率いたくないです
腹の底で眠るそれを、熾こす。
ゆらりと燃え上がったそれを、一気に練り上げる。
両腕に纏う青と黒の呪力を、爆破の寸前で────切り離す
「ッ゙!!!!」
…切り離すタイミングをミスった。
悍ましい音を立てて吹き飛んだ右腕の先から、赤が噴き出していく。
「あーあー、派手にやったな」
「っるせ」
「しょうこっち、あんたは止血。私が治す」
つかつかと近付いてきたクマ女が俺の右腕に手を翳した。
歯を食い縛る俺の肩に乗り、ウサギが呪力を流してくる。
心臓が脈打つ度に駆け巡る激痛に耐えていれば、のんびりとした男の声がした
「不思議だよねぇ。術式でもない特殊能力。此方からすれば超能力とか異能とかって括りになりそうなそれを、この世界の人間は殆ど持ってるなんて」
一拍置いて、軽い言葉が飛ぶ
「ま、満足に使えないんじゃ豚に真珠なんだけどね!」
「クソがぁ!!!!」
「ほら勝己、興奮しない。
五条、邪魔するならどっか行け」
「ちぇー」
歯を剥き出しにする俺の頭を宥める様に叩いて、クマ女は治療を進めた。
反転術式による手の再生を痛みに眉を寄せつつ眺めていれば、紅を引いた唇が動いた
「そうそう、ちゃんと手のイメージを持っときな。此処はあんたの精神状態が大きく作用する。
あんたのイメージがはっきりしていればいる程、私の術式もより強く働く」
「…術式もイメージが大事になんのか」
俺の問いに答えるのは、嫌味ったらしく長ェ脚を岩の上で組んで座っている男だ
「まぁ、イメージ出来る方が強いよね。
例えばの話、自分の術式のイメージをしっかり描けてるヤツと、同じ術式だけどちゃんとイメージ出来ないヤツが居るとするだろ?レベルは一緒ね。
そうなるとさ、イメージが描けているヤツの方が、術式の使い方は上手くなる。
自分が振るう力をちゃんとイメージで持っていた方が、いざって時に順応させやすいからね」
「……爆破なら、やりてぇ事は大体出来る。ただそこに呪力混ぜっと、一気に別モンみてぇに言うこと利かなくなる」
ほんの少しでも呪力を混ぜれば、爆破の個性は一気に俺の制御を離れる。
呪力は切り離すのが早ければ霧散して、遅ければ爆炎が俺の腕を吹き飛ばした。
どれだけ練習しても、なかなかうまく行かない。ただただ痛みの記憶だけが脳に焼き付いていく。
ぽつりと溢した言葉に、目隠しの静かな声が返ってきた
「…まぁ、感覚としては間違っちゃいないよ。
呪力は本来この世界に存在しない。謂わば理から外れた力だ。
そんな力を元々持ってる個性と掛け合わせようとしてるんだから、自転車しか乗った事ない子供がいきなりF1カー運転する様なモンでしょ」
ぽん、と大きな手が俺の頭に乗せられた。
見上げれば、薄い唇がゆるりと持ち上がる
「焦るなよ。自爆の範囲も大分マシになってる。確実に成長してるんだ、自信持ちなよ」
「……っス」
今日もさとるっちに起こしてもらい、すぐるっちにネクタイを締められ、しょうこっちに髪を整えて貰って家を出た。
最早自分で身嗜みを整える頻度が減っているんだが、良いんだろうか。…まぁ良いか。ネクタイの結び方って難しいし。
「お前自分でネクタイ結べんのか」
『すぐるっちがしてくれてる』
「髪は」
『しょうこっちが梳かしてくれてる』
「個性に甘やかされてんなよ…」
《アマヤカシタク ナルンダ ヨネ !》
「ダメ人間になんぞ」
何時もの様に勝己と話しながら、学校に向かう。
地下鉄を乗り継いで、学校が目前という所まで辿り着き────そこで勝己と顔を見合わせた。
『…マスコミ?』
「チッ、朝っぱらからクソ迷惑な奴等だ…」
《クロヤマ ノ ヒト ダカリ !!》
門の前に、カメラとマイクを握った人がごった返していた。
人集りからちらほら聞こえるのは、オールマイトという言葉。
おまけに、制服のボタンで見分けた上で、ヒーロー科の学生にのみ声を掛けている様だ。普通科なんかは素通りである
「行くぞ」
『はーい』
《ハーイ !》
校門に向かって歩いていく勝己の背中を追い掛ける。
しっかりと手を掴まれている辺り、100%はぐれると思われているのが丸判りだった。
悲しい事に、フィジカル面で私への信頼がない
「オールマイトの授業はどんな感じです?」
「教師オールマイトの印象は?」
「教壇に立ってるオールマイトはどうですか?」
《ウルセー !》
人集りに突入した途端、一斉に向けられるカメラとマイク。
口は開かず、視線は下へ。ぐいぐい手を引かれるままに、マスコミの嵐を進んでいく。
すると、囲んでいる中の一人がふと気付いた様に言った
「オールマイト…あれ?君達ヘドロの時の!!」
「やめろ」
顔を顰めたであろう勝己が歩みを早め、あっという間に囲いを抜けた。
そのまま靴箱まで移動した所で、ほっと息を吐く
『ありがとう勝己。助かった』
「ン」
『それにしても、まだあの事件の事なんか覚えてる人居るんだね』
「やめろ、言うな」
『ごめん』
まぁ勝己からすれば、あんなの恥以外の何でもないだろうし。
私は直ぐに口を閉ざし、教室に向かった
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させて貰った。初めてにしては全員動けていた。
これからも演習だと気を抜く事がない様に」
朝、簡単に昨日の振り返りを口にして、相澤先生は此方を見渡した
「さてHRの本題だ…急で悪いが今日は君らに…」
《ナンダロ ?》
「学級委員長を決めてもらう」
「学校っぽいの来たー!!!」
先生の発言で、教室の中は一気に騒がしくなった。
どうやら無茶振り系ではない様だ。良かった、除籍関連じゃなくて。
人知れず胸を撫で下ろす
「委員長!やりたいです俺!」
「オイラのマニフェストは女子全員スカート膝上30cm!」
「ボクの為にあるヤツ☆」
「ウチもやりたいス」
先生の言葉のあと、皆が一斉に手を挙げ始めた。
それをぼんやりと眺めていれば、目の前のたんぽぽ頭は手を挙げていない事に気付く。
『勝己、参加しないの?』
「中学でやってンだ、此処でやる必要はねぇ」
『そっか』
確かに勝己は中学で生徒会長をやっていた。理由は単純、内申の為。
この個性派揃いのクラスを纏め上げるとなると苦労しそうだし経験も積めそうだが、勝己はきっと、そちらより自分を磨く事に意識を割きたいんだろう。
ちらりと見れば、出久も控えめに手を挙げていて。というか挙げていないのは私と勝己と轟くんだけの様だ。皆積極的だな。
やいやいと騒がしい皆を眺めていれば、飯田くんが声を張る
「多を牽引する責任重大な仕事だぞ…!やりたい者がやれるモノではないだろう!
周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…!
民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら…これは投票で決めるべき議案!!!」
言っている事は概ね正しいのだ。
ただ────
「聳え立ってんじゃねーか!!
何故発案した!!!」
「ほんとそれな」
『ぴっしり伸びてんね』
さとるっちがたんぽぽ頭に飛び込んだ。
もふっと存外柔らかな髪に埋もれながら、白猫が笑う
《ジコ シュチョウ ヤベェナ !》
「日も浅いのに、信頼もクソもないわ飯田ちゃん」
「そんなん皆自分に入れらぁ!」
「だからこそ、此処で複数票を獲った者こそが、真に相応しい人間という事にならないか!?」
梅雨ちゃんと切島くんにそう返し、飯田くんはいそいそと寝袋に入った先生を見た
「どうでしょうか先生!!!」
「時間内に決めりゃ何でも良いよ」
先生が投げやりに返した事で、投票制度が採用された。というか暇さえあれば寝袋に入っちゃう先生って…
投票用紙となる無地の紙を前に、シャーペンをくるりと回した
『勝己』
「却下」
『マジで?』
「てめェじゃ駄目なんか」
『どうせなら人に入れたい』
「…じゃあ俺も」
『なんでよ』
「ゼロじゃ可哀想だろ」
『んんん…いっか、それで』
「おー」
《イミ ネー!》
へらりと笑って勝己の名前を書く。
私達の会話が聞こえていたんだろう。紙を回収したあとで、隣の席の瀬呂くんが首を傾げた
「いやさっきの会話何よ?」
勝己はだんまりだ。どうやら私が言わないといけないらしい。
ちょっぴり緊張しつつ、瀬呂くんと目を合わせた
『…私が勝己に入れるって言ったら、勝己も私に入れるって』
「あれで?んな事言ってたの?」
『え?うん』
そんなに不思議だろうか。
頷くと、勝己が肩越しに此方を見た
「へー、仲良いなぁお二人さん」
『幼馴染だから』
「つーか白露、もしかして人見知り?」
『うっ』
《バレタ ?》
秒でバレた。
気まずくて視線を逸らすと、呆れた様な溜め息が前から降ってくる
「アホ。判りやす過ぎンだよ」
「ま、対人距離なんて人それぞれだし気にすんなよ。お隣さんとして宜しくな」
『あ、ありがとう』
《イイ ヤツ !》
瀬呂くん、とても良い人だ…
ばしばしと目の前の背中を叩けば、勝己がめんどくさそうに舌打ちした
「………あ?」
『あれ、勝己二票だ』
「僕、二票ーーーーーー!?」
投票結果が黒板に書かれると、私の前後が声を上げた。
怪訝そうな様子からして、勝己は宣言通り私に入れたんだろう。勝己に入れた私に一票入ってるし。
そうなると私ともう一人、誰かが勝己に入れた事になる。ほう…一見攻撃的に見える勝己に入れるとは、判ってるな。
取り敢えず、後ろでワナワナする出久に拍手を贈っておいた
『凄いね。おめでとう出久』
《オメデトー !》
「あ、ありがとうせっちゃん…!!」
意外ではあれど、出久は優しいからそこを評価されたのかもしれない。
恐縮する出久から、怪訝そうな勝己に目を戻す。彼は横目で何処かを見ていた
「零票…!判っていた、判っていたが…!!」
「他に入れたのね…」
「お前もやりたがってたのに…何がしたいんだ飯田…」
視線の先に居たのは飯田くんと八百万さん、砂藤くん。
落ち込む飯田くんは零票。つまり誰かに投票している。もしかして、出久に入れたんだろうか。
投票結果は勝己と出久と八百万さんに二票ずつ。三人で話し合って決めろと相澤先生が言うと、即座に勝己が声を挙げた
「俺ァ辞退する。
今の俺にはてめェを鍛える以外に意識を割く余裕はねぇ」
「じゃあ八百万と緑谷で決戦投票するか?」
「それで良いんじゃね?」
決戦投票と称して再度の投票が行われた。
正直迷ったが、彼女の方が向いているだろうと思い、そちらの名を書く。
全ての紙が開けられた所で、二人は黒板の前に立った
「じゃあ委員長八百万、副委員長緑谷だ」
めちゃくちゃ動揺している出久と、張り切っているのかプリプリしている八百万さん。
生真面目過ぎる所が少々気になるけれど、彼女なら大丈夫だろう
お昼休み。
お母さんと一緒に作ったお弁当箱を出し、此方を振り向いた勝己に問い掛けた
『勝己、今日はどうする?』
「俺今日は持ってきてねぇ」
『じゃあ学食行こ』
お弁当箱を持ち、教室を出た。
そこで出久と麗日さん、飯田くんと会ったので、一緒のテーブルを使う事になった。勝己は無言で嫌がっていたが、勿論無視である
「何故委員長を辞退したんだ爆豪くん。君なら自身を鍛える事も、クラスを導く事も出来ただろう」
「ぁあ?…俺に入れたンはてめェかよ」
お箸を動かしながら投げ掛けられた飯田くんの問いに、勝己の手が止まった。
面倒そうに呟いて、切れ長の目が細くなる
「…てめェやりたがってたろ。ンで俺に入れやがった」
「飯田くん、自分に入れると思ってた」
「僕も」
確かに意外だ。私も飯田くんが自ら零票と言うまでは、自分に入れていると思ったのだ。
それがまさか、一見合わなそうな勝己に入れているとは。
「俺は相応しいと思った人に入れただけさ。
戦闘訓練の時の君に、俺はそう感じた。それだけの事だ。
君は口は悪いが、周りを良く見ている。
多を牽引出来るカリスマ性を持っていると、思ったからだ」
飯田くんは目を逸らさず、真っ直ぐに勝己を見つめてそう言った。
四角い目と暫し見つめ合い、それから居心地悪そうに紅い目が落ちる
「…………辞退して悪かったよ。けど、他のヤツに割いてる時間はマジでねぇんだわ」
「え、爆豪くんって謝れるんや…」
「かっちゃんが謝った…!?!?」
「てめェらブッ殺すぞクソがァ!!!」
『勝己うるさい』
《ノド ツブレンジャネ ?》
卵焼きをつまみ、大きく開かれた口に放り込む。
眉間に皺を寄せつつ無言で咀嚼し始めた勝己に笑って、私も卵焼きを食べてみた。やっぱり卵焼きは甘めが良い。
ふりかけでおめかししたご飯をお箸で掬うと、隣から視線を感じた
「………刹那」
『勝己には足りないんじゃない?』
「パン買ってある。コレも食いきれねぇだろ」
『…仕方無いなぁ。ほれ』
「ン」
お弁当箱を隣に滑らせる。隣からやって来た天津飯を受け取って、そういえばと気付いた。
勝己が握ったままのスプーンを見る
『勝己』
「…お前コレで食うんか」
『虫歯あったっけ?』
「ねェけど」
『じゃあ良いよ、貸して』
「…………………」
《カツキwwwwwwwwwwww》
無言でティッシュで拭ってからスプーンを差し出された。いや、そこ気にする?今更では?あーんとか良くするのに?
首を捻る私を他所に、近くにあった箸箱から取り出したらしいお箸で、勝己は私のお弁当をつついていた。
スプーンを餡のかかった卵に刺した所で、麗日さんが上擦った声を出した
「まって???ちょっと待って???え?私が可笑しいんかな???えっ???」
「ぁあ?うるせぇぞ丸顔」
「まる…!?」
「いや待ってほしい。二人とも平然と食事するのはちょっと待ってほしいんだが」
「とっとと食わねぇと昼休み終わンぞ」
『あ、この天津飯美味しい』
「デクくん!!!ねぇなんか言ってデクくん!!!」
「いやこれ小さい頃からだし…」
「小さい頃から…?
距離感………距離感バグってへん…?」
《wwwwwwwwwwwww》
何故だか慌てている飯田くんと戦慄いている麗日さん、そして爆笑しているさとるっち。
騒がしい二人と一匹を無視して唐揚げを食べる勝己と、苦笑いする出久。
随分わちゃわちゃしてるなと思いつつ、スプーンを動かす。
歓談しつつご飯を食べ進めていると────
〈セキュリティ3が突破されました。
生徒の皆さんは、速やかに屋外へ避難して下さい〉
突如鳴り響いた警報。
思わず首を傾げながら勝己を見た
『?…勝己、セキュリティ3って知ってる?』
「外部からの侵入者あり。至急避難しろっつーヤツだろ」
《ヒナン ?》
「つっても……マスコミが馬鹿やったっぽいけどな」
「あ…マスコミが入って来てる!?」
勝己の言葉で窓を見ると、雄英バリアーをどうやって突破したのか、マスコミが敷地内に入ってきているのが見えた。
『私達も避難するべき?』
「刹那、一旦無限張っとけ。
モブがパニックになっとる。お前みてぇに細ぇヤツは呑み込まれたら怪我すんぞ」
『はーい。さとるっち』
《オマカセ アレ !》
印を組むと、さとるっちがこのテーブルの人数を覆う無限を展開した。
無限に阻まれた生徒が此方には近付けず、緩やかに離れていくのを見た麗日さんが目を丸くしている
「すご…こんなに人居るのに誰にもぶつからへん…」
『離れないでね。私の個性の範囲から出たら巻き込まれるよ』
周囲はパニックに陥っていて、校舎から出る事しか頭にないのだろう。
窓の外には目もくれず出入口に殺到する周りを見て、出久が眉を下げた
「ど、どうしよう!早く伝えないと!」
『でもこんなになってたら、私達の声届かないんじゃない?』
「そうかも知れへんけど、このままだと怪我人出るんやないかな…」
「どうにかして混乱を収めねば…」
《カツキ ドウスル ?》
私の肩に乗ったさとるっちが、何処か面白がる様な声音で勝己を呼んだ。
口許に手を添え視線を下げていた勝己が、ゆっくりと睫毛を上下させる。
それから紅い目が、私を捉えた
「刹那、無限を一瞬だけ此処に居るヤツらに展開しろ。攻撃的なヤツじゃなくて良い。頭叩かれたとか、そんくらいの威力だ」
『はーい』
《ジュンビ オッケー !》
『行くよ』
無限を一瞬だけ大きく展開する。
これだけの騒ぎだと、ちょっとの刺激じゃ気付かれないし、強くても事態が更に悪化する事になりかねない。
だから────捕捉した生徒の顔に、綿を押し当てる様な使い方をした。
「!?」
「え…???」
「なに、急にもふっとしたものが…」
瞬間、困惑に一瞬だが周囲の動きが鈍る。
その隙を逃さず、勝己が声を張り上げた
「侵入しやがったのはマスコミ共だ!全員避難経路を思い出して、落ち着いて動きやがれ!
────万が一襲撃があっても問題ねぇ、ヒーロー科が敵をブッ飛ばす!!!」
生徒の目が一斉に此方に向けられる。
その視線の多さにたじろぐものの、隣から背中に大きな手を添えられた事で、気を持ち直した。
その手が頭に乗せられ、数回跳ねる
「コイツが居れば、敵の攻撃も、落ちてくる瓦礫もサイコキネシスで防げる。
そこのメガネは怪我人を速く運べるし、丸顔は触ったモンを無重力にして、降ってくる瓦礫なんかを防げる。
そんで────俺は爆破で敵をブッ飛ばす」
《イズク ハ ?》
さとるっちの質問に、勝己は小声で返した
「ソイツの個性ちゃんと知らね」
「かっちゃん、僕は…?」
「喋んなクソナードボール投げるだけで骨折れる個性なんざ不安しか煽らんわ」
出久を小声かつノンブレスで罵倒すると、最後に勝己は好戦的な笑みを浮かべた
「他にもヒーロー科のヤツは此処に居る!直ぐに教師も制圧に動くんだから問題ねェ!!
────だから、全員焦らずに避難しろ」
…話し方が巧いと、思う。
鼓舞するが如く勇ましく言葉を放ったと思えば、最後は此方の不安を取り除く様に、低く落ち着いた声が言葉を紡ぐ。
静寂が食堂に降りたあと、ゆっくりとだが人の波が動き始めた。
どうやら落ち着いて避難を始めてくれたらしい。
ほっとして無限を解く。
勝己は麗日さんと飯田くんに肩を叩かれ、うざったそうな顔をしていた
「爆豪くん!私感動してしまった!!」
「流石だ爆豪くん!!!迅速な対応、見事だった!!」
「あーあーうるせーうるせー!!使えるモンを使って何が悪ィ!!」
「かっちゃん!
せっちゃんに防御させるだけじゃなく全員の気を惹く使い方をした上で此方の個性と具体的な動き方を並べて全員を落ち着かせるなんて本当にすご…」
「うるせーーーー!!!!
サブイボ立つわブツブツ喋んなクソナード!!!!!」
この二人は相変わらずだな。
思わず苦笑いを浮かべた所で、肩に乗ったさとるっちが笑った
《ウン マズマズ!》
『え、百点じゃない?こんな人数を纏めるなんて凄いと思うけど』
《イチバン イイ ノハ サッキ デ ダマラセル コト !》
サッキ…殺気?え、嘘でしょ?
思わず見るが、肩の上の白猫はにゃっふにゃっふと笑っていた。
あの後警察が到着し、マスコミは撤退。
無事に騒動は収まった。
「では他の委員決めを執り行って参ります!希望する委員がある方は挙手を────」
「あ、あのっ!少し良いですか!?」
八百万さんの言葉を遮ったのは、出久だった。
ガチガチに緊張した様子の彼の新緑の瞳が、真っ直ぐに此方を────勝己を、見た。
「副委員長は…やっぱりかっちゃん…爆豪くんが良いと思います!
あんな風にかっこ良く人を纏められるんだ。
僕は…僕よりも、かっちゃんがやるのが正しいと思うよ」
「あ!良いんじゃね!
爆豪、食堂で超活躍してたし!!
緑谷でも別に良いけどさ!」
「俺も見た!爆豪、めちゃくちゃ漢だったぜ!!」
上鳴くんと切島くんの言葉に、周りの目が集まった。ちらりと見える横顔は嫌そうで、思わず笑ってしまう。
「さっきも言ったろ。俺ァてめェの事で忙しいンだよ、副でも委員長はやらねェ」
頑なである。
ぷいっと顔を逸らした勝己に出久は眉を下げ、飯田くんは何か言いたげにしていた。
こうもやらないと言っている相手に押し付けるのは難しいだろう。
幾ら勝己が煽りに弱くとも、こんな状態じゃ────
「んな事言って、実は爆豪皆を纏める自信ねぇだけじゃねぇの?」
「……………………あ゙???」
たっぷりと間を置いて放たれた、ドスの効いた声。それに事の顛末が読めた私は無言で机に突っ伏した。
さとるっちもぷるぷるしている。がんばれ、耐えろ。
私達の我慢は、五秒後に限界を迎えた
「────もっぺん言ってみろてめェゴラァ!!!
てめェら程度纏めンのなんざ簡単だわ!!委員長でも副委員長でもやり殺したるわァ!!!」
『wwwwwwwwwwwwwww』
《バカ スギルwwwwwwwwwww》
「誰が馬鹿だ!?あ゙ぁん!?」
「えっ!?いや誰もんな事言ってねぇって!」
「いや白露めちゃくちゃ笑ってんじゃん」
「アンタそんなに笑えたんだね…」
瀬呂くんと耳郎さんの声が私に向けられている。ひぃひぃ言ってる私の髪をぐしゃぐしゃにしながら、勝己は苛立たしげに舌を打った
「チッ……おい、書記にコイツ入れんならやってやっても良い」
『かっちゃん?』
「喜べお前も巻き添えだ」
『かっちゃん???』
「何でも良いから早く進めろ…時間が勿体無い」
「チッ」
舌打ちする勝己に手を引かれ、黒板の前に立たされた。
凄くイヤ。でも逃げられそうにない。
溜め息を吐きつつノートを開けば、気合い十分な八百万さんが仕切り始めた
夜。
部屋で授業の予習をしていると、カーテンの向こうから音もなく人影が現れた。
さとるっちが声を上げるまで気付いていなかった私は、振り向いて大きく肩を揺らす羽目になる
《ア カツキ》
『……勝己、びっくりするから物音立ててってば』
「あ?…お邪魔シマス」
『礼儀正しいな。でもそうじゃないのよ足音立てて』
「しゃーねぇだろ、癖なンだわ」
『忍者かな?』
真後ろに腰を下ろすと、私のお腹の前で手を組む勝己。
無言で引き締まった身体に寄り掛かりながら、教科書のページを捲った
「……今日のアレ、どう思う」
『マスコミの事?』
「ン」
右肩に顎が乗せられた。
さとるっち専用の空色のクッションに寝そべる白猫を眺めながら、お昼の混乱を思い出してみる
『んー…あれって器物損壊なのかなって思ったけど。大体何であんな事したんだろう?』
「…注目を集める理由って、浮かぶか?」
『単純に目立ちたいとか…侵入で考えるんだったら、中の様子を知りたいから…?』
そこまで呟いて、はた、と違う考えが浮かんだ
『それか、囮だったとか…かな?』
「なぁ」
「どうしたの?」
「…囮を使って騒ぎを起こす時、敵が狙うモンって何だ」
爆破で勢いを生みつつ、右足を振り抜く。
それを半歩下がって躱した夏油は、笑みを崩さないまま口を動かした
「侵入される側の物資の保管状況にもよるけど…私なら、そこでしか手に入らない情報か、此方の策をより磐石に出来るアイテムを狙うかな」
昼間のマスコミ侵入騒ぎ。
あの時ちらりと見えたのは、一部が崩れた門だった。恐らくはそういう個性のヤツが居て、雄英バリアーを無効化する為に校門を破壊したんだろう。
刹那が何気無い様子で呟いた言葉は、俺が危惧していたものと同じで。
猫が寝たフリをしながらにんまりと笑っていたのは、俺達がその思考に至った事に関してだろう。アイツは時折、ああやって此方が悩みながら答えを出すのを楽しむ節がある。
そういう所は目隠し由来の成分なんだろうか。
「つっても雄英はセキュリティも堅ェし、きっと機密情報なんかは校長がどっかに隠してンだろ。
第一あの時だって、校長室にはヒーローが向かった筈だ」
爆破で距離を詰め、蹴りをかます。
動きにくそうな袈裟を翻し、放たれた拳を靴の裏で受け止め、飛び退いた。
左手で推進力を生み、右手でその横っ面を引っ叩こうとするが、敢えなく躱される。
「そもそもの話、侵入者が見付かってねぇ。
巡回ロボットに不審者も映ってねぇから、誰も不審者と会ってねぇから、マスコミの侵入なんて意味判ンねぇ結論で誤魔化せんだろ」
態々雄英バリアーを崩すなんて騒ぎを起こしておいて、何も取りませんでしたはあまりにも御粗末。きっと校舎の何処かに敵は入ったんだろうと考えるのが筋だ。
ただ侵入方法は不明だし、盗まれたものも判らねぇ。
やべぇモン盗られたんならもっと警戒レベルが上がるだろうし、侵入者を見掛けたヤツが居れば、校内がざわつくだろう。
それに、マスコミの侵入がセキュリティ3発令の原因だとは言ったが────マスコミの中にあの個性のヤツが居たなんて、相澤先生は言っていなかったのだ
「じゃあこういうのはどうかな?
一見重要じゃない情報が、敵にとっては必要なものだったら?」
「重要じゃねぇ情報…?」
「そう。
雄英に居る君達にとっては知っているのは当然でも、外に居る人間は普通なら知り得ない情報、とかね」
長い脚が振り抜かれる。
それに向けて爆破を放ち、上段回し蹴りで首を狙った。
防いだ右腕に脚を絡ませ、浮いた脚で顎先をカチ割ろうとする。
寸の所で爪先を捕まえた夏油は、細い目を丸くしていた
「へぇ…蹴り技を増やしたのかい?今のは予想してなかったよ」
「目隠しが蹴り主体にしろって言ってきたんだよ」
「ああ、アイツ足癖悪いから」
ぱっと離され距離を取る。
目隠しに助言され、足技を増やした。
教本として読み漁ったのは空手、テコンドー、サバット、截拳道、他にも色々。果てはカポエイラまで。
ひたすらに入門指南書を雄英の図書館で読破し、一通り動きをなぞり、自らに落とし込んだ。
大体やれば出来るという特技かも判らねぇそれが、まさかこんな事で活きるとは。
「アンタにゃ黙っとったらしいな、あのクソ目隠し」
「悟は悪戯好きだからね…全く」
やれやれ、と息を落とす。
そしてエセ坊主はゆるりと口角を上げた
「じゃあ私は…そうだな。
手数で圧倒する方法を教えてあげよう。
次はこれで悟の鼻を折ってやると良い」
黒色、ひたり
刹那→書記にされた。
最近幼馴染の爆発頭の方がどんどん忍者になっていくのが気になる。
爆豪→副委員長になってしまった。
一度見れば大体出来る才能マン。
爆破での移動による推進力をフルに利用した戦闘スタイルを模索中。このままだと通常スタイルはグラントリノみたいになりそう。
五条→爆豪に足技での立ち回りをアドバイスした人。
まさか色んな競技の入門指南書読みまくって足技を増やすとは思ってなくて、夏油から話を聞いて爆笑する。
夏油→爆豪に手数で圧倒する方法を教える人。
後日その戦法の爆豪を五条にぶつけて笑う予定。
爆豪に仕込みまくって、最終的にどっちの戦法が良いかを競ってそう。
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