隣の席のおっきい子ども3


 どうやら最近の流川は自分からくっついてくるのがブームらしい。
 喧騒が遠く届く屋上での昼休み。
「流川くん、寝心地悪くない?」
「別に悪くねえ」
「そっか〜」
 上を向くと綺麗な青空が広がっている。足には冷えたアスファルトの感覚。
 しかも膝の上には温もり。
(どうして膝枕なんだろ……?)
 だらりと伸ばした依織の太ももには、流川の頭が置かれている。
 最初は正座していたのだが、思っていたより高かったらしい。一度寝転んだけれど、ムッとした顔で起き上がって、無言で依織の足を伸ばした。
 そのあとは、いつもながら表情は薄いけれど、ちょっとご満悦そうに目を閉じて横になっている。
 こうして昼休みに屋上に誘われるようになって二週間程度だろうか。
 それより前は、昼休みになると流川がわざわざ隣の依織の席に来て一緒に昼食を食べていた。
 食後は自席に戻って寝てしまう流川を眺めながら、読書をしたり、宿題や予習に時間を使う。
 それが一種のルーチンのようになっていたのだけれど、ある日突然流川に屋上に連れてこられたのだ。
 いつもなら、その体躯には小さく見える椅子を引きずって依織の机で昼食を取るのに、その日は依織の横に立ってじっと見下ろしてきた。
 手には昼食が入ってると見られる袋があって、もしかして他の誰かと食べてくるのかな? と思ったものだ。
「どうしたの、流川くん?」
 見上げて訊ねると、流川は「ついてきて」と短く言い、すぐに踵を返して教室を出る。――しかも依織の手を引きながら。
「ついてきて」なんて子供らしいお願い口調だったけれど、流川の中で断られる想定はなかったらしい。
 歩幅の大きい流川に頑張ってついて行った先が、屋上だったのだ。
 怖い先輩がたむろしてるなんて聞いたこともあったので、ズカズカと扉を開けて入っていく流川の後ろで怯えていたものだが、杞憂だった。
 屋上には怖い先輩はもちろん、人っ子一人いなかったのだ。
 そうして半ばまで進むと、両肩に手を置かれて下に軽く押された。
(座れってことかな……?)
 そろりと腰を下ろすと、流川は満足そうに頷く。正解だったらしい。
 そうして流川も隣に座ってもぐもぐと昼食をとった。
 必要以上に喋らない流川なので、そういう気分だったのかな、となにも訊かずに依織も弁当を広げた。一口が大きい流川は、依織よりもたくさん量を食べるのに、食べ終わるのは依織よりも早い。
 依織がちまちまと食べ終わるのを、今か今かと待ち構えていて、空の弁当箱を片付けた瞬間にごろりと膝の上に頭を転がした。
(なるほど……寝っ転がりたかったから屋上か……)
 やっと屋上に来た理由が分かった。
 やっぱり椅子に座ったままじゃ寝づらいよね、と思って膝を貸していたが、流川は思ったより気に入ったらしい。
 それ以来昼休みになると依織の手を引いて屋上に来るようになった。
 せめて依織の膝じゃなくてクッションでも持ってくればいい枕になるだろうに、その提案は本人から首を振られてしまった。
 流川がいいならいいか……と、今日まで依織の膝枕で過ごしているが、実をいうと暇である。
 ぼんやり雲のない空を眺めていたが、ふいに見下ろしてみる。
 足を枕に仰向けに寝る流川は、ずいぶんと気持ちよさそうにすやすやと目を閉じていた。
 相変わらずさらさらの黒髪が、ときどき風に吹かれて揺れ動く。目にかかるそれを、依織はそっと指で払い、そのまま流川の頭に触れた。
(柔らかい……流川くんて髪の毛細いな……)
 無心で頭を撫でていたが、ハッと我に返る。
 寝るためにここに来てるのに、それを邪魔しちゃダメじゃないか。
 それに……。
 ――お兄ちゃん絶対止めたほうがいいって。
 妹の声が頭を過った。
 いけない。とふるふる首を振って自分を叱咤する。
 いくらどこでも寝ちゃうバブちゃんだとしても、流川は高校生である。あまり子ども扱いするのは不快だろう。
 流川と接するようになってから、世話をやくのが癖になっているのか、家でも妹相手に同じようなことをやってしまい、気味悪がられた。
「急にどうしたの?」
 訝しむ妹への誤解を解くために、クラスでのことを説明すると、さらにドン引きした様子の妹が放ったのが、「やめな」という諭しの言葉だった。
「同級生の男の子の世話をそのレベルでやくってヤバいよ」
 あまりにも白い目で見られるもので、今さらながらもしかして自分たちの距離感はヤバいのかと自覚したのだ。
 まさか、悪い虫が寄ってくるからやめな。という意味だったとも知らず、依織は決意した。
 これからは適切な距離感で接していくと。
 けれど、誰も二人の屋上での出来事は知らないので、適切な距離感の男子高校生は、昼休みに膝枕で寝ないと依織に教えてくれる存在はなかった。
 例え知ったとしても、クラスの生徒はすでに依織と流川ならば当たり前だと微笑ましく見守るだろうし、誰もそれがおかしいとは言わないので結果は変わらないけれど。
(適切な距離って難しいな〜)
 勝手に触れないように両手を後ろについて空を眺める。
 すると、ふいにパチリと流川が目を開けた。
「なんでやめんの」
「な、なにが?」
 寝ていると思っていたので、急な問いに依織は驚いた。見下ろすと、流川は訊き返されてムスッとした顔で「手」と簡潔に言う。
(手……?)
 もしかして――と、依織が恐る恐る「撫でてもいいの?」と訊けば、当たり前だとばかりに流川が頷いた。
(なんだ、触っていいんだ……)
 拍子抜けした気持ちで、依織は再び流川の黒髪に指を差し込んでさらさらと髪を梳いていく。そうすると、流川は待っていたように目を閉じて寝息を立て始めた。
 彫刻みたいに均整のとれたその寝顔を見下ろしながら、
(適切な距離ってやっぱり難しいな……)
 と、依織は思った。



 屋上までは流川の引率だが、帰りはいつも通り依織が手を引いて教室に戻る。
 予鈴が鳴る前に起こして連れ出さないと、流川はいつまで寝ているか分からないからだ。
 寝ぼけている流川に声をかけつつ、どうにか教室までの道を行く。
 うつらうつらと舟を漕いでいる流川を心配そうにちらりと窺う。
「流川くん、この次階段だけど大丈夫?」
 くい、と手を引くと、パチリと涼しげな目元が開かれる。そうして依織と目を合わせると、こくりと頷いたので、ひとまず大丈夫そうだ。
 依織が前に向き直ったところで、急に背後から大きな声が上がった。
「おい、流川じゃねーか!」
 流川の名前に依織が振り返ると、さっきまで眠そうにしていた流川は、途端に顔をしかめて舌打ちをする。
 珍しいその表情にビックリしていると、流川の肩に誰かが腕を回した。
「お前、同級生に面倒見てもらってるってまじだったのか!?」
 流川と同じぐらい背の高い、短髪の男子生徒だ。
「……先輩、耳元でうるさい」
 しかめた顔の流川の声に、先輩なんだ、と慌てて依織はぺこりと頭を下げた。
 それに先輩――三井は「おー」と笑って手を上げて応えた。
「女子の間で噂になってんぞ、流川よ〜? カルガモよろしく同級生のあとついて回ってんだって?」
 にやりと笑った三井が、肩を組んだまま流川に言うと、面白くなさそうに口をへの字にした流川が「ついて回ってねぇし」と呟く。
 別に無理矢理あとをつけ回しているわけでもない。
 これはれっきとした二人の時間の過ごし方であり、手だって依織のほうから繋いでくれているのだ。
 それなのに、流川が一方的に追いかけ回しているような口ぶりにムッとする。
「一緒に移動してるだけ。てゆーか先輩重い」
「重いってひでーな!」
 先輩相手にいいのかな、と流川の態度に内心おろおろする依織だったが、三井はワハワハと豪快に笑って腕を放す。
 それを見て、(もしかしたら普段からこうなのかも)と、どこか胸をなで下ろす。
(流川くんて、先輩にはこんな感じなんだ……)
 知らない一面が垣間見えてちょっと嬉しくなった。
 微笑ましく流川の先輩とのやりとりを見ていたのだが、その間も手を繋いだままだったので、依織は先に行ってようか? とどのタイミングで言うべきか迷っていた。しかし、そうして迷っているうちに三井の視線が依織を向く。
「こいつの面倒みんの大変だろ?」
「え!? い、いえそんなことないです」
「まじか? 脅されてたりしねえ? こいつ顔怖いしデカいし怖いだろ」
「そ、そんなことは!」
 たしかに大きいな、と思うことはあっても怖いと思ったことはない。だって依織の中での流川のイメージはぽやぽやバブちゃんなので。
「脅してねえし。面倒見てもらってねえし。あと依織は怖がってねえっす」
 不愉快そうにへの字の口で言う流川に、三井はぽかんと口を開ける。
「いや面倒は見てもらってるだろ。後ろから見てたお前、完全にデカいガキだったぞ」
 こんな風に手ぇ引いてもらってよ〜、と三井は自然な動作で依織のもう一方の手を握ってぶんぶんと振り始めた。
 基本的に依織は、バブちゃん認定している流川以外とは、パーソナルスペースが広い人間である。
 急に、しかも先輩から触れられてビックリして硬直していると、流川が片腕で三井の体をぐいっと押しのけて依織から離す。
 流川はさらにムスッと尖らせた口で、心底面白くなさそうに言うのだ。
「ちけえ」
「お前、先輩を押しのけるな!」
 三井の声が上がると同時に、廊下のスピーカーからチャイムが鳴り響いた。授業開始前の予鈴だ。
 三人は揃って頭上を見上げていたが、三井が「やべ、俺移動教室だ」っと手を振って慌ただしく去って行った。
 律儀に依織が手を振り返していると、その手を掴んで流川が下ろす。
 やっぱりその顔は不機嫌そうに眉を寄せていて、どうしてだろうと依織は首を傾げた。
(先輩にからかわれたのがやだったのかな……)
 しかし、それを直接的に訊くのも憚られる。
「……教室戻る?」
 結局それだけ訊いて、流川がこくりと頷くので、二人は再び手を繋いだまま教室へと戻るのだ。
 流川が無言なのはいつものことなのに、なんだか沈黙が重い気がした。
 たぶん、さっきまでの不機嫌そうな流川の様子が気にかかっているのだ。
(流川くんがいいなら別に気にしなくていいかな……って思ってたけど、本当は嫌だったのかな?)
 屋上だとそんな感じしなかったのに。
 ぐるぐる考えていたが、答えなんて出ないので、ここは本人に訊いたほうが早いかと口を開いた。
 ただ、「俺に触られるの嫌だ?」とも訊けないので、妹の言葉を借りて遠回しに言ってみる。
「そ、そういえばね、妹に言われたんだけどね」
「妹……?」
 妹いんの? と背後からの呟きに、あれ? と依織は首を傾げた。
「言ってなかったっけ?」
 振り向くと、ちょっと面白くなさそうな流川が頷く。
「ごめんね、実は妹いるんだ。三つ下で、ちょうど中学一年生」
「そいつになんて言われたの?」
 想定外からの問いに出鼻をくじかれた依織だったが、流川の言葉に本来の目的を思い出す。
「俺と流川くんのこと話したら、普通は同級生の子にそんなことしないって。止めたほうがいいよって言われちゃってさ〜」
 これで流川がなにも言わなければ別にいい。今までの距離感を続けていくだけだから。
 けれど、もし今までの依織との関係に思うところがあれば、話に乗ってくるなりなんなりと言いようはあるだろうと思ったのだ。
(そんなことないよね、って笑い話になったらいいのに……)
 そう望んでいる自分に、少なからず驚く。人と距離が近すぎるのは好きじゃないはずなのに。
 だから、高橋のことだって苦手なのだ。
 ドキドキしながら流川の言葉を待ったが、依織が想像していたような反応とはいかなかった。
 ぎゅっと手を強く握られたと思えば、急に腕が重くなって依織は前に進めなくなる。流川が足を止めたのだ。
 もうすぐ本鈴がなってしまうのに……。
 どうしたんだろう、と振り向くと流川は難しい顔でこちらを見つめていた。
「嫌なの?」
「え?」
「俺とこういうことしてんの」
 こういう、と言って流川は存在を主張するように繋がった手の指を握り直す。ドキリと小さく胸が跳ねた。
「い、嫌じゃないよ? ただ、普通の男子高校生は同級生とこんなことはしないかなって話で……」
「なら、同級生じゃなけりゃいい?」
「え? え……でも同級生だしな、俺たち」
 同級生じゃなくなるってどういう意味なんだろう。と依織は首を傾げる。
(普通じゃないって言ったから、気にさせちゃったかな……)
 それなら悪いことをしたかもしれない。
 やっぱり訊かずに今まで通りでいれば良かったかも、と思っていると、口を結んでいた流川がぽつりと言う。
「俺はガキは嫌だ」
「あ、うん」
「けど、お前とは一緒にいたい」
 そこまで口にして、流川は考え込む。
 依織は、この距離感がおかしいと思ってるから、わざわざ自分に言ったのだろうか。と少し悩んだ。
 けれど、流川は今さらこの心地よい距離感を手放すのは嫌だった。
 同級生がおかしいと言うならそうじゃなくなればいい。なら――。
 ――お前デカいガキだったぞ。
 なら、ガキなら許されるのだろうか。
 途端、胸にもやもやが広がる。
 けれど、その原因がなんなのか流川自身にも上手く形容できなかった。
(そもそもこいつ、俺のことどう思ってんだ?)
 目の前の依織は、黙り込んだ流川の瞳を不安げに見上げている。手は相変わらず繋いだままで、二人の距離は歩幅一歩分もない。
 流川が腕を伸ばせば簡単に抱き込んでしまえる。
(でも、先輩に触られた時は固まってた……)
 自分ではない誰かと手を触れ合わせた姿を思い出すと、胸のもやは大きくなって、腹の奥がムカムカと熱を持つような感覚がする。
 依織の指に自分のものを絡めて心を落ち着かせる。
 皮膚がすり合わさると、依織はぽっと頬を染めたが、嫌がりはしていない。
(俺だけ、許されてる……)
 そう思うとたまらなくなって、どうしてかその理由を無性に問いただしたい気持ちになった。
 そして、流川という男は、元来深く考えることはしないし、思ったことは全て物怖じせずに口に出す者である。
「俺のことどう思ってんだ?」
 そのため、間髪入れずにその問いを依織に投げかけていた。
「どう思ってる?」
 じっと言葉を待っていた依織は、急にそんなことを言われるのものだから混乱した。
 しかし、流川がいつになく真剣な顔で依織の答えを待っているから、これは真剣に答えなくてはと背筋を伸ばす。
(流川くんのこと? そりゃクラスメイト? 友達?)
 いくつか言葉を並べてみても、しっくりくる表現がない。
 うんうんと唸る依織の頭に浮かんだのは、これまでの日常風景――つまり、流川のバブちゃん記録だった。
「えっと……おっきいバブちゃん?」
 するりと言葉が出てしまった。
(あ、素直に答えすぎたかも)
 依織はすぐにそう後悔した。だって、目の前の流川がまるで雷にでも打たれたみたいにショックを受けて目を見開いている。
「ば、ばぶちゃん……?」
 初めて聞いた言葉みたいに、拙く口ずさむから、どれだけ衝撃だったのかが窺える。
 流川の口から「ばぶちゃん」なんて言わせてしまったことに、女子から怒られそうだな、と密かに怯える。
「俺のことずっとガキだと思ってたのか?」
「えっと……その……」
 固い声が落ちてくるから、依織は言葉につまった。
 ここで頷いたら、流川は傷つくだろうか。
 そんなことを思ったが、すでにバブちゃん発言をしたあとでは遅い。口ごもった依織に肯定だと受け取った流川は、今までよりもはるかに機嫌が悪そうに顔をしかめた。
「ご、ごめんね流川くん……」
 そろそろと上目遣いに様子を窺いながら謝る。その申し訳なさそうな視線を前に、流川は一度口を引き結ぶと、ふんと鼻を鳴らした。
「試合」
「え?」
「今度、試合見に来て」
 流川が腰を折って身を乗り出した。突然近くなった距離に、驚いた依織が後ずさったが、流川に手をつかまれているから逃げられない。
 二人の鼻先が触れ合うほど近くて、流川の黒髪が依織の額を掠める。
 すぐ傍でじっと見据えてくる瞳の強さに、依織は目眩がした。
 じんわりと頬が熱を持ってくる。
「俺、ばぶちゃんとかじゃねーから」
 吐息が、依織の肌を掠めて消えていった。どんどん熱が上がっていく。
「ぜってー来いよ」
 有無を言わさぬ声の圧に、陶然としながら依織は頷く。
「う、うん……わかった。わかったから……」
 だから離れて……と、流川の肩を軽く押しながらか細く言うと、流川は不機嫌そうに「なんで?」と訊ね返してくる。
 ――ドキドキするからだよ!
 なんて馬鹿正直に言えなくて、しどろもどろに依織はどうにか流川から距離を取った。

 ◇◇◇

(す、すごい……美形って、近くで見ると心臓に悪いんだ……)
 新たな発見をしてしまった。
 教室に戻って午後の授業が始まっても、あの時のことを思い出してしまうと途端に依織の心臓は騒がしくなってしまう。
 しかも、あの距離感を気に入った流川が、それ以来さらに距離が近くなるものだから、依織の心臓は過労死させられそうになるのだった。

 
 ◇◇◇
 

 膝枕ブームが去った後は、抱き枕ブームに移行したようだ。
 背後から腰に腕を回され、肩には流川が頭を置いてくるようになった。
「る、流川くん、離れて……」
「なんで?」
「な、なんか……心臓ドキドキしちゃって落ち着かないから……」
 赤くなった頬を隠すように手を当てて伏し目がちに言うと、不思議なほど流川が静かになる。
 振り返った依織は、きょとりと目を瞬く流川の姿を見た。
「おれも、お前に触ってるとドキドキ? する。なんかあったけー」
「流川くんも? じゃあ、変になっちゃったわけじゃないのかな」
「そうじゃねえ?」
 知らねーけど、なんて言いつつ、流川は受け入れ体勢に入った依織に機嫌を良くして頭をぐりぐりと押しつける。
 くぐったいよ、とクスクス笑った依織が肩を揺らすと、白く細い首に掛かった髪もさらりと流れ、流川の鼻腔に柔らかな匂いが広がった。
 それを嗅いでいると、ずいぶんと安らかに眠りに入れることに、流川は最近気づいた。
 すん、とうなじのあたりにすり寄って鼻を鳴らすと、気づいた依織がジタバタと暴れる。
「に、匂いは嗅いじゃダメ!」
「……やだ」
「やだ!? 俺のほうが嫌だよ! 流川くんがそれ言う立場じゃないでしょ!」
 起き上がって流川から離れようとする細い肢体を、足と腕で囲い込む。しばらく頑張っていた依織だったが、体格差もありどうしても流川に勝てないと分かると観念して寄りかかるように力を抜いた。
 しかし、「汗臭いから嗅がないでね」と忠告付き。
 その言葉は、汗臭くなかったら嗅いでも怒られない、と変換されて流川の頭に埋め込まれたので、同じことをして――結局また怒られた。

 ちなみに教室での出来事である。

 痺れを切らした男子生徒の一人が、「俺、あいつらに教えてくる!」と席を立ったものの、たちまちに女子生徒に囲われ行く手を阻まれていた。
 こうして今日も、二人はドキドキの理由の解明には至らず、男子高校生同士にしてはいささか距離が近すぎる日常を送っていくのだ。

 意外とSD夢の感想をいただくことが多くて、嬉しいです!
 一応二人が付き合うところまではうっすら構成があるので、あと二話?程度でひとまず完結できればいいな〜とは思います。 
 先日の再販戦争に参加してましたが、全く繋がらなくて、結局欲しかった流川フィギュアは買えませんでした……めちゃくちゃショックなので、運営はぜひまた再販して欲しい……次こそ買いたい……