こなんくんがわからない


「お疲れ様でした!」

終業時刻になった瞬間席を立ち、挨拶をして会社を出る。私の勢いに先輩方がお疲れ様〜と驚いたように声を掛けてくれるがそれにぺこりとお辞儀を返しとっとことっとこ歩き出す。
今日は漸く毛利さんのお宅に向かうになのである。先日は運悪くいらっしゃらなかったため安室さんにしかお詫びの品を献上できなかったため安室さんから毛利さんの予定を聞き、今度はちゃんと電話でアポイントをとったのだ。献上するだけなので少しだけ時間を頂ければ大丈夫です、と告げたところ気がついたら夕方に来るならご夕飯も一緒に、という話になっていた。断りきれなかった私は今日は毛利さんのお宅でご夕飯なのである。そのためせめて準備のお手伝いはしよう!と思い、急いで1度自宅に戻り荷物を持って行かなくてはならないのだ。

定時ダッシュして自宅に戻りゼェゼェいいながらラフな格好に着替え、お詫びの品を冷蔵庫から取り出す。よし!行くぞ!気合を入れて扉を開けようと扉を引くもビクともしない。あれ?あれ?と扉を開けようと奮闘するも開かない。鍵かけてたっけ?と首を捻るも鍵は空いている。何でだっけ?と半泣きになりながら扉を弄っていて気づいた。これ引くんじゃなくて押すんだよ...。何で自宅の扉も満足に開けられないの〜!?と羞恥により真っ赤になった顔で家を飛び出す。1度外に出たところで漸く顔の熱が引き、うぅ、と項垂れる。そして数メートル歩いて思い出す。私、鍵閉めてきたっけ!?自宅には大したものは無いがやはり知らない誰かが入ってるかも、と思うと恐怖心がある。また戻る手間と恐怖心を秤にかけて二度手間を選んだ。引き返して自宅に戻る。錠を回し鍵が掛かっているか確認するため扉を開く。すると、

「あれ、」

ガチャ、と音がして扉が開く。私鍵ちゃんとしてたんだ!?うぅ、本当に二度手間だった。踏んだり蹴ったりだぁ、と涙目になりがら毛利さんのお宅に向かうためとぼとぼ歩き出す。別にそんなに悲しいことでもないはずだけど小さいとはいえこうも失敗が続くと気分も落ち込むものだ。はぁ、とため息をついてからはっ、となり口を抑えきょろきょろあたりを見回して背筋をしゃんと伸ばす。うん、もしこんな姿を毛利さんたちに見られたらまた気を遣わせてしまう。今日はお礼とお詫びをしに行くのだからしっかりしなくては。

てくてくと数人のおうちに帰るのであろう小学生位の子供とすれ違いながら歩いていると毛利さんのお宅が見えてきた。無事に辿り着きそうだとほっとする。毛利さんの事務所へ行く前に少しポアロを覗いてみる。夕方の学校帰りの時間でもあるからか店内は女子高生達が占領していた。梓さんも安室さんも忙しそうだ。ふと、此方に気付いたのか安室さんが私を見る。ぱっと顔を明るくした安室さんがひらり、と1度手を振ってくる。安室さんほんっと顔がいいなぁ。一瞬安室さんに見蕩れるが鋭い視線を感じて我に返る。ぱっ、と視線の元を辿れば安室さんの近くにいた女子高生たち。蛇に睨まれた蛙のように一瞬固まった後びくり、と体を跳ねあげ急いで安室さんにお辞儀をして毛利さん宅に向かうべく階段を駆け上がる。

こ、怖かったぁ。毛利さんの事務所前で軽く息を整える。安室さんが気を掛けてくれるのはとても嬉しいのだけれどちょっと人前では...。女子高生は怖いんですよ...!!安室さんわかってらっしゃるんですか...!心の中で安室さんを叱ってみる。本当に女子高生って凄いからなぁ。パワーとか思い込みとか行動力とか...。今までは全然周りみてなかったから気づいてなかったけど、安室さんと話したら皆何時もこんな感じになるのだろうか。怖いなぁ、としょんぼり肩を落としていると目の前の扉ががちゃりと開いた。

「あ、なまえさん。」

中から顔を覗かせたのはコナンくん。ひょこり、と重たげな頭を傾げる。大きめの眼鏡が少しズレているのが可愛い。
コナンくんに癒された私が少し頬を緩ませているとコナンくんの後ろから蘭さんが姿を見せる。

「あ、なまえさん!いらっしゃい!」
「こんにちは、コナンくん、蘭さん。」

私を見て笑顔で迎えてくれる蘭さんの優しさに涙が出そうになりながら挨拶をする。蘭さん優しいなぁ。

「今日はお世話になります。あと、これこないだのお詫びです。是非貰ってください。」

90度体を折り曲げて持ってきていた毛利さん用のビール券と2人のために選んだ焼き菓子の詰め合わせの入った紙袋を差し出す。下からはは、きれーな角度だなと乾いた笑い声が聞こえてくる。コナンくんこないだと声違くない?風邪ですか?

「もうなまえさん、気にしなくて良かったのに!でも、ありがとうございます!」

毛利さんがにっこり笑って受け取ってくれる。取り敢えず任務完了だ。でももしお気に召さなかったらどうしよう。買い直しだね。買い直すしかないよね。1人で悶々としていると蘭さんが袋の中を覗いてわっ、と声を上げた。

「わ、これ有名なやつですよね!食べてみたかったんです!有難うございます!」
「わ、しかもビール券も入ってる。これおじちゃん用に?」
「う、うん。甘いものよりビールの方がいいかな、って思って...。」

蘭さんと同じように爪先立ちして袋をのぞきこむコナンくんが一緒に入っていたビール券を取り出し私に声を掛ける。それに、おずおずと頷くと蘭さんがあぁ!と声を上げる。

「うぇ、ど、どうしました?」
「タイムセール!」

ばっ、と顔を上げた蘭さんが腕時計を見る。た、たいむせーる?

「ごめんなさい、なまえさん!今日のお夕飯に使う卵、今から買わなきゃなんですけど今日はタイムセールの日で!ちょっと今からコナンくんと買い物にいってきます!」
「え!?わ、私も行きますよ!」

荷物持ちくらいできますよ!とぐっと両手を握ってみせる。そう、今日はそのために大急ぎでここに来たのだから。

そう言うと蘭さんは目をキラリ、と光らせ私の手を握った。

「助かります!じゃあ、これを置いてくるのでちょっと待っていてください!」

すごい勢いで3階へ向かう蘭さんに気圧され弱々しくはーい、と返して見送る。残されたコナンくんの顔を見るとコナンくんは引き攣った笑みを浮かべていた。

「今日おひとり様1個のセールがあったはずだから蘭ねーちゃんいっぱい買い物する気だよ。」
「そっかぁ!じゃあ荷物持ち頑張らなきゃだね!」

コナンくんの分まで頑張るよ!と意気込むとコナンくんは半目でこちらをじとりと見てくる。

「...なまえさん、ちゃんと分かってる?」
「?...荷物持ちしたらいいんでしょ?」

コナンくんの言わんとすべきことが分からず首を傾げる。あ、もしかして!

「コナンくん、お姉さんと買い物行くの恥ずかしいの?」
「え?」
「そっかぁ、小学生ってもうそういうの気にしちゃうのかぁ。」

この間のコナンくんだったら考えられない子供らしい所があったのね。あの時はどう考えてもコナンくんと精神年齢逆転していたからこういう歳相応な反応を見るとこう活き活きしてしまうという、こうちゃんと自分もお姉さんだなと実感出来るというか...。

「じゃあコナンくんお家でお留守番してる?私がコナンくんの分まで頑張ってくるよ!」

任せて!と自分の胸を叩いて胸をはる。それにコナンくんは先程より渋い顔をする。あ、あれ?間違えた?

「...なまえさん、この時間にここにいちばん近いスーパーに買い物行ったことある?」
「え?うーん...。うちの近くのスーパーはも少し先にあるからここの近くの所は行かないかな。」
「そう...。」

私の返答を聞いてふぅ、と大きな溜息をはコナンくん。

「...うん、僕も行くよ。」
「え?良かったの?私だけでも多分大丈夫だと思うけど...。」
「うん。心配だからね。」

やれやれと首を振るコナンくんに私は釈然としない気持ちになりながら首を傾げるのであった。