お友達


臨時休校が明けた。
何時もの様に家を出て、勝己と学校に向かう。見た感じ、マスコミは学校の前に張っていない様だった。
それに安心しつつ教室に向かい、席に着く。


『ねぇ今日の占い最下位だったんだけどさ、ラッキーアイテムがシロサイだったの。どうすれば良い?』


「どんな占いだよ…猫にシロサイって書いとけ」


《オレ シロサイジャ ネー !!!》


飛び掛かったさとるっちを、鬱陶しそうな顔をしている癖に頭に乗せている勝己。
それに便乗してかすぐるっちとしょうこっちも出てきて、わらわらと勝己に登っている。
結局頭にさとるっち、左肩にすぐるっち、膝の上にしょうこっちという状態になった彼は、深々と溜め息を落とした


「なんっでお前の個性は勝手に動き回ンだ…」


『良いじゃん、勝己の事好きだってさ』


「はぁ………」


勝己が諦めた所で、麗日さんと八百万さんと梅雨ちゃんが此方にやって来るのが見えた。
三人は私の前に来ると、にこりと笑う


「白露さん、元気になったんやね!良かった!」


「おはようございます白露さん。回復したんですね、良かったです」


「刹那ちゃん、あの時個性の使い過ぎで倒れてしまったでしょう?あれから心配していたのよ」


『えっ、あ、ありがとう…』


…裏がなさそうな笑みで近付いてくる女の子なんて、久し振りに見た気がする。
折寺では大概が勝己とお近づきになりたい子ばかりだったし、逆に勝己が怖い子は私に近付かなかったから。
思わず感動していれば、こつんと頭を小突かれた。
はっと顔を向ければ、勝己が呆れた顔で私を見ている


「ポンコツ、ソイツらとLINE交換でもしとけ」


『えっ、…失礼では…?』


「失礼…ですか?何故…?」


「なんでwwwwwなんでLINE交換するのが失礼なんwwwwwww」


「刹那ちゃん、感性が独特なのね」


私が交換を申し込むとか、無礼では…?
思わず呟けば、麗日さんが噴き出した。隣の梅雨ちゃんは頬に指を添え、首を傾げている。八百万さんも不思議そうに目を瞬かせていた。
良いんだろうか。…この人達は、さとるっち達の事を変だなんて言わないだろうか。
多分、皆良い人だとは思う。
でも私は人見知りだから、あまり勝己やパパさんとママさん、出久以外と深い付き合いというものをした事がなくて。つまり自分の判断基準を信用出来ない。
いそいそとスマホをポケットから出し、でもそれからどうすれば良いか判らなくて、ちらりと勝己を見る。
目が合うと勝己は怪訝そうに片眉を吊り上げて、それから一つ溜め息を落とした。
わしゃり、と大きな手が頭に乗せられる


「見ての通り、コイツは人見知りの対人ポンコツだ。その場限りのモブなら笑顔で凌げっけど、クラスメイトとかには無理。
あと、個性が他のヤツに見えねぇ事も気にしとる。ンでもってこの引っ込み思案だ。愛想笑いと挙動不審がセット。
…それでも良いなら、人間のトモダチ3号、4号、5号になれや」


『えっ、ちょっと何で全部言うの!?』


「誰だよ俺にヘルプ出しやがったのは」


『私だけども!』


さらっと一番言っちゃいけない事を暴露した勝己に噛み付くも、どうどうと宥められた。いや怒ってるのお前の所為。
唸る私の頭を軽く叩いて、勝己が三人の方を見ろと指を差す。
其方に目を向けると、三人は笑顔でスマホを手にしていた


「刹那ちゃん、LINE交換しましょう。
個性が目に見えないなんて、気にしなくて良いのよ。あの時刹那ちゃんは相澤先生と13号先生、それに爆豪ちゃんの傷だって治したわ。
自分が倒れるまで誰かの為に頑張れる刹那ちゃんと、私はお友達になりたいのよ。ケロ」


「あの時の白露さんは、自分に出来る事を最大限やっていました。私もそんな白露さんともっと話してみたいと思ったのです。勿論、個性で差別なんてしませんわ。
私と、お友達になって下さい」


「私も!白露さん凄いなって個性把握テストの時から思ってたんよ!
ふふ、私達、お友達3号と4号と5号やね!なんか戦隊モノっぽい!」


『…………あ、りがと』


…どうしよう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
ぶわっと胸の奥が噴火して、目蓋が熱くなった。
ぎゅっと唇を噛み締めると、ぽん、と頭に大きな掌が乗る。
肩に柔らかな重みが戻ってきて、頬に白い毛並みが触れた。
膝の上から、すぐるっちとしょうこっちが私を見上げている。
視線を上げると、柔らかな紅と目が合った


「…オラ、とっとと交換してやれや。アイツら待ってンぞ」


『…うん!』



















「皆さん、もうすぐ先生がいらっしゃいますわ!今日も精進して参りましょう!」


「はーい」


席に着いたまま、ポケットの中のスマホに触れて目を細める。
友達なんて、勝己と出久だけで良いと思っていた。
でも今日、初めて人間の女の子の友達が出来た。勝己目当てでもなく、私の個性を気味悪がらない人達。
それはまるで奇跡みたいで。だから、嬉しくてにやけちゃうのも仕方がない事だと思う。
私の緩い表情を見たさとるっちは、嬉しそうに尻尾を揺らした


《トモダチ ヒャクニン デキルカナ ?》


『百人はどうだろ。……でも、友達が増えるのって、嬉しいね』


《せつなっち ウレシイ オレ モ ウレシイ !》


『ふふ、ありがとうさとるっち』


ご機嫌なさとるっちの喉を擽っていれば、教室の扉が開いた。
現れたのは全身黒づくめの相澤先生。見える位置に包帯やガーゼは見当たらなくて、ほっとする。


「お早う」


「先生、怪我治ったんですね!」


「復帰早ぇ!!!」


「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」


「戦い?」


「まさか…」


「また敵がー!?!?」


先日の襲撃を思い出してぞっとする。
思わずさとるっちをぎゅっと抱き締めれば、先生が落ち着いた表情で言い放った


「雄英体育祭が迫ってる!!」


「「「クソ学校っぽいの来たあああああ!!」」」


室内のテンションが一気に上がった。
そんな中、私は一人息を吐く。
良かった、敵の犯行予告が来てるとかじゃなくて…もうあの黒い敵は見たくない。


「待って待って!
敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」


「逆に開催する事で、雄英の危機管理体制が磐石だと示す…って考えらしい。
警備は例年の五倍に強化するそうだ。


何より雄英の体育祭は────最大のチャンス。


敵如きで中止して良い催しじゃねぇ」


「いや、そこは中止しよう?体育の祭りだよ…」


小声で呟いたのは峰田くんだろうか。
彼の言葉に反応したらしい出久が、驚いた声を出す


「峰田くん…雄英体育祭、見た事ないの!?」


「あるに決まってんだろ。そういう事じゃなくてよー…」


まぁ峰田くんが言いたい事も判る。
でも此処の規模と目的を考えると、中止出来ないというのも理解出来た。


「ウチの体育祭は、日本のビッグイベントの一つ!!
嘗てはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ、全国が熱狂した。
今は知っての通り、規模も人口も縮小し、形骸化した…」


『オリンピック…どういうのしてたんだっけ?』


ほんの少し前に身を倒して問い掛ければ、勝己がこそりと返してくれた


「野球とか水泳とか、一般的なスポーツってヤツだろ」


『なんで形骸化?』


「単純に個性が原因だろ。
確か、オリンピックは超常が起きる前のビッグイベントだ。
超常が起きて、身体能力はそこまで変わらなかった筈の人類に、個性っつーバランスを崩す力が割り込んだ。
そうなりゃ後はなし崩し。


人間が鮫に泳ぎで勝てる訳がねぇ。チーターを100mで追い抜ける筈がねぇ。


けどソイツらが強すぎるからって参加禁止なんかにすりゃ、人権侵害で訴えられる。
────結局、水泳競技は水の生き物の独壇場、陸上競技は足の速ェ動物まみれ、パワー系競技はゴリラの品評会になっちまって、競技人口も人気も落ちたんだと」


『へぇ…』


《オリンピック オモシロイ ノニ ネ》


『え、さとるっちってオリンピック見た事あるの?』


超常前って言ったら結構昔の話だ。何処かで資料でも漁ったんだろうか。
腕の中の存在に問い掛ければ、勝己が言う


「ソイツ、ジジイの書斎にあったヤツ見てたぞ」


『あ、そうなんだ』


《ボルト メチャクチャ ハエー !》


「猫、そろそろ黙れ」


《ゴメーンネ ☆》


早口で勝己に言われ、さとるっちは口を閉じた。勝己、何をそんなに焦ってるんだろう。
それに首を傾げつつ、視線を前に戻す


「そして日本に於いて今“嘗てのオリンピック”に代わるのが────雄英体育祭だ!!」


「当然全国のトップヒーローも観ますのよ、スカウト目的でね!」


「知ってるってば…」


資格習得後卒業後はプロ事務所にサイドキック入りが定石だもんな」


「そっから独立しそびれて、万年サイドキックってのも多いんだよね。
上鳴あんたそーなりそう。アホだし」


「くっ!!」


耳カさんの辛辣な言葉に、上鳴くんが悔しそうな顔をした。


「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。
時間は有限、プロに見込まれればその場で将来が拓ける訳だ」


一度間を置いて、相澤先生が教室内を見渡した。


「年に一回…計三回だけのチャンス。
ヒーロー志すなら、絶対に外せないイベントだ!」


皆の雰囲気が引き締まったものに変わる。
それを感じたのか、相澤先生は視線を教卓に落とした。


「じゃ、HRはこれで終了とする。あとは…」


す、と黒い瞳が此方に向けられた


「爆豪、白露。ちょっと来い」


「あ?」


『えっ』


《ミセモン ジャ ネーゾ !》


最後に声を掛けられた事で、クラスメイトの目が一斉に此方に向いた。
思わず勝己の背に隠れる。先生はさっさと教室を後にしてしまった


「え、何よバクゴー何したん?」


「爆豪は兎も角、白露まで呼ばれるって何だろね。お前ら何かしちゃった?」


「ぁあ?何もしてねぇわ。つーか俺は兎も角ってどういう意味だコラァ!!!
…刹那、行くぞ」


『う、うん』


茶化す上鳴くんと瀬呂くんを怒鳴り付け、勝己は此方に手を差し出した。今更だから慣れているけれど、地味に感情の振り幅がヤバイと思う。
左手に右手を乗せ、ぐっと引っ張って立たせて貰う。
そのまま教室を出ると、先生は扉の隣の壁に凭れていた。
私達を確認すると、手招きをして廊下に向かう。人のまばらなスペースに移動した所で、相澤先生は足を止めた


「まず、白露」


『はいっ』


《オコラレル コト シテナイヨ !!》


えっ、私から先に怒られるの?
あれ、そもそも何で怒られるんだっけ?
ぴしっと背筋を伸ばせば、相澤先生がぽりぽりと頭を掻いた


「ああ、違うよ。怒ってない。
…USJで俺と13号、それに爆豪の怪我を治してくれたんだってな」


『えっ、ああ…はい。…先生、あの…』


「ん?」


此方を気怠そうに見下ろす先生に、違和感はない。じゃあ、大丈夫だろうか。
でも、しょうこっちは兎も角、私は私を信用出来ない。初めての重傷患者の治療を、完璧にやり遂げたと言える自信がないのだ。
…こんな事、プロヒーローである先生に聞いて良いのだろうか。もし治せていなかったら。治療がダメな方向に転がっていたら。
口ごもる私の隣から、落ち着いた低い声が放たれた


「センセー、後遺症とかねぇンか」


『!』


それはまさに、私が言いたくても口に出来なかった言葉で。
目を丸くする私の頭を軽く叩いて、勝己は先生を見上げた。
倣う様に目を向けると、先生の唇が静かに動く


「…本当なら、眼に後遺症が残るレベルだったらしい。病院に、受けたダメージを解析出来る個性の人が居てな、そう言われたよ」


『……両腕粉砕骨折、顔面骨折……あと眼窩底骨が粉々だったので…』


「うん。そのままならヒーロー生命に関わるレベルだったって言われたよ。
だから────ありがとう、白露」


『え…』


相澤先生が、綺麗なお辞儀をしていた。
直ぐに姿勢を戻すと、ぽかんとする私を見下ろして、先生が苦笑する


「お前があの時眼の治療を最優先でしてくれたお陰で、今後も問題なくヒーローを続けられる。
13号からも礼と、あとコレ。お前に渡してくれって頼まれてる」


『えっ、あ、ありがとうございます』


ずっと手に提げていた紙袋を渡され、受け取る。袋が私でも知っている高級菓子店のもので、手が震えた


『先生コレ高いのでは…?本当に貰って良いんですか…?』


「子供がそういうの気にするんじゃないよ。
…あのな、白露。
俺と13号は、お前にあの場で治療して貰ったから、何事もなく業務に復帰出来てるんだ。
お前は俺達の恩人なんだよ。それだって、本当なら安いくらいだ」


ぽん、と大きな手が頭に乗せられた。
先生の口許が、ゆるりと引き上げられる


「個性が周りに見えないっていうのは、敵に悟られず被害を最小限に抑えられるって事だ。それは必ず、お前の立派な強みになる。
────だから、そんなに怯える事なんてないんだよ」


それは、あまりにも優しい言葉で。
このままじゃ涙が出そうで、ぎゅっと唇を引き結んだ。


『………ありがとう、ございます…』


「此方こそ、ありがとね」


震える声で礼を口にすれば、ぽん、とまた頭を叩いて、先生の手が離れる。
それから黒い瞳が、私の隣に移動した


「爆豪、敵を拘束したそうだな」


「逃げられちまったけどな」


さとるっちが頬を寄せてくれて、私からもそっと顔を白い毛並みに近付けた。
私が涙を堪える間にも、話は進む


「13号の指示を無視して敵を攻撃したそうだが、理由は?」


「宇宙服の個性はブラックホール。強個性だが、救助メインのヒーローじゃ戦闘面は一歩劣る。おまけにモヤモブの個性はワープ系だろ。それでブラックホールまで任意の場所に移動させられちゃ堪ったモンじゃねぇし。
刹那の個性が敵の気配を察知したから、初撃で確実に落とすつもりで撃った。
もし躱されても、奇襲で動揺した敵を刹那が拘束すれば良かったしな」


「もし相手があの掌の敵か、黒い敵だった場合はどうしていた?」


「あン時も、必ずモヤモブが来るって確証はなかった。
掌野郎なら燃やして拘束、デカブツなら戦闘場所が外から建物ン中に変わるってだけの話だろ」


尋問の様な空気を醸し出す先生に対し、勝己は淡々と返していく。
何これ、めちゃめちゃ空気が重い。
冷や汗を流す私を見て、さとるっちが笑っている。なんだコイツ、私の心配しないんかい。


「………」


「………」


『………』


《wwwwwwwwwwwww》


暫しの沈黙。
軈て、眉間に皺を寄せた相澤先生は顎を擦って、それから深い溜め息を落とした


「今回はお前の判断が正しかった。
だが、お前はまだ学生だ。危険に自ら飛び込まない様に」


勝己は、にこりと綺麗な笑みを張り付けた


「善処します」


「…まったく。じゃあ、教室に戻って良いよ」


重い空気が消えて、ほっと胸を撫で下ろした。
解散を伝えられるや否や、しれっと踵を返した勝己に目を丸くする


『あ、13号先生にお菓子ありがとうございましたって伝えて下さい。あとお大事にって!先生も、病み上がりだしお大事に!!』


《バイバーイ !》


「はいはい、廊下は走るなよ」


慌てて先生に礼を伝え、会釈する。
ゆったりした歩調で歩いていた勝己は、隣に並んだ私の手を掬い取った


『……勝己』


「なによ」


手を繋ぎ、隣を歩いてくれる存在にそっと口を開ける


『…ありがとう。勝己のお陰で、私今こんなに幸せ』


────勝己が、友達になってくれたから。
サイドキックという夢を、私にくれたから。
だから私は雄英に入ったし、友達も出来た。先生にも、怯えなくて良いって言って貰えた。
…こんなに幸せな事があって良いんだろうか。もしかして、これからとんでもなく不幸になったりしないだろうか。
そんな事を考える私の手を、暖かな手がきゅっと握った


「違ェ」


『え?』


「これは、お前がさとる達と一緒に頑張って、自分の力で手に入れた結果だ。
……だから、もっと自分を誇れや」


此方を真っ直ぐに見下ろす紅は、とても柔らかくて。
ずっと憧れてきた人に贈られた言葉は、折角落ち着きかけた涙腺をまた刺激した


『やめてよ、泣きそう』


「耐えろ。俺が泣かせたと思われンだろが」


『間違ってはいないでしょ』


「そんくらいで泣くとか涙腺クソザコか」


そうやって笑う声がとても優しいから。
だから、目蓋が熱いままなのだ。

















「刹那ちゃん、お昼を一緒にどうかしら?」


『ひえ』


「おい俺を盾にすんな」


今更だが、俺の幼馴染は対人クソザコである。
四限が終わって直ぐの事、朝に連絡先を交換したカエルに声を掛けられた刹那は、ぴゃっと俺の背に身を隠した。
そろりと肩口から顔を出すと、じっとカエルの顔を見て、それから困った様に眉を下げる


『………私、話、下手。でも、良いの…?』


「ええ。最初から完璧な人なんて居ないわ。
だから、気にしなくて良いのよ。
ケロ、刹那ちゃんが嫌じゃなければ、一緒に食べてくれたら嬉しいわ」


《チカヅキカタ ヒャクテン !!》


俺の頭に乗っかった猫が騒ぐ。
普段とは違うぶつ切りの機械みてぇな喋り方も受け止めて、カエルは優しく笑って見せた。確かにこの対応は良いと思う。
コイツは怖くても嬉しくてもキャパオーバーするので、こういう面倒見の良いタイプと組むのが向いている。
肩口から顔を出す刹那を横目で見れば、思った通り、菫青の瞳はキラキラしていた


『……勝己も一緒で良い…?』


「何でだ」


「ええ、勿論」


「だから何でだ」


「じゃあ、お弁当を持ってくるわね」


『うん!』


「テメェらマジで話聞かねぇな舐めとンのか」


さっさと席に向かってしまったカエルに溜め息を落とした。背後霊は嬉しさが上限突破したのか、人の背中にぐりぐりと額を押し付けながら、小せぇ手で肩を叩いてくる。


『女の子の、友達…!!!』


「おーおー良かったな。アイツ、保護猫の扱いに慣れてるタイプだ」


《ホゴネコ トノ キョリカン タイセツ !》


「猫に保護猫扱いされてンぞ。良いんか」


『対人がクソザコなのは自覚している…』


「なら直せや」


『外面は大分良くなったのでは…?』


「あー…」


納得しちまうのがすんごい癪。
けどコイツの言った通り、以前は知らねぇヤツと目を合わせるのも駄目だったのだ。人間不信も拗らせていて、学校じゃ俺とデク以外と話そうともしなかった。
それが今じゃ、二度と会う事のないモブに限るが、笑みを張り付けて話せるまでに成長している。
それが如何に薄っぺらかろうと、モブ共はコイツの作り笑いに気付かねぇんだから問題ない。


「…取り敢えず、オトモダチと普通に話出来る様になるっつーのが目標な」


『う…勝己装備はアリ?』


「ナシ」


『ううう……』


《ガンバ !》


鞄から弁当箱を取り出していると、カエルが合流した。
刹那の机の上で弁当を広げる。
隣の机をくっ付けてカエルも座ると、早速切り出した


「刹那ちゃん、爆豪ちゃんととても仲が良いわよね。付き合っているの?」


『え?』


「あ?」


チキン南蛮を箸で持ち上げた刹那がかちりと固まって、目を瞬かせた。
動かなくなった左手を掴み、顔を寄せる。
食われた事でハッとしたのか、チキン南蛮を咀嚼する俺を見て目を丸くした


『ちょっと勝己!』


「何食いてぇ?」


『生姜焼き』


「ん」


注文の品を差し出せば、小さな口がぱかりと開いた。むぐむぐと食べながら、嬉しそうにきゅうっと目を細める様を眺めていれば、めちゃめちゃ視線を感じる。
横を見れば、カエルが黒々とした目でじっと此方を見つめていた


「…幼馴染だ」


「そうなの?」


丸い目が明らかに、それだけじゃないでしょ?と問い掛けてきている。
答える義理はないものの、こういうタイプは無視すれば面倒だと悟った俺は、渋々続きを口にした


「…ずっと一緒に居ンだから、関係に名前なんか要らねぇだろ」


《オンナ ハ コトバ デ イワレタイ ラシイヨ !》


「何処情報だ、猫」


《ヤニ ダイスキ ナ ジョイ !
イワナクテモ ワカルダロ ハ オトコ ノ ゲンソウ !!》


「あー…」


クマ女か。ああ、うん。アイツなら言いそう。
言い寄る男を一瞥もせずに振りそう。
そんな事を思っていれば、刹那が不思議そうな顔で猫を見る


『ヤニ大好きなジョイ?誰?』


「あー…………ドラマ観とったら、そういうヤツが居った」


『へぇ。なんかヤニ大好きって所がヤバそうなキャラだね』


「だろ。因みに酒豪」


『わー、身体にガタが来そう』


「マジでそれな」


俺が見ているだけでもスパスパ煙草を吸ってやがるし、エセ坊主の話じゃ飲んでも酔わねぇらしく。おまけに肺の汚染も肝臓も反転術式で治していたんだとか。使い方が世紀末過ぎる。
話が途切れた所で、疑問符を浮かべたカエルが口を開いた


「爆豪ちゃんと刹那ちゃん、誰と喋っているの?」


当然と言えば当然の問いだった。
くっきりはっきり視えている白猫の言葉を無視するのも変な話だから、どんな場所でも周りを気にせず言葉を返していたが。
この世界に本来呪力は存在しない。コイツらは、俺と刹那にしか視えない訳で。
ちら、と菫青が一度此方に向けられて、それからカエルの方に動いた


『……あ、あのね』


何処か怯えた表情で、刹那が口を開いた


『…私の個性、猫と犬とウサギが出るの。私と…勝己にしか見えないんだけど、えっと……その中の、猫。は、喋れる』


…今までずっと、個性を人に伝える事を刹那は恐れていた。
それは猫達の詳細を伝えた相手の反応は勿論…何より、さとる達の反応を見たくなかったからだろうと、俺は思っている。


視えない事に慣れきってしまったさとる達を、刹那は見たくないんだろう。


コイツは、きっと俺以外にも誰かが猫達を視る事が出来ると、心の何処かで信じているから。
…正直、呪力の事を聞いている俺からすれば、猫達はマジで気にしてねェんだろうというのも察しているが。
それでも呪力関連の話をしないと決めている俺は、刹那の悩みを取り除いてやる事も出来ず。結局、隣で慰めるしかないのだ。
刹那の覚束無い説明を聞いたカエルは、頬に指を添えケロ、と鳴いた


「じゃあ、常闇ちゃんの黒影に近いのかしら」


『…そう言われると、そうかも…?』


《ホワイト キャット ッテ ヨンデ !!》


「長ェ。猫で良いわ」


《ナンダト バカツキ !!》


「馬鹿っつーな!!!」


飛び掛かってきた猫の顔を鷲掴む。
小競り合いを始めた俺達に刹那は笑い、カエルは目を瞬かせた


「爆豪ちゃんには見えているのね」


『うん。初めて会った時から、ずっと見えてるみたい』


「そうなのね。…良かったわ、爆豪ちゃんが刹那ちゃんの幼馴染で」


「あ?」


俺の名前を呼んだのが聞こえたので目を向ければ、カエルは柔らかな眼差しで、刹那を見つめていた


「誰にも共感して貰えないのは、とっても寂しいわ。
だから、見える爆豪ちゃんが刹那ちゃんの傍に居てくれて、良かったって思うの」


菫青の瞳が丸くなり、水気を増した。
きゅっと薄い唇に力を込めて、それから刹那は眉を下げて微笑んだ


『……ありがとう、梅雨ちゃん』


「ケロケロ、お友達だもの。当然よ」


女にしてはでかい手で頭を撫でられながら、刹那は笑った。
何処か泣き出しそうなその笑みを見つめつつ、口を開く


「おい刹那、蛙吹。はよ食わねぇと昼終わンぞ」


『あ、うん』


慌てておかずを頬張った刹那の隣で、カエルは目を瞬かせた。
それから此方を見て、小首を傾げてみせた


「梅雨ちゃんと呼んで。お友達には、そう呼んで欲しいわ」


「……気が向いたらな」












繋ぐ先










刹那→友達が増えた。
先生にも褒められたしハッピー

爆豪→保護猫に友達が出来たのを見守った。
綺麗な笑顔で丁寧に嫌ですって言えるタイプ。

さとるっち→呪力がなきゃ自分を見る事は出来ない事は最初から知ってるので、爆豪以外に見えない事を全く気に病んでない。
でも刹那に呪力関係を話す気もないので、どうしたもんかなと思っている。

梅雨ちゃん→友達になった。
じっと目で見て訴えるタイプ。

麗日→友達になった。

八百万→友達になった。







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