ジェシカは、この街で一番の女の子だ。可愛くて気立てが良くて、おまけに僕みたいな冴えない男にも優しい。好きになるのに時間はかからなかった。
けれど僕には彼女に話しかける勇気はなく、いつまでも名前すら呼べない。時々僕が話したそうにするのを見て首をかしげてくれるけれど、あまりにも輝かしくて恐れ多くて、何でもないと首を振ってしまうのだ。
それから僕は、少しずつジェシカの後を追うようになった。良くないことだとはわかっていたけれど、どうしてもジェシカのことが知りたかった。とうとう明け方までジェシカの家のそばにいたことに気づくと、さすがに自分の気持ち悪さに死にたくなった。けれど、僕以上にジェシカのことを知っている人なんて世界のどこにもいないと思うと、彼女を自分のものにしたような優越感にたまらなくなった。
その日のジェシカは、少しだけ早起きだった。いつもより少しだけおしゃれをして、早足で出て行くものだから、きっと男に会うのだろうと確信した。それが彼女の愛する人であっても、僕のジェシカは誰にも渡せなかった。
「ああ、待って、今のは忘れて!」
それは何だ、ジェシカ。彼女が頬を染めながら話していた相手は、この街でも有名な美しい男の人形だった。僕が見た事もないような笑みを浮かべて、彼女はガラス越しに人形に話しかけていた。じゃあまた明日と手を振ってこちらに向かって来た彼女の前に、僕は立ち塞がった。
「あら、おはよう。あなたもお人形さんに会いに来たの?ええ、ええ!是非そうするといいわ!とってもきれいなんだから!」
ジェシカ、ジェシカ、それは人じゃない。ただの人形じゃないか。どうしてそんなに嬉しそうに笑うんだい。僕にはそんなふうに笑ってくれたことなんて一度もなかったじゃないか。目を覚ましてくれ、ジェシカ。
目を覚ますのは僕の方だった。こんな女、どこがいいというのだ。ただ愛想の良い、美しい人形に捕われた女じゃないか。僕は駆け出した。何日かぶりに戻った家には、父が残したサバイバルナイフがあった。これでジェシカを、
サーベルを抜く音、カメラのシャッター音。あとのことを僕は知らない。