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サイト内の番外編SSやお話未満の置き場。たまに雑談。
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2023/12/19 ▽初恋、片恋 続編?

 前回の続きのようでいて全く話が進んでいないので更新できていないヤツ。
 男主ほぼ出てないです。

 ◆

「リョータって、髪の長い子が好きでしょ?」
 学校の片隅で、緊張しながら告げた「好き」の言葉に返ってきたのは、「はい」でも「いいえ」でもなく、そんな言葉だった。
「えっと、彩ちゃん……?」
 脈絡のない言葉に、リョータは戸惑う。
 目の前の彩子は、今さっき告白を受けたとは思えないけろりとした顔で顎に手を置いて続けた。
「いや、長い子って言うよりもサラサラした子が好きなのか……? それに、男子でも女子でもいっつも同じくらいの身長の子をよく目で追ってる」
 彼女の言葉に、鼓動が大きくなった。
 ぎくりとしたリョータの様子に、彩子はにんまりと笑って「やっぱり」と言う。
「好きだって言ってくれるのは嬉しいよ? でも、リョータっていつも誰かのこと探してるでしょ?」
 その人のこと、好きなんじゃないの?
 心底不思議そうな彼女の真っ直ぐな眼差しを前に、リョータはとうとう言葉を失った。

 忘れようと躍起になって、記憶の片隅に押しやっていた恋心を、諦念とともに受け入れた日のことだった。


 ◇◇◇

 退院して部活に復帰する前――一度沖縄に帰ったとき、本当は会えやしないかと期待していた。
 でも、それと同じぐらい怖くて仕方なかった。
 デカくなったリョータを見て、あの人はソータの面影をみるだろうか。
 バスケをしていることを、どう思うだろうか。
 あの時、キスしたことをどう思ってるだろうか。
 綺麗だったあの人は、今なにをしているだろうか。
 その答えは、意外なところからもたらされた。
 偶然会った近所に住んでいたばあちゃんが、世間話ついでにぽろりとこぼした。
「そういえば、ソーちゃんと仲の良かった依織ちゃん。今は家を出て関東の大学に行ってるのよ」
 頭が良くってね〜。うちの孫にも見習ってもらいたいわ〜。
 そう言って、近くにいた小さな孫の頭を撫でるばあちゃんは、なんだかんだ言って孫を見せびらかしたかったのだろうと思う。
 適当に会話に付き合い、用があるからとその場を去る。
 緊張で強ばっていた身体は、脱力して重苦しい息が漏れた。
 それが会えなくて残念だと惜しむものなのか、安心からなのかは自分でも区別がつかなかった。
(関東か……それじゃあ、もしかしたら会うことも……って、いやいやないだろ)
 どれだけ範囲が広いと思ってる。示し合わせたわけでもなく、そんな偶然人に会えてたまるか。
 そうしてリョータは、あの美しい人とはもう二度と会うこともないのか、と思い至った。
「一言ぐらい、好きだって言っときゃ良かったかも……」
 衝動に任せてキスはしたくせに、肝心なことはなにも言っていなかったのだな、とガキだった自分に嫌気がさした。

 最後に行き着いたあの洞穴は、時が止まったようにあの頃のままだった。
 腰を屈めて入り、意外と狭いことに気づいて自分の成長を実感する。
 ここは、ソータの気配が強すぎる。
 埃をかぶったバッグの奥から見つけた空気の抜けたバスケットボールに、乾いてぼろぼろになった雑誌。ソータのリストバンド。
 ――どうせなら、こっちだろ?
 ニヤリと笑った勝ち気な笑みを思い出した。この兄なら、きっと有言実行する――思わずリョータも期待に胸をときめかせてしまうような、そんな夢を見させてくれる人だった。
 眼球がじんと痺れて、すぐに体中に感情が膨れ上がった。
 その感情の名前が自分でも分からないうちに、ボロボロ零れる涙と一緒にリョータは声を上げていた。


 涙も叫びも一頻り落ち着いて、リョータは狭い洞窟の中で大の字を描きながら呟いた。
「なあ、ソーちゃん……俺、依織さんのこと好きだったんだぜ……っていうか、今も忘れらんねーんだけど……」
 もしソータが生きていたら、なんて言っただろうか。
 泣き腫らした目元は熱を持っていて、瞼は重い。それなのに、どこか体は軽かった。
「ソーちゃんが死んでから……泣いたの初めてかも」
 母が泣き崩れる姿を見た。背中を丸めてしくしくと泣く依織の姿も……。
 「ソーちゃんどこ?」って顔をしわくちゃにする妹も見た。でも、自分が泣いたかどうかは全く思い出せなかった。
「あの人は、多分気づいてたんだよな……」
 ソータの葬式の際、会場から出るときに目元を腫らした依織が母に挨拶をしていた。それをアンナと手を繋いで眺めていたリョータだったが、ふいに依織の瞳がリョータを見る。
 ――リョータくん、泣いた?
 そう言って、頬を撫でられた。
 傷の入ったガラス瓶にでも触れるような、そんな繊細で気遣いの溢れた手つき。
 泣いたせいで目元も、頬も、鼻先も真っ赤で、自分のほうが大変そうなのに、依織はそのときもリョータのことを気にかけるようなお人好しだった。
 ぐっと身体の奥から感情がぐつぐつと溢れ出しそうになる。
「ああああ! くっそ……!」
 雄叫びを上げながら上体を起こし、立てた膝にうずめるように顔を伏せた。
「好きだ……好きなんだよなあ……ははッ」
 笑ってしまうぐらい、昔からあの人しか目に入ってなかった。
 忘れようとしても忘れられないぐらい。他の人を好きになっても、消えてくれないぐらい。
「ソーちゃん……俺、IH出てさ……山王と戦うよ。きっと……そんで勝つ」
 だから見てて欲しい。
 そう願いを込めて、腕の中のリストバンドを握りしめる。
「それでもし、もしまた依織さんに会えたら……そうしたらその時は……」
 今度こそ、好きだって言う。だから応援してて。
(もしかしたら、ソーちゃんからしたら応援しづらいかも知れないけど)
 苦い顔のソータを想像して、リョータは思わず吹き出した。
 そうしてソータのことを思い出して苦しい以外の感情がわき上がった自分にまた泣きそうになった。
 海面に隠れ始めた夕暮れの光を浴びた洞窟に、小さな泣き笑いの声がかすかに木霊した。



(……とは言ってたけどさ)
 これはあまりに急すぎるんじゃないか?
 と、リョータは急展開に目を剥いていた。
「あ、ごめんね急に話しかけて……久しぶりだったからつい……」
 慌てた様子でそう言う依織の姿を、リョータは瞬きもせずに見入っていた。
 さらさらの黒髪も変わらず、あの頃より背は伸びたが細身の体も変わらない。
 微妙に自分のほうが目線が低いことに気づき、無性に悔しかった。
「お、俺のこと覚えてる……?」
 不安そうな双眸がちらりと窺い見てくる。さっきまで緊張で張り付いた喉で、どうにか彼の名前を呼んだ。
「依織さん……?」
 嘘だろ。本当に会えるなんて……そんなことあるかよ。
 
 
 

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