お腹減ったなあ、なんて思って歩くと、目につくのは自然と飲食店になった。それも肉料理。
チェーン店の牛丼屋を覗けば、知っている顔を見つけて夕飯はここにしようと決めた。
「和谷くん」
隣良い? なんてのは聞かずにどっかりと横に腰を下ろした。カウンターに食券を叩き付け「汁だくで」と言えば和谷くんは出会った時のように幼い笑みを浮かべ「どうしたの」と言った。
「この前伊角くんと遊んだ」
和谷くんは一拍おいてから大げさに声を上げる。
「デートじゃん!」
私は口角だけ上げて笑顔を作った。あれをデートと言っていいのか。私も始めはデートと思っていたが、帰る頃にはなんだかあっけないものだったなあという虚無感すら生まれた。
「伊角くんはおじさんに取られるし別にそんなものではなかった」
「おじさんって何。どこ行ってきたんだよ」
和谷くんは興味津々に尋ねてくるので、私は勿体ぶりながら水を飲んだり紅ショウガを食べたりしてみると、痺れを切らし、膝をぶつけてきた。痛くはないが、大げさに痛い痛いと言えば、それを分かっているようにまた笑うので、私も釣られて笑った。和谷くんといると私も若くなったような気になってしまう。
「俺のおかげで伊角さんとデートまで漕ぎつけたんでしょ」
「その節は有難うねぇ。和谷くん好き好き」
「ウルセエ」
またふたりで笑う。ひとしきり笑えば、カウンターから汁だくの牛丼が出てくる。
「そろそろ教えてくれたっていいんじゃないの」
牛丼が冷めないうちに生卵をかき混ぜ、ぶっ掛ける。ぶっ掛けながら「碁会所」と言えば和谷くんは噴き出した。大丈夫? と背中を摩る。返事はなく、ゲホゲホと咳をして、手を上げられた。大丈夫なのか駄目なのかわからん。便りがないのは元気な証拠。大丈夫だろうと判断して、牛丼におまけの一味のぶっ掛ける。レンゲで掬えば、一気に食欲がこみ上げて来た。
20111013
20160828加筆訂正