まるで生きているみたい。一瞬でも目があったらすべてを見透かされそう。けれどこの世のものではないくらい美しい。だからこそ、その人形は私たちに、恐ろしさと気味の悪さを植え付けたのだ。
隣に住むジェシカはどうやら、この人形にご執心らしい。毎日毎日飽きもせず、にこにこしながら人形に話しかける。時にはぽうっと頬を染め、時には心底嬉しそうにほほ笑んで。その様子はまるで、恋人と話をしているよう。そこだけ別の世界のように感じることすらあった。桃色の空気という意味ではなく、この世のものではないような、神秘を表した澄んだ色と言う意味で。あれはまるで、神様のいるところ。ただの人間である私たちが踏み込んではいけないような、神聖さすら感じた。
聖域は破られた。煙草屋のおばあさんは文句ばかり言う人だからいつかはと思っていたけれど、ついこの間、頭がおかしいんじゃないのかいとジェシカに怒鳴ったのだ。けれどジェシカはそれをまったく気にしていないように人形に話しかけ続けた。仕事中だからあまり長くはいられないこと、彼女が勤めている喫茶店の話。その間も、おばあさんは傍らで彼女に文句を言い続けていた。さすがにそろそろ聞くに堪えなくなってきたところで、ジェシカはああいけないと声を上げた。
「あたしもう行かなくっちゃ!」
ジェシカが笑ってその場を離れると、途端に視界が真っ白になった。眩しさのあまり目を瞑った。少しして目を開くと、そこにはもう何もなかった。さっきまで響いていたしわがれた声も、小さなおばあさんの姿も、光は全部連れ去った。人形は冷たい瞳で、おばあさんのいたところをにらんでいるように見えた。
あの人形はジェシカの神様で、ジェシカは神様のお気に入り。あの人はジェシカを汚くののしったから、神様が殺してしまったのだ。それを見たのは私だけ。殺されると思った。けれど神様は、私を手にかけることはしなかった。代わりに、誰にも言わないことを誓わされた。誰かに言ったらその時点で、次は私なのだ。