。
抱っこされるテディに爆笑する未来が待ってる。
正月は格付け派。


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