やっぱりこのままで


「あ、私こういうの好き!可愛いよね」


「ええ、麗日さんに良く似合ってますわ」


「ケロケロ、刹那ちゃんはこういう服が好きなのね。可愛いわ」


『あ、ありがとう。梅雨ちゃん』


放課後、刹那はオトモダチになった女子に囲まれていた。
四人でスマホを覗き込んで騒いでいるのを、俺の頭に乗っかった猫が眺めている


《カシマシイ ッテ コウイウ コト ?》


「お前それ刹那に言うなよ。凹むぞ」


《モーマンタイ !
オレ キヅカイ デキル シンシ ダカラ !》


「ハッ、どうだか」


紳士は人の頭にミミズなんか仕込まねぇと思うけど。
正直早く帰りたいが、折角刹那が俺にしがみつかずに人と接しているのだ。
少しぐらいは我慢してやるかと暇潰しに教科書を開けば、くいっとブレザーを引っ張られた


『勝己、見て!美味しそう!』


《ウマソー !》


「いや話題変わンの早ェな」


服は何処行ったよ。
振り向けば、笑顔の刹那にスマホを向けられた。表示されていたのは三重の銘菓と言えば出てくる餡菓子で、次に見せられたのは表面に焼き目を付けた餅だった


「餅ばっかじゃねぇか、他ねぇンか」


「えっ、爆豪くんまさかお餅の良さが判らへん人なん…???判り合えへんわ…」


「安心しろ、てめェと判り合う日は一生来ねェ」


寧ろ餅ばっか食ってっからンなに丸い顔なんじゃねぇの。
内心呟いて、次にポニーテールが向けてきた画面に目を向けた


「愛知では、最近此方が人気ですの!」


「ンだこれ、ひよこ…?」


《ツブラ ナ ヒトミ !》


『ぴよりんって言うんだって。可愛いね』


「あとは…此方もメジャーかしら」


「可愛らしいカエルね、ケロッ」


「わー、かわいー!!」


『かわ…!!』


ぴよりんとカエルまんじゅうというらしい菓子にきゃっきゃし始めた四人を、頬杖を付いて眺める。
やはり同性というのは打ち解けやすいんだろう、刹那も大分自然に話せる様になっていた。あと三人とも対応が上手い。
菫青をキラキラさせながら、刹那が俺にスマホを見せてくる


『勝己、静岡で可愛いお菓子知ってる?』


「俺よりお前の方が詳しいだろ」


『えー、やっぱりこっことか、富士山倶楽部…?』


「そこら辺じゃね?こっこはお前ン家好きだろ」


《クリーム オイシイ !》


『よし、それにしよ。静岡のお土産はね、こんな感じ』


「ひよこのイラストかわいー!」


「富士山も可愛いデザインね」


「私こっこは頂いた事がありますわ。とても美味しかったです」


『そうなの?あれも色んな種類あるから、どれ食べようか迷うんだよね』


きゃっきゃと銘菓談義に花を咲かせる女子をぼーっと眺めていれば、すすす、と隣に小さな影がやって来た事に気が付いた。
ソイツはニヤニヤとだらしねぇ笑みを浮かべながら、刹那達に視線を向けている


「なぁ瀬呂、お前どのおっぱいが好みだ…?」


「うっわ、お前クラスメイトにそういう目向けんの止めな?」


「何でだよ!!直ぐ近くに魅惑のおっぱいがあれば見るのが男だろうが!!!」


「煩ェ散れ」


「ぎゅばっ」


《ヘンタイ シスベシ !!》


呪力を込めた拳骨で玉まみれのモブを即座に沈めた。
気絶した様だが、こういう輩はそのままの体勢で女子のスカートを狙いかねない。なので仕方なく、首根っこを掴んで立ち上がった。
俺と葡萄頭を見た女子四人が、それぞれ反応を示す


「峰田ちゃん、懲りないのね」


「妄りに女性の身体を眺めるのは良くないと思います」


「峰田くん、もう少し慎めへんかなぁ…」


『胸狙いか…私は大丈夫そうだけど、皆気を付けてね』


汚物をぺいっと席に投げ、自分の席に戻る。
腰を降ろした所で、私は関係ありませんと言う顔の刹那に目を向けた


「アホ、ああいうタイプは女自体に興奮すンだよ。胸だ何だっつっといて、結局他の部分で悦ぶのも目に見えとる」


『うわ、変態じゃん』


「そォだよ、だからお前も気ィ抜くンじゃねぇ。アレとの接近は最低限にしろ」


『はーい』


素直に返事をした刹那に良しと頷く。
まぁコイツは人見知りだし、猫達も居る。ああいうタイプの男に近付かねぇとは思うが、念の為。
俺と刹那を眺めていた丸顔が、感心した様な顔で言う


「爆豪くん、なんか知れば知る程ギャップエグない…?」


「ぁあ゙?」


「や、最初ほら、怖い人なんかなぁって。見た目とか」


「判るわ。直ぐ怒鳴るイメージとか」


「オイコラ喧嘩売っとんのか!!ァア゙!?」


「ホラ」


「ホラじゃねンだよカエル!!!」


舐めとんのかコイツらブッ飛ばすぞ。
キツく睨み上げた所で、宥める様に小さな手が俺の手に乗せられた。
目を向けた先、刹那が小さく笑っている。
その体温と笑みに意識を向けていれば、苛立った感情が萎んでいくのを感じた。
俺が落ち着いたのを悟ったのか、手が離れる。
此方を見守る三人組にちらりと目を向けて、直ぐに逸らした


「チッ………仕方ねェから見逃してやる。てめェら刹那のダチだからな」


「わ、白露さん猛獣使いやん…」


「だァれが猛獣だってェ!?」


「ホラ」


「だからホラじゃねンだよカエルぅ!!!!!」


「あまり怒鳴られると喉に悪いのでは?」


「ざけんな喉は絶好調だわ!!!!」


《『wwwwwwwwwwwwwwwww』》

















喧しい女子の雑談が終わり、漸く帰れるとなった時。
ふと、教室の外が妙に騒がしい事に気付いた。


「何事だぁ!!!?」


扉の方を向いた丸顔が声を上げ、其方に目を向ける。
開かれた扉の向こう、みっしりと生徒が居るのが見えた。
その全員が教室を覗こうとしていて、下らねぇ事をする雑魚に自然と眉が寄る。


「刹那、帰りトレーニング室と演習場行くぞ」


『はーい』


「今日から基本毎日な」


『りょ。お母さんにラインしとこ』


《ヒビ ショウジン !》


折角此処に、トレーニング器具と個性を気兼ねなく使える環境が揃っているのなら、使わねぇ手はないだろう。
事後承諾だが刹那も頷いたので、問題はない。
先に教室を出ようとしていたデクとクソメガネ、葡萄頭が立ち止まっていて非常に邪魔だ。


「出れねーじゃん、何しに来たんだよ」


「敵情視察だろザコ」


憐れな事に、雑魚は人間が何かを見に来る理由すらも思い付かないらしい。
擦れ違う際に教えてやったんだから、俺にしては優しい対応だと思う。
はぐれない様に俺のブレザーを摘まんだ刹那は苦笑いしているし、デクと葡萄が背後でこそこそしているが知ったこっちゃない


「敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな。
体育祭戦いの前に見ときてぇンだろ」


命に関わる怪我をした人間を出す事もなく、敵の襲撃を耐えきった同い年。
そりゃあ気になるだろう。どんな奴等だと対抗心も抱くだろう。
────けど、そんなもの。


「意味ねェから。退け、モブ共」


「知らない人の事、取り敢えずモブって言うのやめなよ!!」


すかさずメガネが文句を言ってくるがスルーした。
こうして立ち止まる時間が惜しい。
退かねぇならば実力行使かと一歩踏み出した時、集団の奥から敵意に満ちた声がした


「どんなもんかと見に来たが、随分偉そうだなぁ」


「!」


「ヒーロー科に在籍する奴は、皆こんななのかい?」


《コンナ ナノハ カツキ ダケ !》


「喧しいわ」


『ふふふ』


刹那の肩の上から茶々を入れてくる猫に小声で返す。
そうしていれば、偉そうに宣う声の主が前に出てきた。
クマの濃い、紫色の髪の男だ


「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。
普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴結構居るんだ。知ってた?」


『?』


「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって」


そりゃそうだろう。
あの入試試験は明らかに攻撃力のある個性しか通れないもの────回復系やサポート系など、直接攻撃力の足りない個性持ちには厳しいものだった。
だからこそ、体育祭という大型イベントで、普通科という挫折を味わってでも尚、ヒーローを目指す気概のあるヤツを掘り出すのだ。


「その逆もまた然りらしいよ…敵情視察?
少なくとも普通科俺は、調子乗ってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり」


紫頭が俺を睨んでくる。
それを真正面から受け止めていれば、モブの群れの奥から別の声が響いてきた


「隣のB組のモンだけどよぅ!!」


『おあ……』


「刹那、隠れとけ」


大声に圧倒されたのか、背中に刹那がぴたっとくっついてきた。
隣にゃ随分煩ぇヤツが居んだなと思っていれば、群れを押し退け前にやって来る


「敵と戦ったっつうから、話聞こうと思ってたんだがよぅ!!
エラく調子づいちゃってんなオイ!!!
本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」


《オラオラ シテルwwwwwwwwwww》


『うわぁ…』


「………」


────イキッてっけど、クッッッッッソどうでも良い。


刹那に行くぞと声を掛け、前に居るヤツらを押し退ける。
とっとと教室を去ろうとする俺の背に、クソ髪の声が飛んできた


「待てコラ、どうしてくれんだ!?
おめーの所為でヘイト集まりまくっちまってんじゃねぇか!!」


だから何だ。
横目で騒がしいヤツを見て、それから口を開く


「関係ねぇよ…」


「はあーーーー!?」


「────上に上がりゃ、関係ねぇ」


時間は有限だ。
血反吐を吐く様な努力と、気の遠くなる様な敗けの繰り返し。それが、着実に俺を強くしていく。
勿論夢の中で鍛えているから良いって訳じゃない。
現実でも努力して、それでやっと、夢の中で最強に立ち向かう為の牙を得る。


アイツに何時か勝てたなら。
その時はきっと、俺は本当の意味でナンバーワンヒーローになれるのだろう。


雑魚に使う時間などない。
静かになったモブ共を押し退けて、さっさと階段に向かう。
背中にくっついていた刹那は隣に並び、俺の手を取った


『もっと判りやすく言えば良いのに』


「俺達今から鍛えるンで、モブの相手してる暇ありませんって?随分煽るじゃねェか刹那チャン」


『でも、鍛えもせずに宣戦布告とか…舐めてるでしょ』


……随分刺のある言い回しに、思わず足を止めた。正面を向いたままの顔を覗き込めば、珍しく柳眉が寄っている


「……珍しいな。何キレてんだ」


《オコ !》


刹那の肩に乗る白猫まで毛を逆立てていて、本気で困惑した。
コイツは基本穏やかで、キレる事なんてない。猫も感情豊かだが、此処まで怒っているとアピールする事もしないのだ。
だからこそ、今こうして二人揃ってムッとしているのが珍しくて、思わずまじまじと観察してしまった。
険しい表情を眺めていれば、薄い唇がゆっくりと動き出した


『…最初はそう思わなかったんだけど』


「うん」


『調子乗ってるとか、足許掬うとか…勝己の何を知っててそんな事言ってんだコイツらって。…ちょっといらっとした』


「………は、」


『勝己は毎日努力してるのに。アイツら、敵の襲撃がどんなだったか知らない癖に。
…それなのに、調子乗ってるって言われて。
確かに勝己の言い方も良くなかったけどさ、でも、大体あんな人数で詰め掛けるのは非常識だろ。
その気はなくとも大人数で取り囲んで、威圧しておいて。それで、勝己の事皆で悪い奴って言うんでしょ?
お前らこそ調子乗ってんじゃねぇぞって思った。せめて一人で来て文句言えや。
一緒に来てなくたって、同じ目的だったら仲間意識が芽生えるでしょ。心強くなるでしょ。
僕足許掬ちゃうもーん☆って、仲間にバフ貰いながら宣戦布告されてもイラつくだけなんだわ』


《ミニクル ヒマ トカ オマエラ ニ アルンデス カー ?》


『ほんとそれ。
入試に落ちたって事は、攻撃力足りてないって事だろ?
せめてそこら辺カバーしようって思うならさ、今日私達の観察してる暇ないよね?
敵情視察ってさ、正直勝算ある奴にしか許されない行為だよね?
…どうしよ、改めて考えたらイライラしてきたな…?』


《ミミズ バクダン ヤッチャウ ?》


『うーん、捨てがたい』


出るわ出るわ、暴言の数々。
真剣な顔でエグい仕返しを悩み始めた刹那とさとるに、開き掛けた口を閉ざした。


…つまりコイツは。コイツらは。
俺の為に、こんな表情を浮かべているのか


「……ふふ」


『……ちょっと。何で笑ってんの?』


《ミセモン ジャ ネーゾ !》


思わず漏れた笑みに気付いた二人が目を尖らせる。
それを見つめながら、指先でそっと似合わない眉間の皺を伸ばしてやった


「やっぱり、俺このまんまで良いわ」


『?』


《ドーイウ コト ?》


「はは」


『え、めちゃくちゃご機嫌だね…?なんで…?』


《ワルイ モノ デモ タベタ ?》


「しばくぞ猫」


困惑する刹那の手を引き、歩き出す。
────モブに幾ら嫌われようが結構。
やっぱり俺は、俺の大事な人が俺の事を判ってくれるなら、それで良い。


















「あの子も怒ったりするんだねぇ。
前から穏やかだったけど、此方じゃもっと穏やかなもんだから、怒りを天与呪縛で消されてんのかと思ってたよ」


「俺もあんなにキレたアイツは初めて見たわ」


「良かったね。オマエはあの子が怒る理由になる程大事な存在だってさ」


「ふん、そんくれェ最初っから知っとるわ」


今日の出来事を話しながら、游雲を振り回す。
左頬を狙った一撃は躱され、胴体に構えた左手の爆撃は無限が無効化した。


「うわ可愛くねー!
たまには素直に嬉しいでーす☆って言ったってバチは当たんないよ?」


「いや、当たり前の事わざわざ大袈裟に喜んで何になンだよ」


「オマエほんとアレだよね、あの子からの愛情貰える事にめちゃくちゃポジティブ。
なんか愛されて当然感が凄い。一人っ子だからかな?」


「ぁあ?当然の事を当然として受け止めて何が悪ぃンだよ」


ぐっと游雲を握り込み、最大火力で爆破する。
呪力を詰め込んだ深紅は盛大に燃えたが、炎が目隠しに届いた様子はなかった。
判ってはいたが腹の立つ光景に、堪らず舌打ちする


「クソが…ンのチート野郎!!」


「残穢と呪力は見えるだろ?それでしっかり躱しなよ」


「ぐっ」


目にも止まらぬ速さで呪力が動き、次の瞬間には無限で横っ面を張られた。
吹っ飛ばされ、宙返りして着地する。
口許を拭った俺を見下ろして、目隠しは首を傾げた


「もうすぐ体育祭だっけ?こんな調子じゃオマエ、直ぐ負けちゃうんじゃない?」


「ぁ゙あ゙!?!?」


「威勢が良いだけでざーんねん!
せめて僕に一発でも当ててみなよ」


ニヤニヤ笑いながら指を曲げ挑発するクソ目隠しに、ブチッと血管が切れる音を聞いた。


「上ッッッッッッッッ等だクソ野郎!!!!
顔面に爆破ブチ当てて泣かしたらァ!!!!!!」


「あっはは!
弱い犬ほど良く吠えるって、勝己の為の言葉みたいじゃない?」


「死ねェ!!!!!!」


────二時間後。
地に伏せた俺の背中に座りやがった目隠しは、上機嫌に手を打ち鳴らした


「いやー、流石に足で游雲振り回すとは思わなかったよね!無駄に器用!
なに?オマエ前世は猿だったの?」


「ブッ殺す…」


「なんだっけ、こんなのあったよね。
あまり強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ。だっけ?
あは、ほんとに弱いから無問題!」


「ヂィッッッッッッッッッッッ」


「鳴き声ウケるwwwwww爆竹じゃんwwwwwwwww」


マジで死なねぇかなこのクソ。
怒りでぷるぷると震える俺を見下ろして、目隠しは脚を組み換えやがった。オイとっとと退けやクソ野郎


「まぁ、相手が僕だから一撃も当たらないってのはあるよね。
見た感じ、オマエのクラスで注意すべきなのは刹那と出久、それから…トロロキくん?あの正月みたいな頭の子くらいかな」


「誰と当たったって容赦はしねぇ」


「それで良いよ。確実に勝己が上でも気は抜いちゃいけない。
弱いヤツってのはさ、此方が思い付きもしない方法で足掻こうとするから。
言うでしょ?窮鼠猫を噛むって。
雑魚と当たる時こそ、周囲に気を配んなきゃね」


言葉を切ると、目隠しはからりと笑った


「まぁ一番良いのは、敵に何もさせずに終わる事だけどね!」












嵐の前の










刹那→人見知り。
友達が増えて嬉しい。

爆豪→人見知りの逃げ込める安全地帯。
落ち着きたい時の刹那に良く吸われる。

さとるっち→空気は読める。

梅雨ちゃん→距離感のプロ。

麗日→笑顔のプロ。

八百万→気遣いのプロ。




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