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サイト内の番外編SSやお話未満の置き場。たまに雑談。
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2023/12/19 ▽愛生命 エース


 夜の一人占めのエースverを書こうと思って、もう一年ぐらい放置してしまってるので供養します。
 ぶつ切り注意。いつかちゃんと書き切ったらブログからは削除します。
 
 ◆

 真っ暗な中、エースは起き上がった。目をしょぼしょぼと瞬けば、次第に暗闇に慣れた目には両脇で眠るサボとルフィが映る。
 二人とも寝息を立ててよく眠っている。
 エースは窓に目を向けた。ダダンたちも寝静まっているような時間なのだろう。虫の音と時々風に吹かれた木の葉のざわめきだけが聞こえた。
「……セーラ」
 窓の形にくり抜かれた真っ白な月光を見て、ぽつりと呟いた。
 白い淡い輝きは、あの人の銀の髪を、温かさを思い出させて淋しいと鳴くようにきゅうと胸が傷んだ。
 音を立てずに布団から抜け出し、冷たい廊下を進んだ。キッチンを見たがもう真っ暗だった。セーラは部屋に戻ってしまっているらしい。
 そうして部屋の前まで来たが、今更になってなにをしてるんだろう、とエースは我に返った。
「……もう、寝てるよな」
 セーラは起こしたって怒らないだろう。だが、わざわざ起こしてまで一緒に寝て貰うのは子供のようでエースのプライドを刺激する。
 ルフィだったら自然と声をかけられるんだろうな、と思い、部屋に戻ろうとしたとき、静かに目の前の扉が開いた。
「やっぱりエースだ。どうしたの?」
 今起きてきたとばかりにカーディガンを肩に羽織ったセーラは、ほっと息をついた。ランプ片手に部屋へと招くように道を開けた。
 どうして分かったのかと、エースは驚いた。
「なんで……いや俺は目が覚めただけで」
「眠れなくなっちゃった?」
「別に、そういうわけじゃ……」
 ただ、真っ暗な中で目についたのが月明かりだったせいか、急にセーラのことを探してしまっただけなのだ。
 素直に物淋しくて、などと言えるほどエースは殊勝ではなかった。
 しかし、セーラはそんなこともお見通しなのか、クスリと笑う。
「もしよかったら私と一緒に寝る? エースと二人っきりでお喋りするの久しぶりだし」
 迷うようにエースの目が室内を見渡してからゆっくりと頷いた。
 微笑んだセーラに手を引かれて、その時に始めてエースは自分の手がセーラの服を掴んでいたことに気づいた。
 サイドデスクに灯りを絞ったランプを置き、二人でベッドに横になる。
 エースの肩まで布団を掛けて「電気消す?」とセーラが訊くので、またこくりと頷いた。
 ふっと温かな火が消えて暗闇で支配される部屋。
 しかし、子供部屋と同じように月光だけが明るく差し込んでいた。
 セーラと向き合って横になっていたエースは、自分を寝かしつけるようにトントンとリズムを刻むセーラの手の感触と共に月明かりを横目に見た。
(あの時も、こんな風に一緒に寝たっけな……)
 サボと出会う前。そして、ルフィがこの家に来る少し前。
 ダダンたちは置いておいて、まだ、エースとセーラの二人だけだった頃。
 初めてダダンにぶん殴られて、セーラに怒られた日。
 エースが絶望に突き落とされて、セーラからすくい上げられた日を思い出す。
「なあ、セーラ」
「ん〜? どうしたの?」
「俺のこと、まだ愛してるのか」
 トン、と手の動きが止まる。セーラは暗闇でもわかるほどに藍色の瞳を見開いて、ぽかんとエースを見ていた。
 ぱちぱちとしばたたかせた目が、まるで自分の耳を疑っているように戸惑って見えた。
 そうして驚いていたセーラだったが、すぐに柔和な笑みを浮かべてその胸にエースを抱き込んだ。
「エースのことを愛してない日なんて一生来ないよ」
「……ほんとかよ」
 嬉しいくせに、そんなことしか言えない。
「本当だよ。エースもサボもルフィも、ガープやダダンたちだって私の大事な家族。みんなのことはずっと愛してるよ」
 背中と頭に回った腕は、エースを宥めるように撫で、髪を梳くような優しいキスが降ってくる。
 セーラは、年を取らないし滅多なことじゃ死なない。
 そういう種族なんだって言っていた。
 だから、セーラのいう「一生」というのは「永遠」と同義なんだ。それだけ、自分たちのことを愛してくれている。
(くっそ……こんなガキみてぇなこと……)
 こんな試すような真似をして、返ってくる言葉が分かっているのにわざわざセーラからその言葉を聞き出す。
 そうしてエースは度々セーラからの愛を実感して、心を落ち着かせる。
 降ってくる暖かな声が、触れる手の熱が、言葉が。
 身体に満ち足りるような充足感が心地よい。
 仕方がない。だってあの日、ごっそりと胸に穴の空いた日に、ぎゅうぎゅうになるほどセーラが愛をくれたあの日から――。
 エースはきっとセーラからの愛がなければ生きていけない。
 この人がいなくなれば、エースはきっとダメになってしまう。
 子供ながらにそんな不安を抱くほどに、セーラからの無条件の愛が、全てを受け入れくれるこの人が、エースにとっての寄る辺となっているのだ。

 ◇◇◇

 始まりは、いつものように仕事の合間に遊びに来ていたガープの何気ない言葉だった。
 しかし、その一言でエースは絶望の淵に叩き落とされる。
「なんじゃ、言っとらんかったか?」
 けろりとした顔で笑う髭面を、ぶん殴りたいとあそこまでの激情を感じたのは、きっとあの時だけだった。

 ガープはエースを修行だといってコテンパンに打ちのめし、そうして疲れ果てたエースが回復しきる頃には帰って行った。
 時々泊まっていくこともあるが、ああ見えて海軍の中じゃ上の地位に属するガープが、そう何日も村にいられるのは稀なことだ。
 森の中で転がって、木々の隙間から空がだんだんと暗くなっていくのを、エースはぼんやり眺めていた。
 動く気になれなかったのだ。
 ガープの言った言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返す。
(……俺の親が、なんだっけ)
 言葉は脳裏に響くのに、その意味を理解しきれない。いや、理解したくなかった。
 本当だったら、今ごろは泥だらけの体でセーラの腕に飛び込んで一緒に風呂に入っている頃だ。それなのに、今はセーラに会うことが怖かった。
 ずっとずっと、家族だと思っていたのに……。エースのただ一人の肉親だと思っていたのに……。
 裏切られた――。
 あれだけ愛してると言ったのに、嘘だったんだ。
(セーラの嘘つき野郎……!)
 内心でどんなになじっても、エースに湧き上がるのがただ悲しみだった。
 脳裏に浮かぶセーラの姿はいつだって温かく柔らかい。なのに、全部嘘だった。
(家族だって、セーラの子どもだって言ってくれたのに……!)
 知らないうちに視界がぼやけていて、エースはぐずっと鼻を啜った。その時になって、ようやく自分が泣いていることに気づいた。
 暗くなった森は幼いエースには危険だ。ほとんど沈みきった夕日に気づき、セーラが探しに来てしまうと慌てて起き上がり、そんな自分に嫌気がさした。
 行くところもないので、仕方なく家に向かってのろのろと足を運んだ。
 頭の隅ではセーラは悪くない、裏切られたわけじゃないと分かっていても、どこか突き放されたような胸の痛みが覆い隠してしまう。

 
 

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