2019年4月25日。この日を境に、この街から失踪する人間は一人もいなくなった。男二人、女三人を連れ去った誘拐犯は、とうとう姿を見せることはなかった。同時に、街で有名だった高価な人形も、最初から何も無かったかのようにひっそりと買い取られた。しかしながら住人は人形のことを欠片も覚えてはおらず、……人形とは、何のことだ?
「あたし、本当は知っていたの。あなたが誘拐犯だってこと」
「その上で黙って見逃していたのかい?」
「ええ。彼らには良くないことをしたと思うけれど……あなたの殺意は想像以上で、あたしにすら止められないと思ったから」
「まあね。誰にも邪魔はさせるものかと思って殺してたから」
「でもね、その気持ち、分からないわけじゃないの。あたし、探偵さんにあなたを馬鹿にされて、殺してやろうかと思ったくらい腹が立ったんだもの」
「へえ、そんなに怒ってくれたんだ」
「もちろんよ。前も言ったじゃない、あたしにとってあなたって、あなたが思う以上に大切な人なのよ。大切な人を馬鹿にされて黙っていられるほど、できた人間じゃないわ、あたし」
「ふうん……」
「なあに?」
「いや、やっぱり君は悪い子だね」
「まあ、どうしたの急に」
「手始めにこの僕を狂わせた罪は重いよってこと」
「じゃああなたも悪い人よ」
「どうして?」
「あたしの初恋を持って行って、なおかつこんなにも愛おしくさせるんだもの。こんなの、いい人じゃできないことよ」
「そうだね……ああ、うん、そうだ。僕達はお互いに悪人で、だからこそ焦がれ続けたのかもしれない」
「かも、じゃなくてそうなのよ。さあ、行きましょう。あたしたちは悪い人なのだから、捕まえられないよう逃げなくっちゃ」
「ああ、行こう。できる限り遠くへ、誰にも見つからないくらい遠くへ」