おきやさんになぐさめられる



先日、小さな子供の前で大泣きするという恥を晒した挙句、その保護者である毛利さん一家にに夕飯を奢っていただいたみょうじ なまえでございます。えぇ、私のことです。本当に情けない出来事でした。

という訳で今日はお世話になった毛利さんたちやあの日ホットミルクを頂いた安室さんへの献上品を探しにここ、米花デパートまでやって来ていた。ここなら、何かいいものがあるだろう。とはいえ、何がいいだろう。消えものにしようとは思っているのだが...。コナンくんと蘭ちゃんはお菓子でもいいかもしれないが、毛利さんと安室さんは甘いものは苦手かもしれない。あの日、毛利さんはビールを飲んでいたしビール券とか...?うん、いいかも。下手なものをプレゼントするより好きだとわかってるものないいよね。

「うーーん。」

しかし、困った。安室さんには何をあげたらいいだろうか。お菓子をあげてもいいものなのか、それともビール券を渡すべきなのか...。いっそ商品券が一番無難かな...?

店内のマップの前で1人途方に暮れる。男の人(しかも多分年上)の好きな人の喜ぶものってなんだろう...。私の知ってる成人男性なんて父親くらいだ。

「どうかされましたか。」

いきなり後ろから話しかけられびくぅっ、と肩を跳ね上げる。驚きすぎてじんわり目尻に涙が溜まる。ばっと後ろを振り向くと長身の眼鏡をかけた男性が立っていた。すんごい顔がいい...。目が細いけど...。

「あぁ、すいません。驚かせるつもりは無かったのですが。」
「い、いえ...。こちらこそずっとマップの前を独占してすいません...!」

ぱっ、と案内図の前から退く。そうだよね!こんな所に立ち尽くしていたら邪魔な上に怪しいよね!申し訳なさからまた涙がこみ上げてくる。うぅ、本当に最近の私の涙腺どうなってるの...。ポンコツすぎじゃない...??

「あぁ、いえいえ。何かお困りのようでしたので...。どうされなんですか?」
「いえいえ、大したことじゃないので...。いえ、私にとっては大したことなんですけど、わざわざお話することでもないので...。」
「しかし、貴方はもう10分以上はここで悩んでいる様子でしたよね。百面相をしていましたし、1人で解決するのは難しいのでは?」
「うっ...。」

すごい見られてる...。というか何時から見てたのこの人...。はっ、いやいや、親切心で提案してくださってる方に失礼だよね。そう、きっとこの方は親切心で...。

「あまりにコロコロ表情が変わるので面白...失礼、気になって声をかけてしまって。」

親切心かなぁ...?面白...ってもう隠せてないような...。いや、無闇に人を疑うのは良くないって亡くなったおばあちゃんも言ってたし。うん。きっと親切だ!

「実は...。」



「なるほど。知人にプレゼントを...。」
「いえ、プレゼントというか、お詫びの品なんですが...。」
「男性向けのプレゼントですか...。」
「聞いてます...?」

この人ちゃんとお話通じてるの...?マイペースなのかな...??何だか急激に不安になってきた。大丈夫...??

「では、私もご一緒しましょう。」
「へ...?」

1人で悶々と彼について考えていたため、何を言われたのか理解ができなかった。ご一緒...。一緒...。...いっしょ!?

「いやいやいや、そんなご迷惑をおかけするわけにはいきませんから!」

あと、私がマイペースについていける気がしない。

「いえ、私も用事は済んでいるので時間はありますし。ほら、そうと決まれば行きましょう。」
「え、ちょ...!」

彼が歩き出す。えっ、そんな問答無用?ナンパ??...いや、彼ほどの顔面偏差値でわざわざ私は選ばないな。自分で思い悲しくなりながら、彼の後について行った。noといえる日本人になりたい...。



「お相手はどんな方なんですか?」
「ええっと...。多分数個年上で、喫茶店で働いている方です。あと、優しかったです。」
「ホー、それから?」
「えっ、それから...。ええと、身長が高くてかっこいいです...?」
「...なるほど。」

彼は微妙そうな顔で頷いた。仕方ないじゃないか。私が安室さんについて知ってることはほとんど無いのだ。名前だってあの日初めて知った。だから私がわかるのは外見的特徴とあの日の思ったことくらいなのである。


「なるほど...。まぁ、男性が貰って困らないものといえばやはりハンカチやタオル、ネクタイなどではないですか?しかし彼が普段スーツを着用しないならハンカチやタオルのほうがいいかもしれませんね。」
「なるほど...。でも、残るようなものって負担じゃないですか?たった1回面倒見たような人から貰うなんて。」
「ふむ...。そうですね、気にする人は気にすると思いますが...。その彼は気にするような人なんですか?」
「それが分からないんです...。優しい方ですから渡せばありがとうと受け取ってくださる気もしますが、だからといって本当に喜んでいるかはわからないじゃないですか...。」

そうだ。偶に店にやってくるだけで、この間はじめて会話したような女からハンカチやタオルをもらって喜ばないだろう...。しかも店前で大泣きするようなやつだ...。絶対嫌だよ...。なんかまた泣きそう...。

「...。では、紅茶やコーヒーの詰め合わせなどはいかがでしょう。消えものですし、丁度良いのでは?」
「喫茶店で働いてる方ってコーヒーや紅茶の好きな銘柄とかありそうじゃないですか...?」
「まぁ、多少はあるかもしれませんが...。では、緑茶や工芸茶にしてみては?工芸茶は見た目も華やかですし贈り物には最適でしょう。」
「確かに、それなら...。」

目頭を軽く押さえ、涙を隠す。いや、多分隠せてはいないけど。

「確かそれ用の専門店があったはずです。行ってみましょう。」
「はい、ありがとうございます...。」

さっきまでマイペースで心配とか言ってた自分を殴りたい。とってもいい人だ...。それなのに私ときたら。こんないい人に対してなんて失礼なことを思っていたのだろう。やばい、また涙が出てきた。何でこんなに涙が出てくるの。

「何がそんなに悲しいんですか。」

いつの間にか立ち止まっていた彼がこちらを伺い私に声をかける。

「わ、私があまりにも嫌な奴だから...。」
「ホー...。」

彼が私の手を引き人の少ない非常階段近くに連れていく。がやがやした喧騒が少しずつ遠ざかったいく。

「それで、貴方の何処が嫌な奴なんですか?」
「あ、あなたのこと...。変なひとだと思ってて...。こんな私に親切にしてくれるやさしいひとなのに...。」

堪えきれなくなった雫が溢れる。本人を前に告白することになるとは...。申し訳なさと不甲斐なさで遣る瀬無かった。

「貴方の不安は最もだと思います。いきなり声を掛けてきた男を不審に思うのは正しい反応です。それに、声を掛けて強引にことを進めた私が言うのもなんですが貴方はもう少し警戒心を持った方がいいですよ。」

私だって、本当は悪い男かも知れませんよ、と彼は片目を軽く開く。

「うそだぁ...。悪い人は自分が悪い人かもなんていわないですよぉ...。」
「例えばの話ですよ。世の中いい人ばかりじゃないんですからね。」
「はぁい...。」

何だかお兄ちゃんに窘められてるみたいだ。私に兄はいないけど、もし居たらこんなふうなのかもしれない。やれやれ、という風に息を吐いた彼を盗み見て私はそう思った。