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意見と気持ちを投げ合わせれば彼女との距離間はこの短時間の内に驚く程縮まった。私はこれを意気投合と呼ぶ事にした。さて、彼女は実に爽快な女であるサバサバしているわけでもない。丁度ハタハタ位の滑り気を持ち合わせている。

「だから、あなた。浅野君。失われた世代に起きた現象を単にパスカルの定理で説明しようとしているでしょ?とってもナンセンスなことよ?AIの台頭が始まった時代までは侘び寂びがあったの。モーゼの大洪水による情報の氾濫が起こしたゲシュタルト崩壊で、言語というのは理路を失った⋯らしい。わかるよね。野口くん」

「睡眠がまだ形式を失わない時代。我らは拘束された枠組みので未だ何も気付けずにいた。認識による創生の時代は失われたのだよ⋯永遠に!」洋介は立ち上がり、ジョッキを高らかに掲げた。

「さらば、我が友!さらば我が母なる世界!」

浅野は哭いた。

「ところで、何故君は私を野口と呼ぶのかね?」

洋介はまだ口に出していない苗字が彼女の口から発せられたのが不思議でならなかった。この時代に苗字を晒す事は殆ど無いからだった。

「何故って、苗字しか知らないから⋯かも?ん?もしかして野口くん私のこと偶然酒場に居合わせて急に絡んできた「西成」だと思ってない?それって結構傷つく⋯かも」

「浅野!君の推察はどうだ?」

「疎くて困るッスね。洋介さんは。何事にもセオリーってのがあるんすよ。それも初歩の初歩。つまり、女側から話しかけて来たら、まず過去の知り合いッスよ。洋介さんの場合、起床時間の8割をこのくだらない世界(そして愛すべき世界)の究明に努めた学舎か、くだらない(そして本当パンツにへばりついた糞の欠片みたいな)仕事場の2択の知り合いでしかない⋯でしょ?」


「浅野⋯⋯っ!お前⋯!お前は⋯⋯いつも正しい!」

2人は椅子の上に立ち、アリーナの上でソロパートを奏でるフルートとサックス宜しく背を反ってお互いを讃えた。

「小僧ども!!!」

大将は楽器は包丁である。

「ま、まあ、かつて同郷だった学友で間違いないでしょうが。プログレ感がハイレグな感じで、あの時代に脳を侵された人間特有の胡散臭さが2人はビンビンす」

浅野は膝を揃えて肩を落とし、彼女の顔を改めて見た。

「氷川さんでありますか?」浅野はOZOZと尋ねた。それは当時の浅野が唯一知っているこの世界に現存する唯一の女性であった。

「あたり。でも、浅野君のセオリーは古いわね。セオリーって云うのは、とっても移ろいやすいのよ。第3の選択肢を検討すらしないのは、希望的観測でしかない⋯かも?」
氷川は目に掛かった髪をすっと指で掬いあげ、洋介の瞳を覗く。

「ね?野口くん?」

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