重たい靴のヒールで、カンカンとアルミの階段を蹴って辿り着いた203号室。ハイツの扉をくぐれば、如何にも、な日本家屋である。庭園、池、畑、馬小屋付き。ここがわたしの本丸。
ただいまぁ、と声を掛ければ「随分と間延びした挨拶だな。一家の主であるとともに主は我々付喪神の――」云々、といった小うるさい説教が飛んでくる。帰宅する時間は伝えているが、毎日こうして定刻に玄関で待ち構えているんだと思うと自然と頬が緩む。
「はぁい。蜂須賀、いい子いい子」
きちんと待っていてくれたので、ご褒美を与えるのが主の務めだ。わっしわっしと頭を撫でてやる。ぴんくのワンレン長髪がぐちゃぐちゃになるまでかき混ぜてやると、いよいよ蜂須賀は顔を真っ赤にして「いい加減にしてくれ!」と声を荒げる。それもまた可愛くてしょうがないのだ、主様は。まあ、主様はわたしなんだけど。
ひととおりいつものやり取りを済ませると、空っぽの胃袋がいい匂いを感じ取り、グゥと鳴いた。
「今日は煮物ね!」
醤油を甘くして、じっくりと煮込まれたれんこんと人参、それから椎茸と絹さや。どれもほかほかの白いご飯によく合う。そしてなんといっても煮物には酒である。スーパーでうんと悩んだが日本酒で正解だった。ほくほくの甘しょっぱい煮物は冷酒でクイっとやるのに限るのだわ! 思わず鼻も鳴った。善は急げと廊下を翔けだすと、蜂須賀はまた怒鳴る。
「主! 廊下を走るべきではないとあれぼど言ったというのに! クッ! 走りながら服を脱ぎ捨てるのもやめないか! 下品だッ!」
「蜂須賀! 全部拾って洗濯籠に放り込んできてね! 帰りにわたしの部屋から部屋着を持ってくること! 近侍のの務めとします。早くしないと食いっぱぐれるわよ、貴方」
思わず笑ってしまったが、あまりにも気持ちが乗ってしまい高笑いとなってしまった。これは……本丸中に響き渡ったことであろう。オーッホッホッホ!
20160417