運命が捩じ曲がった日
《オハヨー! キョウ ノ ウラナイ 9イ! ラッキーカラー ハ アカ!》
『ふああ……おはようさとるっち。すぐるっちもおはよう』
欠伸をしつつ身を起こした。
ベッドでぴょんぴょんしているさとるっちと、瞑想でもしていたのか窓際で静かにしているすぐるっちの頭を撫でて、準備を始める。
「おはよう刹那。今日から三年生ね、子供の成長って早いわー」
『おはようお母さん。それ優輝にも言ってなかった?』
「歳取るとね、毎日が五倍速になるの」
『なにそれこわい』
リビングに弟の姿はない。既に学校に向かったんだろうけど、あの子はもう少し余裕を持って行けないんだろうか。
優輝が走っていったんだろう、カーペットの端が捲れていた
『さとるっち、カーペット綺麗にしてくれない?』
《オヤスイ ゴヨウ !》
『ありがとう。あ、すぐるっち、ありがとう』
コーヒーとトーストを持ってきてくれたすぐるっちに礼を言えば、頭を撫でられた。
何故だろう、この子は撫でられるより、私を撫でたがる気がする。
トーストを食べていれば、向かいでコーヒーを飲みながらお母さんが言う
「不思議よね。私達には見えないけど、居るんだもんね」
「勝己くんにも見えてるんだから、安心だろ?」
「あら、おはようお父さん」
『お父さんおはよう』
「おはよう二人とも」
着替えたお父さんがリビングにやって来て、お母さんの隣に座った。
二人で遊びだした猫と犬を横目で見て、小さく笑う
『そうだね。勝己も見えてるから』
準備を終えて、扉を開ける。
家の塀に凭れてぼーっとしている勝己と目が合って、私は笑った。
『今日のラッキーカラーだ』
「あ?」
「行ってらっしゃい、二人とも!」
「行ってきます」
『行ってきまーす』
中学三年生ともなれば進路を決定し、その為に必要な事に取り組む必要が出てくる。
私と勝己で言えば、それが勉強と己の身を鍛える事なのだけれど。
「す、好きです!爆豪みたいな乱暴者より、僕の方が白露さんを大事に出来ると思います!!!」
定期的に沸くこの勘違い系男子、とても謎。
思わず白けた目で彼を見てしまった。
「僕だったら白露さんに怪我なんかさせないし、大事にします!」
《ナンダ コイツ? バカジャネ?》
『ほんとそれ』
さとるっちの言葉に同意してしまえば、男子生徒は何やら勘違いした様だ。
そこで自分の迂闊さに気付いたものの、さとるっちを無視するとか有り得ないので、迂闊じゃなかった事にする
「えっ!?良いんですか!?」
『ん?ああ、ごめんなさい。貴方とは付き合えません』
「えっ!?」
『すみません。好きになってくれてありがとうございました。では』
ぺこりと頭を下げる。ぴょん、と肩から飛び降りたさとるっちは、あの男子生徒の方に駆けていった。
「待って!なんで!?僕の方が爆豪より顔も良いし、優しいって!!」
腕を取られ、一気に苛つきが増していくのが自分でも判った。
この男、なんで勝己に勝てると思っているんだろう。
寧ろなんで、勝己より自分が上だと思っているんだろう。
『お言葉ですが』
さとるっちが、ひょいと男の頭の上から顔を覗かせた。
咥えていたものを、ぽいと黒髪に放り込む。
『勝己の方が顔も良いし、優しいし、努力家です。性格は色々アレですが優しいです。……それに、何より』
「痛っ!?」
ぴょん、と男の頭を蹴ってさとるっちが戻ってきた。恐らくわざと頭を蹴飛ばしたんだろう。この子はその気になれば、ぬいぐるみ程度しかない自分の重さすら消せるらしいから。
さとるっちを腕に抱くと、頭を擦る男は不思議そうに私を見つめ始めた。
…もしかして、私の噂を知らない人なんだろうか。
小学校が同じだった人が言い触らしているとばかり、思っていたけれど
『この子が見えない人と付き合う気はありません』
「え…?」
『知りません?私の個性、猫と犬を呼び出す事なんですよね』
真っ直ぐに男を見据える。
嘘つきと呼ばれたこの個性を、同じ視点で見てくれる人。
私の初めてのともだちを馬鹿にしたのだから、ちょっとは痛い目を見て貰わなくては。
『ごめんなさい。私の猫が悪戯したみたい』
「えっ…うわぁ!?」
『見付けたら拾いたくなるみたいで』
黒髪からにゅるっとしたもの……ミミズが這いずり出たのを見て、そっと目を逸らした。
いやちょっと待って、結構エグい仕返ししたな?私枯れ葉とか小石とかそこら辺だと思ってたんだけど?
え、さとるっち?まさかアレを咥えて……今すぐ嗽させよう。
『それではさようなら』
「ああああああミミズうううううう!!!!」
《wwwwwwwwwwwwwwwww》
爆笑するさとるっちを連れて、水道に向かう。即座に口を洗ってやりつつ、そっと問い掛けた
『随分エグい仕返ししたね?どうしたの?』
普段のさとるっちなら、蹴飛ばしはすれど頭にミミズなんてトラウマものの嫌がらせはしない。
ごしごしとハンカチで口を拭かれながら、さとるっちは尻尾をタイルに叩き付けた
《ダッテ! カツキ ヲ ワルク イッタ !
オレト せつなっち ノ ハジメテ ノ トモダチ ナノニ !!》
『………そっか』
そっか、勝己を悪く言われて怒ってたの、私だけじゃなかったんだ。
思わず笑った時、校舎の方から声がした
「刹那?何しとんだお前ら」
『あ、勝己』
「お、白露じゃん」
「お前斉藤に呼び出されたって噂になってなかったか?」
『ああ、うん』
顔が引き攣ると同時、勝己の眉間に皺が刻まれた。
しまったな、バレちゃった。クラスが離れてしまった為、勝己に呼び出しがバレる事はないと思っていたのだが。
勝己は私が呼び出しに応じるのを嫌う。
でも応じないと応じないで以前ストーカーチックな事をされたので、その場に向かってきっちり断るのがベターだと考える様になったのだ。しかし、勝己はそれが嫌らしい。
不機嫌そうな勝己が何か言う前に、さとるっちが飛び付いた
《カツキ! オマエ モウチョット ニコニコ シロ !》
「はぁ?急に何だよ猫」
さっきの告白相手の言葉が気に食わないのだろう。プリプリしているさとるっちに笑いながら、勝己の隣に並んだ
『ふふ、勝己はそのままで良いよ』
「はぁ…?」
「そういや犬は?」
『すぐるっちは基本私の中に居るみたい。必要に応じて出てくるんだって』
「へぇ」
《すぐるっち ハ サクテキ メイン!
タタカウ ノハ オレノ ヤクメ!》
「戦う、ねぇ…」
帰り道、しげしげと私とさとるっちを見る勝己に首を傾げた。
なんだ。これでもちょっとは鍛えてるんだぞ。
「……貧弱」
『よっし許さない。戦争だ』
《マカセロ! ミミズ バクダン クラワセテ ヤル !!》
「ちょっと待て、ミミズ爆弾って何だ」
『さっき告白してきた人の頭に、さとるっちがミミズ仕込んだ』
「なにエグイ事してんだお前らwwwww」
ゲラゲラと笑いだした勝己。
いや私はしてない。さとるっちがしたの。一括りやめて。
誤解を解こうとする私の後ろで、勝己の友達が口を開いた
「カツキってマジで白露の猫見えてんのなー」
「俺ら全然見えねぇのに」
「はっ、たりめーだ!モブと俺を一緒にすんじゃねぇよ」
笑いを収めたらしい勝己が得意気に笑った。せめて友達にモブって言うのやめなよ。
苦笑いしていれば、友達が何かを思い出した様に口を開いた
「白露には優しいのに。
お前さぁ、アイツとも幼馴染なんじゃねぇの?」
「流石に今日のはやり過ぎ」
その言葉で、勝己が出久に何かしたのだと察した。
不良寄りのこの二人が言うって事は、余程の事だろう。
静かに勝己を見上げると、ちらりと紅い目が此方を見た。
それからふいと逸らされ、長い脚が苛立ちをぶつける様に、足許のペットボトルを蹴飛ばした
「俺の道に居たのが悪い」
『……勝己、何したの?』
「お前、クソデクが雄英受ける気だって知ってたか」
そう問われ、目を瞬かせた。
知らなかった。出久とはたまに会った時に話す程度だ。クラスも違うのだから、彼とはあまり交流がない。
『なに、普通科受けるってだけで怒ったの?』
「違ぇよ、ヒーロー科だ」
『は?』
《イズク ムコセイ ダロ? ナンデ ?》
「俺が知るかよ。
ガキのまま夢見心地の馬鹿はよぉ…見てて腹立つ」
「わ」
『勝己、外で爆破はダメだって』
BOM!と掌が軽く爆発して、慌てて黒煙を手で払った。
やめてくれ、普段は内申云々でみみっちい癖に、こんな所で個性を使うな。
それにしても、出久がヒーロー科…
確かに出久のヒーロー関連の知識量は凄まじいし、何より彼は優しい。
でも個性がないのは勿論…見た感じ、出久は鍛えてもない。
せめて、身体が資本の職業を目指すなら、トレーニングくらいしても良いんじゃないだろうか。
そんな事を思っていると、勝己が背後を振り向いて怒鳴った
「つーかてめェら煙草やめろっつったろ!!
バレたら俺らの内申にまで火の粉かかんだろ…」
『え』
私は振り向いていなかったから、見てしまった。
目の前で、ずるりと身を起こす、影を。
《せつなっち! カツキ!》
咄嗟に勝己の手を掴む。
勝己が振り向く寸前、ソイツは、嗤った
「────良い“個性”の隠れミノ」
『どうしよ…これほんとどうしよ』
「ンなもん、俺の爆破で…」
《バクハ ハ オススメ シマセン !》
現在、私達は籠城していた。
さとるっちに球体状に無限を張って貰った瞬間、先程のアイツ────ヘドロの様な敵に呑み込まれたのだ。
どうやら敵は私達を取り込み、個性を手にしようとしているらしい。さっきからバンバン無限を叩くヘドロの手を眺めつつ、勝己に引っ付いた。
『離れないでね勝己。離れたら勝己が無限から放り出されちゃうっぽいからね』
「わーっとる。…無理してねぇか」
『今の所は大丈夫。…ヒーローまだかな』
《ボンクラ シカ イナイヨ !》
『ねぇさとるっちが時々めちゃくちゃ毒吐くの。勝己に似た?』
「はぁ?お前もキレたら口悪ぃだろ。それに似たんじゃねぇの?」
『えっ、嘘』
「キレたらお前くたばれとか言うぞ」
『うそ……おしとやかになろ…』
着やせする勝己にしっかりしがみつきつつ、ヘドロに覆われた外を見る。
ちらほら聞こえる声から察するに、ヒーローは何人か現着しているのだろう。
「はやくううううううう!!出てこおおおおおおい!!!」
「くっそ…!ンのヤロ…!!」
勝己が悔しそうに歯噛みする。
ただ、この敵と現場に居るヒーローとの相性が悪いのだ。
流動体を物理特化が掴める筈もなく、シンリンカムイとデステゴロは撤退。
Mt.レディは二車線以上の広さがないと動けず、消防服に似た戦闘服のヒーローは水で規制線を張るのみ。
『なんで不利個性にもそれなりに戦う方法とか考えてないんだよクソ共…』
「お口が悪ィぞ刹那チャン。オシトヤカは何処行ったよ」
『生死の境でお淑やかとか要らなかった』
「はっ、そりゃそうだ」
勝己が笑ってみせるが、その笑みにも何処か余裕がない。
…多分、バレているのだ。私の限界が少しずつ、近付いている事が。
左手で私を引き寄せながら、勝己はそっと囁いてきた
「あと、どんぐらいだ」
『……死ぬ気で頑張って、三十分』
「死ぬ気じゃなかったら」
『今すぐ解きたい』
さとるっちが無限を自在に使っている様に見えるが、大本は私なのだ。さとるっちは無限を使う上での演算装置に過ぎず、必要なエネルギーは私から放出される。
勿論、こうして無限を維持するのにも、私のエネルギーを消費しているのだ。
籠城して既に三十分。こんなに長時間無限を展開した事なんてない。
正直今すぐにでも解きたいけれど、解けば最後、ヘドロに取り込まれて終わりだろう。
「ヒーローはどいつもこいつもヒヨってやがる……」
『勝己、どうする?』
外からの救援を待ったものの、未だ救けは来ない。このままじゃジリ貧だ。
最悪のシナリオは私が限界を迎えて、共倒れ。
問い掛けた私に、勝己が口を閉ざした。
「出てこおおおおおい隠れミノオオオオオオ!!!」
《ウルセー!!!》
切れ長の目が伏せられ、静かに思案している。
そんな勝己を横目で見つつ、蟀谷を伝う汗を拭った。
数分経った頃だろうか。
私をじっと見下ろして、それから勝己がゆっくりと口を開いた
「────ぶちかますぞ」
「幾ら待ったって救けは来ねぇ。此方だってもう保たねェ。
そうなりゃあ、打って出るしか道はねぇだろ」
『…無限を解くって事?』
ヘドロには聞こえない様に、顔を寄せて囁き合う。
さとるっちは無言で私の肩の上を陣取っていた
「お前、確か瞬間移動出来なかったか?」
『出来るけど、アレは予めルート引いとかなきゃ出来ないよ?』
「…さとるはお前にくっ付いとかねぇと無限を使えねぇんだったか。
…ならすぐるは?すぐるはルート、引けんのか?」
《ヒケルヨ》
「じゃあ決まりだ」
にいっと口角を吊り上げた勝己は、周囲を蠢くヘドロを鋭く睨み付けた。
「簡単に説明すんぞ。
先ず、お前らが無限を解く。落ちてくるヘドロを、俺が最大火力でブッ飛ばす」
『……ふむ?』
「無限を解いた瞬間に、お前はすぐるを走らせろ。安全圏までルート引けたら、瞬間移動でヘドロを振り切る」
『つまり、勝己の最大火力はブラフ?』
「まぁ触られりゃアウトっぽいからブッ飛ばすのもあるけどな。この作戦、お前らが肝になンぞ。…やれるか?」
静かに、しかし煌々と燃え上がる紅い瞳に見つめられ、胸の奥がじわりと熱を持つのを感じた。
勝己に、信頼されている。
それだけで、何でも出来そうだ。
『やる。全力で頑張るよ』
力強く頷いた私に、勝己が口角を吊り上げた
「……上等ォ。こんなトコ、とっとと抜け出すぞ!」
作戦は決まった。
とはいえ露骨に動いてしまえば、此方の作戦は失敗に終わってしまう。
出来れば、ヘドロが此方から意識を外した時が良い。
チャンスを待って、更に十分。
長く続く緊張感に、少しだけ頭がふわふわしてきた。
そんな私を勝己がぐっと引き寄せた。
「チッ…寝んなよ刹那…!」
『……まだ、がんばれる…』
《カツキ! せつなっち ソロソロ ゲンカイ !》
「ヘドロ野郎は此方見てやがるが…仕方ねぇ、刹那!やるぞ!」
勝己が私を背後に下がらせ、腰にしがみつかせた。
ぎょろりとヘドロの目玉が此方を捉え、笑みの形に歪んだ。
勝己が低く腰を落とし、手を構えた、瞬間────
「かっちゃん!!せっちゃん!!!」
「!?」
不意に馴染みのある声が響き、ヘドロの目がそちらに向いた。
────チャンスが、来た
「デク…!?
ッチ!!刹那!!」
『解除!!』
ずっと展開していた無限を解除する。
その瞬間に降り注ぐヘドロ目掛け、勝己が最大火力で爆破を放った
「────死ねぇ!!!!!」
BOOOOOOOOOM!!!
凄まじい爆音と共に、爆炎がヘドロを吹っ飛ばす。
後方から迫るヘドロを爆破で退け、勝己が私を抱えて撤退を始めた。
「やっと出てきたな隠れミノオオオオオオ!!!」
「クソが!!誰が隠れミノじゃカス!!!」
ヘドロが勝己に纏わり付こうとする。
それを何とか躱していた時、さとるっちが合図した
《オッケー!!》
『いくぞっ!!』
ばん!と両の手を叩き付ける様に組む。
その瞬間────ぱっと、画面が切り替わる様に、視界が変わった。
「っで!!」
『うっ』
「!?子供が出てきたぞ!!」
勝己に抱えられたまま、デステゴロの前に転がり込む。
そのまま二人纏めて抱えられ、即座に奥に避難させられた。
頭がぐわんぐわんする。朦朧とした意識の中で、ぎゅっとしがみついたままの勝己に顔を埋めた
『……かつき、わたしたち、たすかった…?』
「…ああ。お疲れ、刹那」
…そっか、よかった。
頑張ってくれたすぐるっちがそっと頬を撫でて、さとるっちがすりすりしてくる。
もう目蓋を持ち上げていられない。
最後に優しく抱き締めてくれる腕の温もりを感じながら、意識は沈んだ
あの後、オールマイトがヘドロをブッ飛ばして事件は解決した。
個性の使い過ぎで気絶した刹那と俺はヒーロー達に称賛され、何故かあのヘドロに立ち向かったらしいデクは説教されていた。
念の為に病院に行き、検査結果で異常なしと診断されてから、俺達は漸く帰路に着く事が許された。
流石に疲れ、ベッドに入るなり秒で意識を失って────
「や、おはよう。起きてる?」
「誰だてめェ!!!!!!」
目を開けた瞬間、髪を逆立てた目隠しの男に超至近距離でツラを覗き込まれていたら。
────爆速で爆破をかました俺は絶対に悪くない
「おっと!
あっぶないなー、なになに?目が覚めた瞬間からバチクソボンバーマンなの?ウケる」
「ンだそのネーミングセンスは!つーか誰だてめェ!!」
爆破を顔面目掛けて放つのと同時に、素早くその場から飛び退いた。
威嚇程度の攻撃で起きた黒煙を手で払いながら、男は口角を吊り上げた
「えー?人に名前を聞く時は自分からって習わなかった?コレって人間関係の基本じゃない?」
おちょくる様な声音で放たれる言葉は、只管に俺の神経を逆撫でした。
殺して良いだろうか。よし、殺そう。
鉤の様に指を曲げ、腰を低く落とした所で────男の雰囲気が、変わった。
ずん、と空気が、重くなる。
「最初はさぁ、ほっとこうと思ったんだよ?
だってあの子は僕らを覚えてないから。覚えてないあの子は、僕らのあの子じゃないから」
息がしにくい。
全身に掛かる重力が倍になったかの様に、身体が重い。
歯を食い縛る俺の前で、男が更に意味の判らねぇ言葉を続ける
「でもね、それでも。あの子はあの子なんだ。
僕にとってはそっくりな偽物だけど、それでもその魂魄は同じなんだよ。
あの子は沢山傷付いた。
だからね。今回は、あの子には傷付かずに生きて欲しいんだ。
勿論ナイト役のガキが近付くのも嫌だったけど、仕方無いから許したよ。友達は居ないと寂しいもんね。
うん、許した。僕らはオマエを許したんだ。
…でも、そんな実力であの子を危険な目に遭わせるなら」
男がゆっくりと、嫌味な程に長い脚で距離を詰めてくる。
真っ白な空間の中、黒衣に身を包んだ男が目の前で靴音を鳴らした。
白い指が額に伸びる。
ぱさりと黒い目隠しが首に落ちた。
白い睫毛に覆われた目蓋が、持ち上がる。
青空の様な蒼い瞳は、酷く感情のない色で俺を映した
「此処で殺しちゃった方が、あの子の為になるよね」
「──────ッ!!!!!」
────死。
捻れて死ぬ。嬲られて死ぬ。潰れて死ぬ。叩き潰されて死ぬ。千切られて死ぬ。折れて死ぬ。玩ばれて死ぬ。砕かれて死ぬ。破かれて死ぬ。崩れて死ぬ。飛び散って死ぬ。跡形もなく死ぬ。
死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死。死。死。死。死。死────
「────なーんてね!怖かった?」
「……………………は、…?」
……男は、にっこりと笑っていた。
気付けば口で息をする程に呼吸が乱れていて。
頬を冷や汗が伝うのを、何処か他人事の様に感じた。
……生きてンのか、俺。
夥しい程に死のイメージを浴びせられた状態から、きっとまだ抜け出せていないんだろう。
バクバクと慌ただしい心臓を落ち着かせる為に、深い呼吸を繰り返した。
その様すらじいっと見つめてくる男は、正直言って気味が悪い。
まるで、知らない生物の生態を備に観察している様な────そんな、無機質な眼をしていた。
ぼたぼたと滴る程にかいた冷や汗が気持ち悪い。
それを手の甲で拭えば、ぱちぱちと白い睫毛が上下した
「ふーん…発狂しない程度には根性あるんだ?」
「………てめェ、何者だ」
「言ったでしょ?人間関係の基本は自分から名乗りましょうって」
にっこりと笑った男に舌打ちを溢し、渋々口を開いた
「…………………爆豪勝己」
「うん、知ってる」
死ねやクソ知ってンなら名乗らせんなやカス。
無言で睨み付ける俺をヘラヘラと笑って、作り物みてぇに綺麗なツラの男は名乗った
「僕は五条。
えー、早速ですが!僕が弱っちい君を鍛えようと思いまーす!!イエイ!!!」
「─────あ゙?」
長い脚が腹に入る。
地に転がされた俺を見下ろして、クソ目隠しは笑った
「それこそ、引き剥がせるならそうしたいんだけどさぁ。
あの子はオマエにべったりだもんねぇ。……あー、とっとと殺しときゃ良かったかな」
「ク、ソがぁ…!!」
直ぐ様起き上がり、掌を向ける。
放った爆破は目隠しには届かず、伸ばした腕を掴まれた。
鳩尾に拳が叩き込まれ、肺に溜まっていた空気が吐き出される
「そもそもさ、オマエは弱いよ。折寺だっけ?あの小さな箱庭の中で一番ってだけ。
────オマエは弱いよ、勝己。
だから、僕に指一本触れる事すら出来てない」
「オラァ!!」
「狙うならちゃんと狙いな。折角爆破なんて良いモン持ってるんだから、もっと効率的に使えよ」
振り抜いた膝をでけぇ手で押さえ、裏拳で頬を張られる。
吹っ飛ばされそうな所を踏ん張り、思い切り右の大振りを放った
「死ねぇ!!!!!」
「それ、癖?確実に仕留められないなら致命的な弱点になるよ。
そもそも格上に至近距離で大振りとかさぁ、舐めてるよね?」
ガン、と顎を撃ち抜かれる。
……やべぇ、モロに入った。
受け身も取れず崩れ落ちる俺に、男は腹の立つ笑みを向けた
「先ず身体硬いから、柔軟しっかりね。じゃ、また明日!」
クソが死ね今すぐに死ね早く死ね次はブッ殺す。
脳内で呪詛を浮かべる内に、視界は黒に呑み込まれていった。
「────クソがぁ!!!!!」
怒鳴りながら目を覚ました。
夢だった。それはもう理解してる。
ただ、あの夢はただの夢じゃねぇ。
感覚が────殴られ蹴られた痛みは、間違いなく本物だった。
「………チッ」
────オマエは弱いよ。
その言葉を思い出し、舌打ちが零れた。
邂逅
刹那→さとるっちは演算装置。くっついていないと無限は使えない。
無限は本家より全然弱い。
爆豪→魔改造スタート。
目隠し(ゴミ箱産)→来ちゃった☆
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