練習しましょ

「俺さぁ、直ぐ頭痛くなるじゃん」


「そうだね」


「だからね、反転術式オートで回せねぇかなって思ってんの」


「はは、意味わかんねー」


「そしたら頭痛くならずにずーっとオマエらを見ていられる!!!!!
あ、あとね、無限のマニュアル制御をオートにしようかなって考えてんの。
そしたら反転術式オートも意味あるでしょ?」


『後半ついでみたいにwwwwwwwwww』


何時もの様にさしすせカルテットがわちゃわちゃしている。まだ二月だからか四人がもふもふパーティーなのは大変人類に優しい。視覚から平和を。最高にカッコイイスローガン生まれちゃったじゃん私ヤバくね????


『そもそも反転術式ってどうやるの?』


「ひゅーっひょいって」


『は?』


「うん、刹那はセンスないね」


『待ってパパ、今のは無理。説明ってそうじゃないじゃん???』


「必死かwwwwwwwwww」


女子二人がきゃっきゃしているのを男子二人がのんびりと眺めている。
平和。呪霊なんてモンが居なきゃ最早学園ラブコメの世界。


『じゃあ悟は?悟はどうやって反転術式使ってる?』


「自分の呪力を掛け合わせてプラスのエネルギーに変換する」


『あ、ダメだ。文章化に長けてる奴も訳判んない事言う』


「私達はそのプラスへの変換の仕方を聞きたいのにね」


『ねー』


「え?俺の説明めちゃくちゃ判りやすくなかった?硝子どう?」


「あーそれって思ったけどな」


「だろ?アイツら反転術式のセンスねぇわ」


「それなー」


見事に反転術式が出来る派と出来ない派で分かれた。
ママと娘がこそこそと話す様をパパと一歳児が眺めている。あれか、真面目組と不真面目組?
というか思考の柔軟さで分かれている気もする。
刹那ちゃんと夏油は、理性とか常識でしっかりレールを敷いて考えるタイプ。
対する硝子ちゃんは割りと感覚派。そして五条は感覚派であり理論派。
そういう面で五条は教えるのに向いてるんだろう。性格に難アリだけども。


「そろそろ刹那は反転術式使える様になって欲しいんだけど。オマエいい加減反転に取り組め。順転の精度はもう十分だろ」


『ぶっちゃけしょうこっちとさとるっちが居れば反転術式は要らなくない?』


「馬鹿か。反転術式もそうだけど、それよりオマエの術式反転が勿体ねぇって言ってんの。
ナカに刻まれてる術式、片面だけ使い込んでもう片っぽ空っぽじゃん」


刹那ちゃんの頬を大きな手で挟んで、ゼロ距離で彼女の中をじいっと覗き込む。
鼻先をすりすりさせながら、青い眼を細めて五条が囁く


「もっと強くなってよ。ちゃんと俺と傑を追っ掛けて。特級になれとは言わないからさ、俺達の手を離さないで」


『…いやあんたらが私を置いていくんじゃない?』


「違うよ。刹那が諦めて手を離すんだ。俺と傑だけじゃ喧嘩して迷子になるだろ。
だから、ちゃんと刹那が真ん中で俺達の手を握ってて」


『え、硝子は?』


「硝子は後ろからチャリで追い抜いて休憩所作ってる。オマエがはぐれたら俺らそこにも辿り着けない」


「私どんな役割だよwwwwwwwww」


「私達だけじゃ迷子になるのwwwwwww」


けらけら笑いだした硝子ちゃんと夏油を尻目に、五条は真面目な顔だった。
その視線を正面から浴びているからか、刹那ちゃんも茶化さずに小さく頷いてみせる


『……悟も手伝ってくれる?』


「当たり前だろ。空っぽなナカにたっぷり注いであげる」


「悟、前々から思ってたんだけど如何わしい言動はやめな。セクハラだよ」


「?術式に呪力注ぐんだから合ってんだろ?」


「自覚ねぇwwwwwwwwwwwww」


「合ってるけど……言い方………」


ママが頭を抱えてしまった。
騒がしい四人組を眺めてから、隣の男をそっと見やる。
黒川も同じ事を考えていたのか静かに顎を引いた


「……五条は、四人で居る方法を判ってるんだな」


「だろうね。じゃなきゃ刹那ちゃんにああは言わないもんね」


私達の知る原作では、五条は一人で最強になった。
覚醒以降、彼は己の可能性を試す様にどんどん術式の開拓にのめり込んでいった。
その時には隣で崩れ始めた夏油に寄り添う事もなく、二人に追い付けなくなっていた刹那ちゃんを待つ事もなく、休憩所で待つ硝子ちゃんの前で足を止めたりもせず。
五条はどんどん進んでしまった。


独りで進んだ果てに、五条悟は完成した。
一人で完結してしまった。
その結果、夏油も刹那ちゃんも居なくなった。


けれど、今視線の先で笑っている五条はどうだ。
隣を歩く親友を気に掛け、後ろから付いてくる大事な人の手を引いて、休憩所で待つ親友の前で立ち止まる。


刹那ちゃんがはぐれれば、夏油と進む道が別れてしまう。
きっと硝子ちゃんの待つ場所に、皆で向かえなくなる。


それが判っているから、刹那ちゃんにもっと強くなれと言っているのだ。
少しでも脚を動かしてくれたなら、手を引いて歩くつもりだから。


「そもそもこの世界って、俺達の知ってる原作とどのぐらいズレてるんだ?」


「ぶっちゃけ転生者が居る時点でめちゃくちゃだし、さしすせが一軒家でシェアハウス始めた辺りから原作とズレてない?」


「あいつらが家建てたのって一年の頃だろ?転生者なんてずっと前から。…つまり、此処って最初からめちゃくちゃズレてる…?」


「多分、原作のメインイベントは来るだろうけど…それも話の通りに沿うかというと違うんじゃない?」


原作の刹那ちゃんは反転術式は使えなかった。
夏油は夏に離反する。
灰原はその少し前に死んでしまう。
そもそもこの辺り…というか星漿体護衛任務で失敗しているし、それから夏油は少しずつ病んでいる筈だし、伏黒一家は高専には居ない筈だし、というか伏黒先生と時雨さんが星漿体護衛任務の敵だし………


「……黒川よ」


「うん?」


夏油をじっと見る。
刹那ちゃんと並んで、擬音だらけの反転術式講座に首を捻る彼の目許にクマはない。
…めちゃくちゃ健康そうだな?


「……取り敢えず、三年になったら夏油と灰原、七海の任務に気を付けよう。私達が出来るのってそれぐらいだし」


転生者である私はこの世界の未来を知っている。私だけじゃない、程度の差はあれ転生者であれば呪術廻戦を知る者は多いだろう。
そこで、現在の五条過去篇と呼ばれる今の時間軸で起きるのは大きく分けて三つだ。


星漿体護衛任務。
灰原の死。
夏油の離反。


今のところ、星漿体護衛任務は五条による自作自演というなんともいえない方法で回収された。そこで敵だった伏黒先生も、仲介役として仕事を斡旋した孔時雨さんも此方側。
その任務で天内理子は人間として生き残り、天元様は天内クローンと同化した事で安定。五条も無事茈を会得。


……いやこれもう五条悟二週目説出ちゃうな????



















高専内の武道館で、私は悟と向き合っていた。


「んー……俺の呪力流して無理矢理起こしちゃう?でもそれだと拒否反応が起きたら大変だし、俺が居ない時に使えないとアレだし……でもなぁ」


『ぶっちゃけ術式反転って要る?』


「またそこに戻んの?もう無理矢理起こそっか。そしたらちょっとは俺のイライラ判るかも」


『近い近い近い近い』


ぐっと顔を寄せてきた悟の額を押し退けつつ、畳の上に座り直した。


「刹那、俺が術式反転をオマエに覚えさせたいのは何でだと思う?」


『勿体無いから』


「ウン、最初にそう言った。でもさ」


悟がゆっくりと瞬きをした。
胡座をかいた男はゆっくりと此方に手を伸ばし、とん、と私の額を指先で押す


「俺が一番術式反転を使わせたい理由は────オマエの自殺技を、ただの必殺技に出来るからだよ」


『?』


自殺技とは絶対零度の事か。
大変失礼な言い方だが間違ってもない。ただ術式反転を使える様になれば死ににくくなるのかと言われても、いまいちピンと来ない


『悟は確か、反転は体温上昇だって前に言ったよね?』


「ん」


『……絶対零度の後に温度上げろって事なんだろうけど、上げてる間に死なない?』


絶対零度とは確か−273℃ぐらい。人の体温は大体…低くても34℃ぐらい。
……多分術式反転を回す間に砕けると思うんだけど間に合う?上げる前に私死なない?
問い掛けた私に悟はゆるりと蒼い瞳を細めた


「刹那、オマエはどの機能が停まったら人間は死ぬと思う?」


『え?そりゃあ…心臓が停まったら、じゃない?』


「それは心停止。厳密に言うと死んでない」


悟が長い指で自分の胸を指した


「死亡は医者しか判断出来ねぇっつー野暮は一旦置いといて。
心肺停止ってのは、心臓も呼吸も停止して意識がなくて、死が目前に迫っている状態だよ。 人間の脳味噌は心臓が停止して血液が流れなくなると、大体四〜五分で回復不可能な障害を受けるんだと。
逆に言うと、心臓が停まっても四〜五分は脳は生きてるって事だ。
…まぁ心臓が停まれば肉体が死ぬ。心臓が動いていても脳が死ねば人格が死ぬ。
死っていう結末に違いはねぇけど、少し先に凍っても平気なのは心臓って事」


『……とても理系』


「俺、最強だから。勉強も出来るの。カッコイイ?」


『そうだね、カッコイイよ…』


普通はどの部分が凍っても平気とか考えないからな。凍ったら終わりだって思うんだけどな。
カッコイイをお気に召したのかふにゃふにゃ笑っている悟は、緩んだ顔はそのままに腕を組んだ


「だから、刹那が凍らせても良いのは心臓までだよ。そこまで行ったら術式反転で少しずつ凍った心臓を最優先に解凍する。長時間凍ると凍傷とかの危険性はあるけど、そこは術式反転と反転術式を同時平行で動かせば問題ない。絶対零度自体が長時間使用出来るモンでもないしね。
以上、質問は?」


『はい五条先生!!!』


「はーい刹那ちゃん」


素早く挙手し、声を張る。


『術式反転と反転術式の同時使用なんて無理です!!!!!!』


悟の言ってる意味が判らない。
普通に考えてほしい、普通は術式の同時使用なんて無理です。
挙手した私の言葉に悟が首を傾げた


「なんで?まだ術式反転も使えてねぇんだよ?なんでもう無理って決め付けてんの?」


『よく考えて?悟は頭の出来が違うし六眼もあるから精密な呪力コントロール出来るでしょ?私は無理だよ。頭悪いし』


「ダイジョーブ、一輪車に乗りながら本読む様なモンだから」


『出来るか!!!!!!!』


ぜったいむり。無理だよ。無理。
寧ろ例えを聞いて余計に出来ない気がしてきた。
首を振る私に口を尖らせた悟が大きな手を伸ばしてきた。
向かい合わせに座っていた悟の方に引き寄せられ、しっかりした肩に手を付く体制になる。
顔を上げると、直ぐ傍で蒼が細められた


「百聞は一見に如かずって言うよな?」


『え』


待って。とても嫌な予感がする。
ばたばたと暴れるがしれっと抱き込まれ、脚も太腿で挟み込まれた。
人外染みた綺麗な顔がぐっと近付く。
鼻先を擦り合わせながら、悟は微笑んだ


「俺が掛け合わせて作ったプラスの呪力を流し込むから────それで、抉じ開けよっか♡」


『』











やれば出来るよ











刹那→自分の限界を決めるタイプ。
熱願冷諦型なので、死んでも手を離さないタイプと相性が良い。引っ張って貰えればどんな場所でも歩ける。
このあと内乱が起きる。

五条→限界はないタイプ。決めたらそこが限界になると考えてる。
唯我独尊型で突き進むのが得意なので、どんなに引っ張り回しても仕方ないなぁと笑ってくれるタイプと相性が良い。
このあとめちゃくちゃしょげる。

夏油→限界を決めるタイプ。
此処までが限界だろうな…と考えてそれ以上を目指せなくなる。
大器晩成型なので、決め付けた天井をぶち壊して笑ってくれるタイプと相性が良い。
このあとめちゃくちゃ説教する。

硝子→限界を見極められるタイプ。
自身の能力と出来る事を見極めるのが上手。最近術式を用いた最低限の護身術を考えている。
行雲流水型なので、どんなに掛かっても必ず待っている場所に到達してくれるタイプと相性が良い。
このあとめちゃくちゃ説教する。

語部→詰まったらそこが限界なタイプ。
上がれる所までは上がってみるけど、ぶつかったらそれが限界だと笑える人。無茶はしない。
万里一空型なので、同じ様なペースで歩けるタイプと相性が良い。
五条二週目説を唱えた。二週目ではない。
このあとめちゃくちゃ荒れ狂う(壁になりたい)

黒川→限界を決めるタイプ。ただし土壇場で天井を忘れて踏み台にして跳べる。火事場の馬鹿力を地で行く。
百折不撓型なので、同じペースで歩けるタイプと相性が良い。前を歩く人達のサポートも得意。
このあと「うわ……」と絶句する。

目次
top