世の中は便利だ。
あの女ケーサツに飲ませた薬は、強い媚薬作用だけでなく精神安定剤も含まれていた。深い心的外傷を残さないように相手を犯すときに使われるブラックカプセルである。高性能すぎると言われても事実そういう物が発達している世界なのだ。
彼は薬売りだ。人より薬の事は詳しいし、種類も多く知っている。
「………」
『なあ、あんた名前なんて言うんだ』
媚薬入ってて頭ぐちゃぐちゃになってたはずなのに、それだけは答えてくれなかったな、とぼんやり思考する。
男は単純だ。密売人を始めて数年、ケイサツなんて皆おんなじ顔に見えていた。だが、彼女はむしろケイサツに見えなかった。出会い頭問答無用に撃って来ない間抜けなケイサツだったからだ。
だから興味を持った。
レイプしたのは彼女にそういう強い魅力を感じたからという訳で無く、言うならなんとなくそういう気分だったからというだけ。
だが、このレイプで「この女に俺を嫌でも覚えさせる」という気持ちが無かったと言えば嘘になる。
「…こんなクソみたいな人生、構ってくれる女が一人くらい居ても良いじゃんなぁ?」
いつケイサツに殺されるかも分からないのに、密売人の男は外を無防備に闊歩して楽しそうに笑う。
「あの薬売りは私が捕まえます」
翌朝、いつもの、いやいつもより真面目な顔をして彼女は仮眠室から出て来た。今日彼女は休んでも良いと言われていたが、上着と帽子を着用し、完全にオンの格好だ。
今日は同僚が居た。自分より歳が一つ上で口数は多くない方だが、真面目で根は優しい蒼髪の男性。「はぁ?」と眉をしかめる上司の隣で、昨日の事件のいきさつを聞いていたであろう同僚が驚いた顔で立ち上がった。
「っ…だが、お前、酷い目に遭ったんだろう!無理をしなくても、俺達が…」
上司と違って心底心配してくれていたらしい、一夜明けただけですっかり元気になった彼女を信じられないものを見るような目で見ている。
対して彼女は、その彼を安心させられるような笑みを見せ、もう一度口に出した。
「大丈夫」
驚くほど穏やかな笑みで伝えた。その後、自分の発言を容認していない上司を改めて見て、再び口を開いた。
「あの男は”私が捕まえます”!!!」
あまりにも甘っちょろくて愚かで頑なで、彼女は何かの病気にかかったのかもしれないと思うほどで。男2人は呆気に取られることしかできなかった。
怒ったような顔で訴えていた彼女は、自分の力強い宣言に満足したのか、間も無くやりがいを感じているような清々しい笑みまで浮かべた。
常人には――彼女以外には、理解出来ない。
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to be continued.
(執筆:015/04/02 修正:015/05/25)