※「冬はもふもふ。」の後の話








それはクリスマスを過ぎ、今年も残り数日という時の事だった。
刹那と硝子が色違いのお揃いのコーデをして、高専から出ていくのを見掛けた。
黒いコートの刹那に、ベージュのコートの硝子。
中は色までお揃いの白いニットワンピ。
膝より少し短い裾の下には黒のニーハイブーツ。ウン、かわいい。
でも俺もう少し裾が長くても良いと思う。


「え、オマエら何処行くの?俺と傑は?」


楽しそうな二人に声を掛けると、片方はふんわりと微笑み、片方は明らかに面倒そうな顔をする。


『やっほー悟。ちょっと硝子とデートしてくるね』


「今日は女同士でデートするって決めてたんだ。男はお呼びじゃないっての」


「えぇ、なんで…?おれもいきたい…」


『うわ、かわいい顔してる』


「刹那、流される前に行くよ。良い子にしとけよ五条。土産買ってきてやるから」


『じゃあね悟!喧嘩するなら校庭でしなよ!』


……流されてくれそうなテディちゃんはパパに腕を掴まれ、引っ張って連れていかれてしまった。
小さくなる背中を見つめながら、ポツンと取り残された俺は口を尖らせる


「……ちぇっ、置いていきやがった」













「と言うワケで、尾行してまーす☆」


「脈絡が全く見えないのは私だけか?」


「安心してくれ、俺もっす…」


こんにちは、黒川です。
ただいま俺は、最強コンビと共にとあるカフェで女の子を見張っています。
手前の席で、白いニットワンピの女の子が二人、楽しそうに会話しながらランチをしている。
至って普通の行動だ。
しかしこの白い方の最強は、それを看過出来ないらしい


「なんでアイツら俺らを連れてってくれなかったんだろ。別に俺ら邪魔しねぇのに」


「私達だって二人で出掛ける事もあるだろ?それと一緒さ」


「でも俺ら行く時は誘うじゃん。アイツら今日は女同士でデートだからダメだって」


「うーん……まぁ同性同士でゆっくりしたかったんじゃないか?
私達が居ては話しにくい事だってあるだろ?」


「たとえば?」


……いやめんどくさいな?
五条悟めんどくさいな?なに?そんなに女の子同士で出掛けるのって重い罪だった?


ぶすっとした顔でパンケーキを頬張る五条は、目立つ髪を濃紺のニットで隠し、“五条先生”が掛けている様なスクエアのサングラスをしていた。
銀色のファーフードが付いたベロア生地の黒のコートに、白いタートルネック。菫青のベルトが印象的なスキニーにゴツめのミリタリーブーツ。
対する夏油はグレーのゆったりしたチェスターコートに、黒のニット。黒のパンツにブーツ。
髪の毛も今日はハーフアップにしていた。


……そう。こいつら、黙っていればモデルみたいな完成度なのだ。
なんで俺巻き込まれたの…?俺今日はゆっくりしたかったのに…なんでわざわざ部屋まで俺を拉致しに来たの…???


「楽しそう……いやこれ俺ら居ても良い会話じゃない?わざわざ置いていく理由あった?」


「?悟、この距離で二人の声が聞こえるのか?」


「え、嘘だろ?めっちゃ遠いっすよ?」


俺達は角の席だ。彼女達が俺達を見るには斜め後ろを大きく振り向かなければならず、桜花も家入もその様な素振りは見せていない。
此方は周囲の女性客も何処と無くそわそわしていて、離れた席の桜花達の会話なんてとてもじゃないが聞こえそうにない。
夏油と二人して首を傾げると、五条は耳から何かを取り外し、此方に見せてきた。
それはフックの付いたイヤホンに見える。そのコードはポケットに伸びていて、何となく嫌な予感がした。


「五条、それは…?」


「遠くの音を拾える魔法の耳」


「……悟、誰に付けた?」


「刹那」


けろっとした顔で告げられた言葉に俺の中の常識が伏せて泣いた。
でもそのあと、さらっと五条が口にした言葉にモラルも啜り泣いた


「刹那のペンダントの金具に盗聴器仕込んであんの。
盗聴器っつーか、盗聴に適した術式。
付けてる限り刹那の呪力吸って起動するから、電池切れの心配もない」


「違う、そうじゃない」


「まぁ俺の呪力込めたお守りみたいな感じだけど、本命は盗聴器だよね。
仮にアレがお守りとして動いても、盗聴器は壊れずに動くんだよ。凄くね?」


「違う、そうじゃない」


「最近は“耳”だけじゃなくて“目”も欲しいんだよな。あ、安心してよ。人間の声だけ拾い上げる様になってるから、トイレの音とか聞いてないよ」


「「違う、そうじゃない………」」


夏油と二人して項垂れる。
俺達が言いたいのはそもそも意中の女性に盗聴器を仕掛けるなという事だ。
良く考えてほしい。親友だと呼べる関係の異性に盗聴器を仕掛けられていたら。
しかも本人は悪びれる事なく更なる犯罪を行おうとしていたら。
……いや普通に縁を切るな?
なんで?なんで平然とイヤホンを耳に戻すの?少しは罪悪感を持って?
パンケーキ食って不思議そうな顔で此方見ないで?お前の所為で俺の常識もモラルも泣いちゃってるから














「刹那、これ似合うよ」


『ほんと?ちょっと可愛すぎない?』


「あんたは綺麗で可愛いんだから大丈夫。それに私が見立ててんだ、外す訳ないだろ」


『しょうこ、すき』


「私も好きだよ刹那」


きゃっきゃとはしゃぎながら服を選ぶ女の子二人は文句なしに可愛い。
だが俺の斜め前でストローを噛む男はぜんっぜん可愛くない。


「あっちのコートも可愛くない?硝子に合いそうなのはその隣の列のベージュのコートとか」


「確かに似合いそうだね。あ、手前の黒のAラインのコートはどう?」


「あー、ああいうのアイツら好きそう。お揃いとかにするタイプ」


こいつらファッション評論家かなにか?
現在、レディースのファッションショップで服を選ぶ二人を死角となるベンチに座り、野郎三人でこっそり覗き見ていた。
いやこれ普通にストーカーじゃね?俺もう帰りたいなぁ…


『あ、見て。これ硝子に似合いそう』


「ああ、こういうの好きだよ。刹那も好きなんじゃない?」


『うん、好き。お揃いにしようかな』


「良いじゃん。次はこれで行こ」


次のショッピングの約束をする女の子二人に五条がむうっと頬を膨らませた。子供か。
…考えがバレたのか、無言で肩パンしてきた。だからそれは痛いと何度言えば……


『あ、見て。これ悟に似てない?』


「wwwwwwwwwwwww」


『そっちは傑に似てる!』


「ほんとだwwwwwwwwwwwwww」


不意に女子二人が声を上げたのでそちらに目を向けると、二人はそれぞれストラップを手にしていた。
桜花は水色の目の白猫のストラップを、家入は黒い犬のストラップを握っている。
つぶらな瞳のストラップを手に笑う女の子二人を見て、最強二人が心臓と目許をそれぞれ押さえた


「なんだあれかわいいな?なにあれ?え?俺達に似てる?なんでそんなかわいいことすんの?すっげぇにこにこしてんじゃん?
なにあれアイツらかわいいな????」


「私の娘とパパがかわいい……かわいい…」


「かわいいbotになってしまった……」


壊れた機械の様にかわいいと呟く二人に呆れつつ、此方を狙っている女性達が近付いて来ない様に鋭く周囲を睨み、牽制した。
此処で女の子に声を掛けられてみろ、人集りに桜花達が気付き、俺達が尾行している事がバレてしまう。
……ごめんね、なにあの男って言うのやめて?綺麗な顔を般若みたいにして俺を睨むのやめて????


「あ、二人が移動しますよ。ほら二人共、どうするんすか?」


「行く……」


「勿論行くよ……」


よろよろと立ち上がった二人が家入達を追っていく。
五条と夏油の後ろを歩きながら思うのは、さしすせカルテットは人目を惹く、という事だ。
道行く男が女の子二人を目で追って、女が最強二人に釘付けになる。
美しい容姿のものに惹かれるのは人の性か。
…楽しそうに歩く二人に、髪を明るく染めた男達が近付いた


「ねぇねぇ、君ら女の子二人なの?」


「俺らとカラオケ行かない?」


「刹那、次何処行こっか」


『雑貨見たいなー』


二人は男達に目を向ける事もなく、次の行き先について話し合っていた。
明らかに相手にしていない二人に未だ付き纏うチャラ男に気分を害したのは、彼女らではなくこいつらだった


「処す?」


「異論なし」


「まてまてまてまて」


なんで?なんでお前らはそこで極刑に課すの?異論して?ナシじゃねぇよ処さないで???
近付いて行こうとする二人の背中を掴み何とか抑える。
やめて?今行けば俺達色々説明しなきゃいけなくなるんだぞ?そうなれば困るのはお前達だろ?
確かに女の子二人にしつこい男っていうのも好ましくはねぇけど、それより此方がやってる事のヤバさに気付いて???


「じゃあさ、そこのカフェ入ろうよ。俺ら奢るし」


「つーか荷物多いよね?ホテルで荷物預けない?俺ら部屋取ってるんだよね」


『硝子、今日の晩御飯どうしよっか。悟達に電話する?』


「アイツらに何か頼んどけば?五条も夏油も料理出来るんだし」


『それも良いね』


「なぁ俺らの事シカトとか有り得なくない?そのサトルクン?とかどうでも良いんだわ。とっとと来いよ」


「マジそれな。そんな短いの履いて誘ってんだろ?ヤらせろよ」


────ブチィッ。


堪忍袋の緒が切れるどころか弾け飛んでそうな音が聞こえた気がして、たまらず現実逃避したくなった。
手を伸ばした男を相手取る為か、桜花が家入を下がらせた。
小さな左手が剣印を組む前に、大きな手が彼女の細い肩を引き寄せた。
目を丸くした桜花が五条に片腕で抱き込まれ、家入をにこやかな表情の夏油が引き寄せる。


『え?悟?』


「やっほー刹那。奇遇じゃん?」


「何で居るんだお前ら」


「やぁ硝子。私達も男同士で遊びに来ていたのさ。偶然だよ?」


どうやらこのクズ二人は偶然出会ったという設定をゴリ押しするつもりらしい。
生暖かい目をしているであろう俺の前で、五条がわざわざサングラスをずらし、ナンパ男達に口角を吊り上げた


「ハジメマシテ、サトルクンです♡
刹那にも硝子にも視線すら向けて貰えないどうでも良いオニイサン達、シカトされてるのにめげないとか涙ぐましいナンパ活動ご苦労様♡」


「やめてあげなよ悟、彼等だってラブホの部屋をホテルのスイートだと思って慎ましく生きているんだ」


「ああ、そうだったね。ラブホに荷物置きにおいで♡なんてベタな誘い文句なんか自分の顔面鏡で見た事ない猿しか言えねぇ台詞だわー。
カフェの飲み物奢ってカラオケでクスリ盛ってお持ち帰りする手筈ってトコ?浅ましいねぇもう少し計画練ってこいよマイナス五億点!!」


「やめないか悟。幾ら相手が女性のファッションの嗜好を下半身でしか判断出来ない低能の猿だったとしても、彼等の全然スマートでも魅力的でもないナンパのテクニックを全否定して良いという理由にはならないんだ」


「もう止めてあげてくれ…可哀想になってきた……」


美の暴力と塩顔超絶イケメンが言葉で相手をぶん殴った。
ノーガードで殴られっぱなしだったナンパ男二人組は沈黙している。
そりゃそうだろう、ナンパの最中に突然現れた超絶イケメン二人組が、片や素直に、片や嫌味ったらしく滅多刺しにしてくるのだ。普通にイヤ。
最早一刻も早くこの場から逃げたかったのだろう、男達はそそくさと立ち去った。
その背中にべぇっと舌を出し、五条が口を尖らせる


「ほら見ろ、猿に絡まれてんじゃん」


『ありがとう三人とも。でもね、硝子とデートしてる時はちゃんと追い払うよ』


「違ぇの。猿共にオマエらが群がられるっつーのがもう許せねぇの」


そう言って、五条は桜花の肩を抱いた。
家入に肩に置いたままだった手を叩かれ、両手を挙げた夏油がゆるりと微笑む


「大事なパパと娘が野蛮な男なんかに絡まれていたら面白くはないだろう?
だから、今度からは私達も誘って貰えたら嬉しいな」


しゃあしゃあと偶然出会った体で話を進めていく男達に俺は素直にドン引くしかなかった。
苦笑いする桜花に溜め息を溢す家入。
勝者はどう見たって明らかだった。










一日かけた尾行劇










刹那→女の子同士でデートしていたら野郎三人に乱入された人。
毎日ペンダントにお仕事()されてるなんて思いもしない。
コーデは動きやすさ重視(緊急時に即座に祓える様に)だけど、硝子とお揃いコーデをするのも好き。服を選んでもらうのが好き。
意図せず誰かと被るとにこにこする。
『あ、偶然?マジか!』と信じちゃうタイプ。少しは疑え。

硝子→女の子同士でデートしていたら野郎三人に乱入された人。
デートの時はお互いに服を選ぶのが好き。お揃いコーデも好き。
意図せず誰かと被ると五条と刹那なら頭を撫でる。夏油なら二度見する。
「偶然?………偶然、ねぇ?」と明らかに信じないタイプ。

五条→女の子同士でデートに行ったので乱入した人。
頭のてっぺんから爪先までコーデしたいタイプ。テディはきせかえ人形。
相手に選んで貰えるなら相手にとってそれは自分に似合っている物なので、喜んで使う。ただし相手はしすせのみ。
お揃いコーデが好き。意図せず誰かと被るとにこーっとする。
「やっほー偶然じゃん!」で押し通すタイプ。
暴言は豪速球のストレート。真っ直ぐ深々刺す日本刀タイプ。

夏油→女の子同士でデートに行ったので乱入した人。
人の服を選ぶのが好き。選んで喜んで貰えたら嬉しくなる。
お揃いコーデも好き。意図せず誰かと被ると頭を撫でる人。
「偶然だよ?気が合うね」で有無を言わせないタイプ。
暴言は高速のカーブ。曲線で横からざっくり切り裂く曲刀タイプ。

黒川→苦労人。
このあと五条に夕飯を奢られた。



尾行するならお二人で


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