「よぉ。自称陽キャラ」

校内の自販機にて飲み物を買っていた時、背後からこちらのことを馬鹿にしたような声音が聞こえ、なまえは眉を寄せて口をへの字にする。未だに初対面の時にした自己紹介での文言を覚えていて、会う度にからかってくる五条悟という先輩がなまえは苦手だった。

「陽キャなのは私の呪力であって、私じゃないって何度も言ってるじゃないですか!」

自己紹介をした際に、『えっと、普通呪力って負の力を持ってるじゃないですか。でも私の場合元々の呪力がその…陽キャみたいで、陰キャな呪霊には天敵みたいなんです』そう言ってしまい、その場で「馬鹿な子」「天然」などと先輩方から腹を抱えながら言われたことは記憶に新しい。「つまり、元々君が持ってる呪力は正のエネルギーしかなくて、呪霊にとっては毒になるっていうこと?」と、夏油が綺麗になまえの説明したかった事をまとめてくれたかいもあって、余りにもお粗末ななまえの説明は先輩方の記憶にハッキリと刻まれてしまったらしい。その時はただ緊張してしまっていて言葉が出てこなかっただけなのに。思い出しただけでも凄く恥ずかしいし、やっぱり少しムカついてしまう。

「陽キャラとも何とも言えないお前がああいう事言うのが悪い」
「今日は夏油先輩一緒じゃないんですか?仲裁してくれる人がいない時は五条先輩と話したくないです」
「残念だったな。傑なら教室にいるぞ」

五条が自販機の受取口からコーラを取り出す。なまえは五条の手の内にあるコーラを一心に見つめて「蓋を開けた瞬間先輩の顔に炭酸が吹き出しますように」と、まるで流れ星に願い事を三回祈るかの勢いで呪いを込める。すると、それに気付いた五条は「ブサイクな顔になってんぞ」と言ってなまえに軽くデコピンをお見舞し、一瞬で彼女の邪念を振り払った。

「欲しくてもあげねぇからな」
「そういうんじゃないんです。ちょっと呪いの実験してただけなので」
「そもそも陽キャな呪力じゃ呪えねぇだろ」

ばーか。と言いたげな表情で指をさされながら笑われた為、「人に指さしちゃいけないんですよ!」と言いながら五条の指を全力でへし折りにかかったのだが、五条の指となまえの手の間には無限があり、触れることすら出来なかった。けれど、相当量の呪力を込めれば触れることが出来ると知っていたなまえは手に呪力を集中させ、無限を破ることを試みる。

「五条先輩、私反転術式使えるので一回その綺麗な指へし折らせてくれないですか?」
「俺に触れるなんて100年早いんだよ、ばーか」
「人に馬鹿って言っちゃいけないって教わらなかったんですか!?ばーか!!」
「てめぇも言ってんじゃねえかバーカ!」

ばーか!そっちがばーか!!という何とも子供じみた言い合いをしていれば、いつしか二人は取っ組み合いに発展しており、騒ぎを聞きつけ仲裁の為に駆けつけた夏油は「私以外で悟と本気でやり合う子がいると思わなかったな」と至極おかしそうに笑っており、何故だか気に入られたようだった。それ自体は満更でもないが、夏油先輩もっと早く来てくれても良かったんですよ?と声を掛けた際にニッコリと笑われてしまった為、あぁこの人は信用してはいけないタイプの人だ。と脳内が警鐘を鳴らす。私の事を面白いやつ程度にしか認識していないであろう先輩への期待は捨てて五条と向き直れば、彼は乱れた髪を直しながら口を開いた。

「第二ラウンド始めようとしてるとこ悪いんだけど、お前の呪力人に向けるとやっぱ反転術式でしかないのな」

ナンダッテ…?

「肩凝りとか筋肉痛とか、その他諸々治ったわ。お前のそれ便利だな」

身体めっちゃ軽い。温泉入った後みたいだ。と言って身体を動かす五条。
全力で痛い目を合わせてやろうと脆弱な自分ながら最強の男に挑んでいたのにもかかわらず、それが逆効果だったとは。なまえは内心「そんなことある!?」と言って地べたに寝転がり駄々を捏ねてやりたいところだったが、実際は「どういたしまして…!?」と悔しさをたっぷり滲ませた声音を絞り出し拳を固く握っていた。

呪霊に呪力をぶつければ途端に灰となるのに、人間にぶつければただの反転術式なんて思わないじゃん…!最強の男にどれだけ自分の攻撃が通じるのか、実力試しも兼ねていた為に先程までの努力や気力が泡となって消えてしまったことにほとほと悲しくなる。

「重めの任務入った時また頼むわ」

あ、初めてキラキラした五条先輩の笑顔見た。眩しい、眩しすぎる、これは目に毒だ。そう思ったなまえは、両目を手で覆い現実逃避に明け暮れたのだった。









END


簡易設定
反転術式が使える。
呪力自体が呪霊にとって毒となる正のエネルギーを持った呪力を体に宿してる子。


1

戻る
Vodka
ALICE+