「話したかった事は」の後の話
「刹那、今週末とーーーーーーーーーーーーっても重大なイベントがあるんだけど、知ってる?」
『勿論だとも。何処ぞの甘党坊っちゃんが私達はケーキ屋じゃないんですけど?ってレベルのケーキを注文してくる日ですね?』
「あれ、めっちゃトゲあんじゃん」
『そりゃあね。事ある毎にホールケーキ焼かされればね』
毎回誰かの誕生日と季節のイベントは戦争である。
何故か。それは目の前の甘えん坊が「ケーキ作って!!!!」と圧をかけてくるから。
最早ケーキも手際よく作れる様になりつつあるのだが、私達は一体何を目指しているのか。
「ケーキ楽しみにしとくね」
『うん。お返し楽しみにしとくね』
「任せろ」
ふわりと悟の唇が降ってくる。
顔中に降り注ぐ雨に笑いながら、何のケーキを作ろうかと考えを巡らせた。
二月十四日。
バレンタイン司教が、時のローマ皇帝の迫害により処刑された日。
バレンタイン司教の記念日でありながら、日本ではチョコレートを異性に贈る日というお菓子メーカーの陰謀が渦巻いている。
「なんでバレンタインにホールケーキ作ってんの私ら」
『ウチの甘えん坊の所為でーす』
甘さ控えめのチーズケーキと、甘めに作ったチョコレートケーキ。飾りも凝っていて最早ケーキ屋である。
硝子がクリーム絞りがどんどん上手くなっててプロみたいだ。
『え、かわいい。チョコレートの薔薇?』
「そ。刹那もやる?」
『やる!』
水と砂糖を混ぜ込んだチョコレートを薄く伸ばし、くるくると細く丸める。
花びらを指先で調整しつつ、作り上げた薔薇をバットに乗せた。
『どう?』
「うん、良い感じ。器用じゃん刹那」
『そう?ありがとう。硝子の薔薇めっちゃ綺麗』
「ありがと。花びらの先を気持ち摘まんでみたら良いんじゃない?」
『はーい』
それからチョコレートの薔薇を素材がなくなるまで作り上げ、バットの上には色とりどりの薔薇が咲いた。
冷やして固める為に冷蔵庫に寝かせる。片付けを全部終わらせた所で、二人で大きく息を吐いた。
「終わった……」
『お疲れ様……』
「ホントだよ。私らパティシエール目指してる訳じゃねぇんだっつの」
『なんかね…こうも頻繁にケーキ作ってると自分で腕上げたなって判るよね』
「無駄に薔薇作り上手くなってんだよ…反転術式にこんな工程ねぇよ…」
『私はまぁ………役立て……られるか…?』
「水で薔薇作んの?」
『役立たないな、うん』
「wwwwwwwwwwwwwwwwww」
いや細かい指の動きって私の術式に要る?特には要らないな?
そもそも一撃目で大波を見舞って、二撃目で足許の水を塊にして窒息させるのが私の勝ち筋だ。
呪詛師であればそれ。呪霊であれば体内に水を送り込み、そのまま内部に潜り込ませた私の呪力を飛び出させ祓う。
……いやほんとに器用さ要らないな?
「今日はあいつらどうするんだっけ?」
『確か……傑が夕方には帰ってきて、夜には悟が帰ってくるって』
「じゃあそれまでちょっと寝るかな。刹那はどうする?」
『私はちょっとテレビ観るね』
「そう?じゃあ寝るわ。おやすみー」
『おやすみー』
部屋に引き上げる硝子にひらひらと手を振って、紅茶をお供にソファーに座る。すると何処からかさとるっちが現れて、静かに膝の上に乗っかった。
〈ヒマニ ナッタ?〉
『ちょっと疲れたから休憩中。さとるっちは?』
〈キュウケイチュウ〉
『ふふ。そっか』
さとるっちを撫でながらテレビを点ける。
放送していたのはバレンタイン特集。
インタビューされているのは主に女性とカップルだ。
女性のお返しを聞いて、だよねと頷く
『ほら見ろ…普通はバレンタインでホールケーキなんか作んないんだよ…』
〈エー? コトシハァ デパートデェ チョットタカイノニシヨッカナァッテ♡〉
『ぶりっこする猫』
〈アノ オンナ ケバイ!!〉
『急に悪口』
これを全部高音の悟の声で言うもんだからヤバい。
ケラケラ笑いつつチャンネルを変える。
次はチョコレート特集。綺麗なラッピングのチョコレートはライトを反射して、宝石みたいに輝いている。
〈オイシソウ!〉
『さとるっちってチョコ食べられるの?』
〈ムリダヨ!〉
『だよね』
呪骸って物を食べられるんだろうか。
そんな事を思いつつ、少しずつ重たくなってきた目蓋を持ち上げる。
〈せつなっち ネムタイ?〉
『んー…少し…』
〈ネル?〉
『ベッドがとおい』
そう返しはしたものの冗談抜きで眠くなってきた。テレビを見ずに私も昼寝しに行けば良かったな。
さとるっちを抱え、ソファーで丸くなる。
悟が横になれる様に選んだソファーは、私が転がっても十分余裕があった。
〈サムクナイ?〉
『んー…』
〈カゼヒク! せつなっち!〉
『んー…』
頬をふにふにな手がタップするが、もう目蓋は上がらなかった。
特級案件の任務を終わらせ、甘い香りが漂う我が家に帰宅した。
手洗いうがいをしっかり行ってリビングに向かうと、ソファーの前で硝子が携帯を構えている。
「おかえり夏油。怪我は?」
「ただいま硝子。無傷だよ。何してるの?」
「娘の撮影会」
という事はソファーで刹那が寝ているのだろうか。
此方に背を向けているソファーを覗き込んで、私は素早く口を手で塞いだ
白猫の中に、刹那が埋もれている。
「なにこれ……かわいいけど……んふっ」
「笑うなよ。起きるぞ」
「………………………………………………んぐふ」
「噎せんな」
サングラスを掛けた猫に周囲を包囲され、胸元から足先までしっかり猫に包まれた姿を見てどうして笑わずに居られるのか。
なんとか笑いを堪えて噎せる私を硝子が冷たい目で見ていた。パパがひどい。
写真を撮ったらしい硝子が携帯を弄る。メールでも送ったんだろうか。
きっと宛先はウチの一歳児だろうけど
「重たくないのかな」
「こいつらって綿だろ?じゃあ平気なんじゃね?」
〈オレ カルイヨ〉
〈ケイリョウカニ セイコウ シマシタ〉
「軽量化wwwwwwwwwwww」
「成功したんだwwwwwwwwww」
寝ている刹那に気を遣ってか、ぽそぽそと返してくるさとるっちは随分気が利く猫である。
すやすやと眠る刹那に一匹はぎゅっと抱き締められていて、そのさとるっちは眠っている様だった。
「かわいい。かえりたい。って返ってきた」
「任務は終わったのか?」
「あいつたまに任務中に返してくるじゃん。前私が帰りコンビニ寄ってって電話したら、グチャバキ音が聞こえたし」
「あー、悟は片手で呪霊潰すからね。だから刹那を抱えて特級なんか行く訳だし」
夜蛾先生に許しを貰ってから、悟は任務に意欲的になった。聞いた話によると刹那を左手で抱き上げたまま、右手で掌印を組んで呪霊を祓っているのだとか。
下手すると刹那に話し掛けながら赫をぶつけるらしい。せめて表面上だけでも真面目に祓ってやれ。聞いた私が笑うだろう。
「待ち受けにしましたって来たぞ」
「じゃあ次は私達も映り込む?」
「呪霊擂り潰して今すぐ帰ってきそうだな」
「はは。一緒に撮る!って言いそう」
「アイツだけ端に合成してやれ」
「卒アルの撮影で休んだ子みたいだね」
硝子と共に画面内に映り込んでボタンを押す。
綺麗に撮れたそれを悟に送ると、やっぱり騒がしいメールが返ってきた。
『ハッピーバレンタイン!』
「受け取れ野郎共。お返しは三倍でヨロ」
「うわすっげー!!売り物!?クオリティーやべぇ!!!」
「どうしよう。食べるのが勿体無いな」
「いや食えよwwwwwww」
『悟のテンションwwwwwwww』
もうぶっちゃけケーキ屋さん目指してる?と何度か自問してはいる。
だって普通はチョコをテンパリングしないだろう。一般的なのは市販品のチョコを贈る事だって私は学んだのだ。巷では手作りは重いらしい。
手作りチョコですら重いのに手作りホールケーキとか、最早重過ぎて訳判らん。
ケーキの写真を撮る二人に笑いながらお皿とフォークを準備した
「もしかして薔薇作った?めっちゃかわいい」
「そ。二人でずっとくるくるやってた」
「チーズケーキもふんわりだしチョコケーキも綺麗だね。二人ともケーキ屋開くの?」
『呪術師辞めたらケーキ屋さんやっちゃう?』
「やった!!!!!!!」
「まだ辞めるって言ってねぇよwwwwww」
「悟wwwwwはやいよwwwwwwww」
『wwwwwwwwwwwwwwwww』
ケーキを切り分けるのは立候補した悟に任せた。
恐ろしく真剣な顔で向かってるのがケーキとか。あんたそんな顔特級呪霊にも向けないじゃん?普段からそういう顔で任務やって?
チュッパチャプス食べながら「
術式反転・赫」とかほんとやめて?呪霊がかわいそう。私の腹筋もかわいそう。
てかちゃんと言えなくても術式って発動するのね?初めて知った
「ねぇ見てキレイ!売り物?売り物?カットしてこれはヤバくない?かーわーいーいー!!!」
「なんだあのJkみたいな男」
『ウィッグ被ればサト子ちゃんだし良いんじゃない?』
「もうサト子ちゃんで五条家に乗り込めば?」
『傑wwwwwwwwwwwwwwww』
「え、なにそれ面白そう。やっちゃう?」
「やめろwwwwwwwwwwwwww」
「悟wwwwwwwwwwwwwwwww」
『家の人引っくり返るわwwwwwwww』
綺麗にカットされたケーキを配り、悟が目に見えてそわそわしだした。
どうやら早く食べたいらしい。その姿に笑いつつ、音頭を取る
『じゃあ食べますか!ハッピーバレンタイン!』
「「「ハッピーバレンタイン!!」」」
ハートを君に
刹那→どんどんお菓子作りの腕が上がる人。チョコケーキの担当。昼寝はさとるっちか五条に埋もれるスタイル。
ホワイトデーには夏油からクッキーとストールを、五条から梅の花の簪を貰った。
硝子→どんどんお菓子作りの腕が上がる人。チーズケーキの担当。昼寝は部屋でゆっくり取るスタイル。
ホワイトデーには夏油から色違いのストールを、五条からはジッポを貰った。
五条→綺麗なケーキで疲れが吹っ飛んだ人。昼寝はテディを抱えて背中に顔を埋めるスタイル。
写真を見ながら呪霊を笑顔で祓った。俺も撮る!!!!と叫んでビルを廃墟にした。
夏油→綺麗なケーキを見てにっこりした。
昼寝は静かに部屋で取るタイプ。
皆でケーキを食べる写真を送ったら何も言ってないのに全員待ち受けが同じになっていた。
チョコをあなたへ
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