きみとはじまり


・呪術長篇に目を通してからの方が判りやすいと思います。
・魔改造される爆豪
上記の注意事項を許容できる方のみお進みください。





「刹那はどんな個性が出るんだろうね」


「私が猫の個性で貴方は念力だし…貴方の個性ならヒーローになれるかしら?」


「俺のをずっと強くすればなれるかもだなぁ」


『わたしもひーろー、なれる?』


「そうだなぁ、どんな個性でもきっとなれるさ」


そう言って、お父さんは笑った。
それから数日、遂に私の個性は発露した。


真っ白な体躯に、ピンクの鼻。
丸いサングラスを掛けた、大きな猫。


《オレ さとるっち!》


『さとるっち?』


当時三歳。
幼稚園への入園を間近に控えた私に、大きな猫は、高らかにそう名乗った。
勿論私は個性が出た事が嬉しくて、真っ先に両親に報告しに行った。


『おとうさん、おかあさん!』


「ん?どうしたの刹那?」


『みて!わたしのこせい!さとるっちっていうの!』


私に掲げられたさとるっちの脚がぷらんと揺れる。
きっと褒めてくれる。凄いねって、可愛いねって、喜んでくれる。
そう思っていた私の前で、お父さんとお母さんは困惑した表情を浮かべていた。


『おとうさん?おかあさん?』


「……ねぇ、刹那」


『なに?』


暫くの沈黙の後、お父さんがそっと、困った様な顔でこう言ったのだ


「────刹那は、何も持っていないよ?」











その後病院に連れていかれると、医師は私の足の小指の確認をした。
それから、静かに医師は言った。


「お子さんは無個性です」


「……え」


『むこせー?なんで?』


思わず膝の上を見た。だって、さとるっちは此処に居る。
お母さんもお父さんも、お医者さんも見えていないけれど、此処に居るのに


「足の小指に関節が二つあるんです。それが無個性の特徴です」


「…じゃあ、この子が個性と言っていたのは…」


「お子さん特有の勘違いでしょうね。行政の方には無個性として届けを…」


『……さとるっち…』


此処に居るのに。さとるっちは勘違いなんかじゃないのに。
皆、私を嘘つき扱いする。
お母さんの眉間にぐっと皺が寄った。
ねぇ、なんで。なんでそんなに悲しそうな顔をするの?
目の前が滲んで、ぽろりと涙が零れた


《フザケンナ!!》


しゃあ!!とさとるっちが膝の上で威嚇した。
その瞬間────パリン!!と、医師のデスクにあったパソコンの液晶が飛び散った。


「うわっ!?」


「きゃあ!!」


『さとるっち!?』


《せつなっちヲ!イジメルナ !!》


私の腕の中でさとるっちが吠えると、それに呼応する様に、今度は医師の近くの棚のガラスが弾け飛ぶ。
ぐしゃり、とまるで何かに押し潰される様にひしゃげた机を目にしたお母さんは、ぎゅっと私を抱き締めた


「先生!この子の個性は夫の個性と似たものなんじゃないですか!?念力なら強くすればこんな感じでしょ!?」


「で、ですが娘さんには無個性の特徴が…」


《ムコセイ ジャナイ!!ブッコロスゾ!!!》


医師の言葉に更にさとるっちが牙を剥いた。
何かは判らないけれど、さとるっちが原因だというのは小さな私にも判っていた。
だからその時、私はさとるっちの声を母に伝えた


『おかあさん!さとるっちが!むこせいじゃないって!』


「でしょうね!先生!ほら!無個性じゃないって言って下さい!」


「ですが…!!」


「早く!病院ぐちゃぐちゃになっても良いんですか!?」


当時の私は判っていなかったが、今思えば確実に脅迫だった。
鬼の形相のお母さんに怒鳴られ、医師はとうとう頷いた


「あります!個性!!サイコキネシスです!!!」


────ぴたり。
それまでぎゃあぎゃあと騒いでいたさとるっちが動きを止めるのと同時に、医師の頭を横から貫こうとしていた硝子片も宙に留まった。
あと数センチで蟀谷を貫かんとしていたそれに今更気付いた彼は、情けない悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた。


《せつなっち ムコセイ ジャナイ!》


膝の上の猫は、そう言って医師を鼻で笑った。














幼稚園に入った私は、独りぼっちだった。
理由は簡単。皆、さとるっちが見えないのだ。
此処に居るのだと抱えても、彼等の前で鳴いてもらっても、皆にさとるっちの姿は見えていなかった。
終いには嘘つき呼ばわり。それに怒ったさとるっちが硝子を割ったり玩具を投げたりしてしまうので、すっかり誰も近付かなくなっていた。


「せつなちゃん、ねこがいるっていってるけどアレうそなんでしょ?」


「ウソつきはいけないんだよ!」


「ばーん!ってみえないのにたたいてくるとか、ヴィランみてー!」


教室の隅で絵本を読んでいる私を遠巻きにした子達が、ひそひそと囁いていた。
それを見たさとるっちが膝の上で歯を剥き出しにするのを、そっと止める。


《せつなっち…》


『いい』


もういい。見えないならもう良い。
さとるっちだけ居てくれれば、それで良い。


ともだちなんか、要らない。


静かに絵本に目を落とした時、視界に影が割り込んできた。
ゆっくりと顔を上げると、淡い金髪の男の子が立っていた。
真っ赤な目はじっと私を見つめ、それからつい、と少しだけ下に向かう。
なんだろう、絵本を見たいんだろうか。というか初めて見る子だ、隣のクラスの子かな。
たんぽぽみたいな髪の男の子をぼんやりと見ていると、彼は目の前にしゃがみ込んだ。
それから、私を真っ直ぐに見て、言ったのだ


「そのねこ、オマエのこせいか?」


────私はその日の彼が、今でも忘れられない。
呆然としたまま頷いた私を見るなり、彼はまじまじとさとるっちを観察し始めた。
そしてそんな彼の背中に、周りの子達からの言葉がぶつけられる


「かつきくん!せつなちゃんウソつきなんだよ!ねこなんかいないもん!」


「は?オマエらこんなにめだつねこがみえねぇのかよ!
さすが、モブのめはふしあなだな!」


「でも、そいつすぐバーン!ってみえないちからでイジワルすんじゃん!ヴィランみたいだろ!?」


「だいたいオマエらがさきにイジワルしてんだろ?
こんなおとなしいヤツが、さきにてぇだすかよ!」


言い募る子達の言葉を次々に論破して、彼は私の手を取った。
そのまま外に連れ出すと、私をベンチに座らせて訊ねてくる


「オマエのそのねこ、ほんとにだれもみえねぇの?」


『おとうさんも、おかあさんも…みえないって…』


「へー…いいな!」


何が良いと言うのか。
皆に見えないから、敵だって言われるのに。
言葉の意味が判らず、困惑しつつ見上げる。
ぽふぽふとさとるっちの頭を撫でながら、彼はにっと笑ってみせた


「オレいがいにはきづかれずにヴィランにちかづけんだ。
そんで、ゆだんしてるトコをバーン!ってたおせるんだぜ?すげーじゃん!」


誰にも気付かれずに近付ける。
その一言で、さっきの男の子の言葉が脳裏を過った


『わたし…ヴィランみたいじゃない…?』


「は?」


『…みえないちからでばーんってするの、ヴィランみたいって、いわれた』


そっと膝の上のさとるっちに視線を落とす。
私にはさとるっちが見えているのに、皆には見えない。
だから、見えないさとるっちが怒ったら、それは悪い事で。
さとるっちを止められない私は、敵、みたいで。
…私だって、ヒーローになりたいのに。


「────オレとモブどもをいっしょにすんなカス!!!!!」


『っ!?!?』


突然怒鳴られ、訳が判らず目を丸くした。
というかそもそも、モブって何の事なのか。当時三歳の私が判る筈もなく…というかその歳で彼は既に、語彙が罵倒に秀でていた様にも思う。
目を尖らせた彼は、緩く肘を曲げ、掌を空に向けた。
その手からパチパチと綺麗な光が弾ける光景に、目を丸くする


『きれい…!!』


「オレのこせいはばくはだ。コレだって、オマエのかんがえかただとヴィランみてぇなこせいになんだろ」


『えっ、ちがうよ!』


「なんで?」


『だって、わたしをたすけてくれた…!さとるっちがみえるって、みんなにいってくれた…!!』


多数に意見を合わせる方が楽だと、私は既に気付いていた。
それなのに彼は、皆の言葉を撥ね退けて私の手を取った。
そんな人が、敵になる筈がない。
ふるふると首を振った私を見下ろした彼は、ふん、と鼻を鳴らした


「あたりまえだろ!オレはヒーローになんだよ!
ただのヒーローじゃねぇ、オールマイトもこえるヒーローにな!!」


『─────、』


自信満々に放たれた言葉に、息が詰まった。
今まで、ヒーローになりたいという子は沢山見てきた。クラスの子だってそうだったから。
でも、オールマイトを超えるなんていう人は居なかった。
そして、こんなにも自分なら出来ると信じている子は、初めて見たのだ。


「そういやオマエのなまえしらねぇ。なんつーの?」


『…びゃくろせつな』


「ねこは?」


《さとるっち!》


「ふーん。オレはばくごうかつき!オマエ、オレのサイドキックにしてやる!」


にっと笑った彼は、何より輝いて見えた。















「オイせつな。オマエ、そもそもどういうこせいだ?
サイコキネシスっつーにはなんかちがわね?」


『でも、おいしゃさんはサイコキネシスって…』


「ヤブなんじゃねぇの?」


『ヤブ?』


「ダメないしゃっつーいみ!」


さらりと意味を教えてくれる勝己は物知りだ。
また一つ賢くなったと喜ぶ私を横目で見て、それから紅い目は教室を見渡した。
勝己と目が合ったらしい子が、びくりと肩を震わせて目を逸らす。
ひそひそと顔を寄せ合って囁く彼等を見て、勝己が鼻で笑った


「すげーな。オマエともだちいねぇの?」


『…かつきがはじめてのともだち』


「あー…まぁ、こんなねくらじゃイジメられるだろうな。こせいもこせいだし」


『ねくら?』


「おもしろくねーってこと」


『う』


今のはぐさっと来た…
でもきっと、それは事実だ。
初めて会った人と話す時は緊張するし、自分から話し掛けるのは苦手だし…
何も言い返せずにぎゅうっと眉を寄せる。
すると、勝己は溜め息を吐きながら私の前にしゃがみ込んだ。
さとるっちと私の髪をくしゃりと撫でて、彼は口を開く


「イヤならイヤっていえよ。そうやってガマンするから、モブがつけあがんだよ」


『モブ?』


「じんせいのはやく」


『???』


《サンサイジ!
モット カワイイ カイワ シロヨ !》


さとるっちが膝の上で妙な言葉を発したが、勝己は綺麗にスルーしていた。


「んで?ねこ、オマエどういうこせいだ?」


勝己が最初の質問に戻すと、さとるっちはゆらりと尻尾を揺らした。


《キニナルナラ ジッセン アルノミ!》















ご飯のあとのお昼寝の時間。
時間に追われ慌ててご飯を掻き込み、主任の先生と交代で教室に入ろうとした、その時。


「すっげーーーー!!!せつな!さとる!オマエらすげーな!!!!」


『さとるっち!すごいねぇ!!』


空からそんな声が降ってきた。
片方は色んな意味で強い、この幼稚園で最も力を持っているだろう男の子。
もう片方は、最近個性が発現したばかりの女の子の声だと思う。
慌てて上空を見上げ、目に入ったのは。


────空中に浮かぶ、子供二人だった。


三階建ての幼稚園より高いそこには、足場なんて何もない。
けれど物理の法則に逆らう様に、子供二人は宙に浮かんでいた。
見間違いでも白昼夢でも、何でもない。
彼等はその場に留まり、きゃらきゃらと笑い声を響かせている。


「くうちゅうさんぽだ!せつな、いくぞ!」


『ま、まってかつき!わたしからはなれたらおちちゃう!』


「だからオマエごといくんだよ!せつな!てぇはなすなよ!」


『ひえっ』


勝己くんが刹那ちゃんの手を取ったかと思えば、大きく足を踏み出した。
その足は透明な地面を踏む様にしっかりと捕らえ、ぱたぱたと駆け回る。
恐らくは刹那ちゃんの個性で浮遊しているんだろうけれど、あの子はまだ個性が出たばかり。不安定にも程がある。
此方から見ていれば何時落下するか判らない、大変心臓に悪い光景だ。
私は慌てて職員室に飛び込んだ


「先生っ!勝己くんと刹那ちゃんが空に浮いてます!!!」


「「「「はぁ!?!?!?」」」」
















勝己と共に空中散歩をしたのだけれど、あのあと先生が飛んできて、しこたま怒られてしまった。
それからお互いのお母さんが迎えに来て、家に帰ったのだが。


『…かつき、おとなりさんだったの?』


「は?しらなかったんかオマエ。ひょーさつにバクゴーって書いてあんだろ」


「勝己!女の子には優しく話しなさい!」


すぱぁん!!


「いっでぇ!!!」


鮮やかにたんぽぽ頭が叩かれ、目を丸くした。
勝己のお母さんは華麗な一撃を決めたあと、私とお母さんを見て笑った


「今日はごめんね刹那ちゃん。
勝己がやりたいって言い出したんだろ?」


『えっ、それはさとるっちが…』


「せつなはわるくねぇ!おれがこせいつかえっつったんだ」


《ホォ…?》


私の頭にしがみついたさとるっちが、何処か含みを待たせた声を落とした。
それを不思議に思っていれば、にこりと笑った勝己のお母さんに頭を撫でられる。
…彼女にも、さとるっちは見えていない様だ。


「ウチのは口も態度も悪いけどさ、良かったらまた遊んでやってよ」


「オレがせつなとあそんでやってんだババァ!!」


「ババァって言うなっつってんでしょうがクソガキ!!!」


「いっでぇ!!!」


「あら、この子人見知りだから、勝己くんくらい活発な子とセットにした方がきっと丁度良いのよ。
そうだ、爆豪さんウチでお茶でもしていかない?」


「あら、良いの?じゃあお邪魔しちゃおうかな」


気付いたら、勝己と勝己のお母さんがウチに来る事が決まっていた。
ちょっと驚きつつ、一旦お家に戻るという爆豪親子と別れて家に帰る。
直ぐにやって来た二人をお出迎えすると、勝己にぎゅっと手を握られた


「せつな!オマエのへやどこだ!?」


『にかいにあるよ』


「へやであそぶぞ!」


「コラ勝己!人様の家で勝手に動くな!」


勝己のお母さんは怒っていたけれど、お母さんはそれをやんわりと宥めた。
そして、此方を見て微笑むのだ


「ふふ、気にしないで。勝己くん、刹那を宜しくね」


「おう!」


《カツキ ナニシテ アソブ ?》


「ん?ねこがあそぶのって…ボールあそびとかか?ねこじゃらしあんの?」


さとるっちに話し掛けられ、勝己が首を傾げた。その言葉に勝己のお母さんは「猫?」と不思議そうに呟いて。
そして、お母さんは目を丸くした。
その時、吃驚しているお母さんの心境が判っていたから。
だから私は、勝己の手をぎゅっと握り返して、笑ったのだ


『おかあさん!かつき、さとるっちがみえるの!わたしの、はじめてのともだち!』


「…勝己くん、本当に見えるの…?」


お母さんが、酷く真剣な顔でそう問い掛けた。
それはそうだ。お母さんにさとるっちは見えない。お母さんだけじゃない、皆、この白猫が見えないのだ。
今私と手を握っている、勝己以外には。


「みえる」


勝己は、お母さんの目を見てそう言った


「まっしろで、サングラスしたデケェねこだ。はなはピンクで、あとしゃべる」


「……そう…そうなの…」


お母さんは静かに微笑んだ。
そして、勝己のたんぽぽみたいな髪を優しく撫でた


「…刹那を宜しくね、勝己くん」


「?おう!まかせろ!」


にっと笑った勝己に、お母さんは泣きそうな顔で笑っていた。














「せつな、コイツはいずくだ。
トロくさくてよわっちぃけど、ワルいヤツじゃねぇ」


「み、みどりやいずくです!はじめまして!」


『…………』


ある日、突然勝己が隣のクラスからもじゃもじゃ頭の男の子を連れてやって来た。
おどおどした様子の男の子と距離を測りかねていれば、いずくと私の間に立った勝己に促される。


「せつな、じこしょうかいくらいちゃんとしろ。あいさつはにんげんかんけいのきほんだろうが」


『………びゃくろせつな、です』


この子も、さとるっちが見えないのだろうか。見えないからって、私を嘘つきと呼ぶのだろうか。
齢三歳にして人間不信になりかけている私は、勝己の背中に張り付きつつ自己紹介を終えた。
勝己の肩から顔を覗かせる私を見て、いずくは困った顔をしていた


「えっと、かっちゃん…?」


「よし、よくできたなせつな。
ひとみしりはにんげんにならしゃあ、どうにかなるってほんにかいてたぞ」


『にんげんにならす…』


「オマエはほごねこみてーなモン」


『ほごねこ…?』


「ひろったねこっつーこと。なついてねぇから、にんげんがこえぇんだって」


『わたしはほごねこだった…?』


《カツキ オマエ ホントニ サンサイジ?》


「さんさいだよ。
ねこ、ちしきりょうとねんれいはひれいしねぇんだぞ。
まなぼうとおもえば、どっからだってちしきはとりいれられるんだからよ」


「かっちゃんかっこいい…!」


「はっ、たりめーだろ!」


ふん、と得意気に鼻を鳴らした勝己と、目をキラキラさせて勝己を見るいずく。
…勝己の頭に乗っかったさとるっちに反応しないから、きっといずくも見えない人だ。
でも彼の話し方は、穏やかだと思う。


『……いずく、わたしをいじめない?』


「エッ!?いじめないよ!?!?」


私の問いに、いずくは目玉が飛び出しそうな程目を開き、首を振った。
うん、この反応と態度はきっと、私をいじめないと思う。
というかいずく、気が弱そうだし、いじめられそう。
そんな風に思っていれば、ぐしゃりと髪を乱された


「あんしんしろ。オマエはオレがまもってやる」


『……かつき、ヒーローみたい』


「たりめーだろ!オレはナンバーワンヒーローになるんだよ!
オマエはそのサイドキックな!」


『うん!』














それから勝己と出久が、私とさとるっちの遊び相手になった。
気付けば勝己は出久をデクと呼ぶ様になっていたけれど、三人で一緒に遊んでいたのだ。
なんだかんだ仲は悪くなかった、筈だった。
…勝己が、出久にキツく当たる様になったのは何時からだったか


『勝己』


「なに」


出久が無個性だと判ったのは、四歳になる頃だっただろうか。
普通は三歳から四歳の間に個性が出る。でも出久はずっと出なくて、病院に行った時、無個性だと診断されたそうだ。
それから彼は、ちょくちょく周りから馬鹿にされる様になった。
でも、勝己は馬鹿にしながらも一緒に遊んでいたと思ったんだけど


『出久に個性使うのは、よくないと思う』


今日、小学校から帰る時に泣いている出久を見掛けた。
彼の腕や足には傷が、そしてシャツには焦げた跡が出来ていた。
私の知る限り、炎系の個性を持っているのは勝己だけだ。
どうせ私が聞いたって出久は誤魔化すから、声は掛けなかったけれど。


「なんだよ、お前デクの味方すんのか?」


私の部屋で、不機嫌そうに此方を見た勝己に緩く首を振った。


『味方……というより、喧嘩に個性は使わない方が良いと思った』


「…理由は」


『タイマンなら男の因縁。チャカを持ち出したら、それはタマの取り合いだって』


「お前それ何読んだ」


『お父さんの持ってる漫画』


「思念さんの棚って任侠モンばっかだろ…」


《チャカ ト コセイ ハ イッショ !》


「はぁ?拳銃と個性は一緒じゃ………いや、一緒か…?やり方次第じゃ簡単に殺せるし…」


顎を擦りながら悩みだした勝己を放置して、猫じゃらしを振る。
たぁん!たぁん!と床を叩く白い手はえらく俊敏だ


「……なぁ」


『ん?』


「…お前、デクを気持ち悪いって思った事あるか」


その言葉に猫じゃらしを振る手を止めて、勝己を見た。
爆破の原理という本に目を落としたままで、彼は言葉を続ける


「無個性っつー事は、何かあっても自分で身を護るのが難しいって事だ。
なのに、そんなヤツが川に落ちた俺の心配したんだぞ。仮にも、普段から馬鹿にしてる俺の心配を。…気味悪ィだろ」


『あー…』


「あと普通に俺の心配してんのにイラついた。心配するっつーのは、俺を見下してるって事だろ」


『んー……確かに出久って、自分より周りって感じはある。
でも心配はさ、勝己が強いって判っててもするでしょ。勝己が大事だからするんだよ。ねぇ、頭打ったりしなかった?』


「してねぇ」


『そっか』


勝己の言う没個性でもなく、個性のない出久。
個性の有無で優劣が生まれるとは思わないけれど、あるのが当然と言われる世界でそれを持たないのは、酷く生きにくいだろうと思う。
何というか、出久は心はオールマイトみたいなのに、身体がそれに適していないのだ


『私もさ』


「ん?」


『初めてさとるっちが出た時、お医者さんに無個性って言われた』


「ぁ゙あ゙?……マジでヤブじゃねぇか」


『仕方ないよ。さとるっちが見えるの、勝己だけだし』


あの時の一瞬、お母さんは酷く辛そうな顔をした。
あんなにもオールマイトに憧れている出久を傍で見てきた出久のお母さんは、どれだけ絶望した事だろう


『だから、もしかしたら出久も今は出てないだけで、ほんとは個性あったりしてね』















小学校高学年になった頃だった。
さとるっちと個性の訓練をしつつ、勝己と走り込みや個性を使った追いかけっこをする毎日。
そんな中で、ちょっとした変化が起きた。


「んだコレ」


『すぐるっちって言うんだって』


今日も今日とて隣接した窓から侵入してきた勝己は、カーペットに座って星座の図鑑を見ている黒い犬を指差した。
ぴょろっとした前髪を生やしたその子は、勝己に気付くとひらりと手を振ってみせる


《せつなっちガ レベルアップ シタカラ すぐるっち ヨベタ !》


「…お前レベルアップしたんか?」


『判んない』


日々ヒーローになる為に身体を鍛えてはいるものの、レベルアップしたかと問われると、頷けない。だって、どこら辺のレベルが上がったのか、私が把握出来ていないからだ。
それに、すぐるっち出てきたばっかりだし。
さっき、学校が終わって家に帰ったら、《すぐるっち!》ってさとるっちに紹介された感じだし。
さぁ?と首を傾げた私に小さく息を吐いて、勝己がベッドに腰を下ろした


「ソイツも猫みてぇに見えねぇ攻撃すんのか?」


《オレ ハ ムゲン ツカウノ!
すぐるっち ハ ゼッタイ ミツケル ノウリョク!》


『絶対に見付ける?』


「…ちょっと待て、無限?無限って…限りがねぇっつー意味か?」


そういえば、さとるっちはサイコキネシス使えるって思ったままだった。
でも彼の説明からすると、それはどうやら違うらしい。
さとるっちを見れば、白猫はゆらりと尻尾を揺らした


《オレ ハ シュウイノ ムゲン ヲ ゲンジツ セカイニ ヒッパリダセル!》


『ちょっと何言ってるか判んない』


「ンの理数クソザコ……つまり、お前のあの見えねぇ攻撃と空中浮遊は、周りの無限っつー仮想質量でブン殴ってるか、足許に無限を顕現させてるって考えりゃあ良いんだな?」


《ナグル ノハ セイカイ!
クウチュウ フユウ ハ アシモトノ ムゲン デ ラッカソクド ヲ オイツカセナイ ホウホウ!》


『???』


《ヒント! アキレス ト カメ !》


何言ってるか全然判んない。
落下速度を追い付かせない…?いやそもそも無限って何…?アキレスと亀…??仮想質量…???
頭が痛くなりそうなので、考えるのをやめてベッドに転がる。
俯せになってさとるっちを見ると、勝己が思案する様に口許に手を添えた


「落下速度を追い付かせねぇ…?
無限を張れば、そこが半永久的に移動し続けるって事か…?いや、逆か?
半永久的に落下速度を遅くするっつー事か…?」


《セイカイ!》


『嘘でしょ』


え?勝己理論が判ったの?頭良すぎて怖いな?
若干引き気味に見つめれば、目を尖らせた勝己におでこを叩かれた


「なんで個性の持ち主のお前が理解してねンだよ」


『難解すぎる』


そもそもアキレスと亀って何?
首を傾げれば、呆れつつも勝己は説明してくれた


「アキレスと亀っつーのは、ギリシャ神話の俊足の英雄アキレウスでも、100m先に居る亀に絶対に追い付けねぇって、ゼノンの提唱したパラドックス理論だよ。
仮に計算しても、十秒で追い付ける筈なのに、追い付けねぇ9.99秒を無限に繰り返す事になる」


『うん、もう良いや。無限はなんか凄い力だって思う事にする』


「使ってる側がそれで良いんか」


《ムゲン ハルノ オレ!
ダカラ せつなっち ポンコツデモ モーマンタイ !》


「ぶはぁwwwwwwwwww」


『死ね勝己』


爆笑しやがったたんぽぽ頭にクッションを投げておいた。
いや普通にゼノンのパラドックス理論なんか知らんわ。それ生きてて使います?
そもそも普通にアキレウス追い付かない?なんで追い付けないの?亀500倍速でダッシュしてんの?
いらっとした雰囲気が伝わったのか、ぽてぽてと歩いてきたすぐるっちに、そっと頭を撫でられた。ママみがある。


「犬にwwwwwww慰められんなよwwwwwwww」


『もう許さない。戦争な』


「怒るなよポンコツ刹那チャンwwwwwwww」


『んのバカツキ』


ゲラゲラ笑いやがるバカツキから顔を背ける。ふん、どうせポンコツだよ。
知らない建物だと迷うし、道でも迷うよ。相変わらず人見知りだし、理数系は苦手だよ。いや待て、大分ポンコツでは…?
剥れて枕に顔を埋めていれば、ぎし、とベッドが鳴った。
後頭部にこつんと固いものがぶつかる。ぐりぐりと押し付けてくるのは、おでこだろうか。


「悪かったよ、からかい過ぎた」


『どうせポンコツだよ』


「ごめん」


『…おでこぐりぐりすれば流されると思ってない?』


「思ってない思ってない」


『嘘つけ』











とある世界線











刹那→個性:サイコキネシス(?)
現在使えるのはさとるっち(無限)とすぐるっち(索敵)。
中学生になったらウサギがやって来る。

爆豪→幼馴染の個性が特殊枠を駆け抜けてる。
頭が良いのでさとるっちの説明にも付いていける。

さとるっち→万能猫。刹那と爆豪しか見えないらしい。

すぐるっち→ママっぽい犬。刹那と爆豪しか見えないらしい。



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