2023/04/09 ▽
桜木くんとお兄さん花道と近所のお兄さんの出会い。
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父のために早く病院に行かなければならないのに!
それなのに、この男たちが邪魔だ。
花道は焦るままに拳を握り、向かってくる男たちに振り抜いた。
――どけ、どけ! 親父が倒れたんだ!
自分でも何を言っているのか分からなかった。
ただ焦燥と少しずつ胸を占めていく絶望に、体が突き動かされる。
いくら拳を振りかざしても数が減らない。いつまでこんなことをしていればいいのかと、やるせなさが広がる。
――立つな! 向かってくるな! 俺を行かせろ!
脳裏に、力なく倒れた父の姿が思い出され、花道はふいに泣きたくなった。
その時――。
「お巡りさん! こっちです! こっちで喧嘩が!」
曲がり角の向こうで、男の声がした。
花道と、周りを囲んでいた男たちの体がピタリと静止する。
男たちは目配せしあい、状況が悪いと踏んだのか、最後に花道を睨め付けて走って去っていった。
その後ろ姿を息も荒く見送っていた花道は、ハッと思い出して病院へと駆けようとする。
しかし、その腕を誰かに取られた。
「おい、離せ!」
振り返ると、見たこともない青年だった。
「君は行かないで!」
「おい! 急いでんだ!」
腕を振り払おうとしても、青年はその細身な体で花道の筋肉質な腕に抱きつき、離れない。
苛立って、もうこれしかないともう一方の手で拳を振るおうとした時――。
「いま、救急車呼んでるから! おうちどこ!?」
青年の叫びに、花道はすんでの所で手を止めた。
拳の衝撃に備えて瞑っていた目をそろそろと開き、青年は自身の携帯の画面を見せる。
そこには「一一九」の番号が表記されていて、そこで初めて花道は救急車の存在を思い出した。
「お父さん大変なんでしょう!?」
呆然として力を抜いた花道に、青年が畳み掛けた。
「お、おう」
震える手で、青年の携帯を受け取る。
よろよろと覚束無い動作で耳に当てると、男性の声が聞こえた。
「おうちの住所言える?」
耳打ちした青年の声に、たどたどしく住所を告げた。
すると、今度は父の年齢や状況を順に問われ、花道はただ淡々と答えていった。
その間も、青年は片手をずっと握っていてくれた。
一度電話が切れ、ふっと糸が切れたように花道がふらつくと、青年は慌てて抱えようとしたものの、よろけて二人揃って道路に腰を下ろす形になった。
青年は、近所の高校の制服を纏っていることに今更気づいた。
よくこんな図体がデカくて厳つい花道に声をかけてきたものだと思ったが、もしかしたら中学の制服を着ていたからかもしれない。
自分の方が小さいくせに、まるで子供にするように花道の肩をさするのだ。
「大丈夫。すぐ救急車来てくれるから。お父さんのところで待ってよう?」
こくりと頷くと、青年はほっとした顔で微笑んだ。
手を貸すように繋いで、すぐそばのアパートに向かう。
救急車を待っている間も、青年は震える花道の大きな体を抱きしめて「大丈夫だよ」と何度も唱えていた。
まるで、自分にも言い聞かせるみたいに。
「俺、依織。隣の通りに住んでるんだ」
今は学校帰りだと、その人は言った。
待つ間の、気を落ち着けるための世間話。花道はろくに返すことも出来なかったが、かろうじて名前だけは伝えた。
それでも青年――依織は不快に思うことも無く、花道の傍にいてくれた。
日焼けしたことの無いような白くてまっさらな肌。花道より頭一個分は低い背丈に、半分もないような薄い体。
それなのに、その存在がひどく心強かった。
男にしてはあまり低さを感じないほどよい声質が温かくて、その声が届く度に、花道の焦燥と緊張で痺れた体が強ばりを解いていった。
それが、花道と依織の出会いの日だった。
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この後、男主の家族とも仲良くなっておうちに泊まったり、頻繁に夕飯をご馳走になる可愛がられる桜木花道が見たい。
お父さんがその後どうなったかによって男主への依存度が変わりそうなので、そこを決めてからじゃないと続きが書けない。(原作だと詳しくは載ってないですよね?)
もしお父さん亡くなったりしてたら、自分のせいだって落ち込んで考え込んじゃう花道を、お兄さんがよしよしメンタルケアして大型犬が懐いたみたいな感じになってて欲しい。
女の子を見て赤くなっちゃう思春期な可愛らしい花道だけど、男主と風呂場エンカウントしたときは、素直にそういう欲を覚えてしまう無自覚矢印が出てて欲しい。
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