私の同級生は伊地知くんだ。
いじちくん。と言うと何回かに一回の高確率で噛んでしまうし、短い単語にも関わらず、これは早口言葉では?と誤認してしまうくらい滑舌があまりよろしくないなまえは、伊地知のことを潔高くんと呼んでいた。伊地知は必死に自分の苗字を噛まないように言おうとしているなまえを面白く思っていたが、任務中の緊迫した状況の最中、これは宜しくないと思い直した伊地知は下の名前で呼ぶ事をオススメしたのだ。伊地知は二つ年上の先輩達のようになまえの事を面白がってはいけないと心に決め、今ではなまえの抜けた所を「面白いな」ではなく「可愛いな」と思うように心掛けていた。それでも時折彼女の行動や言動に耐えきれず笑ってしまうことがあるが、先輩達と比べればその頻度は歴然の差があるため許して欲しい。

「いやー、いぢちくんといると落ち着いていいわー」
「なまえさん、もう無理して苗字で呼ばなくてもいいんだよ」

自分の苗字の事を滑舌練習か何かだと思ってないだろうかと思った事もあったが、負けず嫌いななまえの事だ。できない事があるのが嫌なのだろう。そう悟った伊地知は、それ以上何も言うことはなかった。

「お前は滑舌練習より勉強しろよ、べーんきょーう」
「ででで出たぁあああ!!」

背後から聞こえてきた意地の悪い先輩の声に、まるで幽霊にでも遭遇したかのような悲鳴を上げ伊地知を盾に隠れるなまえ。「心の中ですら噂しちゃいけないの?あの人がいないと平和だなぁくらいしか思ってなかったのに!」と伊地知にひそひそ話をしてくるなまえが面白くて、伊地知は笑いを堪えながら相槌を打ってやる。

「オイ、お前にとって俺は幽霊か何かなのか?」
「いや呪術師が幽霊なんて怖がるわけないじゃないですか。五条先輩は、あれです。地震、雷、火事の次のやつ」
「ブッ」
「よーし喧嘩なら買ってやるからかかって来い!!」

喧嘩なんて売ってないですー!!先輩に喧嘩売るバカなんていませんよアハハ。と営業スマイルを貼り付けて語るなまえは、武闘派という訳では無いのにも関わらず、よくここまで最強の男を相手に口喧嘩をすることができるなと、伊地知は笑い声をあげそうになるのを必死に堪えながら思う。それというのも、ある意味不死身とも言える万能な反転術式を持っているが故だと思うが、もし自分が彼女の術式を持っていたとしても怖い先輩に喧嘩を吹っ掛けること出来るはずがない。彼女の据わりすぎている肝は一体どのようにして育て上げられたのだろう。
今日も今日とて最強の男とああだこうだと言い合いを重ねる同級生を尻目に、平和だなー。と、綺麗な青空を眺め隣の喧騒から現実逃避をしていたのであった。







END



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