────オ前は、大事ナモノに触レなクなれバ、良イ
……油断した。
相手は一級、そもそも無限を操る俺に敵が触れられる筈がない、と。
予想通り赫の一発でほぼ消滅。
しかしあの呪霊は消える寸前に俺に触れ────そして、呪った。
「…チッ、胸糞悪ィ」
頭を掻き毟りつつ、高専内の廊下を歩く。
そこで前を歩く大きな背中を見付け、早足で追い付いた。
……呪霊の言葉が、脳裏を過る。
そんな筈があるかと手を持ち上げて、逞しい肩を叩いた
「よぉ傑、オマエも戻り?」
「やぁ悟、そうだよ。おかえり」
「ただいま。そんでおかえり」
「ふふ、ただいま」
……楽しそうに笑う傑に違和感はない。呪力の流れも自然だ。
俺の方にも何も異変はない。
…つまり、傑はこの呪いの対象外。若しくは呪い自体が俺に掛かる前に、消えたかだろう。
共に教室に向かい、部屋に入る。
此方を見た女子二人は雑誌を広げたままで、笑顔を浮かべた。
『おかえり、悟、傑』
「おかえり。怪我人は?」
「ただいま。私は無傷さ」
「ただいま。俺を誰だと思ってんの?」
そもそも怪我なら反転術式で治せる。スタスタと二人に近付いて、先ずは硝子の肩に手を伸ばした。
……ぽん、と乗る。
硝子は怪訝そうな顔で俺を見ているけど、異変はない。
俺も平常だ。
……そうなると、残るは。
「………刹那」
『ん?』
────オ前は、大事ナモノに触レなクなれバ、良イ
脳裏を過る。耳の奥で呪霊が嗤っている。
そっと手を伸ばした。
手が、机の上に置かれた刹那の指先に、触れて
『いった!?』
「!?」
────バチン!と火花が散った。
……なんで。なんでだよ。
なんで俺じゃなくて、刹那に痛みが向くんだ。
「……ごめん、刹那」
『いったぁ…え、なに?静電気?』
「凄い音したな。指見せな」
「悟も大丈夫?手は?」
近付いてきた傑に首を振る。
俺の手はどうにもなっちゃいない。だって、呪力で焼かれたのは刹那の指だ。
……俺が大事なものに触れれば、相手が傷付く。
これは、そういう呪いだったのだ。
自分自身だからこそ、見えなかった。迂闊だった。鏡でも見て確認するべきだった。
拳を握り締めて、俯く。そんな俺を見た刹那が椅子を立つ音がした
『悟?そんなに落ち込まなくても…』
「来るな!」
無限を張り、刹那をこれ以上近付けない様にする。
顔を上げると、全員が目を丸くして俺を見ていた。
「……呪われた。だから俺、刹那に触れねぇ」
「「『は????』」」
「は????じゃねぇよ俺がは????だわ」
クッソあの呪霊苦しめて祓えば良かった。
「────つまり、悟は刹那に触れないんだね?」
「おう」
「触ったら悟じゃなくて、刹那が傷付く呪いか。嫌なトコを攻めてくるモンだね」
「俺が痛いだけなら我慢するよ?けどさぁ……刹那が痛いのはやだよ」
しゅんとしてしまった親友の頭を撫でる。
現在女子二人は夜蛾先生の手伝いで席を外していた。
悟は机に伏せてしまっている。
余程、刹那を傷付けてしまったのが堪えたんだろう
「あまり気に病むなよ。さっきのは事故だったんだ」
フォローのつもりでそう声を掛けると、悟が勢い良く身を起こした
「じゃあオマエ自動車で自分の大事な奴轢かれても事故だったんだなんて言葉で済ませられる?
そんな言葉で謝られて許せる?無理だろ。俺は無理。
運転手殺すし自動車も潰す。それと一緒」
「話が飛躍し過ぎてるよ。静電気と運転事故を同罪にするんじゃない。
刹那は怒ってなかっただろう?それが答えだよ」
「……じゃあどうすりゃ良いの。呪いやがった呪霊はもう祓った。けどきっと、どうしたって呪いは一週間は続く。
…俺が傷付けたんだぞ。痛いって顔させたんだ。
しかも、下手すりゃまたさせちまう。
………最早俺を殺すしかないんじゃ……???」
「その手をもう一度使うなら私達はお前を捨てるよ」
馬鹿な考えに走りそうな悟に釘を刺せば、この世の終わりみたいな顔になった。orzってこういうのを言うんだろうか
「なんで?????なんでおれをすてるの???やだよ。すてないで。すてるならおまえらぜんいんころしてからおれもしぬ」
「待って。せめて一人で死んでくれ。なんで私達まで殺すんだ」
綺麗な目をうるうるさせながら放った言葉が全然可愛くない。
肩を掴んで前後に揺らしてくる一歳児をどうやって宥めようかと考えていると、教室に女子二人が戻ってきた。
「なんだ夏油、五条怒らせたん?」
「違うよ。皆殺し宣言されてた」
『なにそれ怖い』
「刹那!!聞いてくれよ傑が俺を見捨て……」
椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった悟が大股で刹那に近付いた。
そして何時もの様に抱き締めようと腕を伸ばして────思い出した様に、ぴたりと止まる。
一度指が名残惜しそうに空を掻いて、長い腕が降ろされた。
「……すぐるぅ」
「はいはい。戻っておいで悟、良く我慢したね。偉いよ」
しょぼんとした顔で席に戻ってきた悟の頭を撫でてやる。
一連の流れを見た硝子はサイレントで爆笑していて、刹那は困った顔で笑っていた
『悟。私は少し痛いぐらい、別に気にしないよ?』
「いやだ!!!!オマエを傷付けるのはいやだ!!!!!!!!!」
「クソデカボイスwwwwwwwwwwwww」
「パパ、笑わないであげて。一歳児の主張だよ」
「屋上で叫ばせろよwwwwwwwwwwww」
『んー…ごめんね?最初に痛がり過ぎたね?ちょっと指が痛いぐらいだから大丈夫だよ?』
「指先が!!!!!爛れてましたけど!?!?!?!?
俺言ったよね!?刹那が痛がるの嫌だって!!!!!!
爛れるぐらいの怪我をちょっととか言ってんならオマエにも怒るからな!!!!!!」
『もう怒ってるじゃーん』
「まだ刹那には怒ってねぇもん……俺は俺と呪霊に怒ってんの………すぐるぅ」
「あーよしよし。ちゃんと自分の気持ちを言えたね。偉いよ」
「死ぬwwwwwwwwwwはらがwwwwwよじれるwwwwwwwwwwww」
「パパがゲラだね」
『珍しいね』
とうとう硝子が崩れ落ちた。
何時もなら私も彼方側なのだけれど、娘が悟を宥める事が出来ない以上、私が慰めるしかない。
すっかり悄気てしまった悟の頭を撫でながら、不安に襲われた。
……これが一週間続くの?
私の胃が死なない?????
二日目。
早速一歳児が泣いている。
「なんで…なんでこんな呪い掛けんのクソ雑魚…刹那だっこして眠れないのいやだ…隣に居るのに触れないのいや………」
「ああ、うん。偉いよ悟。触らない様に頑張ってるんだね」
「べしょべしょwwwwwwwwwwwwwww」
『なんかごめんね…?』
ぐずぐずと泣く悟に、爆笑する硝子、苦笑いする刹那。
まず刹那は謝る必要なんてないし、これは正しい事なのだから気にしなくても良い。そもそも悟の距離感がバグっているのも原因なんだし。
だが硝子、君は許さない。爆笑して一切私を労らないのは根に持とうと思う。
「刹那……」
『ん?悟、大丈夫?』
「………すぐるぅ」
「はいはい頑張ってるんだね。偉いよ」
手を伸ばしそうになって、ぎゅっと空を握り締める大きな手。
迷い子みたいな顔で私を呼ぶ悟の頭をわしわし撫でた。
これはやっぱり、私の胃が死ぬな。
三日目。
悟のクマがひどい。
「クマwwwwwwwwwwwwwwwww」
「………せつな…」
『んー…おいで、悟。無理すんのやめな?』
「いやだ…刹那が痛いのはいやだ」
「意思が堅いなぁ」
「しぬwwwwwwwwwwwwwwww」
刹那に触らない為に、とうとう寝る時に部屋を分けたらしい悟は、一睡も出来なかったらしく目の下が真っ黒になっていた。
可哀想な悟を見て弾ける笑い袋。私も其方に行きたい。でもそうしたら今の悟じゃ何を仕出かすか……
『うーん…髪の毛とかも多分アウトだよね?』
「…抜けた髪はセーフだけど、今生えてる髪はダメ」
「ちょっと待て。悟、まさか刹那の髪拾った?」
「…………昨日抜け毛で三つ編みしてた。傑と硝子のもあるよ」
「『寝ろ』」
「きもちわるいwwwwwwwwwwwwwww」
親友が控えめにやばい。
私の胃が死んでいく。
四日目。
メンタルがやばい。
「俺が刹那に触れないなら、いっそ刹那の血肉になれば良いのでは…?」
『こわいこわいこわいこわい』
「悟?大丈夫?寝な?」
とんでもない事を呟きだした悟を指差して、笑い袋が転がった。そろそろ硝子に何か仕返ししても許されると思う。
「刹那に触れないなら俺が刹那の一部を食う?でも痛い思いはさせたくないし……」
『ねぇママ、人が狂っていく一週間って題名付きそうだねコレ』
「ママの胃が死ぬ一週間でも良いよ」
『……胃薬、要る?』
「ありがとう刹那。彼処の笑い袋も見習ってくれないかな」
「ママおこだよwwwwwwwwwwwww」
「パパ、覚悟してね♡」
ゲラに報復宣言をしていると、目の下が真っ黒な悟が晴れやかな笑顔で言い放つ
「俺の反転術式は刹那に俺の血肉を捧げる為にあるのでは??????」
「『寝ろ』」
「カニバリズムwwwwwwwwwwwwww」
胃の端がきっともげた。
五日目。
泣いている。
「せつな……うぅ…」
『あー……ほんとごめん。ほら、無限には触れてるよ。悟の術式に触ってる。だから悟に触ってるのと一緒だよ』
「うううううううううう…」
「サイレンかよwwwwwwwwwwwww」
「パパ、ほんとにお仕置きするからね」
透明な壁に阻まれた手と手。
まるで恋人同士の切ない会瀬の様だが、実際は苦笑する娘が号泣する人間歴一年をあやしているだけである。
五日目ともなれば悟はすっかり落ち込んで、ぐずぐずになっていた。
その所為で任務にも出せず、代わりに私や刹那、伏黒先生が出る状況だ。
「呪霊なんかきらいだ…根絶やしにしてやる…」
「呪霊みたいな事言ってらwwwwwwww」
「五条の至宝がwwwwwべしょべしょwwwwwwwwwww」
「おい誰だ笑い袋を増やしたのは。そろそろ私も胃が破けるぞ???????」
『傑くん???ほんとごめんね???一旦休もう?????』
「ガチギレwwwwwwwwwwwwwww」
「おいパパ」
「キレてるwwwwwwwwwwwwwwww」
「おい教師」
胃の半分が干涸らびた。
もうむり。私も休みたい。
六日目。
悟の目が死んだ。
「…刹那に俺の肉を食わせるとして、カレーに混ぜる?でも人肉ってどうなの?俺って美味いの?」
『こわいこわいこわいこわい』
「何故悟は軽率に病むのか……」
「アタマイカれてんなwwwwwwwwwww」
「恨めしい笑い袋め」
「wwwwwwwwwwwwwwwww」
ぶつぶつと自分の腕を見つめながら呟かれる言葉がひたすらに恐ろしい。
なにこれホラー?人が狂っていく一週間を何故私達は実体験しているのか。
「いや、いっそステーキにする?でも俺脂肪がないな。硬いよな…………煮込む?」
「牛すじ煮込みと同じレベルwwwwwww」
『何を食べさせられるの私……』
「悟の筋煮込みかな」
『やだ…牧場でステーキ食べんのと同じじゃん…生きてる悟見ながら悟の筋煮込み食べるの…?』
「刹那も大分疲れてるね?」
『傑ほどじゃないけど、それなりにメンタルに来るよね』
「そうだね」
『ごめんね』
「悪いのは何も手伝わないパパだよ」
「八つ当たりすんなwwwwwwwwwwwww」
胃の三分の二が千切れた。
もう、つかれた……
七日目。
悟が壊れた。
「もうやだwwwwwwこの呪いかけた奴死ねwwwwwwwいや俺が祓ってたwwwふざけんなよマジでwwwwwwwwwwwはぁ」
「こわれたwwwwwwwwwwwwwww」
「最終形態:情緒不安定ですね」
『爆笑からの落ち込みを見事に表現しましたね』
シャチのぬいぐるみを締め付けんばかりに腕に抱く悟を観察しながら、笑い袋に貢がせるものを考える。
ちょっと値が張るものでも怒られないと思うんだ。パパが育児に協力しなかったのが悪いんだし。
「大体なんで刹那なの?刹那の指がドロドロになったら可哀想。食べるしかないじゃん」
『待って。変な方向に進んだ』
「…いや待てよ?俺の腕をミキサーに掛ければスムージーとして飲ませられるのでは????」
「待つな。飲ませるな」
「骨がアレか?砕いて軟骨みたいに仕込む?それとも出汁取る?」
「アタマやべぇwwwwwwwwwwww」
結局どうやっても悟は自分の腕を刹那に食べさせたいらしい。
可哀想に、刹那は笑みが引き攣っている。なんでコイツ危ない方にしか病まないんだろう。
「判った。肉を食わせて、骨はダイヤにしよう。それか指輪。ネックレスでも良いな。磨けば綺麗なモンだって聞いたし。
あ、目玉もあげるね!食べて!それか飾る?好きにして良いよ!!!!!!」
『とうとう呪いの装備の話が出てきましたね』
「本当にあったこわい話かな?」
『目玉まで差し出されました。
アイツは自分の事をアンパンマンだと思ってるんでしょうか』
「僕の顔をお食べは控えめに言って狂気を感じるよね」
「おまえらwwwwww目がwwwwwwしんでるwwwwwwww」
胃が消滅した。
しんでしまいます。やすませてください。
…目を開ける。
八日目。俺は手鏡を掴んだ。
鏡面を覗き込み、鏡に映った自分を見て、呪いを確認する。
幾ら呪力で焼こうがしつこく残っていたどす黒い呪詛。
俺の額に巻き付いていたそれが────消え去っていた。
「」
部屋を飛び出す。
目的の部屋にノックもなく飛び込んで、膨らんだ布団の上に馬乗りになった。
すやすやと眠る刹那に手を伸ばして────止まる。
……もし、まだ呪いが残っていたら?
フラッシュバックする。痛がる刹那。爛れた指先。弾けた静電気。
呪霊の嗤い声。俺を掴んだ筋張った紫の腕。掠れた声で吐き出された呪詛。
……手が震える。
触りたい。けど、傷付けたくない。
確証がない。
肌が接触して、呪いが発動しないという根拠がない。
だって俺は、呪詛に気付けなかった。
そんな俺が今、完璧に解呪出来たなんて胸を張って言えるのか。
触れないままの手が宙を泳ぐ。
ゆっくりと引っ込めようとした腕が────細い手に、絡め取られた
「!」
刹那が、傷付く。
身を強張らせるが………何も、起きない。
え、マジで呪詛が消えた…?
ほんとに?触っても刹那痛がらない?
ぐいぐいと手が引かれる。
望みのままに布団に入れば、雑に掛け布団を掛けられ、そのまま抱き締められた。
……刹那だ。
刹那が、ぎゅうってしてくれてる。
寝惚けているんだろう、大きな目は開いてすらいない。それでも俺を抱き締めてくれるのが嬉しくて。
…俺が抱き締めても刹那が傷付かないのが、嬉しくて。
「……だいすきだよ、刹那。もう離さないから」
ゆっくりと目を閉じる。
これならやっと、眠れそうだ
「────それで?その引っ付き虫が出来たのかい?」
『まぁ仕方無いね。一週間頑張ったから…』
ははは、と乾いた笑いを漏らす刹那を抱き込む悟はとても幸せそうだ。
先程からすりすりしたり、イタズラに頬を食んでみたりする。完全に行動がご主人大好きな猫なんだが、悟は何時から猫になったのか。
「そういえば刹那、夜蛾先生が呼んでたよ」
硝子がそう声を掛けた瞬間、ご機嫌だったネコチャンの表情が死んだ
「なんで??????どこにいくの?おれをおいていくの?すてないで。つれていって。いかないで。だめ。よぶな。おまえがこい。せつなはもうここからうごかないで。はなれちゃだめ。ゆるさない。はなれたらさるをころす」
『怒濤の勢いで病んでいます』
「………先生を呼ぶから、ちょっと待ってて」
『ごめんね……』
「wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
爆笑する硝子には高級蕎麦セットを貢いで貰おうと思う。
一週間?胃が死にましたね。
刹那→呪詛の被害者。五条によるストレスの被害者。
五条の腕を食べる悪夢を見た。
五条→呪詛を掛けられ、地獄を見た。そして地獄を作って夏油と刹那をストレスで苛んだ人。
自分の腕を食べさせられないか真剣に考えている。
これから一週間何があっても離れない。
夏油→胃が消滅した。
今回の一番の被害者。
硝子→何気に一番楽しく過ごした。
ママに高級蕎麦セットを貢いだ。
副題:人が狂うまでの一週間
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