部下が珍しく真剣な面持ちで書類に目を通しているかと思えば、庶務机に広げられているのは英字新聞だった。
「勤務中だぞ」
「あっ! 中原さん、返してくださいよ」
「……欧州でオカルト省設立ぅ?」
苗字から取り上げた新聞の見出しを読み上げても、いまいちピンときやしなかった。
「オカルトも異能もそんなに変わらないですよ」と、云ってのける苗字の言葉に口の中が痒くなった。
オカルトなんていうのは、結局はまやかしだ。言葉巧みに人の心に付け入って、綺麗な虚像で誤魔化すモンだ。子供の遊びじゃあるまいし。こんな機関が設立されるってのは、欧州もまったく平和なもんだ。
「異能力ってのはな、そんな子供騙しのおまじないじゃねぇんだぞ」
くるくると新聞を丸めて苗字の脳天を叩く。
苗字は正面を向いたまま、目玉だけをギョロリと動かす。口元は相変わらず笑み笑みと弧を描いている。
「オカルトが子供騙しのおまじないですか」
「あたりめーだ。餓鬼じゃあるまいし、こんな話をしてるってだけでも莫迦莫迦しい」
「確かに、意中の女性の名前を彫った消しゴムを大切に持ち歩いたり、太宰さんの不幸を願いながら百度参りをする中原さんほど莫迦莫迦しいものはありません」
「ゲホッ!」
決して女、況してや部下相手に簸るんだ心算はなかったが、無様に咳き込んだ。
誤魔化そうと急いで点けた煙草は、焼くような熱さで肺を襲う。莫迦か。これじゃあまるで、煙草を覚えたての餓鬼だ。
肺の熱さを冷ましていると、不意に苗字の手が胸にぶつかる。そう。丁度、熱い、肺の辺りに。
握られた苗字の拳の人差し指と小指は立っていた。
「欧州のおまじないです。病気や怪我を治癒する効果があるんです」
苗字は全てを見透かしたように笑う。どっかの太宰を彷彿させるその表情が、どうも癇に障る。
「効果はどうですか?」と尋ねる苗字に「ハナからどこも悪くねえ」と悪態を吐く。やっと絞り出した声は、肺から込み上げた吐息で焼かれていた。
「実はこのおまじない、縁切りの効果もあるそうですよ」
苗字の、矢張りどっかの太宰を彷彿とさせるその表情――光の宿らない角膜と歪む口元を置いた、均衡の保てない笑顔――が、どうも癇に障って仕方ない。
20170111