ところで最近のシスイはその社交性を買われている事もあり、任務報告終わりに仲間によく飲みに誘われているようだ。
数ヶ月前に酒を飲める歳を迎えたのだから何の問題も無いのだけれど、どうやら酒に強い方では無かったらしい。(らしい、と言うのはわたしがまだ成人していないことを真面目な彼は弁えているようで、わたしのいる場所で酒を飲む事は一切しないのだ)
何故それをわたしが知っているのかと言えば、本人の口から聞かずともわたしの耳に否応無しに入ってくるからである。

「お、名前。久しぶりだな!これから任務か?」
「オビトさん!お久しぶりです。今任務の報告に行ってきたところなんです」
「そうか。お疲れさん」

任務完了の報告を終え、帰路を辿っているところに声を掛けてきたのはシスイを通じて知り合ったオビトさんだ。シスイと同じうちは一族の忍で、例に漏れず彼もやはり優秀だと評判だ。初めて会った時は、一介の中忍であるわたしが対面するには立場が違いすぎるのでは無いかと思ったが、実際には後輩にもフレンドリーで話しやすく、そして同じ上忍のリン先輩に拗らせている人という印象だ。

「シスイとは上手くやってるか…って、これは野暮だったな!」

出た。オビトさんはわざとらしく大声でそう言うといかにも嫌らしい笑みを浮かべている。

「…一応聞いておきますけど、どういう事ですか」
「おーおー。昨日アイツと飲みに行ったんだけどよ、出来上がってくると名前名前ってそればっかりだ。あ〜お前にも見せてやりたかったな」
「やっぱり…。そうなる前に止めてくださいってお願いしたじゃないですか。わたしこの前カカシさんにもオビトさんと同じようなこと言われてるんですからね!」
「マジか…。アイツ本当に酒癖悪いな。でもま、暴れたりゲロ吐いたりするよりはマシだろ」
「それは自業自得ですもん。わたしのプライバシーが侵害されてるんですっ!」
「そりゃそうだな。いや〜それにしてもお前でも砂糖と塩を間違えてゲテモノ作ったり 風呂場で男の裸見て鼻血出したりするんだな」
「ちょ、声大きい!やめてくださいってば!」

腹いせに丁度良い位置にあるオビトさんの腹を両の手でポコスカとパンチしてやると、これっぽっちも痛くもない癖にオビトさんは大げさに痛がる素振りを見せる。悪いのはわたしでもオビトさんでもない。うちはシスイその男だ。このパンチは奴への八つ当たりなのである。


「ただいま」
「…おかえり」
「……どうした、何かあったか?」

夜、日付が変わる少し前にシスイは帰ってきた。長期任務や夜間任務も率先して受ける彼としてはわりと規則正しい帰宅時間である。
いかにも「怒っています」という空気を醸し出しソファでむくれるわたしにシスイは膝をついて目線を合わせた上で声をかけてくれる。その優しさがわたしは好きであり、しかし今は敵でもある。

「今日オビトさんに会ったよ」
「オビトさん?あの人がどうかしたか?」
「昨晩は随分とお楽しみだったようですね?」
「おいおい、変な言い方すんなって。…で、オビトさん達と飲みに行ったのが何だってんだ。別にやましいことは何もないだろ?」
「そうじゃない、酔っ払ってわたしの話ばっかりしてたって言ってた。それもわたしの失敗談ばっかり!恥ずかしいのはわたしなんだから!」
「あー…」

もうこれで3回目だ。仏の顔もわたしの顔も三度までである。もう許されると思わないでよね!と捲したてるように言えば酔って記憶が無くとも思い当たる節はあるようでシスイの眉がだんだんとハの字になっていく。
怒るわたしに流石に焦ったのか、あーとかんーとか言葉を濁している彼は最終的に子犬のようにしょんぼりと項垂れて悪い、と呟いた。その姿が不覚にもなんだか可愛くて、わたしの中で渦巻いていた今日こそ制裁してやる!という毒気は静かに消えていった。

「今度から気を付けて。仮にも木の葉の優秀な上忍なんだから」
「おう。それに、みんなから名前は真面目だが経験豊富な女だと思われてるからな。そんなお前がホントはうぶで超鈍感なのはオレだけが知ってりゃ十分だ」
「え、経験豊富?何それ!?わたしそんな風に思われてるのね……うう…」
「そこ落ち込むところか?元気出せって」

いつの間にかわたしの隣に座っていたシスイが慰めるようにわたしの背中をポンポンと叩く。待って、怒ってたのはわたしなんだけど?やるせないこの気持ちは今度オビトさんに会った時にパンチを数倍にしてぶつけてやろうと静かに心に誓った。