続 かみさま、どうか 


 玄関のチャイムの音が鳴り、リビングでテレビを眺めていたアパルはハッと顔を上げた。
 もしかしてノアが帰ってきたのだろうかと、駆け足で玄関に行って扉を開ける――と。
「おいアパル、今相手を見てから開けたか? 見てないよな?」
「あなた、毎度のようにノアにあれだけ言われてて、どうしてそんなに学習しないですか?」
「カイザー! ネス!」
 扉の先にいたのはノアではなかったけれど、二人の久々の来訪にアパルは顔を輝かせた。
 アパルの笑顔に、カイザーとネスはきょとりと瞬いた目を合わせ、子供らしからぬ表情で苦笑した。
「ほら、二人とも立ってないで入って、入って」
 今じゃアパルよりも背丈が伸びた二人の背中を押して中に迎え入れる。
「ノアはいないのか? アパルが出てくるってことはそうだな?」
 確信を持ったカイザーの言葉に、アパルは頷いて答えた。
「さっき急にチームのオーナーから連絡がきて、話したいことがあるって……時間はかからないからって置いてかれちゃった。でもカイザーたちが来てくれるなら、家で待っててよかったよ」
 遊びに来てくれてありがとう。
 紅茶のカップを二人の前に出しながら言うと、心底嬉しそうなアパルの笑みに二人は照れたように頬を赤らめて目を逸らした。
「これ、一応手土産です……なにも持たずに押しかけるのも悪いですからね」
 ネスが手に持っていた紙箱を渡す。アパルは特徴的なその箱の形に、思い至って箱とネスを交互に見やる。
「もしかしてケーキ!? わあ、ちょうど甘いものが食べたかったんだ。ありがとうね、ネス」
「いえ。たまたま通り道だったので……」
 尻すぼみにぼそぼそと言ってネスだが、少し前にアパルが食べてみたいと言ったことを覚えていてくれたのだろう。それが分かっているからなおのことアパルは嬉しい。
 箱の中を覗くと、そのときにアパルが言った季節限定のフルーツを使ったタルトとケーキが二個ずつ入っていて、さらに笑みが深くなる。そんなアパルの様子にネスはさらに頬を染めて唇を噛みしめて喜びを隠し、反対にカイザーは据わった目でどんどん不機嫌になっていく。
「言っておくが、俺だって覚えてたぞ」
 ――……ただ、ネスに先を越されただけで……と悔しそうに口の中で呟いた。
「カイザーはこの前一緒にマーケットに行ってくれたでしょ? あれだって俺が言ってたから誘ってくれたんでしょ?」
 拗ねた様子のカイザーの頭を撫でて言えば、今度はネスが驚いた顔でカイザーを見た。
「えっ、どういうことですか? カイザー聞いてませんよ?」
 いつ? いつですか? と、身を乗り出したネスの質問攻めに、すっかり機嫌を直したカイザーは含み笑いでかわしていた。
 そんな二人の賑やかな様子を後目に、アパルは再び箱の中に眼を落とした。
(四つだから、きっとカイザー、ネス、俺……あとノアの分だよね?)
 時計を見ると、ノアが家を出てからもうすぐ二時間が経過しようとしていた。
 そう時間はかからないと言っていたので、もうすぐ帰ってくるかもしれない。
「ネスが買ってきてくれたケーキは、せっかくだからノアが帰ってきてから食べよっか」
「べつに俺たちで先に食べててもいいんじゃないか?」
「ええ。どうせノアはそんなことで怒ったりしないでしょうし……まあ、アパルがそうしたいならそうすればいいと思いますよ」
 カイザーに続いて、ネスは肩を竦めながら言った。
「みんなで食べたほうがもっと美味しいし、それじゃ四人で食べようね」
 そう言うと、まるでそう言うことを知っていたように二人は揃って薄く笑った。そんな子どもたちの様子に、素直じゃないなと内心でアパルも笑った。
(先に食べようって言ったら、きっとなんだかんだ言って止めてくるくせに)
 慌てた様子でノアが来るまで待とうと遠回しに言う二人の姿を想像して、クスクスと笑いを噛み殺してアパルはキッチンに向かった。
 さて、ノアが帰ってくるまでどうやって保管しておこうか。
 お皿に載せてラップをかける? それともタッパーとかに移す?
 あいにくと、昨日ノアと買い物に行って一週間分の食料品を詰め込んだ冷蔵庫には箱のまましまっておけるスペースがない。けれど、ラップをかけてもタッパーに入れても形が潰れてしまいそうで悩ましい。
 アパルが冷蔵庫の前でうんうんと悩んでいると、遠くで玄関扉の音が聞こえた。すぐにダイニングの扉が開かれ、家主であるノアがまず中央のソファに座ったカイザーとネスを見て苦い顔をする。
「……また来てたのか」
「べつにノアに会いに来てるわけではありませんけど」
「文句言われる筋合いはない」
 ムスッとした顔で言い返す二人にため息をつき、ノアはカウンターごしにキッチンのアパルを見つけた。
「アパルも迷惑ならちゃんと言え」
「迷惑だなんてそんなことないよ。俺も二人が来てくれるのは嬉しいもん」
 普段は大きく動かないノアの表情だが、今は渋い顔をしている。あれは拗ねているけど、口に出せないときの顔だ。
「……だがこいつらは来すぎだ。そんなに暇ならボランティアにでも行ってろ」
「プライベートの時間をどう過ごそうが俺たちの勝手だろ」
「そうです」
 ふんと鼻を鳴らした子どもたちと、ため息をついたノアの視線がぶつかり火花が散った。
 それをよそに、アパルはちょうどいいとケーキをお皿に盛って新しく紅茶の準備をした。
 アパルが事故に遭いノアと想いを交わしたあの日から、三人の冷戦はよくあるもので、素直じゃない双方の一種のコミュニケーションだと見守ることにしている。
 ダイニングに運び、立ったままのノアを隣に呼ぶと素直に腰を下ろした。こういうところは大人になっても可愛い。
「タルトとケーキがあるけど、みんなはどっちがいい?」
 ノアは甘いものにこだわりがあるわけではないので、子どもたちから選んでもらおうかな。そう思って問いかけたが、どうしてか二人だけでなく、ノアも揃ってアパルから選べと視線で訴える。
「えっと……じゃあ……」
 甘えて選ばせてもらおうとダイニングテーブルに並んだケーキで視線を迷わせる。ケーキもタルトもずっと気になっていたものだ。絶対に並ばなければ買えない人気店のもので、しかもこれは期間限定品。また買える保証はない。
 どうしようと悩むアパルに、ふいにネスがタルトのほうを手に取った。
「アパルはケーキのほうを食べてください。僕のタルトを一口あげます」
「え」
 すると今度はノアがタルトに手を伸ばした。
「その心配はない。アパル、俺のタルトを半分やる」
「え」
「おい! なんで先に選んでる!」
 最後に残ったケーキをノアに差し出されたカイザーが思わず声を上げる。そこからやいのやいのと三人の賑やかな戦いが幕を切り、結局アパルは自分の分とはべつに三人からそれぞれ一口ずつもらうことになってしまった。
 デザートを食べ終え、食後の珈琲で一息ついたとき、ふとノアが思い出したように言った。
「そういえば……」
 アパルに向き直り、いつもの表情の薄い顔で
「来週から日本に行くぞ」
 と、急にそんなことを言うので、アパルは驚いて眼をしばたたかせた。
「長期での仕事になるから相応の準備をしておこう。アパルには少し設備の手伝いをしてもらうことになるが、一緒に行く許可はもらった」
 呆然としている間に一気に捲し立てられ、慌ててストップをかけると饒舌だったノアはピタリと口を閉じた。
「えっと、俺とノアだけ? なんの仕事で日本に行くの?」
 とりあえずとばかりに問いかける。
 すると、ノアは正面の二人を見てからまたアパルに視線を戻した。
「いや。欧州の五チームが参加する。うちのチームからは俺以外にも参加が決まっている。もちろん、この二人もだ」
 ネスとカイザーもまだ耳にしていないのか、驚きで眼を見開いた。
「欧州の五チームって……そんなに大きなお仕事なの?」
「ああ。日本で開催されているストライカーを育成するための青い監獄プロジェクト……そこに俺たちは参加する」
 想像していた以上に大きな話に、そんなところにどうして自分が? とあまりの場違い感にアパルは戸惑いを隠せなかった。

 ◇◇◇


 選手たちのユニフォームが入った洗濯籠を両手で抱え、アパルはすでに慣れた廊下を行く。
 窓がなくて外の様子も見えず、どこを通っても代わり映えしない風景に迷子になることは多々あったが、今ではそんなこともなく過ごせていた。
 見知ったドイツの選手以外に、フランスやイングランドなどその他の有名な選手たち、また世界規模での配信サービスなど、戸惑い尻込みすることもあったが、楽しくすごせている。
 あくまで主役は選手たちで、アパルはその裏方の手伝いだ。時々ドリンク運びや選手のサポートでチラリと配信映像の隅を横切ることがあるぐらいで、気にするほどのことでもない。
 言葉の壁も、優秀な機械のおかげでストレスなく過ごせているし、なにより日本の高校生たちはみんな礼儀正しいいい子だ。
「あ、アパルさん! 手伝いますよ!」
 背後からの声に振り向くと、世一が駆け寄ってくるところだった。断わるよりも早く、アパルの細腕から洗濯籠を奪ってしまう。
「世一、選手にそんなことさせられないよ」
「これ俺たちドイツチームのですよね? なら、いつもやってくれてる感謝の気持ちってことで」
 可愛らしい丸い瞳で笑顔を作られると、どうしてもそれ以上言えなくなってしまう。
 以前、頑なに断わったらシュンとひどく落ち込ませてしまったことがあった。選手のために心を鬼にしなくてはと決心しても、その子犬のような顔をみてしまうと、少しぐらいならいいかなっと子どもにおつかいを任せる親のような気持ちで手伝わせてしまう。
(ああ……でもいつも手伝ってもらってるしな……)
 アパルの仕事はドイツチームのサポートがメインである。ノアにはドイツだけでいいと言われたが、さすがに一つのチームだけというのは働く側も心苦しいと伝え、少しならと他チームの仕事も許してもらった。あとあとよく考えると、お願いして仕事を増やしてもらうなんておかしな状況だったな、と思う。
 その二人の論争を聞いていた絵心は、頭が痛いとばかりに額を押さえていたのを思い出し、悪いことをしたなと内心でひっそり彼に頭を下げた。
 正確には絵心は、自身の参加を人質にとってアパルの参加を交渉したノア――また過保護にも自チームだけの手伝いにとどめようとしたこと――に頭痛を覚えていただけで、アパルに対しては同情していたなど思いもしない。
 ドイツでの仕事が多いと、自然とドイツに配属されている高校生とは一緒にいる時間が長くなる。
 世一はアパルが仕事をしていると、こうしてよく声をかけてくれるいい子だ。いくら断わっても無敵の笑顔と「俺たちが使ったものだから」とお決まりの言葉でアパルに白旗を上げさせる恐ろしい子でもある。
(やっぱり選手にこんなことさせちゃダメだよね……)
 ノアに頼んでみんなに通達してもらおうか――。そう悩んだが、指導者であるノア自身がアパルに手を差し伸べてくるのだから質が悪いのだ。そのせいかネスやカイザーまで暇な時は手伝いに来る始末。
(うん。やっぱり今のままじゃダメだよね)
 みんなはサッカーをしにここに来ているのだ。こんな雑用に時間を取らせてはいけない。
 アパルが悩み、気を引き締め直している間にランドリースペースに着いてしまった。
 ハッと我に返ったアパルは慌てて世一から籠を受け取った。
「ごめんね世一! 結局最後まで持ってもらっちゃった……」
「いえ、俺がやりたくてやってるので」
 ニコリと笑った世一。高校生のそのひたむきさに胸がきゅんと疼く。どうしてこんなにみんないい子なんだろう。
 お礼にと、持ち歩いているキャンディを差し出そうとしてはたと気づいた。
 (そういえば、昨日もあげた気がする)
 今のところ絵心から注意を受けるようなことは無いが、管理された食事を三食とっている選手に対し、こうも連日キャンディを渡していいものか。
「ごめん……今、キャンディきらしちゃってて……」
「えっ……!」
 すると、不思議なことにまるでそれを望んでいたように世一の顔が輝いた。
「だからお礼になにも渡せないんだけど……」
 さすがにどんなときもお菓子を持ち歩いているわけではないので、お礼を渡せないのは初めてでは無い。そんなときは決まっていつも以上に感謝の気持ちで子供たちを褒めることにしていた。
「手伝ってくれてありがとね。世一」
 と、同じ高さにある彼の頭をそっと撫でた。世一は幼い子供のような無邪気な顔で照れ笑いをした。その表情は満足げだ。
「こんなことでいいなら、いつでも手伝いますよ」
 はにかむ世一が可愛らしく、アパルはそのままよしよしと撫で続けた。
(カイザーもネスも最近じゃちっとも子どもらしくないから……)
 ツンとそっぽを向いた二人の照れ顔を思い出し、クスクスと笑いがこみあげた。
 素直じゃないあの子たちももちろん可愛いけれど、こうして無邪気に慕ってくれる子どもも可愛くて仕方ない。
「おい、アパル。また世一と仲良しこよしか?」
「そうですよ。アパルはドイツからサポートとしてきたのに、どうして日本の子どもにばっかり構ってるんですか?」
「カイザー、ネス……?」
 ふいに背後から首元に腕が回された。そのまま後ろに引き寄せられ、肩口に振り返ると、カイザーの青く染まった毛先が見えた。
 世一に触れていた手は、いつの間にかネスに繋がれている。
「カイザー、苦しいよ」
 空いていた手でぽんぽんと叩くと、渋々腕は外されたが、そのまま肩を抱かれる。
 いつにも増して不機嫌そうな二人をきょろきょろと見回していると、
「世一はこんな雑用に手を貸している余裕なんてあるんですか?」
 ネスが口角を上げて嗤った。見せびらかすようにアパルと繋がった手を持ち上げて首を傾げる。途端、世一の顔が苦々しく歪んだ。
「おまえらのほうこそ、今日もアパルさんにベタベタ引っ付いてガキかよ。早く親離れしろ」
「はあ? どうして世一にそんなこと言われないといけないんですか!?」
「俺たちは昔からこうなんだ。お前につべこべ言われる筋合いはない」
 キッとにらみ合う三人の子どもを前に、アパルは内心で頭を抱えた。
(どうして顔を合わせると喧嘩しちゃうんだろう……)
 ブルーロックでの生活は、外に出られなかったりと不便はあるが、楽しいものだ。今まで金銭面ではノアに頼りきりだったため、自分の手で働けるというのも嬉しい。絵心は「ちょっとでゴメンね」と心ない謝罪を言っていたが、それでも衣食住が確保された上でお金がもらえるのだから万々歳だ。
 子どもたちも可愛いし、ノアが頑張っている姿を間近で見ることが出来る。良いことずくめ。
 そんななかで唯一困っていることといえば、カイザーとネスのこの態度だろうか。同世代、大人と、関係なく噛みつくのはいつものことだけれど、どうしてか日本の高校生たちにはいつもよりきつい感じがするのだ。
(しかも世一たちがこうして手伝ってくれると必ず顔を出しに来るし……)
 そこでアパルははたと気づいた。
 ――もしかして、俺に対して遠回しに手伝わせるなって忠告してるとか!?
 気づいてしまうと、そうとしか思えなくなってくる。なんだかんだ言って心優しいこの子たちのことだ。多分、面と向かっては言いにくかったんだろう。
 これも全てアパルが押しに弱いせいだ。と、がくりと肩を落として落ち込んでいると、気づいた三人が言い合いをやめて不思議そうに眼を合わせた。
 我先にとカイザーが顔を覗き込んで訊ねようとしたところで――。
「アパル」
 ふいに低い男の声が割って入った。パッと顔を上げた四人の前に、廊下の向こうからノアが近づいてくる。
 カイザーとネスは「ゲッ」と苦い顔をして、アパルからほんの少し――と言っても半歩ほど――距離を取った。
 ブルーロックプロジェクトに参加してからというもの、以前よりも圧倒的にアパルと二人でいる時間が減ったノアが、以前にも増して独占欲が強くなっていることを察しているからだ。
 そんなことを知らないアパルは、自身の恋人の姿に顔を明るくし、パタパタと駆け寄った。
「ノア! どうかしたの? 備品で足りないものでもあった?」
 ニコニコと見上げてくるアパルは可愛らしいものだが、恋人に呼び止められておいて、その用事が仕事のことだと思うのはいかがなものかとノアの眉間に僅かな皺が寄った。
 チラリとアパルの背後にいる三人を見るなり「またか」とばかりにため息をつき、ついてくるように顎を引いた。
 普段よりも口数の少ないノアの態度に、アパルはさほど疑問にも思わず、子どもたち三人に手を振って別れたのだった。


 

(……おい、世一。言っておくが一番アパル離れ出来てないのはノアだからな)
(えっ!?)
(ほんとですよ。ただでさえ施設内じゃ二人でいる時間がなくてヒリついてるのに、あなたたち日本の学生が懐いてうろちょろするから、僕たちだってそばに寄るのに気を遣わなきゃいけないじゃないですか)
(全くだ。アパルは俺たちドイツの人間だからな。それを忘れるなよ)
(は!? え、え? ノアとアパルさんてどういう関係なんだよ!!)





 ◆オマケ

「ノア、どうしよう……カイザーとネスを怒らせちゃったかも」
「どうした急に」
「俺もみんなに悪いなとは思ってたんだけど、一応気を付けてはいたんだよ? でもやっぱり選手に手伝ってもらってるのなんてダメだよねぇ」
 「手伝い」の言葉でピンときたノア。
「あれはあいつらがガキだからだ。お前が気にすることじゃない。手伝いといってもほんとに些細なことだろ?」
「そりゃ大事な選手や子どもたちに大変なコトさせないよ」
 ふんと鼻を鳴らしてアパルは両手で拳をつくった。
 ノアの部屋について、そういえばなんの用だったの? と振り返って聞こうとしたが、突然抱きしめられる。
「……ノア? どうしたの? 疲れた? 困ったことでもあった?」
 よしよしと自分よりも大きくなった子どもを、撫でてあやしているとふいに首筋に痛みを感じた。
「んぅ……痛いよ、ノア」
 軽く歯を立てられた首筋に手を当てながらアパルが言うと、ノアは正面から抱きしめた姿勢のままそっと首を回してアパルを横目に見た。
 間近でゆっくりと瞬く金の瞳に既視感を覚え、ぽつりと言う。
「ノア、もしかしてなにか拗ねてる?」
「拗ねてるというよりも、妬いてるんだ」
 最近はあいつらとばかり一緒だったろ、とぼそっと低い声が落ちて、素直に甘えてきた恋人の姿についつい口許が嬉しくて緩んでしまった。
「ふふ、ごめんね。ノアは指導者の仕事が忙しそうだったから、俺は一人頑張んなきゃって思って……そしたらあの子たちが手伝ってくれたから」
 ここへはあくまで仕事で来ているから、あまり側にいるのは迷惑になるかと思ったのだ。
 決してないがしろにしたわけではないと告げると、「そんなことは分かってる」といつもの生真面目な顔で言われてしまった。
「じゃあ甘えたかっただけ?」
「そうだな。ここに来てからお前に触ってないからな」
 言いながら、ノアのゴツゴツした手がシャツの隙間から滑り込んできて、慌ててアパルは離れようとノアの体を押した。だが、筋肉質で体幹のしっかりした体躯はびくともしない。
「の、ノア、ダメだよ。ここ施設の中だし」
「個人の部屋にカメラはないぞ」
「それでも、子どもたちが同じ場所で生活してるんだよ!?」
 ダメったらダメ! と断固拒否の姿勢にノアは一度ため息をついた。
 諦めてくれたかと期待したが、そのまま膝裏をすくわれて横抱きにされてしまう。
「ノアッ!?」
「最後まではしない」
「そ、そういう問題じゃないよ!?」
 

 
 ◆◆◆

 リクエストありがとうございました!
 短編の「かみさま、どうか」のブルーロックプロジェクト編でした!

 ノアお相手のくせに、ほとんどカイザーとネスのお話ですみません泣
 本当はノア繋がりで面識があった絵心さんとの再会とか、世一視点での初対面から懐くまでとかも入れたかったんですが……それだといつまで経っても終わらないので……ダイジェストでお送りしました。

 また機会があれば続きを書きたいと思います。
 この度はリクエストくださりありがとうございました!