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夏油くんの運命が重すぎる!私にはどうにも出来ない!(大の字)と思考を放棄した翌日。咲希は一晩寝て冷静さを取り戻し、学長に暫く夏油と一緒に任務に行かせて欲しいと頼んだ。そして、任務に行く人選を決める際に、念の為自分が未来を視て本当に上が決めた人選でいいのかの最終決定を下す権限を貰った。未来予知能力を持つ咲希が未来を視た上で呪術師を送り出せば、数少ない貴重な呪術師の命を守る事が出来る。そう考えた上での提案は快く受け入れられた。これで上の人達が咲希に対して強く言う事は減るだろうし、自分のワガママが通るようになる。よしっ。と内心ガッツポーズをする。
すると、じゃあさっそく任務行ってきてね。と学長直々に言われ、傍に控えていた補助監督に任務の資料を渡された。内容は、東京の外れにある山中の神社で頻発する神隠し。推定階級は3級から2級程度。うん、よく聞く内容だ。内容を把握した咲希は、補助監督に出発準備をお願いし、夏油がいるであろう教室を目指した。


「夏油くーん、学長に任務頼まれたから一緒に行こ」
「?わかった。いつ出発だ?」
「準備が出来次第だってさ。場所は東京の外れだから手荷物はいらないよ」
「それならすぐ向かおう」
「頑張ってこ〜!じゃあ2人とも、行ってくるねー」


行ってらっしゃーい。
いってらー。

五条から特に怪しまれることなく見送られ安心する咲希。ただ、これから暫くは夏油との任務が続くし、この先きっと何か言われることがあるだろう。その時は適当に誤魔化そう。そう考えながら補助監督が運転する車に乗り込み、夏油に資料を渡した。

「夏油くんの術式は呪霊操術だっけ?私の術式と似てるよね」
「源は悪鬼修祓術…だったかな?」
「そう!よく知ってるね?あんまり相伝することないから知られてないかと思ってたよ」

たまに未来予知能力が私の術式だって思ってる人いるしね。と言えば、夏油は笑いながら「悟に教えて貰ったんだよ」と答えた。五条と私の事話してたんだ。何話したんだろ。少し気になりながらも、きっと術式や未来予知能力のことくらいしか話していないのだろうと判断し聞くのをやめた。

「夏油くんも私も祓った呪霊取り込むし、この先きっと欲しい呪霊被る時あるよね」
「そうなるだろうね」
「その時はさ、恨みっこなしでじゃんけんでどう?」
「源って未来予知能力持ちだったよね」
「あははっ、じょーだん冗談。私は3級あたりの呪霊を貰うからそれ以外のは夏油くんに譲るよ」
「もう特級呪霊は使役してるとは聞いていたけど、本当だったんだな」
「そう。っていっても調伏したのは先祖様だけどね。先祖様様よ」
「けど、源の家系でも使役できる人はなかなかいないんだろう?」
「うーん、今の所は私だけかな。他の人達は相伝術式がないからさ」

源頼光公から続く術式は主に、祓った呪霊を調伏し、自らの式神にすることが出来た。勿論咲希は自分で祓った呪霊を保持しているが、特級レベルの呪霊は珍しい為、強い呪霊のストックは祖先が調伏し後に残した物達を使役している。敢えて名前を出すとするのなら、1番有名な酒呑童子を筆頭に、土蜘蛛、茨木童子、牛鬼などである。ちなみにこれらの呪霊達を使役し呼び出すには、相伝術式があることは勿論のこと、呪霊達以上の実力がなければならない。それだけの実力を、咲希は持っていた。

つまり、それだけの実力を持った咲希と夏油がコンビを組めば、2級程度の呪霊相手など赤子の手をひねるのと同然。いや、それ以上に簡単と言っても過言ではなく、任務は目的地に到着して程なく完遂した。ちなみに、呪霊を操って戦う2人は他の術師達とは違い、苦戦しなければその場を動くことなく呪霊を祓える。その為、2人は任務開始時に「その場から動いた方が負け」という縛りを付けて任務を行ったのだが、結果は引き分けだった。

呪霊を祓い終えた後、咲希は3級呪霊達を調伏して回った。夏油の場合は呪霊を「取り込む」という表現が合うのだろうが、咲希の場合は「調伏する」という表現の方が相応しい。これが、2人の大きな違いだった。
咲希が呪霊の身体に触れると、呪霊の身体に五芒星が浮かび上がり、やがてその体は光に包まれ消えていった。これが、咲希の調伏の仕方である。

「…それが、夏油のくんの取り込み方?」

元は呪霊だったであろう黒く淀んだ球体。それを口に運んでいく夏油を見て、咲希は自分の家系にも同じ取り込み方をしていた人がいたことを思い出す。そういえばあの人、めっちゃ不味いって言ってたっけ。それを思い出した咲希は、夏油が球体を口の中に放り込む前にその手を掴んで止めた。
そんな咲希を、夏油は不思議そうに見下ろす。

「それ、めっちゃ不味いんでしょ?うちの分家の人も同じ取り込み方してる人いたから知ってる」
「…!へぇ、珍しいね」
「良かったら私の呪霊使って味覚なくしてあげようか?」
「そんなこと出来るのか?」

出来るよ。とさも当然の如く言えば、珍しくポカンと口を開けて驚いた様子を見せる夏油くん。あ、こんな顔もするんだ。また見つけた彼の新たな一面に、咲希は少しだけ嬉しくなる。
お互いにコンマ数秒見つめ合った後、五条と一緒にいる時とはまた違った柔らかい微笑を浮かべた夏油は、「じゃあ、お願いしてもいいかな」と言って咲希の提案を聞き入れた。これをきっかけに、2人の距離は縮まったと言っても過言ではないだろう。呪霊を取り込む際のあまりの不快感に嫌気がさしていたところ、思いもよらぬ救いの手が差し伸べられればその手を取らないわけがない。これで一つ、夏油が呪術師になる未来に繋がる可能性が閉じられたのだった。それを当の本人、咲希は知る由もない。







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