珈琲を飲み下だし、英字新聞に目を落とす。

 欧州でオカルト省、設立――ですか。

 似たような組織を設立しようとする活動はもうずっと在ったが、さて、ここまで明るみに出して善いものでしょうか。先の大戦に思いを馳せるが、どうも人間というのは過去の過ちを繰り返したがる。
 他に気になる見出しも無いので、オカルト省設立の記事に目を通そうとすると賑やかな足音が響いてきた。
「坂口先輩、眉間の皴凄いですよ」
 辻村君。君の所為です。勿論そんなことは云わないが、綾辻先生の監視は如何したんですかという小言くらいは云っても罰は当たらないでしょう。
「何でも、その綾辻先生がこちらに用事があるというので、付き添いです」
 辻村君は大きな溜息を吐きながら云った。
 この辻村という後輩は、特一級危険異能者である殺人探偵・綾辻行人の監視及び管理が主な仕事である。此の特務課秘密拠点内に辿り着くまでの間に、彼と一悶着も二悶着もあったのだろう。大きな溜息からはそれだけの苦労が滲んでいた。

「先輩、今度の出張は欧州ですか?」
「気になった記事があったので目を通していただけですよ」
「欧州でオカルト省設立?」
「まだ本決まりでは無いですけどね。屹度、設立されることもないでしょう」
「えっ! 如何してそう思うんですか?」
「辻村君。君はオカルトなんて、超自然的なものに国の政治を委ねられますか?」
「それは……そうですけど……」
「それから――」
 過去に計画されていたオカルト省は、大臣になるはずだった男が設立目前に暗殺された為、結局おじゃんになりましたから。
 オカルト省大臣に就任するはずだった先の大戦を生きた男は、奇術を用い社交界に人脈を広げ、後に預言者となった。政治に介するようになった彼はオカルト省を設立し、国家を動かすはずだった。

「それから?」
 辻村君が“キマッている前髪”をちょっとつまんで持ち上げ乍ら、続きを促す。
「……いえ、なんでも」
「オカルト省なんていうから、我々異能特務課のようなものだと思ってしまいましたよ」
「いくら異能の本場欧州といっても、ここまで公にはしないでしょう。混乱を招きます」
「でもこのオカルト省は」
「だから、設立されないんですよ」
「……成程……?」
 辻村君は未だ腑に落ちないようで、僕の英字新聞をすっかり自分の手に納めウンウン唸っていた。

 それにしても、オカルト――ねぇ。
 最近、懐かしきポートマフィアの幹部と話したせいもあるのでしょうか。どうも彼女の影が脳裏に過って、いけない。太宰君がポートマフィアに居ない今、彼女――苗字名前が如何しているのか。
 未練のように削ぎ落しきれない、僕の過去のひとつである。


20170103
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