ラナンキュラス

※男装してます。
※とても気持ち悪い奴が出ます。










五歳で実の親に売られ、買い取られた先で私は“僕”となる事を強要された。
女では繋ぎと言えど見映えが悪い。理由なんてそんなもの。
そんな下らない体裁で、私は己の性別を否定された。
それから地獄の様な場所で育ち、私は呪術高専に入学した。
京都ではなく東京を選んだのは、京都にある桜花本家から少しでも距離を取りたかったから。
此処ならば桜花からのちょっかいもなく、ストレスから解放される。
此処で気を付ける事と言えば、性別がバレない様に注意する、という一点のみ。
夜蛾先生と治療でお世話になる硝子と、同級生の語部さんには先に話してあるが、他には誰にも話していないのだ。


湯船から上がり、バスタオルに手を伸ばす。
伸びてきた髪が俯いた拍子に頬を滑り、そろそろ切ろうかと思案する。
元よりバリバリの男顔でもないので、少しでも男性らしく見える様に髪は顎下で切り揃えていた。
シャツとジャージを身に付けて、脱衣所を出る。
……誰も居ない筈の部屋で、ベッドに転がってテレビを眺める男を見て、私の口から溜め息が零れた。


『……悟。いつ来たの?』


「三十分ぐらい前」


それぐらいなら丁度お風呂に入った時間だろうか。気付かなかったな。
冷蔵庫から水を取り出しコップに注ぐ。


『なんか急ぎの用事でもあった?』


「用がねぇと来ちゃいけねぇのかよ」


『そうじゃないけど』


一応男装の身なので、うっかり肌を見られては困るのだ。
ちらりと胸元に目を落とすが、膨らみはほぼないのでまぁ大丈夫だと思う。
シャツも体型を誤魔化す為に大きいものを着ているし。
サラシはキツいのだ。暑いし、汗をかくし、寝る前にまで巻きたくない。
ベッドに腰掛けると寝転がる男が此方に目を向けた。


「最近夜中に突然部屋に押し入ってくる野郎が居るんだと。気を付けろよ」


『悟じゃなくて?』


「あ゙?」


『ごめーんね☆』


冗談を言えば睨まれたのでぺろっと謝っておく。
とはいえ男の部屋に押し入るなんて物好きも居るものだ。所謂夜這いだろうし、相手は女性なんだろうか。


『その人って女の人?』


「いや?男」


『え?』


男が男の部屋に押し入るの?
思わず悟を二度見すれば、彼はつまらなそうな顔で言う


「術師の家じゃまぁ珍しい事でもねぇよ。分家の次男で術式も呪力も雑魚、家から何の期待もされてねぇ駄馬が女を貰えなくて、近くの男を襲うってのはまぁある話だ」


『……戦国時代とかの衆道ってヤツ?』


「そ。見目麗しくて小さくて細けりゃ尚良し。…ハイ、此処まででずぇーんぶ当て嵌まっちゃうヤツだーれだ?」


『え?居る?』


硝子は女の子だし、傑は切れ長な目のイケメンだけど細くもないし小さくもない。
悟は美の化身だけどやっぱり小さくない。襲った後を考えると怖いし。
水を飲みながらあれも違うこれも違うと悩んでいると、下からクソデカ溜め息が聞こえた。


「オイ馬鹿。オマエだ馬鹿」


『ん?僕?』


「そう、オマエ。可愛い顔でちっこくてひょろい。オマエ、めちゃくちゃ当て嵌まんだろ」


『小さくて細いは認めるけど、可愛いは違うかな』


これでも女性の平均身長はあるのだが、男性としては小柄な部類に入ってしまうだろう。シークレットシューズで誤魔化してるけど。細いのは単に栄養不足。桜花ではまともなものを食べていないので。
まぁ顔はキリッとしてないもんなぁ。ちょっとつり目?ぐらい。鼻もしゅっとしてないし。
コップをテーブルに置いた所で大きな手が伸びてきた。
後頭部に回った手にぐっと引き寄せられ、目の前に蒼が迫る。
驚いて動けない私の頬に、暖かな手が触れた。
輪郭をなぞる様に指先が動いて、薄い唇が開いた


「刹那はかわいいよ。可愛くて、綺麗だ」


────どきり、と心臓が一度大きく動いた。


え、バレてる?嘘だろ?今までそんな素振り、一度も……
動けない私を総てを見透かす様な蒼でじいっと見つめて、それから悟はふにゃっと笑った。


「ま、こんなにかわいけりゃ狙われても文句言えねぇぞってコト。アレだ、男の娘?ってのも最近テレビで見るじゃん?
オマエああいう類いのレベルで可愛いからさ」


『そ……そう、かな?出来るだけ男っぽく見える様に振る舞ってるんだけど』


「礼儀作法が染み込み過ぎてんじゃね?座る時は脚組めよ。閉じて座ってると女っぽいぞ」


『あ、はい…』


………よかったーーーーーー!!!!!気付かれてない!!!!!
気付かれたら下手すれば桜花に連れ戻されちゃうからね!!!!!!
よかった!ありがとう悟!でもごめんね悟!よろしければ一生気付かないで!!!


「もう寝る?十二時だぞ」


『あ、寝る。ケータイ何処やったっけ?』


「充電した」


『え、ほんと?ありがとう』


悟にベッドに引き込まれ、そのまま布団を掛けられる。
テレビを消して、ぎゅうっと長い腕に抱き締められた。


「おやすみ、刹那」


『おやすみ、悟』


いつの間にか買い換えられていた悟サイズのベッドで、悟に包まれて眠る。
……あれ?そういえば男同士の筈なのに、なんで悟は私を抱き締めて眠るの?
















同級生の悟、傑、硝子、語部さん、黒川くんはとても優しい。
傑と黒川くんは重たい物を持っていると必ず手伝ってくれるし、硝子と語部さんは生理用品などの買い出しに、男装している私を荷物持ちと言う名目で連れて行ってくれる。
そして悟は、些細な事にも直ぐ気付いてくれる。


「刹那、此処座れ」


『え』


ぽんぽんと叩かれたのは椅子に座る悟の脚の間だ。固まる私だが早く来いと手招きされ、渋々従う。


『お邪魔しまーす…』


「お邪魔されまーす」


ごそごそと背後で悟が動いたと思えば、膝に大きな学ランが掛けられた。
それから大きな手がお腹の上でゆったりと交差する。
背中とお腹がじんわりと暖められ……生理で身体が冷えていた私はほうっと息を吐いた


『……もしかして、顔色悪かった?』


「ウン。死人みたいだった」


そう返した悟は背中にぴっとりとくっついてくる。うわ、あったかい……下腹部に居座っていた痛みも、大きな手が触れている事で少しずつ解れていくのを感じた。
ほにゃっとしているであろう私を見て、教室に居た面々が笑う


「悟湯たんぽは効果ばつぐんみたいだね」


「マジ?四倍ダメ食らってる感じ?」


「これならモンスターボールで捕まえられるかもな」


『何時から僕はポケモンになったの?』


「はわ…刹那くんかわええ…五条とサイズ比べるとちっさくてかわええ……」


「語部、やめなさい語部。男は小さいって言葉は傷付くんだぞ語部」


ぶっちゃけ悟と比べて小さくない人間なんて、バスケとかバレーの選手じゃないだろうか。
ぽかぽかの悟に暖めて貰いつつ、そういえば毎月こうなってないかと気付いた。
…え、もしかして生理だってバレてる?ちらりと悟を見るが、ん?と首を傾げられるだけで終わった


『……悟』


「なぁに?」


口を開いては閉じてを繰り返す。
急かすでもなく、悟は私を見つめている


『……僕の性別、知ってる?』


素直に生理だって気付いてる?とか聞ける筈もなく、結局暈した問いになった。
それを聞いた悟は不思議そうに目を瞬かせた


「え?知ってるけど」


『あ、そっか。だよね……』


「?何気にしてんのか知らねぇけど、刹那は貧血が酷いから月一ぐらいのペースでフラフラしてんだって硝子に聞いてる。…ああ、別に弱っちいとか思っちゃいねぇよ。体質だろ」


その言葉にうるっと来て悟に抱き付いた。
優しい。あとで硝子もハグしよう。ついでに傑も。
突然の抱擁に肩が跳ねたが、悟も直ぐに抱き返してくれた。


「ふふ、かわいいね刹那。急にどうした?」


『感動のハグです。あとで傑と硝子にもします』


「は?俺だけじゃねぇの?浮気????」


「ウケる。一歳児がパパとママにヤキモチ妬いてんぞ」


「悟、可愛い我が子からのハグはノーカンであるべきだ」


「は??????じゃあパパは良いよ?でもママはダメ。なんかやだ」


「なんだそれwwwwwwwwwwwwww」


爆笑する硝子の隣で傑が笑顔のまま、青筋を浮かべた。
カーン!と脳内でゴングが鳴り響く


「それを言うなら私も悟が刹那を抱き締めるのはなんかいやなんだけど」


「は????俺のテディちゃんだぞ?俺が抱いて何が悪いんだよ」


「テディちゃんにも人権があるんだよ。幾ら刹那が流されやすいからって自分の都合の良い様に流すのは人としてどうかと思うと言ってるんだ」


「何それ正論?クッソつまんね。つーか流してねぇし?俺と刹那がどっちもWin-Winになる提案をしてるだけですけど?
二人でハッピーになってるってのに一方的な偽善論でマウント取ってくんなよエセ善人」


「悟の幸福度と刹那の幸福度じゃ明らかに釣り合ってないだろ。
自分の願いが相手も幸せになるって決め付けて押し付けるのはそれこそ君の為だよ♡って偽善論でマウント取ってる事に気付けよエセ紳士」


「あ゙?」


「ん?」


私の頭上で白いのと黒いのが青筋を浮かべて煽り合っている。
やめてほしい。お腹が痛いんです。ただいま内臓を雑巾絞りする様な痛みに襲われています。とても痛いです。
もう身体を伸ばしているのも辛くて机に伏せる。
ギリギリとした痛みに顔を歪めていると、背中にぴっとりと温もりがくっついてきた


「刹那?大丈夫か?痛い?」


『いたい……内臓を雑巾絞りされてるみたい…』


「此処?」


『もうちょい上…』


「ウン、手ぇ増やすわ」


大きな手が肋骨の下から下腹部まで広く覆ってくれる。暖かな掌に少しだけ雑巾絞りの痛みが薄れ、息を吐いた。


「刹那、大丈夫?医務室行く?」


『大丈夫…ありがと悟』


「刹那、今日の任務私が代わろうか?」


『大丈夫だよ、ありがとう傑』


「刹那、あったかいものでも買ってこようか?」


『ありがとう硝子、悟が暖かいから大丈夫』


ごめんね皆、心配かけて。私ちょっと生理が重いの。薬が今回は全然効かないの。明日には落ち着くと思うから心配しないで。
傑と硝子に頭を撫でられ、頬が緩む。


「みて黒川……さしすせがてえてぇ……思いやりの塊…てえてぇなぁ…」


「拝むな。語部拝むのはやめなさい」
















ハロー皆さん、かったりーべーでーす!!
私うっかり前世の記憶ある系のモブなんですけど、まさかのさしすせカルテットと同じクラスになれました。


さしすせカルテットとは呪術高専東京校のカースト最上位に居る四人組で、この呪術廻戦の世界に於いて重要なキャラクターだ。


当代最強の呪術師となる五条悟。
後に最悪の呪詛師となる夏油傑。
他者に反転術式が使える家入硝子。
渋谷事変にて皆のトラウマになる桜花刹那。


この四人の高専時代は五条の過去篇で語られたのみ。因みにその時は戦闘系の三人の星漿体護衛任務がメインで、日常なんかはあまり判らなかった。
だからこそ今の生活が推しの日常を覗けているボーナストラックみたいなものなのだが。


あ、私はさしすせカルテット箱推し。
その中でも刹那くんは最推しだ。


桜花刹那くんは、桜花家という術師の宗家嫡男という立ち位置だ。
しかし彼は元々一般家庭から五億で買い取られた存在で、しかも実は女の子だった。
家に命じられ男として生きている上に、女の子だとバレれば家に連れ戻されるというハードモード。
そんな状況で男子寮で今も暮らしているのだから、徹底してバレない様に工夫しているんだろう。
原作でも刹那くんが死んで、五条が封印された後、硝子ちゃんが「刹那の性別を知っていたのは私と夜蛾学長だけだった」と一人呟いていたぐらいだ。
この世界でその中に私も含まれているのは由々しきバグ。
因みに性別バレはファンブック。
しれっと性別:女って表記がファンを混沌の坩堝に叩き落とし、五刹♂派と五刹♀派でTLは真っ二つ。最終的にはふたなりにまで進化していた。
男装僕っ娘の性別に気付いた五条が素直になれないまま襲ったり、気付いていない五条が「アイツは男なのに…っ」ってもだもだしたり、またまた男の子のまま書かれた世界線でしっかり薔薇だったり、取り敢えず幅広い路線展開をしていた。
五刹は無限の可能性を秘めている。
それもこれも刹那くんが頑張ったから。
限られた支援の中、彼女は常に気を張って生きていたんだと、思うのだけど。


────五条悟、刹那くんの性別気付いてる疑惑。


……いやだって距離感可笑しくない?
幾らノリで生きてる男子高校生でも膝の間に座らせて後ろから抱き締めないでしょ?油断してぼーっとしてる刹那くんにキスしたりしないでしょ?因みにその時は刹那くんが水で鯱作って五条を追い回していた。
他にも普段から常に一緒だし、あの柔らかそうなほっぺを直ぐ撫でるし、綺麗な黒髪にすりすりするし。綺麗な目をじいっと見つめてふにゃっと笑うし。
…ま、まぁそれだけ(それだけ?)なら同性を愛してしまったのか?で済むだろう。
けれど違うのだ。それだけじゃなかった。


女の子の敵、生理の日。
その中でも二日目から三日目は、人によって内臓を捻り切り、腰をトンカチフルスイングで二十四時間無限殴りされていたり下腹部にエンドレスタイキックを叩き込まれていたり吐き気がしたりする魔の時間なのだが。
……恐らくはその二日間、五条は刹那くんにべったりになる。
顔色が青どころか白い刹那くんを大きな身体でしっかりと包み込み、お腹の辺りを大きな手で暖める。
時折安心させる様にちう、とキスしたり生理の時にオススメなハーブティーやココアを飲ませたり。
取り敢えず刹那くんの顔色が良くなるまでその甘々看病期間は続くのだ。
最早お前だけオメガバースやってる?お前の運命の番が刹那くんなの?ぐらい大事にしている。
他にもこれは黒川(同じく原作を知っている転生者)から聞いた話だけど、体術の授業で着替える時は刹那くんは普通に隣の空き教室で着替えているらしいし、それを五条と夏油が気にする素振りもない。
何なら黒川が隣を見に行かない様に、然り気無く警戒している雰囲気すらあったそうだ。


いやこれ普通にバレてない?
刹那くん女の子として五条に大事にされてない?


というか夏油にもバレてない?
だってあいつも刹那くんが重たいもの持ってたらささっと取り上げるよ?無茶はしちゃダメだよって言ってるよ?
それなのに、刹那くんを私と硝子ちゃんが然り気無く生活用品を買う口実に荷物持ち頼んだら、笑顔で背中押すし。


私と黒川は転生者だから知ってるけど、あいつら多分一緒に過ごしててめっちゃバレない様に気を遣ってる刹那くんの性別当ててるんでしょ?
怖いな?あいつらの観察眼怖いな???
あれ?女の子っぽい…?じゃなくて女の子だろ?って確信してるっぽいの非常に怖いな?????


『良し、終わり。語部さん、怪我はない?』


「はい。大丈夫です」


〈ニンム カンリョー!〉


森の中、呪霊をボコった刹那くんが鉄扇をホルスターに戻し、微笑んだ。ああきれい。しゃしんください。
さとるっちは肩に乗ったままで帰るらしく、刹那くんにくっついて尻尾を揺らしている。


『語部さん、最後の支援助かった。ありがとうね』


「えっ、推しに感謝された…???感謝料はおいくらです…???」


『感謝料ってなにwwwwwwww』


「あ、此処に居たんすね。二人とも無事ですか?」


『うん。黒川くんも無事?』


「っす」


〈ブジー?〉


〈ブジダッター〉


途中で別の場所を担当していた黒川とトランシーバーさとるっちと合流する。
さとるっちは二匹とも戻りたくなかったらしく、刹那くんは両肩にサングラスの猫を装備する羽目になった


三人で高専に戻り、補助監督さんにお礼を言って別れる。


戻りたくないらしいさとるっちを頭と肩に乗せた刹那くんがとてもかわいい。それ重くないの?と思ったけどよく考えたらアイツら動く綿だった。重量はぬいぐるみなので親切設計。


〈せつなっち オサンポシヨ!〉


『良いね。ご飯食べてからで良い?』


〈イイヨ!〉


〈タノシミ!〉


「なんで五条は可愛くないのにさとるっちはかわいいのか……」


「語部、本音が漏れてるぞ語部」


あいつ顔だけだしな。任務とか体術の授業とかですーぐ馬鹿にしてくるからな。
思い出していらっとしていると、背後から急に何かが突進してきた。
それは刹那くんの細い背中に飛び込もうとして────宙で、ぴたりと留められる。


『え?』


ぱっと刹那くんが振り向いて、目を瞬かせた。
私と黒川も首を捻る


「『「誰?????」』」


〈フシンシャ!!〉


〈ナノレー!!〉


宙で留められた男は学ランに身を包んだ小太りな男だった。
無限で阻んでいるんだろうさとるっち達は口々に誰何する。いやこいつらマジ有能。トランシーバーもこなせるし術式も使える猫型五条が無限に居るとか、軽く国潰せるレベルだな???


「刹那きゅん!!!!会いたかったよ!!!!!!!!」


私達の前で男は叫んだ。
その瞬間に私と黒川は無言で得物を構え、刹那くんの前に立つ。
よく考えてほしい。


空中に浮かぶ、ハァハァして汗をかいている小太りな学ランの男。


「最早見た目が犯罪では?」


「語部…………………せめて見た目という点はどうにか言い換えてやって…」


「よく見なよ黒川。ハスハスしてんぞ?変態だろ?????」


「…………階段ダッシュしたんじゃないか?」


お前もう庇いきれてないの解れ。
目が泳いでるぞ黒川。諦めろ黒川。良い奴を少しぐらいやめたってバチは当たんないぞ黒川。
ホルスターから鉄扇を引き抜いた刹那くんも顔が引き攣っている。
そうだよね、突然変態に襲われたら吃驚するよね。


「離せよお前ら!!僕は刹那きゅんとお話ししに来たんだ!!!!!!」


『うわ………』


「うわ………」


「うわキモい…やめろよ…刹那きゅんとか地味に変態に呼ばれたらダメージ受ける呼び方チョイスすんなよ…刹那くん傷付くだろ処すぞ!!!!!!!」


「まてまてまてまて」


『えっ語部さん?大丈夫語部さん???』


〈エングン ヨンジャウ?〉


〈ヨンジャウ!〉


抜刀した私を慌てて止めに入る黒川。目を丸くする刹那くん。何だか二匹で話し合っているさとるっち。ハァハァしてうっとりとマイエンジェルを視姦しやがる豚。やめろ豚捌くぞ。
暴れる私の前で、豚はうっとりと言葉を撒き散らし始めた


「はぁ…かわいいね刹那きゅん…髪の毛さらさらだね…頭の形も綺麗な丸だね…輪郭もとっても滑らかでほっぺも柔らかそうだ…肌もつやつやでおめめもぱっちり綺麗な青紫…お鼻もキュートだね…唇も美味しそうだ……♡♡♡♡♡♡
やっぱり刹那きゅんが呪術廻戦の中で一番可愛いよね。そんなに可愛いお顔でどうやって今まで男として生きてきたの?五条達にカラダ売って黙って貰ってた?
ねぇ今すぐ僕の部屋に行かない?あいつらなんかよりもっと気持ちいいコトしてあげるよ?
あ、この世界の刹那きゅんはどっちなのかな?男の子?女の子?ふたなりなら全部試せてお得だよね♡
あ、そういうオクスリ作ってもらって楽しんじゃう?僕のちんぽ上でも下でも咥えてアへ顔ダブルピースしてね♡♡♡♡♡♡」


『』


刹那くんが絶句してしまった。
かわいそう。ドン引いて顔色も悪くなっている。
もう無理。下ろそう。三枚下ろしにしよう。
あんまりな言葉の羅列に青ざめている黒川の腕から逃れようとした瞬間────頭上に、影。


「ごぎぇらっ!!!!!!!!」


聞くに耐えない悲鳴と共に、豚の顔がひしゃげた。
正面から拳を叩き込んだらしい男は、絶世の美貌を怖いほど凍り付かせ、豚を見下ろしている


「……随分汚ぇ妄想吐き散らすじゃん。精神汚染が得意技か?」


「ご…ごじょ…んぎぃ!!!?」


「うるせぇ黙れ豚」


宙に留まる豚の腕が、突如透明な手に捩られた様にめきょめきょにされてしまった。
術式を使った五条はべしゃりと地面に落ちた豚の頭を尖った爪先で蹴飛ばして、地を這う様な声で告げる


「俺の宝物を穢すな、下衆」


最後にもう一度豚の頭を蹴飛ばして、五条はくるりと此方に向き直った。
つかつかと私達を追い抜いて、後ろで鉄扇を構えていた刹那くんを抱き締める。


「……せつな、だいじょうぶ?」


『……悟』


「殺すか?」


『…いや、いいよ。ありがとう悟。語部さんと黒川くんもありがとう。
さとるっちもありがとうね』


〈ダイジョウブー?〉


〈ドウイタシマシテ!〉


五条に抱き込まれたままで刹那くんは微笑んだ。しかしその笑みは弱々しい。
そりゃそうだ。
知りもしない豚に突進され、汚い妄想をぶちまけられた。おまけに転生者であろう豚は彼女の性別を知っているという事をちらつかせ、下卑た言葉を並べ立てた。
女の子だと知られれば家に連れ戻される彼女からすれば、見ず知らずの輩からの性別を仄めかす発言なんて途轍もないストレスだろう。


「一旦休むか。報告書はオマエらやっといて」


「それは良いっすけど……こいつ、どうします?」


黒川が指したのは地面に伸びる男。
豚を一切温度のない目で見下ろした五条は、黒川に顔を向けるとにっこり笑った。


「捕縛して転がしといて。あとでオハナシするから♡」




















『────僕は桜花刹那です。初めまして』


そう言って名乗るソイツはひょろくて、小さくて。
精一杯低い声を出しているけど……どっからどう見ても、女だった。
最初こそ僕という一人称の女なのだと思っていたが、よくよく見れば男として生きている事に気付く。
自分は男です、と言わんばかりに硝子を優先していたし、学ランの下のシャツも男物だった。
そういう趣味かと思いもしたが、どうにも違いそうな気もする。
なんというか、気を付けて男っぽく振る舞ってる感じ。動きとかは出来るだけ大きくしたりするけど、座ってると脚を閉じてたり、笑い方も口許をそっと手で隠したり、意識してない所が明らかに女っぽい所作だった。
なんだコイツ。なんでこんな事してんの?
不思議な生き物を観察するノリで刹那の女っぽい所を捜す毎日を送っていれば、ある日、放課後に話し声が聞こえた。
教室から聞こえるのは女の声が二つ。
硝子と刹那だ。
潜められたそれが気になって、気配を消して耳を澄ますと


『女だってバレたら家に連れ戻されて、何処ぞのジジイの妾にされるんだとさ。めんどくさいね』


「なにそれ。桜花ってクズだな」


『ねー。私は女なんだから仕方ないじゃん。男として振る舞うのも難しいって判れよって』


硝子と刹那の会話で合点がいった。
そうか、アイツは家からの命令で仕方無く男のフリをしているのか。
誰かに女だとバレれば家に連れ戻される。硝子に話したのはきっと、治療なんかで性別を偽るのが難しくなるからだ。


それならば、俺に出来る事は。
俺がするべきは、刹那を男として扱い、他の奴を無闇に近付けない事。


それから家の力で桜花を調べ、クソみたいな事実に舌打ちを溢した。
刹那は五歳の頃に非術師家庭から買われた、女の子。
アイツの術式は桜花の相伝と表面上は似ているが、この六眼で視れば明らかに違うと判るものだった。


『やっほー悟。昨日硝子とクッキー作ったんだ、食べる?』


「おー」


共用スペースで転がっていた俺にひらひらと手を振りながら近付いてくるテディベア。
つーかコイツ男子寮で生活するとか正気か?オマエ明らかに女じゃん。
風呂上がりにうろうろすんなよ馬鹿なの?でかいシャツの上から一枚着とけば大丈夫とかじゃねぇから。それ逆に線の細さが目立つぞ。
ほら見ろ、後ろの雑魚も気持ち悪い目でオマエを見てる。
多分アレ。コイツは術師家庭とかで良くあるホモ系でも狙われるタイプだ。
細くてちっこくてお綺麗なツラした男なんて、出来の悪い種馬の格好の餌。
溜め息を吐いてソファーから起き上がり、俺は細い手首を掴んだ


『悟?』


「オマエの部屋で食う」


『?良いけどそんなに綺麗じゃないよ?』


「男の部屋なんてそんなもんだろ」


『…そうなんだ…』


「そうだよ」


刹那の腕を引きながら、コイツを見ていた男にのみ見える様に中指を立てておいた。
部屋に入ると甘い香りがふわりと鼻先を擽った。
…目に付いたのはリボンの付いたフレグランススティック。
明らかに女物。ピンクのリボンにオレンジのスティック。おまけに名前はキュートバニラ。
……いやオマエこれはバレる。流石に俺でもこれはダメだって判る。
オマエ男装してる自覚ある?何これツッコミ待ちなの????


「オマエこういう匂い好きなの?」


『え?………あ゙』


「まぁ甘い匂い俺も好きだけど」


馬鹿だ。馬鹿が居る。
さっとフレグランススティックの瓶を回して苦笑いする刹那の頭を撫でて、部屋に入った。
……多分部屋は大丈夫。というか物がそんなにないから明らかな女の部屋って感じじゃない。
……って待てテーブルの上の化粧ポーチせめて仕舞え。俺の目の前の髪飾りに気付け。
待って???飲み物用意してる場合じゃなくね?オマエこれ他の奴部屋に招いたら一発で終わりじゃね?


「刹那」


『んー?』


…馬鹿は気付かない。コーラとサイダーどっちが良い?じゃねぇよオマエもう少し危機感持って?
これ明らかに俺に女の存在アピールする事になってるって気付いて???


『クッキーお皿に出すからちょっと待っててねー』


「………………おー」


ダメだ、俺がしっかりしないと。















刹那は取り敢えず、ポンコツだった。
先ず嘘が苦手。その所為で言い訳が壊滅的に下手。
体術の授業でジャージに着替える時、別室で着替える硝子に着いていく訳にもいかずどうしようと顔に書いてやがったポンコツに、飲み物を買ってこいと口実を付けて教室から放り出した。傑は微笑んでた。


あと危機感がない。
風呂上がりに共用スペースを彷徨く。シャツの上から一枚着とけばコンビニにも行けると思ってる。しかもその時は大概サラシを巻いてない。
一度首もとの緩いシャツを着ていてぎょっとした。アイツは多分性別という危険を母親の胎に忘れてきてる。
屈めば小さい胸が見えそうなシャツに溜め息を吐いて、アウターのボタンを無言で留めた。傑は苦笑いしてた。


他にも男はこういうものだと言うと素直に信じるという事。
一度寮で雑魚に「親交を深めるには部屋で一緒に語らうべきだ」と言われ素直に信じた馬鹿の部屋に俺がさっさと居座り、アイツの代わりに雑魚をお出迎えしてやればソイツは真っ青な顔で逃げていった。
傑は「素直過ぎるのも問題があるな…」と頭を抱えていた


現状アイツの性別に気付いているのは俺と硝子、そして傑だ。


傑は「あれで隠してるつもりなんだから、私の娘はかわいいね」と笑っていた。普通にバレてる。
語部と黒川は微妙。語部は硝子と一緒にアイツを買い出しに連れ出す事もあるから、気付いている可能性が高い。
黒川も周りを良く見ている奴だから、感付いているかもしれない。


『僕、あんな変態に好かれやすい人種なの…?とても嫌だ…私普通の呪術師ですけど……』


突如襲来した豚を一旦尋問室に放り込み、今俺は刹那をベッドで抱え込んでいた。豚はあとで処す。先ずは刹那のケアが大事。


『私そんなに女っぽい…?毎日男らしさを悟と傑から学んでるのに…?頑張ってシークレットシューズで歩いてるのに…?』


「顔立ちなんか気にしたってどうしようもねぇだろ?刹那は頑張ってるよ。ちゃんと男っぽく出来てるって」


頭を撫でつつ日々の頑張りを肯定してやる。
ぐりぐりと首筋に顔を押し付けてくる刹那の一人称はブレブレだ。気が抜けていたり気持ちに余裕がないと、本来のものだろう“私”が出てくる。


『うう…気持ち悪いよ……ああいうのは嫌だ…』


「俺も嫌だよ。知りもしねぇ雑魚のズリネタなんか御免だってのに」


『悟…苦労してるね…』


「もう慣れた。オマエは慣れなくて良いよ、俺が慰めるから」


綺麗な髪を撫でて、薄い背中を擦った。
脚を絡めて布団を被り、時折柔らかな頬に唇を寄せてみる。
頬を食んでやれば擽ったそうに笑った。


『んふふ、くすぐったい』


「ほっぺうまー」


『食べられてるwwwwwwwwww』


けらけらと笑いだした刹那にこっそりと安堵した。
これだけ笑っているならもう大丈夫だろう。柔らかな唇を吸って、綺麗な菫青を覗き込む


「なぁ刹那、明日は何して遊ぼうか」


嫌な事なんか忘れて、皆で遊ぼう。
笑いかけた俺を真っ直ぐに見つめ、刹那はふわりと微笑んだ。


『花火しよっか!!』











何度でも涙を拭おう













刹那→男装している。ちゃんとしてるんだけど詰めが甘い。
誰にもバレずに男装ライフを送れていると思っている。
最近の悩みはシークレットシューズの底を増やすかどうか。

五条→男装を秒で見破った人。最初から女の子にしか見えていない。
ぽやっとしている刹那を鉄壁ガードで護っている。こいつが護っているからこそ刹那は更にぽやっとしていく悪循環。
最近の悩みは自分の前で刹那が完全に女の子になっちゃう事。嬉しいけど指摘した方が良いのか悩む。

夏油→男装に一ヶ月程度で気付いた人。
仕草なんかであれ?と思い始めた。
ぽやっとしている刹那の面倒を見ている五条を見て笑っている。
最近の悩みは可愛い子に近付く不審者を毎晩消しても途切れない事。

硝子→男装してると本人から聞いた人。
いやこの子女の子にしか見えなくね?と常々思っている。
ぽやっとしている刹那の面倒を見ている五条を見て笑っている。
最近の悩みは可愛い子に近付くクソヤロウをどうやってバレない様に消し去るか。

語部→男装してると本人から聞いた人。
転生者なので色々知っている。しかし五条がべったべたなのであれ?と思っている。
最近の悩みは推しを眺める壁になれない事。

黒川→男装している事を転生者ゆえに知ってた人。最初は五条から警戒されて死ぬほどビビった。
刹那が重たいものを運んでいるとさっと手伝ってくれる。
最近の悩みは常識的な友人が少なすぎる事。

豚→下ろされた


ラナンキュラスの花言葉「秘密主義」「優しい心遣い」

 



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