※「我は此処に在り」の後の話





深夜零時・都内某トンネル付近


『ねむ……』


「刹那、眠い?抱えよっか?」


『給料泥棒は嫌だ。がんばるよ』


「十二時に眠たい高校生って何かウケる」


「刹那は早寝早起きが基本だからね。可愛いだろう?」


「ママの可愛い基準五条と一緒で段々イカれてきてんぞ。可愛いけど」


「オマエも同類だよパパ」


欠伸を溢した私を中心に会話する三人に、私は目を瞬かせた。


『…皆私の事、実は結構好きだったりする?』


問い掛けると三人の動きが止まった。


「えっ、当たり前だろ愛してるけど」


「私の娘だぞ?愛してるに決まってんだろ」


「勿論愛してるよ、私の娘」


『…………………………………………………アリガトウ』


待って。その、好きって言うのは知ってたよ?でも待って。真顔で愛してるって言われると、ほら、えっと。ね?


…一気に顔が熱くなって、俯く。


意味もなく笑みが零れた。
あ、だめだこれにやける。顔上げらんないや。嬉しいし、はずかしい。胸がぽかぽかする。…みんなに、こんなに言い切るほど愛されてるんだ。
…わたし、愛されてるんだ。
…愛されてるのを、受け入れられてるんだ。そっかぁ。
照れ笑いが収まらず動けなくなった私を、ぎゅうっと抱き締める六本の腕。


「えーーーーーーーーかわいい。どうしようかわいい。えっ?バグった?六眼バグった?刹那キラキラしてるね?
ねぇ心臓がどっくんどっくん言ってる。体温が上がった。なにこれウケる。
どうしようかわいい。えっ?えー…どうしようせつながとてもかわいい」


「当たり前だろ刹那は可愛いんだよ。最近愛情に免疫付いてきてんだよ。
あーかわいい。あんたはこれから愛情に慣れていこうね」


「私の娘だよ?可愛いに決まっているだろう。刹那、愛される事を怖がらなくて良いからね。ゆっくり慣れようね。
大丈夫だよ、ずっと一緒に居るからね」


…まだ愛してるという言葉は怖くて口に出来ないけど。それでも、私は私が口に出来る最大限の愛を返したい。


『……へへ、うれしい。…だいすきだよ、みんな』


せいいっぱい腕を伸ばして大事な人達を抱き締める。
すると三人もにっこりと笑ってくれた。













「……夜中に限界オタクみたいなテンションになったテディ愛好家ですが、俺ら何時帰れるんでしょうか」


「夜中に限界オタクみたいなテンションになったママですが、任務をこなさなければ帰れないと推測します」


「夜中に限界オタクみたいなテンションになったパパですが、もうお前らのどっちかが森に凸すれば良いんじゃねぇの?と思っています」


『夜中に限界オタクみたいなテンションの親友達に囲まれたテディベアですが、取り敢えず様子見に行けば良いのでは?と思っています』


四人でトンネル傍のガードレールに寄り掛かり、何となく敬語で報告してみる。
なんだろう、深夜テンションできゃっきゃしたあとに呪霊の相手ってとても嫌。
騒いだあと、任務を思い出して四人でスンッとなったのは仕方無い。


「一端森に入るか?俺と傑森薙ぎ払うけど」


「森に入って呪霊を見付け次第此方に誘き寄せるのはどうだい?そうすれば更地は防げるだろう」


『じゃあ三人で手分けする?硝子も一緒に行けば安全だよね』


「安全に運べよ。私はお前らと違って落としたら折れるぞ」


「私と悟も打ち所が悪ければ折れるよ?」


「俺パース。運ぶならテディちゃんが良い」


『うわっ』


言うや否や隣から腕が伸びてきて、膝と背中を取られた。
流れる様にお姫様抱っこした男は簡単に宙に立つ


『悟、私自分で行けるよ?』


「知ってるよ。俺がこうしたいの。だめ?」


『…悟の邪魔じゃないなら』


「ん。オマエ抱えて祓うのなんかヨユー」


ふにゃっと笑った悟が頬をくっ付けてきた。
猫みたいな仕草に笑っていると、硝子を抱えた傑が呪霊に乗って飛び上がる。
隣に並んだ傑が、目的地である山を見上げた


「取り敢えず山頂から攻めようか。そこで見付けたら振り切らない程度の速度で退避して、此処に出る。
そうすれば被害は少なく祓えるだろう。質問は?」


『さとるっちは?』


「彼方で別れる前に一体ずつ頼むよ」


『了解』


「んじゃ、ダルい任務を終わらせに行きますか!」












夜の闇に紛れる様に山頂に到着し、各自散開しようとしたところで、呪力が滲み出るのを感じた。
一部ではなく、目の前の地面から、木の幹から、山全体から染み出す様に周辺を侵食していくのだ。
……とても嫌な予感しかしない。


「…ねぇ、これは…」


『……でかくない?』


「しかも、これは…」


「ぁあ?…足許?」


悟の声で足許を見る。
堅い地面を目を凝らす様に見ている私の目の前で、ずぼっと飛び出した手が────私の脚を掴んだ。


『うっっっっっっっわ!!!!!』


「刹那!」


鉄扇から水を取り出し、腕を切る。
その瞬間に隣から乱暴に引き寄せられ、抱き上げられた。
そのまま駆け出した悟の肩に何とかしがみつき、後ろを確認する。
地面から何本も飛び出す土色の腕。
冗談抜きで映画で良くある光景だった


『なにこれ!ホラーゲームじゃん!』


「オラ追っ掛けてこいよ雑魚!…つーかあれってアイツら森出られんの?俺ら逃げて意味ある?」


「意味はあるさ!祓うには木が邪魔だ!」


「刹那、脚に異常は?痛みとかない?」


『大丈夫だよ、ありがとう硝子』


私達を抱えた悟と傑は木々が乱立する山を転がる様に駆けていく。
此方を猛追する手は勢いが削がれる事もなく、堅い土を突き破って悟と傑の脚を捕らえようとしていた。
二人が全力で駆け抜ける中、硝子がのんびりと声を発した


「ねぇ私アレ思い出したわ。
ちゃちゃちゃん、ちゃちゃちゃん、ちゃちゃちゃちゃちゃんっ、ってヤツ」


『なんだっけ、天国と地獄?』


「コレ障害物競争っぽくない?」


『どっちかって言うと借り物競争じゃない?』


「私ら借り物か」


悟の肩にしがみつき、硝子に後ろを指差した


『というかあれさぁ、ディグダに似てない?』


「ディグダ♪ディグダ♪」


『ダグ♪ダグ♪ダグ♪』


「私ダグトリオの事ダグドリオだと思ってた。濁んないのねアレ」


『あー。ドードリオみたいにね』


「私前から思ってたんだけどさ、なんでディグダって進化したらダグトリオになるの?単品が進化して三つになるの可笑しいだろ。
ディグダの進化にディグダ二匹合成してない?」


『ウケる。武器の合成じゃん』


「てか五条の走り方脚が長すぎてエグいな。初号機?」


『傑はボンタンなのにめちゃくちゃ速いね?三号機かな?』


「やだよトウジとか死ぬじゃん私」


『知ってる?シンジくん死なないけどロクな目に遭わない』


「ねぇオマエら何でそんな余裕ぶっこいてんの???地味にアイツらクソ速ぇんだけど!?」


「悟!そっち行ったぞ!」


「わーってる、よ!!」


悟が地を蹴り、直ぐ近くの木の幹を足場にして一気に進む。
ぐっと背後から身体を襲うGに思わず笑みが零れた。


『はやーい!!!!』


「オイ夏油もっと飛ばせよ。五条に負けてんぞ」


「ねぇ待ってお姫様方俺らの事ジェットコースターか何かと勘違いしてない???すっげぇ楽しんでない???
いや良いけど???待って?刹那眠たくて壊れた???」


「硝子は判るとして刹那は確かに可笑しいな…刹那?眠たくてちょっと変なテンションなのかな?大丈夫???」


「すげぇ心配するじゃんwwwwwww」


『眠たくて壊れた認定されてるwwwwww』


必死こいて走ってくれている二人には悪いがめちゃくちゃ面白い。
硝子と二人で笑いつつ、私は正面を見据え木々を避け、出来るだけ私に負荷の掛からない場所を選んでくれている悟を見た


『だって、最強が運んでくれるんだよ?私達何を心配すれば良いのさ』


「お前らは私らを落としたりしないだろ?だったら運ばれる側からすりゃジェットコースターだっつの。当たり前だろ」


私達を抱えているのは最強コンビだ。
それなら心配する事なんて何もないし、行く手を遮る木もレース上のポールにしか思えない。命を奪いに来る呪霊だってただの舞台装置に早変わり。
故に純粋にジェットコースター気分で硝子と笑っていたのだが、まさか心配されるとは。
見上げた悟は何も言わない。
……でも無理。待って。無言でじわじわ赤くなっていくの面白過ぎない???


『wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』


「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「「笑うな!!!!」」


『無言でwwww赤くなってくwwwwwww』


「夏油wwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「俺が!!オマエを!!落とす訳ねぇじゃん!!!!!!ぜってー護るし指一本触れさせねぇし掠り傷だって負わすモンかよ!!!!!!!!」


『圧がすごいwwwwwwwwwwwwwww』


「ウケるwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「ああもう!!そんな事言ったって私は靡かないよ!!!!好きなものをあとで買ってあげるね!!!!!!!」


『一瞬で靡いたwwwwwwwwwwwwwww』


「はらいたいwwwwwwwwwwwwww」


笑いすぎて涙が出た。
悟と傑が強く地を蹴り、飛び出す。
ぶわりと身体を包む浮遊感に、しがみつくのをやめて振り向いた。
大きく拓けた視界に映るのは黒と藍。そして無数の街の明かり。


『わー!!!!!!』


「あっははははははは!!!!!!」


「ほんと楽しんでんじゃん……なんだコレはっず……」


「信頼がこんなにむず痒いものだったとは…」


男二人のぼやきにまた笑いながら、重力に従って落下する。
よいしょとくっつき直した私を笑いながら、悟の落下がゆったりになっていく。
傑は既に呪霊に跨がっていた。
最初に屯したトンネル前に戻ってきた所で、悟は私をそっと降ろした。


「ご利用ありがとうございましたぁ。またのご乗車お待ちしておりまーす」


『ありがとうございましたー!』


「刹那、傑の傍行ってろ」


『はーい』


傑の許に駆け寄る。
さっさか避難を終えた私を横目で確認すると、悟は手を正面に向けた。


黒々と聳え立つ山から、無数の腕が伸びてくる。


縒り合わさり巨大な腕となった呪霊に、悟は指先を向けた。


「術式反転・赫」


…………あれ、これ山ごと吹っ飛ぶ流れでは????











信頼しているよ、知らなかったの?












刹那→夜は眠い。
愛してるという言葉が前より怖くなくなってきている。受け入れられた自分にびっくりした。五条の刷り込みの成果。
五条の腕の中は世界中で一番安全な場所だと思っている。
山が吹っ飛んだので、このあと先生に怒られた。

五条→夜は元気。でも刹那に合わせて眠る事が増えた。
愛してるという言葉を受け入れられた刹那に語彙が溶けた。
自分に完全に身を委ねジェットコースターを楽しんでいる刹那に荒ぶるしかなかった。
その結果山を吹っ飛ばし、先生に怒られた。

夏油→夜は元気。
愛してるとまだ言えないけどそれを伝えてくれた娘を目に入れても痛くない。
自分に完全に身を委ねジェットコースター気分で楽しんでいる硝子に財布を渡した。
山が吹っ飛んだので、このあと先生に怒られた。

硝子→夜は元気。
愛してるを受け入れられた刹那ににっこり。娘が可愛い。
夏油は男としてはアレだが抱えた自分を落とす筈がないと思っている。
ジェットコースターが楽しかった。
山が吹っ飛んだので、このあと先生に怒られた。


勿論信じてるよ


/top