チョロいな、と口角を上げる。あの女、とことん不用心なのだ。家にはいつでも入り放題、金は盗み放題。あの女を見つけた自分の幸運に、ニヤけが止まらない。今日もまた、俺のポケットはちゃりんちゃりんと金のぶつかる音がしている。
バカ高い人形を買うために金を稼いでいる女がいる。煙草屋のババアから世間話程度に聞いたのは、つい数日前のことだ。曰く、女はイカれていて、毎日毎日その人形の元に通っては話しかけるのだそうだ。確かにイカれている。俺が賛同すると、ババアの愚痴に拍車がかかった。やれバカ女だの虚妄女だの、果てには悪魔の売女とまで言わしめた。ババアは、女がイカれているのは、体と魂を悪魔に売ったからなのだと決めつけていた。それはどうか分からないが、とにかく女のイカれさ加減だけはよく分かった。
だからなのかもしれないが、女を一度見てみたくなった。女が来る前に人形の周りで張り込み、いざ女が来てみると、それはそれは驚いたのだ。美しく、声もよく通り、穏やかそうな女。ついでに体もいい。ババアが言うような性悪女ではなかったのだ。
けれど確かに、女は人形に話しかけていた。人形はただそこにあるだけ。ぴくりとも動かない。イカれているのは本当だった。これなら盗みに入っても気づかれないだろう。気づかれたとしても、殺せばいいだけ。ああ、その前に孕むくらいに抱いてやろうか。何にせよ、あんな女、死んでも文句を言うやつなどいないだろう。そう考えて、俺は女の家に盗みに入った。
思った以上に簡単で、正直拍子抜けである。まず、女は家に鍵をかけない。誰かが一緒に暮らしているかといえばそうでもない。金を隠すのはいつもベッドの下。そこに隠した袋に、想像以上の大金が入っていた。少しだけ盗み取ってみて様子を窺うと、女は盗まれたことに気づいていないようだった。これはいい。いい鴨を見つけた。口角が自然に上がっていくのを感じた。

「がんばってお金を貯めているのだけれど、なかなか貯まらないのよね」
そりゃあそうだ、俺が毎日少しずつ盗んでいるのだから。自分の手先の器用さを人形に自慢する女が心底面白い。新しい仕事を始めるにしても、俺が盗む額を増やせば収入が増えるわけもないのだ。お勤めご苦労さん、バカ女。
女が帰ってくる前に女の家に入る。そうだ、今日はいつもの倍持って行こう。俺の収入が増える前祝いである。ガチャリとドアの開く音がした。帰ってきたのか、あの女。だがいざとなったら殺すからいいのだ。よう、邪魔してるぜ。振り返ると、女はいなかった。代わりに立っていたのは、あの人形。カメラをセットして、手にサーベルを持って近寄ってきた。
こんなこともあろうかと、銃を持っておいて正解だった。本当はこれで女の頭をぶち抜くつもりだったのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。鉛は人形の顔を直撃した。苦しんでいる間に金を引っ掴んで逃げた。結局全部盗むことになったが、困るのは女だけ。俺はいつも以上に得をしたのだ。
けれど、俺の逃走劇も長くは続かなかった。人形は、割れた顔で俺を追いかけ、腹を突き、腕を突き、足を突き、しまいには目を貫いた。周りには通行人もいたはずなのに、誰一人としてこちらに気づかない。俺が声を上げても、誰も助けてくれなかった。
視界は真っ暗。連れて行かれたのは女の部屋。見えなかったけれど、嗅ぎ慣れた匂いで分かった。カシャン、というシャッターの音。一瞬だけ明るくなった。