「それで、あとは?」
「あと、ですか」
「そう。恰好よくて優しくて素敵、なんてざっくりふわふわな特徴を云われても、1億2730万人の中から絞り込むことは、この名探偵といえどなかなか簡単なことじゃあない」
 何の遊戯だろうか。
 途中から乱歩と名前のやりとりを見た敦は太宰に尋ねた。
「惚気だよ。惚気」
 はぁ、とため息を吐く太宰。
「惚気、ですか?」
 あれが? 敦は考える。やはり人当てか何かの遊戯にしか見えない。
「名前ちゃんの好きな人を当てる遊戯」
「名前さんの好きな人って乱むぐっ」
 敦の言葉は志半ば途切れた。敦の頬に剛速球がめり込む。重力に従い倒れ込んだ床から見上げる。いつも閉じられている乱歩の瞳は冷たく開かれていた。
「余計な事喋るんじゃねえぞ」
 ――あの冷たい瞳はそう物語っていた。後に敦は語る。
 床に転がる駄菓子は手負いの状態であった。これが身体を床に叩き付けるほどの力を以って自分の頬に投げつけられたものかと思うと、矢張りこの名探偵の底が知れぬと敦は身震いをした。太宰はこらえ切れない笑いを、小刻みに、小さく、呼気と共に吐き出していた。
「それで? 恰好よくて優しくて素敵の他に名前ちゃんの好きな人の特徴は?」
「年齢のわりに趣味が幼稚というか……あ、いい意味で。少年の心を忘れていないというか。それでも、やるときはやる男で、皆が困ったときには持ち前の頭脳であっという間に解決してしまうんです」
「そんなところが?」
「……好きです」
 名前は頬を染める。
 なんだこの誘導尋問は? 敦は太宰が云っていた惚気という言葉がしっかりと脳内で填まったのを確認した。
 何故乱歩は名前が向けている自分への行為に気づいているのに、名前が乱歩の好きな点を、乱歩の名前を伏せ、更には愛の告白までしているのだ。然し名前は自分の云っている好きな人が乱歩であるということを、乱歩が本気で判らないと思っている。ならば答えは簡単で、何故こんな甲斐無い遊戯が行われているかといえば、乱歩が楽しいからである。
「うーん。まだまだ判らないなあ。難しいなあ」
 うわっこの名探偵、まだまだこの甲斐無い遊戯を続ける気かよ。思ったが先に、本日二度目の駄菓子が剛速球となり、敦を襲った。

 手負いの駄菓子は社員が美味しく頂きました。


20160924
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