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「お前さぁ、最近やたら傑との任務多くねぇか?」

それは、咲希が夏油と任務に回るようになってから1ヶ月半が経過した頃のこと。

お前らぜってぇ何かあんだろ。そう言って疑うようにずっと後をついてくる五条の言葉を否定をする。
「任務の人選について私に権限があるわけないでしょ」
白々しくそう口にすれば、五条は「まぁそうだよな」といった表情を浮かべつつも口をへの字に曲げていた。
五条のことだ。きっと、今まで親友と一緒に任務に行っていたのに、突然親友が他のクラスメイトと任務を組むことが多くなったから嫉妬をしているのだろう。

「もしかしてお前、傑のこと好きとかじゃねぇよな?」
「たかが任務一緒なだけでどーしてそういう考えになんのよ?」

言っとくけど、アンタの考えてること中学生レベルだからね?と言いながら、自分の後ろをついて歩いてくる五条を振り返り、腕を組んで見上げてやる。

「心配しなくてもアンタの親友を取るつもりなんてないから、任務の時以外一緒にいたらいいじゃない」
「俺が言いたいのはそういう事じゃねぇよ」
「じゃあ、どういう事?」

何かを言いたそうで、けれど口にしようとしない五条はいつもと様子が違うように思える。きっとここにいたのが夏油なら彼の言わんとすることを汲み取れたのだろうが、まだ互いの事を深く理解していない咲希では五条が何を言いたいのかはさっぱりわからなかった。

「…傑を取られるとか取られないとか、んなことで俺がお前を引き止めるわけないだろ!」

何でわかんないんだよ!と言ったように逆上した五条は、自らの頭を搔いた。こっちだって、「じゃあなんでキレてんだよ!?」と逆上してやりたいけれど、五条よりも精神的に落ち着いている咲希は眉を顰めつつも彼が言いたいことを口にするまで大人しく待つことにした。それがいけなかった。

「お前さ、入学してすぐ俺との婚約破棄しただろ!?」


!?!?!

源咲希。夏油のことに頭がいっぱいすぎて五条との縁談ことをすっかり忘れていた。一生の不覚!!!!
やっば、どうしよう今までこれ関連の話徹底的に避けてんだけどな?!

怒っているのか、傷ついているとも見える五条の表情に申し訳なく思う気持ち半分、私の理想が高すぎるんだごめんな?という気持ち半分で五条を見た。

「婚約破棄っていうか、許嫁を辞退しただけというか…?」
「俺がお前選んでたんだから破棄も同然だろ!?」

ンンン!?そんなの初耳なんですけどーー!!!
なんてことは言えるはずもなく、咲希は口をパクパクとさせた。あれれ、私って未来予知能力持ちじゃなかったっけ?こんなポンコツすぎる未来予知能力者見たことある?ははは、私も今初めて見たよ。マジでこの状況どうしようね?

「わ、わかった!考え直すから、そんな怒んないでよ!?」
「俺は別に怒ってねぇ!!」
「めっちゃ怒ってんじゃん!!」

怒ってる!怒ってない!んな子供じゃねぇ!
といった言い合いをギャンギャン繰り広げていれば、自然と周りは何事だと気にして集まってくる。そして今回そこに現れたのは、咲希が今最も来て欲しいと思っていた人物だった。

「ちょっとアンタら、人の部屋の前で何騒いでんの…?」
「っ!!!硝子様ぁ〜〜〜!!!」

冷静で落ち着いている親友の登場に歓喜のあまり抱きつけば、少し呆れたように一瞥されたけど気にしない。硝子は咲希がどうしてここ最近夏油と一緒に任務に行くことが多いのかを知っている数少ない人物だ。五条の怒りの矛先が咲希に向いている以上、咲希が話しても五条は冷静に話を聞いてくれないだろう。そう考えた咲希は、二人の会話を大体聞いていたであろう硝子に事の経緯の説明を頼んだのだった。





「傑が大量虐殺して呪詛師になる…?お前それ、本当なんだろうな?」
「本当だよ。ただ、それがいつ起こるのか、何がきっかけでそうなるかはわかんない」
「で、咲希はそれを知るために夏油と任務に行ってるってわけ」

ふーん…。そう言って顎に手をあてて考え込む五条。きっと夏油が呪詛師にならない為の解決策を考えてくれてるのだろう。

「それさ、アイツが道踏み外さないように俺らが仲良くやってればいいんじゃねぇの?」
「そんな簡単な話じゃないでしょ。今まで友達がいなかった訳でもあるまいし」
「そうだよ。だって夏油くん、血の海の中立ってたんだよ?何かあるとしたら、呪術師に嫌気が差したとか、そういう理由じゃない?」
「呪術師に嫌気がさすってもな…。そんな素振り見せたことねぇぞアイツ」

うーん。と皆で頭を悩ませる。
やはり、親友である五条から見ても夏油の様子に変わった所が見受けられないということは、まだその時ではないのだろう。一先ず、皆で夏油の様子を窺いつつ、夏油が呪術師を嫌になるようなきっかけがないかを探すことにした。
こうして、呪術高専1年生達による夏油呪詛落ち回避作戦が始まったのだった。





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