もうり家+αになぐさめられる



泣いてる私を慰めてくれたコナンくんをお家まで送り届けるために2人で歩く。正直こんな小さな子供が1人出て歩いていい時間じゃなかったので、凄い怒られて殴られたらどうしよう、なんて思いながら気を重くしていた。緊張からくる吐き気を抑えて、コナンくんに付いて行く。

「着いた。」

彼が足を止めたのはポアロの真ん前。え、ポアロの近くっていうことは彼の発言から分かっていたけど彼のお家ってまさかポアロ??ポアロって家なの?あ、奥に居住スペースがあるのかな??いや、なくない...??というか、まずポアロの店長さんって子供いたの!?1人で悶々と考え込んでしまった。まぁ、別に変ではないんだろうけどなんだか不思議な感じだ。気を取り直してポアロの扉を開こうとするとコナンくんから手を引かれる。

「そっちじゃないよ。」
「え。」
「ポアロじゃなくて上。」
「うえ?」

コナンくんに促され顔を上げると「毛利探偵事務所」という看板が目に入った。毛利探偵ってもしかして?

「え...。毛利探偵ってあの毛利探偵?」
「うん。最近よくニュースに出てる『 眠りの小五郎』だよ。」
「そっかぁ...。」

あまりに驚きすぎてぽかんと口を開く。毛利探偵ってこんなに小さな息子さんがいたんだ...。いや、というより何度もポアロに来てるのに今日初めてそれに気付く自分がやばい。いかに自分が周りに目を配れていなかったのかがわかる。複雑な気持ちで看板を見ているとコナンくんが声を上げた。

「なまえさん、送ってくれてありがとう!」
「え、待って。ちゃんと親御さんに挨拶するよ、というかさせて下さい。」

こんな時間まで子供を連れ回ったなんて本当にやっちゃダメなことだから。ちゃんと謝らないと。警察沙汰になってたらどうしよう。

有り得なくはない最悪の事態を想像し、じわり、と目頭が熱くなる。コナンくんはギョッとした表情で、「ちょ、なまえさん?」と呼んでくる。うっ...、大丈夫。まだ決壊してないから。踏み止まってるから。

からんからん。2人であわあわしていたら扉の開く音が聞こえた。

「今日は随分と遅いんだね」

ポアロから綺麗な顔をしたお兄さんが出てくる。(うわ、絶対怪しい女って思われてる。コナンくんを助けるために出てきたんだ)とネガティブな思考が湧いてくる。それに触発されて涙がボロボロ零れてだした。

「ごめ゙んなざい...。でも、ゆゔがいじゃないんです!!」
「えっ」



あれから店先で大泣きし始めた私は、コナンくんと顔の綺麗なお兄さん(安室さんというらしい)と騒ぎに駆けつけてくれた毛利さんとその娘さんに宥められながら閉店後のポアロに連れていかれた。

「はい、どうぞ。」
「あ゙、あ゙りがどうございます...。」

ことり、と目の前に湯気のたったホットミルクが置かれる。えぐえぐと目元を擦っていると、蘭さんがハンカチを貸してくれる。可愛い上に気遣いができるなんてなんて素敵なんだ...。うわ、また涙出てきた。

「全くよー、何事かと思ったぜ。」
「うっ、うっ...。ごめんなざい...。息子さんを長らく連れまわじてしまっで...。」

ぐずぐず、鼻をすすりながらがばっと頭を下げる。ゴツン、と額を打ち付けた。いだい...。

「なまえさん、落ち着いたー?」
「はい゙...。何回も迷惑をかけてごめんなさい...。」
「僕は平気だけど...。」

なまえさんは平気じゃなさそうだね、とコナンくんが苦笑する。それを見て毛利さんも大きくため息を吐いた。

「このガキンチョが遅くに帰ってくるのは何時もの事だよ!今回は大人と一緒で安心したくらいだよ。」

全くよ、と悪態をつきながらコナンくんの頭を小突く。それにコナンくんはアハハ、と乾いたように笑った。

「もう、お父さん!...でも、本当に気にしないでください。私達も近所だからってコナンくんが1人で出歩くのを許してたのも良くなかったし...。」
「コナンくん、しっかりしてますからねぇ。」

申し訳なさそうな蘭さんに安室さんが小さく笑ってフォローを入れていた。うん、私も今日沢山お世話になりましたからね。いい大人なのに...。本当に頭が上がりません...。

「まぁ、ともかくそんなに気にしてないから泣くな泣くな!!」

困ったように頭を掻いて毛利さんが立ち上がる。

「ほら、お前お腹すいてんじゃねぇのか?だからそんなにネガティブなんだよ!」
「お、お父さん...!」

窘めるように蘭さんが毛利さんを呼ぶ。初対面の人にもネガティブって言われた...。否定できないのがまた辛い...。

「ほら、奢ってやるから飯食い行くぞ!」
「流石、毛利先生!名案ですね!」
「腹が減っては戦はできぬってやつですか...」
「それはちょっと違うんじゃないですか...?」

私の一言に蘭さんが突っ込む。そっか、違うか...。というか毛利さん奢りって言った?

「いえいえ、大丈夫です!お気遣い頂きありがとうございます!私はこれで帰りますので!」

食卓を一緒に囲うなんて畏れ多い、と首を振りながら立ち上がる。それに毛利さんがあぁ?と凄んできて怯んでしまった。怖い...。

「まぁまぁ、なまえさん、ここは毛利先生を立ててお付き合い下さいませんか?」

安室さんがこちらを伺ってくる。確かにここまで言ってくれてる方のお誘いを断るのは良くない、のか...?

「父もこう言ってくれてますしなまえさんも一緒にたべましょう!」
「僕もなまえさんとご飯食べたいなー。」

うっ...。蘭さんとコナンくんにキラキラした瞳を向けられると私の中の罪悪感が顔を出す。

「じゃあ、お世話になります...。」

そのままぺこりと頭を下げる。それに満足そう頷いた毛利さんがじゃ、さっさと出るぞ、と扉に向かった。かっこいい...。思わずキラキラした目で彼の後ろ姿を追ってしまう。私もこんなかっこいい大人になりたい...。

そして、はっとホットミルクを思い出し慌てて飲む。ちょっと冷えちゃってるけど美味しい。ほっ、と息を吐き出す。そして、安室さんに向き直ってありがとうございます、美味しかったです、とお礼を言って頭を下げた。

「えぇ、落ち着いたなら良かったです。」

優しく笑う彼に顔を合わせるのが恥ずかしくなる。そういえば私今すごい顔をしてるんじゃ...!?慌てて顔が見えないように少し俯きもう一度お礼を言った。

「本当にありがとうございました...!」
「いえいえ。ほら、早く行かないと置いていかれちゃいますよ。」
「安室さんは行かないの?」
「うん。閉店作業の続きもあるし、今日は少し用事があるんだ」
「へー...」

じとりとした目で安室さんを見上げたコナンくんはなまえさん、早く行こと言って蘭さんと出ていってしまった。私もそれに続こうと椅子に置いていた鞄を取る。そして安室さんに背を向けて歩き出した時。

「なまえさん。」

腕が引っ張られる。驚いて安室さんの方を振り向くと安室さんが優しい顔で笑いながら私の手をぎゅっと握っていた。混乱した頭で状況を把握しようとするが何もわからない。

「あの、安室さん...?」
「何時もお疲れ様です。疲れた時は是非ポアロで羽を伸ばしてくださいね。」

かっ、と頬が赤くなる。もしかして、コナンくんから聞いた?いや、でも彼がいる時にも来たことあるし、私そんなにわかり易く凹んでたのか...。恥ずかしいやら嬉しいやらで涙が出そうだ。

「はいっ!また来ます!」
「えぇ、お待ちしています。」

にこやかに笑う彼からぺこりと頭を下げて背を向ける。扉を開くとコナンくんたちが待っていてくれていた。

「おら、行くぞ」

私が来たことに気づいた毛利さんがポケットに手を入れながら歩き出す。私は全部のことが嬉しくて、涙が零れそうになるのを堪えながら返事をした。