おきやさんにからかわれる(?)



「そういえば、お名前をお伺いしても...?」
「あぁ、そういえば、名乗っていませんでしたね。私は沖矢昴です。東都大学の大学院生です。」
「え。すごい...。みょうじなまえです。しがないOLです...。」

とても今更な会話だが彼は嫌な顔をせずに応じてくれた。お互い名前も知らないで一緒に行動してたなんて、普通だったら考えられないと思う。小さい子だって名前も知らない人について行ったらいけません、という教えをしっかり守っているだろう。はっ、私小学生以下...?いやいや、そんなことないよ。ないよね...?

なんて思いながら2人で目当てのお店へ向かう。というか沖矢さん東都大学の院生っていった?え、すっごい頭いいとこなのでは...?神は無情なり。唯でさえ顔が良くて性格もいいのにそれに加え頭もいいなんて...。私もせめて要領がよく生まれたかったなぁ、としょんぼりする。まぁ、ないものねだりをしても仕方がない。こないだコナンくんに頑張るっていったしね!うん!

「ほら、着きました。」
「わぁ、沢山ありますねぇ。」

自分を鼓舞することに必死になっていた私はその声によって、目的地についたことを知る。ぱっと店内に目をやる。全体的に木を使い茶色で統一された店内の壁沿いに棚が並んでいる。お茶の葉だけでなく茶器や、茶菓子などもある。その中から工芸茶のコーナーを探す。

「あ、これですよね?」

棚の一つにそれらしきものを見つける。ギフトにおすすめとかかれたポップが幾つか見られ、可愛らしく個装された茶葉とそれがどのよう に花開くのかを載せた写真がある。思っていたより種類があって目移りしてしまう。鮮やかな花々が水の中で花開く姿は美しいが、だからこそどれを選ぶべきか私にはさっぱり分からなかった。

「お困りなら花言葉などで決めてもいいんじゃないですか?」
「花言葉ですか?」
「えぇ、工芸茶に使用されている花の花言葉です。」

なるほど、と頷きながらもう一度棚を眺める。有名なカーネーションならなんとなく分かるが私は花言葉を知らない。どこかに載ってないかな*、と様々なポップを見ていると1つ表になっているものを見つける。そこに視線をやると主な花々の花言葉がのっていた。

「ジャスミンは素直・可憐、カーネーションは純粋な愛情、ユリは純粋、菊は高貴、真の愛、...。他のも全部恩返しで渡すような花言葉はないですねぇ...。」
「まぁ、工芸茶は女性の方が需要があるでしょうしね。そうなればやはり恋愛ごとに持ち込んだ方が売りやすいのでしょう。」

古今東西恋バナが嫌いな女性なんてそうそういないでしょう?と沖矢さんが物知り顔で笑う。まぁ、確かに...。

「あ、じゃあ、お茶の効能で決めます。ここにも一緒に乗ってるみたいですし。」

表にある花言葉の隣にはそれによる効能ものっていた。数度顔を合わせたことがある程度の女から花言葉を意識したプレゼントをされても、って感じだよね。私は身の程を弁えていきたい。安室さんは気にしなくても周りの女性はそうはいかないでしょうし... 。じっ、と表を見るがあるのはリラクゼーションかリフレッシュばかり。

「ひぇ...。」

これでは決められない。元々優柔不断の質なのだ私は。そしてうむむ、と唸る。どうしよう。
うんうん、と頭を悩ませているとくすくすと控えめな笑い声が耳に入ってきた。

「沖矢さん!笑わないでください!」
「あぁ、すいません。あまりにも真剣に選んでいるのが微笑ましくて...。」

じとり、とした目で彼を睨む。絶対面白がってるんだ。そりゃあ、沖矢さんにとっては他人事だから関係ないんだろうけど、私にとっては一大事。私は自分のセンスに自信はないが周りの人にはセンスがいいと思われたいのだ。えぇ、見栄っ張りです。

「もういいです!これにします!」

急に恥ずかしくなった私はおすすめナンバー1と大きく書かれた茶葉のセットを手に取る。オススメだし間違いないだろうしもういいね!決まった!はい、帰りましょう!

「おや、良かったんですか?まだまだ悩んでいても大丈夫ですよ?」
「いいんです!!もう!沖矢さんからかってますよね!?」
「はて?」

何のことやらと言わんばかりに首をかしげた沖矢さんに羞恥で顔が真っ赤になる。それを見て余計に笑い出す沖矢さんに、買ってきます!と投げやりに告げ怒りと恥ずかしさで涙を滲ませながらレジへ向かう。沖矢さんはそれも可笑しいのかくすくす笑いながらいってらっしゃいと見送ってくれた。


沖矢さんあんなに優しい顔してるのに、意地悪だ。カウンターに並んで順番を待ちながら沖矢さんについてを考える。...意地悪だけど困ってた私をわざわざ助けてくれたんだよね。無視することだってできたのに。やっぱり、沖矢さんにも何かお礼をしなきゃなぁ。また困った。順番が回ってきて持っていた商品を店員さんに渡す。プレゼント用でお願いします、といってラッピングを待つ間ぼんやりレジ隣の棚を見る。そこには色とりどりおかきや乾きものが並んでいた。

(かわいい!)

数種類のおかきの入ったアソートやかわいい猫やだるまのプリントされたお煎餅。どれも可愛くて目移りする。そしてはっ、と思い付く。おかきなら男性向けでも良かったのでは!?...そっかぁ、そうだよね。お菓子って洋菓子だけじゃないもんね...。
ようやく思いついたそれにガックリ肩を落とす。いや、工芸茶もおしゃれで素敵だからいいんだけど。知恵を貸していただいた沖矢さんには頭が上がらないです。...ん?沖矢さん?

「あの、これと別で包んで頂けますか!?」

そうだ、沖矢さんへのお礼!うんうん、感謝の気持ちはしっかり伝えないとね。隣の棚にあった目を細めた招き猫がプリントされた煎餅をレジの店員さんに渡す。咄嗟に選んだけどあの猫ちゃん、沖矢さんに似てたな。まぁ、可愛かったしいいか。

「ありがとうございましたー!」

ラッピングされたプレゼントを受け取り、足早に沖矢さんの元へ向かう。沖矢さんは茶器の置いてある棚に居た。左手を顎に当て、商品を眺めている。絵になるなぁ、と思いながら声をかける。

「沖矢さん、お待たせ致しました!」
「いえ、全然待ってませんよ。ちゃんと買えましたか?」
「はい、バッチリ!今日はお付き合いありがとうございました!」

袋を上に掲げてゆらゆらと揺らしてみせる。そして、にっこり笑ってぺこりと頭を下げた。

「いえいえ、声をかけたのは私ですし気にしないでください。所で、自分用にも買ったんですか?袋が2つある。」
「いえいえ、こっちは沖矢さんへです。本当にありがとうございました!宜しかったら是非食べてください。」

袋を沖矢さんに差し出す。沖矢さんは少しだけ虚をつかれたような顔をしてすぐににこりと笑った。そして、ありがとうございますと袋を受け取ってくれた。

「お煎餅なので食べやすいかなと思ったんですけど、もし苦手ならどなたかに差し上げてもらっても大丈夫なので...。」
「いえ、ありがとうございます。なまえさんは律儀ですね。」

そんなことないですよ、と笑ってもう一度頭を下げる。都会は怖いとこだよ、と幼馴染のお姉さんに言われたことがありその印象が強かったがそんなことはないかもしれない。コナンくん達のこともあるし。

「それでは、今日は本当にありがとうございました!」
「いえ、なまえさんも気をつけて帰ってくださいね。」
「はい!沖矢さんも気をつけて!」

ふにゃあ、と気の抜けた笑い方をしている自覚はある。沖矢さんいい人だったなぁ、と彼の背中を見て思う。難しいと思うけどまた、何処かで会えたら嬉しい。

「あぁ、そうそう。」

くるり、と沖矢さんがこちらを向き直る。何だろう、忘れ物とかあったっけ?何も預かってないけど、と小首を傾げる。

「笑った顔も可愛いけど照れた顔も可愛いと思いますよ。」

にっこり笑顔で爆弾を落とす沖矢さんには何を言われてるか分からず固まる私。何?どういうこと?え、かわいい??

「は!??」

ぼっ、と顔を赤くした私を見て満足そうに笑ってでは、と沖矢さんが踵をかえす。あの人わざわざそんなことを言うために止まったの??絶対意地悪だ!こう言ったら私が照れるって分かっててやったんだ!!

「もう...!」

赤くなったまま後ろ姿をきっ、と睨む。次があれば絶対やり返してやる!と心に決め毛利さんたちのプレゼントを買いに私も踵を返した。