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サイト内の番外編SSやお話未満の置き場。たまに雑談。
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2023/12/19 ▽愛生命 ガープ

 ガープがセーラを拾って村に行ったときの冒頭。

 ◆

 任務終了の顔合わせには来いとセンゴクやつるから言われ、本当にひょこりと本部に顔だけ出してフーシャ村にとんぼ返りしたガープは、港に降り立ち、つい数日前のことを思い出した。
 気乗りのしないエルフの捕獲任務だった。
 エルフの存在自体、すでにおとぎ話のようなもの。存在すら怪しんでいたガープだったが、上層部がどこから得たか分からない情報は正しかったらしい。
 新月の日のことで、いつもよりずっと夜が深かった。支給された明かりを適当に揺らして見つけるつもりもなく歩いていると、すぐそばで物音を聞いた気がした。振り返っても大きな樹がそびえているだけ。その根元に、人が一人入れるような樹洞を見つけ、期待もなくそっと屈んで覗き込んだとき、その人物は現れた。
 光を反射して輝く銀髪。エルフの特徴である、とがった耳。男とも女とも取れるような細身のエルフは、怯えたように膝を抱えていた。
 白皙の美貌に浮かぶ深い海の色の瞳は、怯えと諦念を交互に現していて、ついガープは隠してやらなければならないと思った。
 自分の欲のためにここまで大々的な捜索に打ち込んでいる上の連中から、隠してやらねば――と。
 声をかけ、腕を伸ばしたが、エルフは抵抗しなかった。ただ体はひどく強張り恐怖を現していた。
「……大丈夫だ」
 羽織っていた海軍の上着で綺麗に包んで抱き上げた。戻る途中で運良くセンゴクとつるに会え、二人の協力もあって人知れず故郷のフーシャ村に預けることも出来た。
 村の者たちには自分が戻るまで面倒を見てくれと言付けたが、果たしてあのエルフは眼を覚ましただろうか。
 船に乗った瞬間、ずっと緊張状態であったせいかエルフは気を失ってしまった。ただ寝ているだけのようだったが、フーシャ村についてガープが村を出るまでにも意識が戻ることはなかった。
 ガープが里帰りをするのはいつものことなので、部下たちは近隣の海域の巡回に行かせた。
 そうして村に足を踏み入れると、気づいた村人の若い男が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「ガープさん、あんな綺麗な人どこから浚ってきたのさ。眼は覚めたけどずっと出て行こうとして、村の連中でなんとか止めてるんだよ」
「おお、まだ残ってるか!」
 朗報だ。最悪、すでにどこかへと消えていてもしょうがないと思っていた。
「まだ俺の家にいるか?」
「そりゃね。大勢で囲うと怯えているから、なるべく女子どもで世話をしてるよ」
 あんなに怖がるなんてあんた一体なにしたのさ、と苦い顔で言う男の様子に、ガープは謂れのない罪をきせられ不機嫌になる。
「俺はなにもしてないぞ。全く冤罪もいいところだ」
「え〜……ほんとかな? あんな繊細な人だよ? ガープさんの顔みただけで気絶しちゃいそうだよ」
 まだ疑った眼を向ける男に、軽く拳骨を落として家に向かう。
 よそ者相手に不審さを募らせているかとも思ったが、どうやら見当違いだったようだ。
 政府があれだけ手を尽くして探し出すような人物。手配書の虐殺という字に元々懐疑的だったが、村人の彼に対する好意的な印象からも、やはり政府が手配書発行のために適当に罪をでっち上げたのかと当たりを付けた。
 家の周りには人だかりが出来ていた。中には入れないせいか外にいるのは男が圧倒的に多い。
 ガープに気づいた者からわらわらと集まってきて、しきりにあのエルフのことを聞いてくる。腹が立つのは、皆が揃って「どこで浚ってきた」とガープに非があるような言い方をすることだ。
 自身の大きな体躯で弾き飛ばすように人だかりを抜け、バンと勢いよく戸を開けて家に入る。
「眼を覚ましたそうだな!」
 家自体はそう大きなものではない。ガープはほとんど本部か船の上にいるので、そこまで立派なものはいらないと思ってのことだ。
 体が大きいために出来るだけ過ごしやすいものがいいと、何部屋分も壁をぶち抜いて大きなワンルームにした。別れているのはキッチンと風呂やトイレぐらい。
 入ってすぐの広々としたその部屋の隅にあるベッドの上に彼はいた。
 食事をしていたようだが、突然入ってきた巨漢――ガープに驚いて体を丸めたせいか、その拍子に皿が落ちて割れてしまった。
 ベッドの横で側付きのように見守っていた初老の女は、眼をつり上げてガープを叱り飛ばした。
「ガープ! 静かに入っても来られないのかいアンタは! ああ、セーラ……びっくりしたね。火傷しなかったかい?」
「なんで自分の家に入るのに文句を言われなきゃならん」
「今は人がいるだろう! 自分で連れてきたんだからそのぐらい配慮しな! まだスープは残ってるからね。すぐ持ってくるよ」
 ガープとエルフ――セーラに対し、まるで別人のような豹変ぷりだ。その裏表の激しさにガープでさえ目を剥いてしまう。女の二面性にではなく、そこまで受け入れられているセーラに対してだ。
「話をしたっていいけど、怖がらせるんじゃないよ」
 割れた破片を片付け、キッチンに戻った女は、通り過ぎ際にぼそりとそう言い残した。
 
 
 
 

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