はじめの一歩
呪力を操る特訓。
犬に見付かったら目隠しとエセ坊主に襲われるかくれんぼ。
猫の無限を呪力で感知し、躱す訓練。
ボコられた後にウサギが駆け回って傷を治し、また行われる戦闘。
エセ坊主による相手の思考、及び心理状況を読み、誘導する人心掌握術。
クマ女による、的確に相手の急所を突く為に覚えさせられた人体解剖学。
最後、目隠しにより唐突に行われる何でもアリの組手。
これらを四月から約十ヶ月、ほぼ毎晩行った
……普通に考えて、良く生きてンな、俺。
クマ女曰く、俺が痛みに耐えきれなくなっていれば肉体がフィードバックを起こし、死んでいたかも知れなかったらしい。
それもあの目隠し、判っていながら俺に言わず、しかも腕を折ってやがったんだとか。
やっぱあれだ、あの目隠しはイカレてやがる。
「勝己ー!!まだ寝てんの!?今日受験でしょ、しっかりしな!!!」
「うるせー!!!!とっくに起きてンだよ朝っぱらからうるせぇなクソババァ!!!!」
「ババァ言うな!!」
リビングに降りれば早速ババァに叩かれた。
それに目を吊り上げつつ、用意された飯を食って家を出る。
真横の家の塀に凭れて一分程度、扉が開いた。
俺を映した菫青の大きな瞳が、ゆるりと細くなる
『おはよう勝己』
《カツキ! オハヨウ!》
「おはよ」
「おはよう勝己くん」
「おはようございます」
「じゃあ、行ってらっしゃい二人とも!頑張ってね!!」
「行ってきます」
『はーい。行ってきます』
邑子さんに見送られ、駅に向かう。
人の多い駅で、早速方向音痴が妙な向きに足を踏み出したので、素早く手を取った。
「アホ。此方だ」
『えっ、反対…?』
「迷子で受験出来ませんでしたとかシャレになんねぇぞ。ちゃんと着いてこい」
『はーい』
小さく柔けぇ手を引いて駅を歩く。
刹那の頭にしがみつく猫は周囲を見渡して、尻尾を揺らしていた
《カツオブシ ノ ニオイ !》
「あ?お前飯食えンのか?」
『なんかね、湯気で味を吸い取ってるんだって。さとるっちが食べた後のご飯食べると味がないの』
《アジダケ モラウヨ!》
「味のしねぇ飯とか食いたくねー」
俺の言葉を聞いて白猫は笑っていた。つーか飯食う個性ってなんだ。いや、コイツの個性は特殊枠だし、良いんか…?
『勝己はさ、緊張とかしないの?』
「しねぇ」
『そっか。強心臓だ』
人の多い電車の中、壁際に刹那を立たせ、正面を陣取った。
俺を見上げ笑みを浮かべているコイツも、一見緊張の色はない。
ただ、何時もより表情が固い辺り、大分判りやすいと言える。
「…俺と鍛えたんだぞ。自信持てや」
『!』
ただでさえでけぇ目を丸くして、それから刹那はふわりと微笑んだ。
『ありがとう勝己。元気出た』
《カツキ ヤサシイ !》
「ぁあ?俺は前からヤサシイだろが」
ふん、と鼻を鳴らせばくすくすと刹那が笑う。
そもそも無限という絶対防御に、索敵に秀でた術式、それから反転術式を使えるぬいぐるみを個性としてその身に宿しておいて、一体何が不安だというのか。
…ああ、違ぇわ。
コイツそもそも、その三体がどんだけ凄ェか知らねぇんだった。
────刹那にはね。
呪いなんて知らずに、幸せに生きてほしいんだ。
五条達は、自分達を思い出させようとは考えていない様だった。
だからこそ、大変不服そうではあったが俺に刹那を任せると決めたのだろう。
故に、刹那は三人の化物を知らない。
その化物達の能力を持つぬいぐるみが、本当はどれだけ強いのか、知らない。
「マジで自分でどうにも出来ねぇって思ったら、さとるを頼れ。
俺が手ェ貸してやっても良いけど、多分それじゃ減点対象になんだろ」
受験の実技がどんなモンか判らねぇ以上、受験者同士での協力は自力でどうにも出来ねぇと判断され、減点される可能性もある。
それを説明せずとも理解したのか、小さな頭が上下した
『うん。ありがと勝己。
さとるっち、いざって時は宜しくね』
《オマカセアレ!》
…マジで心配しなくても良いと思うけどな。言わんけど。
「つーか、マフラーくらいちゃんと巻け」
『巻いてるよ?』
「コッチのが暖けぇんだよ」
地下鉄を乗り継いで四十分程度、駅を出た所で勝己にマフラーを巻き直された。
ワンループ巻きになった青紫のマフラーを触っていれば、さとるっちがその上からくるりと巻き付いてくる。
『巻き方、勝己とお揃い?』
「マフラーの巻き方にお揃いなんぞ考えんな。お前は兎も角、モブとお揃いとか吐きそうだわ」
『そろそろ知らない人をモブって言うの止めようね』
《サムーイ!!》
『ああ、猫だもんねさとるっち…』
「いやぬいぐるみ寒くねぇだろ」
《ヌイグルミ ジャナイ! さとるっち !》
「へーへー。…うお、子供体温やべぇな」
《『ぎゃっ』》
ずぼっと首に冷たい手が突っ込まれ、さとるっちと共に悲鳴を上げた。
犯人はくつくつと笑っている。許すまじ。
「お前らwwwww反応一緒かよwwwww」
『つっめた…ゆるさないから…ぜったいゆるさないから……』
《カエル バクダン モ ジサナイ ショゾン》
「真顔やめろやwwwwww此方見んなwwwwww」
『お前ほんと許さないからなクソ爆発頭』
「はぁ?ンな事言って良いんか?
お前ら帰り置いて帰っかんな」
『えっそれはこま……ぎゃっ!!』
方向音痴を見知らぬ土地に置いていくとか正気か?
そう続ける前に、もう片方の手も突っ込まれた。ひどい。つめたい。さむい。ぞわぁってした。
ほんっとこいつ転べば良いのに…
『ひどい…クズ…このクズが…クソたんぽぽ野郎…』
「ボソボソ言やぁ見逃すってルールねぇぞ。黙って俺の合格の為の生贄になれ」
『カイロ持ってこいやカス…手袋しろやボケ…』
「おーおー。オシトヤカは何処に落としたよ刹那チャン」
『これ絶対勝己の口の悪さが伝染ったんだと思う』
「俺の所為にすんなや」
くつくつと笑いながら、勝己が私を歩かせる。
肌にくっ付けられた掌はひんやりとしていて、どんどん私の体温を吸っていくのが恨めしい。
そして、それより気になる事が出来てしまった
『勝己、めちゃくちゃ見られてんだけど』
《ミセモンジャ ネーゾ!》
この駅で降りるのは、受験者が殆どだ。
勿論雄英を受ける他の学生と同じ道を行く事になる訳で。
受験直前に、女子のマフラーの中に手を突っ込むヤンキーが居たら、そりゃ目立つ。
家でなら良いけど、こんなに人目のある所だと流石に恥ずかしい。
だが勝己は取り合ってくれないのだ
「モブなんかほっとけ。路端の石くらいに思っときゃ良い」
『いや、なんか嫌じゃん…ジロジロ見られて良い気分はしないでしょ…』
「チッ…しゃーねぇな…」
もごもごと苦情を述べる私に根負けしたのか、勝己が舌打ちした。
よかった、手を抜いてくれるのか。
そう思った、ら
「見てんじゃねぇよ雑魚!!」
『違うそうじゃない』
《コイツ ヤベェナ !》
手を抜くじゃなくて見ている人を蹴散らす方を選択する辺り、ほんとこいつ…
思わず頭を抱えてしまった。
坂を登り、辿り着いたガラス張りの高層ビルの前で、思わず感嘆の声が漏れた
『やっと着いた…』
「あ?ンだよ、疲れたんか?」
『お前の所為でな』
《オツカレサマンサー!》
「やめろ猫。それは殺意が沸く」
『え、勝己の殺る気スイッチ何処なの?』
急に殺意とか敵じゃん…
すっかりぬくぬくになった手が首元から出て、私のマフラーの乱れを直していった。
『そもそも坂だったんだし、勝己代謝良いから直ぐ暖まるじゃん…』
「冬は調子がクソなんだよ。それに冷えは身体に良くねぇ」
『勝己の事これからおじいちゃんって呼ぶわ』
「あ゙?」
『人を湯たんぽにしたのも許してやるよおじいちゃん』
《カツキオジーチャン!》
「てめェら調子ぶっこいてっとマジで置いて帰っかんな」
『ごめんなさい』
《ゴメーンネ☆》
頬をもにもにしてくる勝己と共に、アーチ状の校門を潜る。
そこで見慣れたもじゃもじゃを見付け、私とさとるっちは声を掛けた
『おーい、出久!』
《イズク ヒサビサ !》
「せっちゃ…とかっちゃん!!」
「退けデク!!
俺の前に立つな殺すぞ」
「おっおはようガンバ張ろうねお互いに」
やっぱり出久には怒鳴るらしい。
なんでそんな毛嫌いするかなぁ。苦笑いしていれば、頬を触っていた手に腕を取られた。
そのまま、出久をスルーして会場に向かう勝己に引っ張られながら、私は手を振った
『お互い頑張ろうね出久!』
「あ、う、うん!」
「今日は俺のライヴにようこそー!!
エヴィバディセイヘイ!!」
《ヘーーーーーイ!!!》
受験会場のピリついた空気では、勿論レスポンスなんて返らない。
それなのに何故求めるのか。
ただただ試験官の考えが読めず、居心地が悪い
『……いや受験生そんな気分になれなくない?』
「コッチに合わせるつもりがハナからねぇだけだろ」
口元を手で隠して、こそりと右隣の勝己に話し掛ければ、さらりと返された
「こいつぁシビィー!!受験生のリスナー!!
今から実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!アーユーレディー!?」
《イエーーーーー!!!》
やっぱりレスポンスはない。
いや、さっきからウチの子がイェイイェイ言ってるけど、それはノーカンで良いだろう。どうせ私と勝己以外には聞こえないのだし。
というか、試験官が一人で「YEAHHH!!!」と騒いでいるのはどう受け取れば良いのだろう。
首を傾げる私の左隣で、出久が感激した様子で口を動かした
「ボイスヒーロー“プレゼント・マイク”だ…凄い…!!
ラジオ毎週聴いてるよ感激だなぁ雄英の講師は皆プロのヒーローなんだ」
「うるせぇ」
『結局その癖直らないんだな…』
慣れてはいるが、隣でブツブツ言われると怖い。もういっそ普通の声音で言ってほしい。聞くから。うるさいとか思わないから。
出久の話は面白いんだけど、ブツブツ念仏みたいに言われるのは怖い。
「入試要項通り!リスナーにはこの後!十分間の“模擬市街地演習”を行って貰うぜ!!
持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場に向かってくれよな!」
実施会場はAからGまでの七ヶ所。
てっきり最低でもどちらかとは同じ会場になれるかと思ったのだが、予想は外れたらしい。
隣から私の受験票を覗き込みながら、勝己が呟いた
「
「ホ、ホントだ。受験番号連番なのに会場違うね」
「見んな殺すぞ」
『私の覗き込みながら言う事じゃないんだよなぁ』
《キャー! カツキ サンノ エッチ !》
「お前猫にどんな教育しとんだ…」
『最近ドラえもん好きみたい』
「ドラえもん…?何が?」
不思議そうな出久を勝己は軽やかにスルーした。出久、さとるっち見えないもんな。
勝己と出久の受験票も見たが、皆バラバラだった。
まぁ、この試験内容的に勝己と同じ会場じゃなくて良かったとは思う。
ロボットを壊せば良いという事は、彼の独壇場になるだろうから。
「演習場には仮想敵を三種・多数配置してあり、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある!
各々なりの個性で仮想敵を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが
勿論他人への攻撃等、アンチヒーローな行為は御法度だぜ!?」
プリントに目を落とす。
行動不能…つまり破壊ないしその場から動けなくすれば、難易度に応じたポイントが入るという仕組みの様だ。
それならすぐるっちでロボットを探し、さとるっちで片っ端から潰すのが早いか。
『頑張ろうね、さとるっち』
《ブチカマスゼ!》
方針は決まった。
口許を隠したままで僅かに顎を引いた所で、斜め前方に座る人が勢い良く挙手した
「質問宜しいでしょうか!?
プリントには四種の仮想敵が記載されております!
誤載であれば、日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!
我々受験者は、規範となるヒーローの御指導を求めてこの場に座しているのです!!」
…いや、誤載とか有り得る?入試内容のプリントで?
ちらりと右隣を見れば、勝己がつまらなそうな顔で眼鏡の彼を見ていた。
「ついでにそこの縮れ毛の君」
「!?」
不意に眼鏡の人が振り向き指差したのは、出久だった
「さっきからボソボソと…気が散る!
物見遊山のつもりなら、即刻
「すみません…」
「……くだんね」
ぼそりと勝己が呟く。
それが眼鏡の彼に聞こえていないかヒヤヒヤしたが、どうやら杞憂で済んだらしい。
プレゼント・マイクが質問に鷹揚に頷いた
「オーケーオーケー!受験番号7111くん、ナイスなお便りサンキューな!
────四種目の敵は0ポイント!そいつは言わばお邪魔虫!
スーパーマリオブラザーズ、やった事あるか?レトロゲーの」
《マリオ! ナツカシイ!》
『?ウチでやった事あるっけ?』
「あー…………多分やってんぞ、俺んちで」
『そう?』
小さい頃の話だろうか、ちょっと覚えてないな…
首を傾げた私の隣でさとるっちと勝己が話しているが、私はプリントに視線を戻した
「アレのドッスンみたいなモンさ!
各会場に一体!所狭しと大暴れしているギミックよ!」
『………?』
ドッスンってなんだ。
周りは避けて通るギミックとか何とか言っているけれど、ダメだ。さっぱり判らない。
ドッスンってどれ?羽生えたカメ?それとも茶色いヤツ?
そっと右隣を見上げれば、此方を見下ろしていたらしい勝己が溜め息を溢した。
シャーペンを取り出して、私のプリントにさらさらと何かを描いていく。
さとるっちが動くシャーペンの先にじゃれついて、勝己に首根っこを掴まれた
「ドッスンっつーのはこういうヤツだ。同じ場所に居て、一定間隔で持ち上がっちゃ降ってくる門みてぇなの」
《タオレテクル ドッスン イルヨ!》
「そりゃ一般的なドッスンじゃねぇだろ。この場合は、その場から動かねぇタイプじゃねぇの?」
『……茶色い歩くのじゃないの?きのこの山みたいな』
「それクリボーな」
《キノコ タケノコ センソウ !》
「俺もコイツもたけのこ派だぞ」
《ワヘイ ケッテイ!》
『あ、だから優輝がたまに味しないって騒いでたのか…』
「弟の食うなや」
《さとるっち タケノコハ!
キノコハ ユルサン !》
そうか、あれはクリボーと言うのか。
ドッスンというのがこういうものなら、その場に近付きさえしなければ大丈夫そう。あれ、でも所狭しと大暴れしているギミックって言ったな?
え?どういう…?ドッスンに足生えんの…???
門に…?門に足…???
あ、でもさとるっちは倒れてくるドッスンも居るって言ってたな?
つまり…?ドッスンは門から出られる…???
勝己の描いた四角い門みたいなキャラクターに、そっと手足を描き足した。
その瞬間、黙って見下ろしていた勝己が口許を押さえ、勢い良くそっぽを向いた。
さとるっちはその場で爆笑し始める
「ぶっは…何でそうなんだよ…!!!」
《コレハwwwwwwヒドイwwwwwwwww》
『え?だって所狭しと大暴れするドッスン…』
「そこにサンプル載ってんだろが…!!!」
『あ』
《wwwwwwwwwwwwww》
そうだった。サンプル載ってた。
そっか、ドッスンじゃなくてドッスンっぽいギミックだった…
まだそっぽ向いてぷるぷるしてる勝己の肩をそっとつつく。
やめてほしい。そんなに笑うのやめてほしい。
恥ずかしさで居たたまれなくなるから。ねぇほんと笑うのやめて。
周りから注目されちゃうから…ねぇ眼鏡の人睨んでるから…
「俺からは以上だ!
最後にリスナーの諸君へ、我が校校訓をプレゼントしよう!
かの英雄、ナポレオン=ボナパルトは言った!“真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者”と!」
プレゼント・マイクが口角を吊り上げる。
それを見て、しゃんと姿勢を正した
「
それでは皆、良い受難を!!」
『さとるっち、すぐるっち、しょうこっち。いけそう?』
《オッケー!!》
着替えを終わらせて、演習場に向かうバスを待つ。
その空き時間、三体の友達を見渡して、一つ頷いた。
私の隣に立っていた勝己は緩く腕の筋を伸ばしていて、緊張はしていなさそうに見えた
『勝己、保冷剤持った?あとカイロ』
「試験中にゃ要らねぇよ」
『じゃあ何入れてんのそのポーチ』
「棍」
『こん?』
「あとクナイ」
『ちょ、まって。待って???』
こん?あとクナイ?は???
クナイってあのクナイ?忍者の使うあれ???
無言で腰のポーチを開けた。
勝己は止めもせず、肩甲骨の辺りを解している。
横長のしっかりしたポーチの中に入っていたのは、赤い三本の棒。ポーチのカバーの内側には紙を括り付けたクナイが取り付けてあって、私は無言で閉めた。
『……勝己は忍者だった…???』
「それは遠距離の敵を速くブッ殺す為のクナイだ。俺の汗染みさせた紙括ってある」
『その…棍?は?』
「三節棍だ。あー…後から詳しくは説明する。俺、複合個性だった」
『えっ』
「ンで、コイツはそれで使っても壊れねぇヤツ」
マジか。爆破ってだけで強いのに、複合個性だった?
え、複合個性?何時気付いたの?
ぽかんとする私の頭をぽんと撫で、勝己は次にさとるっち達の頭を順に撫でた。
「……任せるぞ」
《オマカセアレ!
カツキ ケガ スルナヨ !》
「誰に言ってンだ」
《オマエ ムチャ シガチ !》
「うっせー」
さとるっちのおでこを指先でつついて、勝己は腰を上げた。
此方を真っ直ぐに見て、緩く握った拳を向けられた
「…怪我すんなよ」
『うん。勝己も怪我しないで、頑張ってね』
「おー」
こつん、と自分の拳を当てる。
にっと笑った勝己と別れ、演習場に向かう。
緩く関節を伸ばして準備運動していれば、上空から声が降ってきた。
「ハイスタートー!!」
《せつなっち! イクゾ !》
『!』
さとるっちに促され、飛び出す。
突然の宣言に対応できたのは少数で、動かない受験者を急かすプレゼント・マイクの声が響いた
「どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れぇ!!
賽は投げられてんぞ!!?」
『すぐるっち!』
こくりと頷いた黒い姿が瞬く間に遠くなる。
先に飛び出せたものの、私の身体能力は平凡だ。
こんな速度じゃ直ぐに後続に追い付かれてしまうだろう。
『さとるっち、瞬間移動で飛びまくるのってどう!?』
《ソレヨリ オススメ アルヨ !》
『じゃあそっちで!』
《オマカセアレ!》
肩に乗っていたさとるっちが飛び降りた。
その姿が煙に覆われ、同時に身体が浮く。
ぐんと視界も高くなって、下を見れば、真っ白な長毛が見えた
《キョダイカ デキル ヨウニ ナリマシタ !》
『えっ、すご!?これもレベルアップってやつなの?』
《レベル20 タッセイ ボーナス!》
何時レベル上がったんだろう。良く解らないけど、ありがたいのは確かだ。
さとるっちの首根っこ辺りの毛に掴まって、合図を出す
『さとるっち、GO!!』
《ブチカマスゼ!》
たん、と虎の様なサイズになった白猫が地を蹴った。
〈標的捕捉!!ブッ殺ス!!〉
「ぁあ!?死ねやクソ!!!」
御丁寧に標的の方から自己主張してくれるとは舐めてんな。
1Pのソイツの硬さを確かめる為、軽く爆破してみた。
即座に頭が吹っ飛んだのを見て、1Pは呪力を纏った拳で余裕だと確信する。
〈標的捕捉!!ブッ殺ス!!〉
「2P…てめェ少しは硬ェんか?」
先程と同じ威力でギリギリ首が落ちた。
耳障りな音を立てて崩れ落ちた機械の向こう、わらわらと此方に寄ってくるターゲットを目にして、俺は口角を吊り上げた
「騒げば近付いてくるって訳か。じゃあ────」
近くに居た2Pを壊し、腕を構える。
爆破で宙を駆け、建物の影に居た3Pにクナイを投げ付けた。
…予想以上に派手にブッ飛んだのを見て、そっと目を逸らす。
いやこれ………目隠しに貰ったけど 、威力…
確かに紙に呪力を宿していたが、まさかあんなに景気よく燃えるとは。
あの野郎、受験で使えっつったのに威力……人に使ってたらこれ爆発四散してたんじゃ………良いや、忘れよう。
音に惹かれ近付いてきた仮想敵の装甲に書かれたポイントに合わせ、攻撃を変える。
最小の威力で最大の結果を。
それは目隠しが言っていた、戦いに於いての心掛けだった。
この試験は十分間戦い抜けば、それで勝ちだ。出し惜しみする必要もねぇ
「んじゃまァ────くたばれ!!!!」
静かに腰を落とし、飛び掛かった
〈標的捕捉!!ブッ殺ス!!〉
『勝己じゃん』
《ブッコロス !!》
『ダメな言葉覚えちゃったな』
すぐるっちの案内を頼りに、巨大化したさとるっちに乗って演習場内を駆け回る。
なんだか此方から動かなくても仮想敵が近付いてきている様に思うのは、何故だろうか。
《ニャーン!》
『強いねさとるっち!』
《オレ サイキョー ダカラ !》
3P敵を無限で叩き潰し、さとるっちが飛ぶ。高く飛び上がり、眼下に群がる大量の敵に向けて、仮想質量を叩き付けた
『ナイス、さとるっち!』
《マダマダ ツブスヨ !》
キャパ的にも問題ない。
今のだけで結構なポイントを稼げた。大雑把だけど、持ち点は大体40くらいだろうか。
どうせなら50はいきたい。
仮想敵を見付け、無限をぶつける。近付いてきたものも纏めて押し潰した所で、地鳴りの様なものが聞こえてきた。
『……え』
ズシン、ズシンと地が揺れる。
音のする先────ビルを両手で押し退けながらやって来るそれに、顔が引き攣った
「逃げろー!!!!」
「死ぬ!!死んじゃうよ!!」
「無理だ!!」
『…これがドッスン…』
《アルク タイプノ ドッスン カー》
見上げる様なサイズのロボットが、地鳴りを響かせながら此方に向かってくるのが見えた。
サイズはイカれている上に、0ポイント。つまり此方に何の旨味もない。
とっとと撤収した方が賢明だろう。
キャパが残っているとはいえ、無理に倒す必要もない。
『さとるっち、どう思う?』
《ジカン ノ ムダ !》
『だよね』
《テッタイ シマース !》
駆け出したさとるっちに連れられて、私は直ぐに離脱した。
────勝己。
手を武器にする者が武器を持っちゃいけないなんて、そんなの武器を使えない奴の言い訳だよ。
鎖で繋がれた、三本の深紅の棒。
鉄か鋼か、それなりに重量のあるそれを、軽く振り回してエセ坊主は微笑んだ
────入学祝いの前倒しさ。
特級呪具、游雲。
コイツは君に合う様に調整した特別製だから、好きに使うと良い。
空中で右腕を振る。
三本の棒が撓りながら空を切り、1Pの頭を砕いた。
そのまま隣の1Pの胴を折ると、最後に3Pの腕に亀裂を入れた。
すかさず3Pの脳天に爆破を放つ。
ガラクタが崩れ落ちる間に、身を捻りながら右手で大きく游雲を振る。
一気に五体の顔を潰し、声を張った
「とっとと来いやぁ!!!」
着地。振った勢いのままに首に游雲を掛け、爆破で宙を舞う。
トロトロ向かってきやがる機械共を爆破してガラクタに変え、振り下ろされた腕に三節棍をぶつけた。
腕を捥がれ、体勢の崩れた3Pの顔面に棍を振り下ろし、息を吐く。
周囲に動いている機械は居ない。得点は…これで80はいったか。
残りは三分弱。
もう時間がない。とっとと次の集団を────
「にっ、逃げろぉ!!!」
「あ?」
慌てふためくモブ共を尻目に、そちらを見る。
周囲のビルを押し退けて、ソイツは身を起こした。見上げる高さの機械は、ゆっくりと足を上げる。
ズシン、ズシンと地鳴りを起こしながら前進を始める仮想敵に、モブ共は完全に充てられちまったらしい。
「敵は0P、倒そうが得はねぇ」
距離は300m程度。鈍重な動きを見る限り、回避はないと見て良いだろう。
他の仮想敵と同じ様に腕で攻撃をしてくるかも知れねぇが、あの速度なら怖くない。
つまりアレは、俺からすればクソでけぇサンドバッグでしかないのだ
「得はねぇ、が」
口角を吊り上げた。
両腕を斜め下に向け、飛び上がる。
「────腕試しにゃあ、丁度良いよなぁ!!!」
直ぐ様接近し、游雲を高く掲げる。
呪力を漲らせたそれを、硬ェ顔面に叩き付けた。
思い切り振り抜いてはみたものの、ソイツのツラはめごっと音を立てて大きくひしゃげた程度。やっぱ硬ェ。
だがまぁ、余裕で行けるわな。
三節棍を操り、センサーであろう顔面中央の赤い半球を全て叩き壊した。
鈍重な動きが一瞬だが、完全に止まった所で、游雲を宙に放る。
両腕を、真下に居る0P敵に翳した。
────勝己の身体はさ、まだ成長途中なんだ。
今は最低限、現状での最大火力で肩がイカれない程度の筋肉を付けてるだけ。
言っとくけど、呪力を漲らせて三割以上の爆破なんか使ったら、腕千切れるからね。
五条の言葉が脳裏を過った。
呪力を漲らせて、三割以上の爆破なら腕が飛ぶ。
それなら────呪力は薄い膜程度、そして威力が分散する両腕で最大火力なら、どうだ。
「くたばれ!!!!」
光が炸裂する。
今までの比じゃねぇ爆炎が、視界を埋め尽くした。
同時に────ぼぐ、と鈍い音が左肩から聞こえた。
「ッッッソがぁ…!!!」
痛みに歯を食い縛る。
…というか、誠に遺憾だが、脱臼程度なら慣れてしまっていた。毎晩骨を折られたのは伊達じゃねぇ。
落下する俺の眼下では、爆炎と煙が地を舐めていた。濛々と上がる黒煙が晴れた先に、息を呑む。
左肩を引き換えに放った一撃は凄まじく────0P敵どころか、周囲のビルまで吹っ飛ばしていた。
「は…はは、やべぇな」
落下してきた游雲を掴み、近くのビルに着地する。身を捻って衝撃を逃がしたものの、やはり左肩には痛みが走った。クソ痛ぇ。
仕方がないので壁に肩を押し付け、嵌め込む。
これも、医師だというクマ女の解説付きでエセ坊主に体験させられているので、不本意だが慣れていた
「終了ーーーーーー!!!!」
試験の終わりを告げる声が響く。
その言葉を聞き、静かに目を細めた
「…ポイント稼ぎ損ねてンじゃねぇか、クソが」
100P目指してたのによ。
残り時間で殺ったのは0Pのデカブツ一個。代償は左肩脱臼と右腕の痛み。
20Pくらい、今の時間で十分殺れたのに
「やっぱ遊ぶんじゃなかったわ」
更衣室で着替え、校舎を出る。
見慣れた影が校門に寄り掛かっているのを見付け、私は駆け寄った
『勝己、お疲れ様』
「おう」
合流して、歩き出す。
何時もの様に左手を握ると、ぴくりと手が震えた
『勝己?』
《カツキ! ムチャ シタナ !》
肩の上のさとるっちがそう言って、勝己の左肩にネコパンチした。
それに眉を寄せ、ふいと顔を背ける。
その仕草もらしくなくて、そっと手を離した。今気付いたけれど、掌が大分ガサガサだ
「何もねぇよ」
『勝己、怪我したの?電車でしょうこっち呼ぼうね。治してもらお。
ていうかごめん、気付かずに握っちゃった。痛くない?』
「だぁから、何もねぇって……」
何かを言いかけた勝己の口が止まる。
何故なら、彼の左肩に茶色のウサギが腰掛けていたからだ
《かーごーめ かーごーめー》
『ありがとう、しょうこっち』
「明らかにお前の意思に関係無く出とるぞ。良いんか」
『勝己が心配で出てきてくれたんだろうし、良いんじゃないかな?』
足をぷらぷらさせながら歌うしょうこっちに、小さく笑う。
私の個性ではあるけれど、皆自我があるのだ。それなら強制はしたくないと思うし、第一、私が嫌がる事はしないと判っている。
だから、皆が勝手に出てきても、問題はないのだ
「つーかマジで痛くねンだよ。お前何治してンだ?」
《チカラ ノ ナガレガ トドコオッテル !
しょうこっち ソレヲ ナオシテル!》
「あー……あんがとな」
しょうこっちで顔は見えないけれど、素直に感謝した勝己を見上げる。
彼はぬいぐるみという相手にキツく当たるつもりはないのか、さとるっち達には穏やかだ。
他の人にもそういう風に接すれば、怖がられずに済みそうなのに。
小さく笑うと、そっと右手を熱い温もりが包んだ。
「ちゃんと握ってろ。はぐれんだろ」
『流石に一本道なら大丈夫だよ?』
「方向音痴の大丈夫ほど信用ならねぇモンもねぇわな」
『えっ、そんなに?』
個性を沢山使ったんだろう。寒がりの勝己の手は、今は熱いくらいだった。
その手をそっと握り返し、隣を歩く。
周りがぎょっとした目を此方に向けているが、無視だ。
『明日筆記だね。頑張ろ』
「数学しくんなよ」
『気を付ける』
《オレ スウガク トクイ !》
『いや、さとるっちに聞くのはカンニングになるのでは…?』
「お前の個性なんだしセーフじゃねぇの?」
『良心の呵責が…』
《タエテ!!》
『マジか』
家に帰り、支度を済ませてから、隣接した窓に乗り込んだ。
部屋に足を踏み入れる。
数学の参考書を開き、ローテーブルに向かっていた刹那は俺に気付くと、ひらりと手を挙げた
『あ、勝己。肩大丈夫?』
「もう痛くねぇって言ってんだろ。心配性か」
『そりゃあね。勝己がどっか痛めるなんて珍しいから、心配にもなるって』
猫みたいに柔らかいのに、と笑う刹那の膝で丸まっていたさとるが顔を上げた。
刹那の隣に腰を降ろし、ごとん、と部屋から持ってきた游雲をテーブルの上に置いた
「試験前の話、しに来た」
『複合個性だったってこと?』
「そォ」
────刹那には、オマエは複合個性だったって事にしてほしいんだ。
あの子に今更呪力関連を教えるつもりはないし、身体強化なんかしなくても、クソ猫が盾になる。アイツは僕より弱いけど、それでも並みのヤツよりはずーっと強い。
…幾らそっくりな偽者でもさ、刹那と同じ顔が、笑顔で呪力纏って死ぬ姿とか見たくないから。
珍しく目隠しを落としていた五条の、泣きそうな顔を思い出した。
この馬鹿はどうやら目隠し達に盛大なトラウマを植え付けて、死んだらしい。
だからアイツは、コイツをそっくりな偽者なんて言い方をする癖に、こうやって見えない様に手助けしているんだろう。
「単純に言うと、バフだ。
身体能力の向上から、爆破の威力の向上までやれる」
『凄いね。もしかして、受験勉強中に気付いたの?』
「ああ。個性届けも訂正入れた」
『ふふ。ただでさえ強いのに、バフまで盛れるとか無敵じゃんね』
《ムテキー》
くすくすと笑う刹那が猫を撫でる。
厳密に言えば騙している事になるから、少しだけ心苦しい。
けれど五条達の意思を無視するには、俺は奴等と関わり過ぎた。
呪いなんて知らず、笑顔で生きてほしい。
…細やかな願いを、叶えてやりてぇと思う程度には、俺は奴等の事を気に入っている
『うわ、重い…三節棍ってやつ?』
「振り回せる程度にはなれよ。お前に預ける事もあるかもしんねぇし」
『え、私三節棍の使い方なんか判んないよ?』
「俺が教える」
『ううう、スパルタじゃん…』
游雲を持ち上げげんなりした顔をする刹那に目を細めた。
…もう少し掘り下げられるかと思ったが、随分あっさり納得されてしまった。
聞きてぇ事を飲み込んだんかとも懸念したが、表情を見る限りそうでもない。
つまり、コイツは俺の発言に何も疑問を抱いていないという事になる。
…いやいや、普段から散々個性使っとるヤツが最近複合個性だったって気付きました、とか可笑しいだろ。嘘吐いてるに決まってんだろ。もうちょっと疑えや。
これだと散々言い訳考えてきた俺が馬鹿みてぇじゃねぇか。
…嫌われるんじゃねぇかって、思った俺が馬鹿みてぇじゃねぇか。
何とも言えない顔をしている俺に気付いたんだろう。
刹那は一度目を瞬かせ、それからそっと問い掛けてきた
『もっと色々聞くかもって思った?』
「ああ」
菫青が宙を泳ぐ。
それからゆるりと双眸は細められた
『別に、疑ってるとかじゃないよ。
でも勝己が嘘吐くとは思わないし、そういう個性が出たって教えてくれただけで、十分。
それに……勝己が嘘吐くとしたら、それは私の為でしょ?』
「………」
『言いにくかったでしょ。教えてくれてありがとね』
ふわりと微笑んだ刹那に、目を細めた。
口を動かすも、言葉は何も出なくて。
結局何も言えず、華奢な身体を抱き込んだ
『どうしたの勝己』
「………」
『ふふ、嫌ったりしないからね。それ、完全に取り越し苦労ってヤツだからね』
「………」
『勝己は変なトコで臆病だよね』
「…臆病じゃねぇ」
『そう?』
ぽんぽんとあやす様に背を叩かれる。
そのまま暫く、目を閉じて温もりを感じていた
試験から一週間が経った。
筆記は自己採点では合格ライン。ただ問題は実技試験である。
『実技、何点あれば合格ラインなんだろうね』
「知るか」
『勝己何点だっけ?』
「80はいった」
『うわー…』
「お前は?」
《50 ポイント !》
『勝己は0P倒したんでしょ?私やってないからなぁ。実は高得点でした、とかだったらどうしよ』
「俺ァ腕試しに潰しただけだ。ゼロっつってんのにそうじゃねぇなら、そりゃ虚偽記載だろ。
コッチから試験内容に文句言える」
『そっか。合格しててほしいけどなぁ』
ロードワークのあと、勝己とそんな話をしつつ家に帰る。
受かってたら良いなぁ。
勝己は明らかに合格だろうけど、私はなぁ…50って丁度真ん中っぽいしなぁ…
悶々としつつお風呂から上がると、お母さんが手紙を此方に見せた
「刹那、結果届いてるよ」
『はーい』
《キンチョウ ノ シュンカン !!》
どうせ家族には知らせる訳だし、と考えて、その場で封を切った。
入っていたのはカード。不思議に思いつつテーブルに置くと、それは映像を映し出した
〈私が投影された!〉
「わ、オールマイト!?」
「すげー!!オールマイトだ!!」
『へぇ、凝ってるね』
スーツ姿のオールマイトにお母さんと、弟の優輝が声を上げた。これは帰ってきたらお父さんにも見せよう。きっと喜ぶ。
さとるっちがオールマイトにネコパンチするのを、膝に乗せてそっと止めた
〈急に私が投影されて驚いたかな?実はね、今年から私が雄英に勤める事になったんだ〉
「良いなぁ姉ちゃん!!オールマイトにサイン貰ってきて!!」
『まだ受かったか判んないって』
〈早速だが、白露少女!君の試験結果を伝えよう!〉
一拍置いて、オールマイトが口を開いた
〈敵ポイント50!これは内緒にしていたものだが、審査制の救助活動ポイント27!
白露刹那、77ポイント!〉
ゆっくりとオールマイトが此方に手を差し出して、笑った
〈合格だ、白露少女!
来いよ、雄英が君のヒーローアカデミアだ!!〉
『………』
「やったー!!!!」
「お父さん!お父さんに電話!!!」
《トーゼン !》
抱き付いてくる優輝と、笑顔でスマホを取りに行ったお母さんをぼんやりと見つめる。
さとるっちはふふん、と得意気に鼻を鳴らしていた
…受かった。
それがじわじわと実感できてきた時に、がちゃりと二階のドアが開いた。
「あ!兄ちゃん!!」
「おう。…受かったんか」
「何で判ったの!?まだ言ってないのに!!」
「お前らの顔見りゃ判るわ」
すたすたと階段を降りてきた勝己が、私を見下ろしてふっと笑った
「んだよそのツラ。落ちたと思っとったんか?」
『……ほんとそれ…落ちたかもって、ずっと…』
はあああああ、と息を吐き出す。
安心してテーブルに伸びた私を放置して、隣に座った勝己が投影を再生していた。
「77ポイント…まぁお前にしちゃ頑張ったんじゃねぇの」
『…へへ、ありがとう』
《オレタチ ツイテルンダカラ トーゼン !》
「おー。そうだな」
ぐしゃぐしゃとさとるっちを撫で回す勝己に、勝手に出てきたらしいすぐるっちとしょうこっちが乗っかっている。
わらわらとぬいぐるみに集られている勝己は、彼等を押し退けるでもなく好きにさせていた。
その光景に笑いつつ、彼に問い掛けた
『勝己は?総合何ポイントになったの?』
「122」
『え』
思わず身を起こして勝己を見た。
しれっとした顔でソファーに座るソイツに、恐る恐る質問する
『え、三桁…?』
「敵の得点は80だった。0P伸したら、それが救助Pとして加算されてたんだよ」
『やっぱ立ち向かった方が良かったのかアレ…』
え?敵ポイントだけで80?可笑しくない?この人が居た試験会場って何人受かったの?幾ら救助活動ポイント足しても、敵ポイントダメだったら厳しくない?
いやこれ同じ学校の人と会場被らない仕様で良かった…勝己と一緒だと落ちた可能性ある…
『勝己、一応聞くね。首位?』
「当然」
『マジかー…おめでとう。なんかもう凄すぎて…』
「つっても立ち回りの改善点が多過ぎンだよ。明日からのトレーニング見直すわ」
『ストイックの塊…』
《スコシハ ヨロコベ!》
「兄ちゃんすげー!!お母さーん!兄ちゃん一位だって!!!」
勝己の結果を聞いた優輝が、お母さんが消えた部屋の方に走っていった。
いやあいつ、私の合格より喜んでなかった?なんで?お前は私の弟では?
『ていうか80ってどうやったの?』
「ひたすら敵を殺した」
『それは判る。探し回った感じ?』
「序盤で3ポイント潰して、後半はてめェから寄ってくる1ポイントと2ポイントを殺し続けただけだ。
雑魚の方は、爆破さえ起こしゃあ勝手に捕捉して近付いてきたからな」
『うわぁ…蟻地獄じゃん』
《アリジゴク!》
「ブッ飛ばすぞ」
「いやーおめでとう勝己!
さっすが僕!主席合格とかなかなか出来る事じゃないよ!そうなる様に導いた僕凄すぎ!!
此処まで十ヶ月も掛かったけど、他のヤツならきっと年単位だよね!
いやーさっすが僕!どんな落ちこぼれも見捨てない、まさに教師の鑑!!」
「オイ」
「────でもさぁ」
上機嫌にぺらぺらくっちゃべっていたかと思えば、即座に低くなる声。
…これだからこの男は嫌なんだ。
サングラスの奥から此方を見据える蒼に、感情はない
「僕言ったよね?
今の勝己じゃ呪力纏って個性を使ったら、腕千切れるって。
判りやすく言った方が良かった?
薄くでも、呪力を纏うなら、最大火力はアウトなんだよ。
オマエの身体じゃ、その使い方には耐えられない。成長してもう少し筋肉付けられる様になんなきゃ、千切れなくても肩ブッ壊れんの。
今回のは運が良かっただけだよ。下手すりゃ肩の骨が砕けてた。最悪肘から下がおさらばだ。
あの場に刹那は居なかったんだよ?
しょうこっちの回復がない状態で両腕が千切れれば…まぁ普通に考えて、出血多量で死ぬよね。
学校に回復役が常駐していたとして、運良く死なずに済んだとして。
しょうこっちじゃなきゃ、オマエの腕は千切れたままだったよね。
判ってただろ?リスクも理解していながら、好奇心で使ったんだろ?
………下らない理由で死ぬなら、いっそ今すぐ殺してしまおうか」
ぶわり、と叩き付けられる死のイメージ。
何度も何度も、永遠と殺される自分を見せられる。
それに吐きそうになりながら、ぐっと歯を食い縛った。
血の気が引く。耳の奥でざあざあと血の流れる音がする。
目が閉じられない。視界が狭まる。身体が震える。
馬鹿になった汗腺から、だらだらと汗が滴っていく。
蟀谷を伝った汗が、顎先で滴になった時────無機質な蒼に、色が宿った
「────ハイ、説教おしまい!
次はやっちゃダメだよ、判った?」
にこり、と笑んだ男に浅くなっていた息を吐き出した。
それから、からからになった舌を何とか動かし、頭を下げる
「…………スンマセンっした」
「よろしい!
どうしても呪力と最大火力を使いたいなら、直前で腕から呪力を切り離しな。
要は、呪力を燃料って考えんの。オマエはチャッカマンで、呪力はガソリンっていう風に思えば良いよ。
ドラマとかで良くあるでしょ?ガソリンを導火線みたいに垂らすヤツ。
あんな感じで呪力を伸ばして、それで個性を使う瞬間に切っちゃえば良い」
「手から切り離す…?」
「うん。まぁそこら辺はこれから教えてあげる。今日はひとまず、主席合格おめでとー!!」
────ぱぁん!!!!!!!
背後から浴びせられた轟音と紙吹雪。
振り向けば、エセ坊主とクマ女がバズーカサイズのクラッカーを手にしていて、俺は堪らず怒鳴った
「人の耳ブッ壊す気かコラァ!!!!!」
朝を迎える
刹那→合格した。
知らないうちにぬいぐるみ達がレベルアップしているが、『私そんなにレベルアップしてんの?』程度にしか思っていない。
レベルアップの経験値は幼馴染だが、やっぱり知らない。
しれっとすぐるっちとしょうこっちが救助(刹那の仕業だと判る様に、刹那の近くでだけ救助)していたので、全体二位で合格した。
爆豪→魔改造進行中。
状況に応じて武器も使う様になった。游雲は爆豪に合わせた特別製。
今回は肩が外れたけれど、下手したら腕が捥げていた。好奇心は猫をも殺す。
0Pに個人的理由とはいえ挑み、逃げ遅れた受験者を救った事が評価され、三桁突破。
五条→魔改造進行中。
説教は殺気で威圧しながらするタイプ。
夏油→魔改造進行中。
弟子に游雲をあげた。
家入→魔改造進行中。
人体解剖学で人体の急所を教えている。
さとるっち→レベル20達成ボーナスで、巨大化出来る様になった。
ぬいぐるみの顕現はコスト0なので、巨大化しても刹那に負担はない。
因みにレベル10達成ボーナスは瞬間移動
すぐるっち→絶対に見付ける術式。
レベル10達成ボーナスは格闘技の習得。
しょうこっち→レベル10達成ボーナスは回復力の強化。ケアルがケアルラになった。
呪力の流れの改善くらいなら、歌うだけで出来る様になった。
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