目を覚ませば顔がひんやりと冷たく、ああ寒いなと布団に頭を突っ込んだ。
そうだ。フユタは体調を崩してないだろうか。……まあ、杞憂だろう。大きな家だ。きっとメイドさんたちが彼の世話を焼いているのだろう。わたしはメイドさんに看病されるフユタのことを想いながら再び夢の中へと沈んでいった。
目を冷ますと幾分部屋の中は暖まっていた。
ベッドサイドに投げ出されたCギアを手繰りよせれば時刻は正午過ぎを示している。少し寝過ごしたけど今日は休日なのでなんの問題もない。そうだ。ランチを食べてから昨日消費してしまったジュエルを採りに行こう。場所は電気石の洞穴にしよう。
部屋の鍵をかけてからエレベーターを降りる。
エントランスに出ると、ちょうどノボリさんが自動ドアを抜けてきたところだった。
バトルサブウェイ従業員にも昼休みは勿論あるが、全員が一斉に休憩に入るわけにはいかない。ましてやバトルマスターのノボリさんは律儀に全従業員が休憩に入ってから休憩に入るので、この時間に社宅に居ることが不思議だった。
「どうしたんですか?」と尋ねれば「困ったことにクダリの忘れ物です」と本当に困ったような声音で言った。
「それはお疲れさまです」
「名前さんは休憩ですか?」
「今日はお暇をいただいてます」
「なるほど。どうりでいつものメイド服ではないわけですね」
わたしはバトルサブウェイで働いている。ダブルトレインのトレーナーである。つまりノボリさんではなく、クダリさんが直属の上司にあたるわけであるが、ノボリさんの言う「いつものメイド服」は、クダリさんがわたしに与えてくれたキャラクターである。ダブルバトルが専門ではあるが、人手が足りなくなればマルチバトルもするしシングルバトルもする。
ポケモンバトルは好きだ。特に二匹のポケモンのコンビネーションとトレーナー能力が試されるダブルバトルが好きだ。好きなことを仕事に出来るというのは素晴らしいことだと思うし、天職だとさえ思っている。メイド服は100歩譲ったとして、ノボリさんが考えたバトル前の文句が「おかえりなさいませご主人様」でなければ。
「あれはあそこでのキャラクターですよ」
「おや。随分板についてきたと思いますけどね」
……珍しいこともあるもんだ。ノボリさんが冗談を言うなんて。
きっと相当お疲れのノボリさんにペコリと頭を下げてから自動ドアを抜ける。
ライモンシティに雪は積もらねども、やはり外は寒かった。
起き抜けなのでそんなヘヴィなものは食べれないし、どうしようかな。そういえば、昼時になればジムの向かいにサンドウィッチの屋台が現れるんだった。休憩のタイミングが合わなければ買えないが、今日なら丁度いいじゃない。わたしはホットコーヒーとアボカドのベーグルにしようと東に足を進めた。
ホットコーヒーとアボカドのベーグルを買い、どこで食べようかなと辺りを見渡す。ランドマークのひとつであるライモンジム横の大観覧車を視界に入れたところで、視線が釘付けになる。観覧車の乗り口には見知った顔があったからだ。
帽子からぶわりとボリュームのあるポニーテールをゆらした可愛い女の子と、間違うはずがない。わたしのの恋人のフユタだ。
20111204
20160904加筆訂正