枝の分岐
学校に向かう電車の中。
壁際に私、その前に勝己という何時もの立ち位置で、私達は並んでいた。
『今日ってヒーロー基礎学あるじゃん。あれって何するのかな?』
「戦闘訓練とか救命訓練がメインじゃねぇの」
『戦闘は自信ないけど、救命訓練なら良い線いけそう』
だって私にはしょうこっちが居るのだから。ぽふんと出てきた茶色いウサギが勝己の肩に座った。
またかと言いたげな顔をしつつも好きにさせている勝己は、しょうこっちに頭を撫でられている
「戦闘訓練もお前が前に出なきゃいけんだろ」
『さとるっちとすぐるっちに攻撃任せるって事?』
「お前は完全なサポート型だ。猫達は強ぇけど、お前が脆い。
攻撃するにしたって、出来るだけ距離取って無限で潰すのが最適解だろ」
『筋トレしてるんだけどなぁ』
勝己と一緒にトレーニングしているのだが、柔軟性が上がるばかりで筋力は上がらなかった。結局個性把握テストでも足を引っ張ったのは、私の非力さだし。
どうすれば筋肉はつくのか。
ネットで調べてそれを実行しても、全然身に付かないのだ
『ちゃんと筋トレしてるし、プロテインも飲んでみたのに』
「……柔軟性上がったろ。遠心力で威力上げろ」
『スピードでカバー的な?』
「そォ」
『判った、そうする』
《キンニク ? シラナイ コ デスネ !》
「おい。筋肉にバイバイされてンぞ」
『バイバイされてなきゃもっと強くなれたのになぁ…』
勝己は難しい顔をした
教室に着き、席に着く。
背凭れを跨ぐ様に座った勝己と話していれば、茶髪の女の子に声を掛けられた
「おはよう!白露さん…だよね?私、麗日お茶子!よろしく!」
『おはよう。私は白露刹那。よろしくね』
この子、出久に声掛けてた子か。
反射的に愛想笑いを浮かべると、勝己が溜め息を落とした。うるさい、人見知りなんだよ。
「白露さん、昨日の個性把握テスト凄かったね!瞬間移動とか!」
『ありがとう。麗日さんもソフトボール投げ凄かったよ。私麗日さんの参考にしたし』
「ありがとう!私の個性だとあれくらいしか活かせなくて…」
…いやこれどうやって此処から話続けるの?
個性?趣味とか?
でも、たとえ仲良くなっても、どうせさとるっちの事見えないんでしょ?
それで私の事変な子だって言うんでしょ?…じゃあ無駄じゃん。
困った挙げ句、私はそっと左に視線を流した。
目を向けた先、勝己は深々と溜め息を落とし、口を開く
「刹那、飲みモン買い行くぞ」
『あ、うん。じゃあまたね、麗日さん』
「うん!」
麗日さんに手を振り、そのまま席を立った勝己に着いていった。
ブレザーの腰の辺りを掴むと、ちらりと紅い目が向けられる
「お前、せめてもう少し会話出来る様になれ。女ってそういうトコでハブるヤツ決めんだろ?」
『いや、もう会う事がないだろう人とは話せるんだよ?でも三年間一緒だって思うとさ…』
小学校で仲良くなった子は、私がさとるっち達と話しているのを嫌がっていた。
その子からしたら、見えないナニカと話している私は可笑しな子だったらしい。
最初こそ私と遊んでくれたけれど、その様子を色んな子に言い触らし、私は頭が可笑しいと学校中に広まった。
勝己はその噂に怒り、言い返してくれたけれど…結局、私達以外にはこの子達は見えないから。
『…勝己と出久が居れば、良いや』
家族と勝己と出久、私の世界はそれだけで良い。中学の頃と同じく、当たり障りなく過ごせば良いだろう。
俯いたらぼふっと布にぶつかった。
どうやら立ち止まった勝己に、頭から突っ込んだらしい。
顔を上げると、勝己は壁に寄り掛かった。
『あれ、勝己。飲み物は?』
自販機までは距離がある。走ればギリギリ間に合うと思うけど。
そう思った私の頭にぽんと手を乗せて、勝己が口を開く
「此処で時間潰して教室戻ンぞ」
『え』
……あ。
そこで漸く、勝己が最初から飲み物を買いに行くつもりはなかったのだと気付いた。
可笑しいとは思ったのだ。
勝己は時間ギリギリで動くのは好きじゃないのに、なんで飲み物を買いに行くなんて言ったのか。
理由は勿論、助けを求めた私をあの場から連れ出す為だ。
恐らく、麗日さんに私が悪く思われない様にという配慮もあるんだろう
『…ありがとう、勝己』
「おー」
午前中は通常授業だった。
プレゼント・マイクが英語担当という不思議な空間ではあったものの、授業自体は普通だったと言える。
さとるっちはつまらないのか、日向ぼっこしていた。
お昼は折角なので、勝己と共に大食堂で食べた。
クックヒーロー・ランチラッシュが作る料理とあって、まぁ人が多い。
確かに美味しいけれど、この人混みを考えればお弁当でも良いかもしれない。
前日におかずを詰めればいける筈だ。
そして午後、ヒーロー基礎学。
「わーたーしーがー!!!
普通にドアから来た!!!!」
HAHAHA、とアメリカンに笑いながら教室に入ってきたヒーローに、一気に場の空気がざわついた。
「オールマイトだ…!凄ぇや、本当に雄英で教師やってるんだな…!!」
「銀時代のコスチュームだ…!画風が違いすぎて鳥肌が…!!!」
『普通…?ポーズ取りながら入ってくるの普通か…?』
《フツウ イズ ナニ ?》
「
「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地を作る為、様々な訓練を行う科目だ!単位数も最も多いぞ!」
後ろで喜ぶ出久は勿論、勝己もオールマイトのファンだった筈。やっぱり嬉しいんだろうか。
さとるっちはオールマイトの触角が気になるらしい。尻尾がゆらゆらしている。
のんびりとさとるっちを眺めていれば、オールマイトがばっと手に持ったものを突き出した
「早速だが今日はコレ!戦闘訓練!!」
「戦闘…」
「訓練…!」
BATTLEと書かれたカードに、早速私の前後の席が反応した。
「そしてそいつに伴って…こちら!」
オールマイトが何か操作したのだろう、教室の壁が突如引き出された。
ガラス張りの棚を模したそれに、番号の振られたアタッシュケースの様なものがずらりと並んでいる。
「入学前に送って貰った個性届と要望に沿って誂えた…戦闘服!」
「おおお!!!」
「コスチューム…!!」
「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」
「「「はーい!!!」」」
《ハーイ !》
早速壁に向かうクラスメイトを見つつ、尻尾を振るさとるっちの頭を撫でた。
私の戦闘服はどんな風になっているのだろうか。楽しみだ。
更衣室で早速アタッシュケースに入っていた戦闘服に袖を通した。
タートルネックの黒い半袖インナーの上から、銀色のネックガードを取り付ける。
ゆったりした黒のボトムスの上から、青紫の差し色が入った黒のニーハイブーツを履き、青いガーターベルトで腰のベルトと固定した。
二の腕までの長さの、掌がオレンジになった黒のグローブを付けて、黒いコートを羽織る。裏地が鮮やかな紅のコートは、特殊な金属が織り込んであるので防御に優れているらしい。
最後に、目許に牙みたいな切り取りのある、獣の口許を模した黒いマスクを装着し、完成。
背中で揺れるマスクの飾りをさとるっちが追っていた。
『さとるっち、噛んじゃダメだよ』
《ネコ ノ ホンノウ !》
危険な気がしたので、さとるっちを肩に乗せた。
オレンジと黒のトゲトゲした飾りが気になるらしい。さとるっちは名残惜しそうに後頭部の蝶々結びを睨んでいた。
さて、準備は出来たし行こうかな。
くるりと扉の方に向けば、蛙っぽい女の子と目が合った
「ケロ、刹那ちゃんは狐がモチーフなのかしら?」
『この辺りは要望出してなかったから、意外な感じなんだよね。蛙吹さんは蛙がモチーフ?』
「梅雨ちゃんと呼んで。そうよ、私の個性に合わせてあるの」
『…じゃあ、梅雨ちゃんで』
本人がそう言うなら、それに従おう。
大きな瞳は私の顔を見ていて、肩に向けられる事はない。きっと彼女も、見えない人だ。
「白露かっこいー!クールじゃん!」
『ありがとう芦戸さん。芦戸さんも似合ってるね』
格好良いとしたら、勝己のデザインが良かったんだろう。
そういえば勝己の戦闘服はどうなったんだろうか。
威圧的に!というほんとにヒーローか?と言いたくなる要望を書いていたのは確かだけれど。
「白露カッコイイじゃん。アンタそういうの趣味なんだ?」
『ありがとう耳郎さん。デザインは私じゃないけど、こういうの好きなんだよね』
「あれ、それ刹那ちゃんのデザインじゃないの?誰か描いてくれた感じ?」
『うん。私絵はヘタクソだから…』
《ムンク ダモンネ !》
『うるさいよさとるっち』
肩の上の白猫の頬をつつく。耳郎さんと葉隠さんは不思議そうだったけど、愛想笑いで流した。
当たり障りなく話しつつ、集合場所に向かった。
男子も丁度終わった所なのか、向かいからぞろぞろと歩いてくるのが見えた
「恰好から入るってのも大切な事だぜ少年少女!
自覚するのだ!!今日から自分は─────ヒーローなんだと!!!」
集合した生徒を見て、オールマイトがにっと笑った
「さぁ!始めようか有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!!」
戦闘服を身に纏った所で周りを見渡すと、ヘルメットなどで一部顔の判らない人も居る。皆個性的だ。
その中で見慣れた淡い金髪に近付けば、静かに見下ろされた。
紅い目が上から下まで往復し、最後に満足そうに鼻を鳴らす
『似合ってる?』
「当然だろ。俺が考えてやったんだからよ」
黒のぴったりした襟のあるスーツに、銀色のネックガード。ゆったりした黒のパンツとゴツめのブーツ。
オレンジと黒が基調の勝己と私の戦闘服は、全体的に良く似ていた。
『見て。胸元のバツ印もお揃い。オレンジと青紫だ』
《オソロ ! ウレシイネ !》
「…俺じゃねぇからな」
『デザイナーさんが揃えてくれたのかもね。勝己、デザイン考えてくれてありがとう』
「…後は実戦で気に入らねぇトコ弄ってけ。つーか絵のセンス磨けや」
『一応頑張ったんだけどなぁ』
「アレで出したらお前今頃貫頭衣だぞ」
《ムンク ジャ ナクテ ?》
『ムンクの服ってなに?』
「黒いヤツだろ」
勝己の周りをくるくる回って戦闘服を観察した。
両腕の手榴弾を模した籠手は、汗を溜めて遠距離用の一撃を撃つ為だと聞いている。
腰の長いポーチは三節棍が収納してあるんだろう。
最後に後頭部から伸びる、爆破の様なオレンジと黒の飾りを見て、自分のマスクの飾りを摘まんだ
『みてみて、此処も似てる。お揃い?』
《オソロイ !》
『ていうか勝己のアイマスク、私のマスクとぴたっと合いそう』
《ピタット !》
「…嬉しいか?」
『うん。お揃いは好き』
一緒だと思うと暖かな気持ちになるから。
にこにこしているであろう私にゆるりと目を細め、勝己が小さく笑った
『そういえば、なんでアイマスク?オールマイトはアイマスクしてないのに』
勝己の憧れはオールマイトだ。彼に似た要素を付けるかと思ったが、一見そういう所は見当たらない。
出久はそういうの取り入れてそうだなと思っていれば、薄い唇が動いた
「…目隠しは、何考えてっか判んねぇだろ」
『ん?目隠し?』
目隠し?え?普通に目隠し?
…まぁ、目許見えなきゃ判んないよな。口が笑ってても目が笑ってない、とか有り得るし。敵に目で感情を読まれない為の対策かな。
同意すれば、そうだろうと勝己が頷いた
「ほんとは目も隠せりゃ一番良い。けどそうすっと此方が見辛ェ。
特に近接メインの俺からすりゃあ、サングラスみてぇなんは邪魔になる」
『だから、アイマスク?』
「そォ」
『へー』
「あとは」
ぽつり、小さな声が落ちた。
「…これが、俺にとっての“強さ”だからな」
『?……そっか』
正直良く判らない。
けれど、それはきっと勝己にとって大事な事なんだろう。
そう判断した私の肩の上で、さとるっちが嬉しそうに尻尾を揺らしていた
『…ん?』
勝己と話していた時、ぴょんと耳の生えたシルエットを発見し、首を傾げた。
誰だあれ。ウサギ?耳…耳だな…?
ウサギの個性なんて居なかったよな。
マスクの奥の目は、見覚えのある優しいもの。もしかして、出久?
…ああ、うん、麗日さんに照れてる感じが出久っぽいな…?
『もしかして出久?』
「あ、せっちゃん!うわぁ、コスチューム似合ってるね!」
合ってた。
どうやらこのマスクマンは出久らしい。
…あ、そうか。この耳オールマイトの触角リスペクトか。
『ありがとう。まぁ私が考えた訳じゃないんだけどね…』
「え?じゃあ誰が…」
《カツキ ダヨ !》
そう呟きながら答えを察したのか、出久は動かなくなった。そうです、君が名前を口にしちゃいけないあの人です。
麗日さんは不思議そうに此方を見ているが、敢えてニコニコして流しておいた。多分今此処で勝己の名前を出せば、勝手に寄ってきそうなので。
「良いじゃないか皆、カッコイイぜ!!」
「先生!此処は入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」
挙手をしたモビルスーツみたいな人が喋った所で、あれが飯田くんである事に気付いた。全身くまなくスーツなので、最早あれはガンダム。
あれだけメカメカしいと判別出来ないな。
オールマイトは、飯田くんの問いに否を返した
「いいや、もう二歩先に踏み込む!
────屋内での対人戦闘訓練さ!!」
対人戦闘訓練という名に眉を寄せた。
確かに家で勝己と組手をしたりする。でもあくまで護身術に過ぎない私のそれが、通用するのだろうか。
「敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が、凶悪敵出現率は多いんだ。
監禁、軟禁、裏商売…このヒーロー飽和社会、真に賢しい敵は
きゅっと口許を引き締めた。
ちらりと隣を見ると、勝己は何を考えているか判らない顔をしている。
少しでも心を落ち着かせたくて、ぽふんと出てきたすぐるっちを抱き締めた
「君らにはこれから敵組とヒーロー組に分かれて、二対二の屋内戦をやってもらう!
一チームだけ三人になるが、それも突発的なイレギュラー対応だと思って真剣に取り組んでほしい!
戦闘人数が必ずしもイーブンであるとは限らないからな!」
「基礎訓練もなしに?」
「その基礎を知る為の実戦さ!
ただし今度は、ブッ壊せばオッケーなロボットじゃないのがミソだ」
梅雨ちゃんの問いにオールマイトがそう返すと、複数が一斉に声を上げた
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ブッ飛ばしても良いんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか…?」
「分かれるとはどの様な分かれ方をすれば宜しいですか?」
「このマントヤバくない?」
《ミワクノ ショッカク !!》
「んんん…聖徳太子ィィ…!!!!」
確かに複数から一気に聞かれたら判んなくなるよね。
さとるっちはオールマイトの触覚が気になるらしい。ゆらゆらと身体を揺らして飛び掛かろうとするのを、勝己が無言で阻んだ
「良いかい!?」
オールマイトは何処からともなく掌サイズの紙を取り出す。
堂々と見ているそれは間違いなくカンペだろう。めちゃくちゃ新米って感じ…
「状況設定は敵がアジトに核兵器を隠していて、ヒーローがそれを処理しようとしている!
ヒーローは制限時間内に敵を捕まえるか、核兵器を回収する事。
敵は制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえる事」
核兵器…随分とアメリカンな設定だ。
状況としては、罠が張れる分敵の方が有利な気がする。
問題は誰と組むか、だけど…
「コンビ及び対戦相手は────くじだ!」
「適当なのですか!?」
「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いし、そういう事なんじゃないかな…」
「そうか…!先を見据えた計らい…!失礼致しました!!」
「いいよ!早くやろ!!!」
オールマイトが用意したくじを引く。
隣から覗き込んできた勝己がお、と声を漏らした。
『ん?』
「負ける気しねぇわ」
『え、マジで?』
《イッショ ! ヤッタネ !》
差し出された紙に書かれているのは、私のと同じアルファベット。
勝己と一緒なら負ける気がしない。
こつんと拳を合わせる私達の許に、飯田くんがやって来た
「君達もDか。良し、三人で頑張ろう!」
「ぁあ?俺らだけじゃねンかよ」
『よろしくね、飯田くん』
《ヨロシクネ》
どうやら三人チームだったらしい。それを知った勝己のテンションが少し下がったが、放置である。
全員がチーム毎に集まると、オールマイトが敵とヒーローと書かれた二つの箱にそれぞれ手を突っ込んだ
「続いて最初の対戦相手は────こいつらだ!!」
出されたボールに書かれたアルファベットを見て、勝己が反応した。
「Aコンビがヒーロー!Dトリオが敵だ!!」
『Aって誰……あ』
「………」
《ウワ マジカ》
きょろきょろする私の傍で、勝己が口を真一文字に引き結んだ。
紅い視線の先、目を丸くして固まっている出久が居た
「緑谷くんと麗日くんか!互いにベストを尽くそう!」
「そ、そうだね!がんばろ!」
何となく張り詰めた空気を感じたのか、麗日さんがぎこちなく笑う。
私はそっと、隣の男を見上げた
『………勝己』
「問題ねぇ。潰せば一緒だ」
移動を始めた勝己の背を追う。
覗き込むも、その瞳は凪いでいた。
…うん、大丈夫かも。
そう判断し、勝己の隣に並んだ
『頑張ろうね、勝己』
「あんま前に出んなよ」
『はーい』
「刹那、相手の女の個性知ってっか?」
『え?えーと、確かゼログラビティだっけ…?』
「麗日くんは触れたものを無重力に出来るらしいぞ」
「…へぇ」
敵チームには籠城するビル内での罠の設置、ヒーローチームには作戦会議の為の時間が設けられていた。
ビルの中をざっと見た勝己は、早速ハリボテの核を持ち上げた
「先ずは核を移動させる。三階か四階に持ってくぞ」
「ん?一番侵入しにくい五階の端が良いんじゃないか?」
「馬鹿かよ。ンなモン誰でも思い付くテンプレの誤回答だろうが。
ヒーローチームの浮かすヤツ、ソイツ使えば五階に行くのなんざ簡単だ。
それに空き巣なんかもそうだろ。テッペンは安全って思ってやがるヤツが多いが、実際は一階と同じくらい被害率高ェ。
こういうビルは真ン中のが安全なんだよ」
『じゃあ…三階の端っこ?』
「浮かすヤツが単騎、それかデクも連れて一番上から攻め込むって考えれば、そこが妥当か」
核を五階から三階まで移動させ、部屋の中を見る。
ごちゃごちゃ置いてある物を見て、飯田くんがそれらを指差した
「麗日くんは触るだけで物を浮遊させる個性だ。そう考えると、この部屋は物をなくした方が良いかも知れないな」
『確かに。じゃあ片付けしようか。皆、片付け手伝ってくれない?』
《イイヨー !》
ぽふんと出てきたすぐるっちとしょうこっち、それから肩に乗っていたさとるっちと共に、せっせと隣の部屋に物を移していく。
全員で片付けしていると、飯田くんが私を見た
「白露くんの個性はどういったものなんだ?俺はてっきり念力の様なもので動かすのかと思っていたが…」
『えーっとね…大体それで合ってる。
ただ、私にしか見えない猫とウサギと犬が居て、その子達が私と一緒に戦ってくれる、感じ…?』
…いやこれ変な奴って思われない?
恐る恐る隣を見るも、ヘルメットを外している彼の表情は嫌悪で歪む事はなかった。
寧ろ、感心した様な顔をしている
「それは良いな!因みにその猫達は、白露くんの傍から離れても消えないのか?」
『え?うん。流石に県を跨ぐとかそのレベルになったら無理だけど、5km程度なら』
「敵の追跡や索敵に秀でているじゃないか!凄いな!」
『えっ』
思わず固まると、飯田くんは不思議そうに目を瞬かせた。
「白露くん?」
『あ、いや…何でもない』
…同い年で私を否定しない人を、勝己と出久以外に初めて見た。
見えないって、言ったのに。嘘だとか、思わないんだろうか。
困惑しつつ、隣に来た勝己を見る。
大きな板を撤去した彼は、私の頭を軽く撫でて飯田くんを見た
「おいクソメガネ、デクの個性は」
「俺はクソメガネではない!…緑谷くんの個性?恐らく純粋な超パワー系のものだと思うが」
「……へぇ」
《せつなっち ミテ!》
『ん?どうしたのさとるっち…うわ』
さっきまでお手伝いしてくれていた三体が、バケツを覗き込んでいた。
近付いて、その中身に声が出る。
『勝己、見て!血糊!』
「は?」
“ちのり”と貼られたバケツを指差せば、勝己が目を瞬かせた。
たっぷりあるそれとハリボテの核、それから私達の役を思い出して────私は、笑った
『勝己、飯田くん!敵らしく行こう!』
「屋内対人戦闘訓練────スタート!!」
オールマイトの合図に合わせ、僕と麗日さんも動き出した。
相手はかっちゃんだ。せっちゃんや飯田くんが居ても、きっと
「!!!」
曲がり角から飛び出してきたかっちゃんが狙うのは────やはり、僕だ。
咄嗟に麗日さんを庇う。直撃は避けたけれど、マスクが半分焼け落ちていた。
「掠った…!」
「デク、コラ避けてんじゃねぇよ…」
ゆらりと身を起こしたかっちゃん。
その目が真っ直ぐに僕を捉えると、右腕を大きく振りかぶった。
僕はその手を掴んで────勢いを利用して、投げる
「かっちゃんは、大抵最初に右の大振りなんだ。
僕が小さい時からどれだけ見てきたと思ってる!凄いと思ったヒーローの分析は、全部ノートに纏めてるんだ!
かっちゃんが爆破して捨てたノートに…!!」
ずっとヒーローになる事を夢見て綴っていたノート。それには勿論かっちゃんと、せっちゃんの事も書いてある。
床に叩き付けられ目を丸くしていたかっちゃんは、直ぐに身を起こすと構えた
「────何時までも泣き虫でノロマで愚図なデクじゃないぞ!!!
僕は!!頑張れって感じのデクだ!!!」
「ビビりながらよぉ…そういうトコがムカつくなァ!!!!」
蹴り掛かってきたかっちゃんに、確保テープを巻き付けようとする。
それを嫌がり後退した隙に、声を張り上げた
「麗日さん、行って!」
「うん!」
此方を睨め付けるかっちゃんに、腰を低くして構えた。
恐らく飯田くんとせっちゃんは核の傍に居る。それでも、僕という存在で確実に釣れるかっちゃんを此処に留めておくのは、悪い策じゃない。
麗日さんが角を曲がって見えなくなる。
目の前に、怒りで瞳をギラつかせるかっちゃんが迫る。
僕はカウンターを繰り出して────その一撃は、ぐにゃりと、上体を柔らかく曲げる事で躱された。
…え?かっちゃんは、こんな避け方なんて…
目を丸くする僕の顎を、真下から綺麗に撃ち抜いた拳。
「────クリアだ。合流する」
ぐわんと脳が揺れる。
手も付けず崩れ落ちた僕を、紅い瞳は静かに見下ろしていた。
『────出久はさ。
多分、勝己が自分にまっしぐらだって考えると思うんだよね』
マスクを首に落とした刹那は、グローブに包まれた指を立てそう言った。
『だからそれに敢えてノッて、二手に分かれさせる。
それで麗日さんを捕まえて、血糊でボロボロに見せて、出久に降参を促す。…どうかな?』
「良い案だが、そう上手くいくだろうか?ヒーローチームだって警戒して此方に来るだろう。
もし二手に分かれず二対一で爆豪くんに向かったら、此方のアドバンテージは覆されるぞ」
「おいコラクソメガネ!!だぁれが雑魚に負けるってェ!?」
刹那の案を聞いていたが、クソメガネの言葉に耐えきれず声を上げた。
ヤバいと察した刹那が、素早く俺とクソメガネの間に身体を滑り込ませる
『飯田くん、勝己は強いから万が一、二対一になっても大丈夫だよ。そうなりそうだったら私もこっそりサポート入るし』
《ヨユー ヨユー!》
『…というかね、出久の性格上、二対一はしないと思う』
どうどうと腕を撫でてくる刹那は、同意を求める様に俺を見上げた
『勝己が自分だけを狙うなら、自分が囮になって核は麗日さんに任せる。…出久はね、そういう人だよ』
腐れ縁故に、ある程度読める思考回路。
死ぬ程嫌だが、刹那の言う通りだと俺も思った。
…だが、それはあのクソも同じだろう
「…大筋はお前の策で良い。ただ、捕まえんのはデクだ」
『え?』
《ダロウナ !》
意外そうに目を丸くする刹那と、頷く白猫。籠手を外そうと思ったが、思い留まる。
普段なら外す。室内で使えねぇならコレはただの重りだ。呪力で強化出来る以上、俺に無駄な重りは必要ねぇ。
けど俺の策で言えば、コイツはブラフとして必要になる。
…つーか、最大火力のリスクも呪力と個性を同時に使える様になれば解決するのだ。そうなった時のサポートアイテムの変更も考えなければ。
籠手を着け直し、俺は口を動かした
「クソデクの思惑にノッてやって、浮かすヤツが離れたらデクを殺す。
そんでデクを此処に持ってきて、血糊でもぶっかけりゃあ良いだろ」
『…麗日さんじゃない理由は?』
「クソデクはお前の事も知っとんだぞ。
メガネは兎も角、幾ら訓練でも血塗れの女を前にして平然としてるお前なんか見れば、フェイクだって直ぐバレんだろ。そしてお前は嘘が壊滅的に下手」
『』
《ヘタクソ!》
むむっとしたって下手なモンは下手。
むにむにと柔らけぇ頬を揉んでいれば、刹那がはっとした顔で問い掛けてきた
『…その作戦って勝己大丈夫?キレない?』
「判ってねぇなァ刹那チャン」
大方俺が、デクから少なからず攻撃を受けなきゃならねぇ事に耐えきれンのかと危惧してンだろう。
掌で頬を挟み、にっこりと笑ってやった
「自分の予想通りに進んでた筈が────全部読まれてて策を利用されたって知った時の絶望する顔拝むのが、楽しいンじゃねぇか」
『うわクズ…』
「爆豪くん、それは流石に人間性を疑う発言だぞ…」
「ぁあ!?」
────カウンターを狙ってデクが両手を突き出した。
それを上体を大きく反らせて回避。腹筋で身を起こしながら、反らした分の加速も付いた拳で顎を撃ち抜いた。
「が…っ!!」
「クリアだ。合流する」
脳を揺らした。意識を保つのもキチィだろ。こんなの、呪力を纏うまでもない。
崩れ落ちたデクの腕に確保テープを巻き付けた。
首根っこを掴み、引き摺りながら真っ直ぐ窓に向かう
「窓は」
〈開いてるよ〉
「ン」
デクをひっ掴んだまま窓を飛び出す。
呪力で強化した脚で壁を蹴り上がり、四階のサッシに手を掛けた。
部屋に乗り込みデクを放る。
痛みに呻いたものの、意識は戻っていない様だ
『勝己!もう少し丁寧に扱え!』
「るっせぇな。とっとと縛んぞ」
猫が持ってきたロープでデクを縛り上げ、意識が戻って騒がれたら面倒なので、ガムテープも口に貼り付ける。
それからウサギが差し出してきた鉄パイプに血糊を付け、デクの額に押し付けた。
どろりと垂れていく赤に、刹那が顔を顰める
『うわ、リアル…』
「立案したのお前だろ」
『勝己が本格的過ぎるんだよなぁ。そういえば、出久を核に縛り付けないの?
良くあるじゃん、人質を危険物に縛り付けるヤツ』
「ヒーロー側の勝利条件は核に触れる事だったろ。
縛り付けた後、万が一デクに意識が戻ってみろ。俺達はただの間抜けになる」
『確かに』
窓のサッシからハリボテの核まで、ポツポツと血糊を落とした。
最後に俺の頬に血が付着した様に赤を走らせれば、完成だ
「クソメガネは?」
『麗日さんの足止め。OK出す?』
「おー」
鉄パイプをハリボテに立て掛け、血糊を隣の部屋に放り込む。
メガネは此方の仕込みの時間を稼ぐ為、犬のサポートを受けながら、わざと浮かすヤツを一定間隔で追っている。
刹那が無線のスイッチを入れた
『飯田くん、準備出来たよ。
出久に血糊付けてるけど、気絶してるだけだから敵役やりきってね』
〈了解した!〉
無線が切れる。
さて、俺はどうすっか。…取り敢えずこの部屋に待機して、刹那のサポートに回った方が良いか。
「刹那、俺ァ適当に隠れる。交渉役はお前がやれよ」
『えっ』
ぎょっとした顔をする刹那を尻目に、ポーチからクナイを二本取り出した。
それを入り口真上に並べて刺して、飛び上がる。
クナイを足場にしゃがめば、刹那が何とも言えない顔で此方を見上げていた
『勝己、マジで忍者じゃん…』
「こんくらい余裕だろ」
《モウスグ クルヨ !》
『はーい。ありがとうさとるっち』
首もとに落としていたマスクを着け直し、刹那が前を向く。
〈白露くん、爆豪くん!麗日くんが其方に向かった!〉
『了解。飯田くんも合流して』
〈了解した!〉
通路の方から、小さく足音が聞こえてきた。出来るだけ立てないように潜められたそれは、浮かすヤツのものだろう。
一つ一つ部屋を覗きながら近付いてくる足音。
最後────この部屋の前で立ち止まるなり、直ぐに駆け込んで来た
「デクくん!!!!」
『待ちくたびれたよ、ヒーロー』
刹那が静かに浮かすヤツを見つめる。
俺に気付かず部屋に飛び込んだ女は、床に伸びて動かないデクに酷く動揺していた
『あんたの相棒はこの通り、私達が捕まえた。此方としては穏便に済ませたい。
ヒーロー、降参してくれない?』
「何でそこまで…!これって演習やろ!?何で…!!」
『此方は真剣にやってんの。演習だって理由で責め立てるなら、それこそ今すぐ降参しろよ。あんたの相棒血塗れだぞ?
ていうか演習なのに気絶した仲間見て棒立ち?ひっどいヒーローだなオイ』
…ダメだ、嘘が下手過ぎて。
知り合って日が浅いっつーのとマスクしてるからバレてねぇだけで、アイツめちゃくちゃ罪悪感に塗れたツラしてやがる。
言葉で凌ぐのは今でギリギリか。仕方がないので、窓際で此方を見ている犬にハンドサインを出す。
頷いて、サッシの溝に隠していた確保テープを取り出したソイツは、ひたひたと丸い顔の女に近付いていく。
「そ、それでも!!一対一なら…!!」
…ああ、そういう。
丸顔の考えが読めた所で、俺はコンクリートの上に降り立った。
音もなく着地し、真後ろからヘルメットに向け手を構える。
「誰がソイツ一人だなんて言った?」
「爆豪くん…!?」
丸顔が慌てて振り向くが、もう遅い。
視界を覆うグローブのオレンジ色に丸顔が顔を引き攣らせたのと同時、犬が確保テープを巻き付けた
「敵チーム、WIIIIIIIIIN!!!!」
『よっしゃあ!!』
《オツカレ !》
オールマイトの声と同時に手を降ろし、刹那の方に向かう。
俺を見るなり飛び付いてきた刹那を受け止め、軽く抱き締めた
『勝てた!ありがとう勝己!!』
「おー、お疲れ。撤収すんぞ」
『うん!あ、出久起こさなきゃ』
「ほっとけ。ロボットが来んだろ」
『え?…ほんとだ』
終わりと同時に乗り込んできたらしいロボットが、気絶したデクを担架に乗せていく。
その様を青ざめた顔で見つめる丸顔に気付いたのか、刹那は慌てて女に駆け寄った
『麗日さん!あの、ごめん。出久のアレ、血じゃないんだ』
「え…?」
そういや小細工として頬に血糊付けたんだったか。
右頬の赤をぐいっと拭い取り、丸顔に目を向けた
「血糊だわ」
「えっ」
「馬鹿かよ。殺したらヒーローになれねぇだろが」
《チノリ ナラ さとるっち アシアト ノコセル ?》
「多分な。お前ら水溜まりとか踏まねぇ様に気ィ付けろや」
《ハーイ !》
「え?爆豪くん、急に何を…」
丸顔の間抜け面を鼻で笑い、刹那の手を引いて部屋を出た。
通路でクソメガネと合流し、出口に向かう。
「やったな爆豪くん、白露くん!
ただちょっと血糊を使い過ぎじゃないだろうか!?
作戦を知っていた俺でも驚いたぞ!」
「ケチって何になんだよ。
どうせ今回しか使えねぇ手だ、派手にやったって問題ねェ」
『結構好き勝手やっちゃったけど、大丈夫かな…?』
《モーマンタイ !》
「敵としてヒーローの動きを読み、利用して見せた機転!
ヒーローのメンタルを揺さぶる策!
そして策がヒーローに感付かれない様、巧みに行われた誘導!
敵チームは見事な連携だった!
初めての演習にも関わらず、全員が敵になりきり真摯に取り組めていた!」
モニタールームに戻り、講評を聞く。
どうやら血糊はメンタルを揺さぶる為のアイテムとして認められるらしい。
ほっと胸を撫で下ろしつつ、マスクを首に落とした。
「今回のMVPは爆豪少年だ!
敵になりきり、白露少女の作戦をより良いものへと修正した。
そして、緑谷少年の予想を上手く利用した推察力と演技力!
初めての演習とは思えない程に落ち着いていたぞ!」
「…ドーモ」
『ふふ』
勝己、照れてる。
憧れのオールマイトに褒められて嬉しいんだろう。
下唇を出して斜め下に視線を落とす幼馴染を笑っていれば、決まり悪そうに此方を睨んできた。
「刹那、帰んぞ」
『はーい』
《ハーイ》
放課後、先に席を立った勝己の後を追う。
鞄を持って扉に向かえば、そこで芦戸さんと切島くんに声を掛けられた
「あれ、二人とももう帰っちゃうの?」
「今から今日の訓練の反省会しようぜってなったんだけど、お前らも参加しねぇか?」
『ごめん、今日は用事があるからやめとくよ。また次の機会に』
愛想笑いを浮かべていれば、先を歩き出した勝己に教室から連れ出された。
靴を履き替え、校舎を出る。
校門を出ようとした所で、背後から声を掛けられた
「かっちゃん!!せっちゃん!!」
「ああ?」
『出久』
《ドウシタノ ?》
そこには、まだ戦闘服を身に纏ったままの出久が立っていた。
起きて直ぐに此方を追ってきたんだろう、額には汗が浮かんでいる
「これだけは君に…君達には言わなきゃいけないと思って…!」
出久は何か躊躇う様に一度目を伏せて、それから真っ直ぐに此方を見た。
「────人から授かった個性なんだ」
合っていた筈の出久の目は、少しずつ下がっていく
「誰からかは絶対言えない!言わない…でも、コミックみたいな話だけど本当で…!」
「………」
「おまけにまだロクに扱えもしなくて…全然モノに出来てない状態の借り物で…!!」
俯いている所為だろうか、出久は気付いていない。
どんどんイラつきだした勝己を見ないまま、出久は言葉を並べていく
「だから…使わず君に勝とうとした!
けどソレを使うどころか、何も出来なかった。
僕はまだまだで…だから────」
そこで漸く、出久は顔を上げた。
その顔は以前とは違う強い表情で、思わず目を見開く
「何時か必ず僕のモノにして────僕の力で、君を超えるよ」
…出久、変わったなぁ。
前までは勝己にこんな事、言えもしなかっただろうに。
そうなるとやっぱり、その授かった個性とやらが出久を変えてくれたんだろうな。
…だって、それなら辻褄が合うのだ。
急に出久が超パワーを使える様になった理由も。
無個性だった筈の出久が、個性がないと難しい雄英のヒーロー科に入れた理由も。
その力に、どう見ても出久が振り回されているのも。
いや、正直個性授けるとか意味判んないけど。
…でも出久が言うなら、きっとそうなんだろうな。
静かにそう思っていれば、隣の影がゆらりと動いた
「────どーーーーーーっでも良いわ!!!!!」
『!?』
《ピャッ !》
「ひえっ」
怒鳴り声に思わず肩が跳ねた。
私は驚いたさとるっちが肩から落ちそうになるのを慌てて支え、出久は身体を縮こませる
「個性を貰った…?俺にてめェが勝つ…?
どーっでも良いわ!!決意表明なんざ他所でやれや!!!!」
「うっ…」
「俺ァ振り返らねェ。止まる気もねぇ。
…全部言えねぇなら中途半端に言ってくんじゃねぇぞクソナードが」
そう静かに吐き捨てて、勝己は出久に背を向けた
「帰んぞ刹那」
『うん。…じゃあね、出久』
《マタ アシタ!》
「あ、うん…」
手を引かれながら、呆けた表情の出久に手を振った。
ペースを合わせてくれる勝己と一緒に歩きながら、先程の出久の言葉を反芻させる
『さっきの出久の言葉、ほんとなのかな』
「あ?」
『貰ったってアレ。…だったら納得出来るなって』
勝己は口を閉ざし、視線を斜め下に落とした。
それからゆっくりと、口を開く
「刹那」
『ん?』
「デクの言葉は忘れろ」
『えっ』
《オレモ ソウ オモウ !》
『さとるっちまで…何で?』
突然の言葉に目を丸くしていれば、紅い瞳が静かにさとるっちを見た
「猫」
《マワリ 二 ミミ ハ ナイヨ!》
それを聞いた勝己が小さく息を吐く。
みみがない?…耳?耳がない?
どういう意味かと思っていれば、低い声が言葉を紡いだ
「個性を与えるなんつーのは、普通に考えりゃあ有り得ねぇ話だ。
けど、この超人社会じゃ…有り得ねぇってのが有り得ねぇんだろ」
『うん』
「…仮に、アイツが誰かから個性を貰ったとして。それがデクの個性みてぇに、超パワーの個性を複数に与えられるモンだったとして。
ンな事が可能な個性持ってるヤツが居るって知られれば、社会に混乱が起きんぞ。
まずその個性を持ったヤツは、神様みてぇに祀り上げられる。
それから世界規模でソイツの奪い合いも始まるかもしんねぇし、当然その個性を欲して敵も活発化する。世界はカオスまっしぐらだ。
情報は武器だ。毒にも薬にもなる。
……そんなヤベェ情報を欠片でも、中途半端に明かされたってのはつまり────俺達は、クソデケェだけで何のメリットもねぇリスク背負わされるって事なんだよ」
『………』
唖然とした。
まさか出久が変な人から個性を貰ったとは思わないけれど、その人の事が明るみに出た際のリスクなんて何も考えていなかった。
青ざめた私を横目で見て、勝己は決まり悪そうに眉を寄せた
「確定で超パワー系の個性を与えンのか、それとも与えられる個性はランダムで決まるのか。
与えられる個性の総数、発生する貰う側と与える側のリスク…そこら辺は知らねぇけど、やっぱ個性を与えられるっつーのはデケェよ。
……悪い事は言わねぇ。忘れろ」
『………』
勝己が身の安全の為にそう言ってくれているのは判っていた。
けれど、どうしても。
あの出久が、これを口にするのが危険だと判っていない筈がないと思った。
それでも私達に嘘を吐きたくないと真摯に向き合ってくれた気持ちを、無碍にしたくなくて。
返答に困る私を紅が見つめ、軈て溜め息が落ちた
「…どうしても話してぇなら、俺に言え。俺の部屋かお前の部屋でなら問題ねェだろ」
渋々といった体の声に、目を丸くする
『……いいの?』
「しゃーねぇだろ。どっかのお人好しが情に流されやがっから」
物凄く苦々しげに告げられた言葉に、胸の奥からじわじわと暖かなものが込み上げた。
堪らず抱き付けば、当然の様に受け止められる
『ありがとう勝己!』
「はぁ………今回だけだからな」
『うん!』
《カツキ ヤサシイ !》
「うっせ。帰んぞ」
『はーい!』
差し出された手を取り、私は笑った
先を見据えて
刹那→人見知り。
爆豪と組めれば敵はないと思っている。嘘が下手。罪悪感が顔に出るタイプ。
爆豪→刹那の使い方が上手い。
性格が悪い事を口にする時ににっこりと笑うのは、白い方の影響。
わざと勝ち筋に乗ってやってからボコるのは黒い方の影響。
ヒロスは通常が冬コス。冬バージョンはWHMのステルス。
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