※国木田教師時代(or学スト)
「試験期間って厭だわ」
隣の同僚が嘆く。
仮にも教師がそんなことを云うな。思わず問題用紙を打ち込む指が強く盤面を叩く。
「やだ。国木田先生ってば、怖い顔」
眉間をグリグリと抑え込められる。けしからん。公共の場でなければ怒鳴り散らしてやっただろう! そうして、こうだッ! こうだッ! こうしてやるッ! 脳内で完膚なきまでに隣の苗字先生をやっつけることで、眉間のグリグリによる不満は昇華した。
「仮にも教師ですけどね、そんなわたしから云わせて頂くと、試験如きで人間に点数を付けるのはよくないと思うのよ」
ゆっくりと、これはいわゆるデコピンをされ、頭が後ろに倒れる。
「頑張りを評価してあげたい気持ちも勿論あるけど、頑張りが報われなかったなんて思って欲しくないの。そこから次は頑張ろうって思える子が何割いると思う? 頑張っても駄目だった。向いてないんだ、なんて思って欲しくないのよ」
甘い、と思う。
世界は競争だ。社会に出れば、学生時代に感じてきた競争なんて言うものはお遊戯かと思えるほど、やさしくない。それから残酷だ。
「勉強も、運動も好きになってほしいわ。生徒には楽しく生きて欲しいの」
……この女は実に楽しそうだ。人生を謳歌している。
彼女の机周りは教え子との写真や、生徒が調理実習で作った洋焼き菓子の差し入れ、生徒が美術で作った……よくわからない彫刻や模型に囲まれていた。
「そこでわたしは思い付いたのだわ!」
背凭れが仰け反るほど体重を預けていた椅子から飛び起き、彼女は云った。
「生徒たちにご褒美を与えます!」
眼前に迫りくる彼女の瞳は輝いていた。
「生徒が差し入れてくれたこの洋焼き菓子も、彫刻も、模型も、全てがわたしの活力なんだもの。きっと生徒たちも私からのご褒美を糧に頑張ることが出来るはずよ」
「それはどうなんだ。人の価値観はおのおのそれぞれめいめいだぞ。苗字先生の価値観を押し付けるのは……」
「それなら、国木田先生はわたしが何を与えれば頑張る気になるの?」
「俺は苗字先生から褒美なんぞ貰わなくても頑張れる」
「国木田先生つまんない! 今ならあんなこともこんなことも何でもしてあげる気持ちなのに!」
あんなことも……こんなことも……だと……それなら、それならば――。
「では、早く試験問題を作り終えろ……ッ!」
国木田先生つまんない。鬼。眼鏡。単細胞。細腰。眼鏡。そんな言葉でいくら罵られようが痛くも痒くもない。……然し、苗字先生が試験問題を作り終えたら、彼女を誘って駅前で一杯ひっかけるのも善いかもしれない。……褒美なんていうものは、別に、要らん。……要らんぞッ!
20160929