恋なんて、一生知らなくていいと思ってる。愛なんて、私には与えられないものだってのも分かってる。だから、この気持ちに名前を付けるなら…。

「…それが恋じゃねぇのかよ」

チュプッ、水音が部屋中に響いた。耳をすませば聴こえる寝息に背筋がゾクゾクした。

「変なこと言わないで。噛むわよ」
「おー怖い怖い。強くしてくれんのか?」
「噛むの。噛みちぎった方がいいかしら?」
「…っ、強く握るなって。キモチイイだけだぞ」
「食えない男」

また、水音が部屋中に響く。壁を隔てた向こう側では寝息を立てたみんなが寝ているっていうのに…みんなに内緒でこんなことをしている背徳感でどうにかなりそうだ。

「オメーやっぱり上手いな。流石、娼婦ってとこか?」
「貴方は慣れすぎよ。場数どれだけ踏んでいるの?」
「それは言えねぇな」
「あ、そ。興味無いけど」
「っ、そこ、イイな」
「んっ、頭持たないで。髪が乱れちゃう」
「もっとやれよ」
「んうっ」

喉の奥に当たって嗚咽をしたら、ニヤリと笑った。そんなひどい行為にも関わらず疼きが止まらないから私はマゾかもしれない。最初はただ、からかっただけ。海賊なんて皆同じ。お金とご飯と女さえいればなんとでもなる。海賊専門の売女をして私はお金を稼いだ。どんな男だって、私のテクニックの前ではただの獣。女を貪る男。コイツもそう、だと思ってた。

「我慢競べしようぜ」

コイツは私にそう言った。俺がお前を求めたら俺の負けだ。だが、お前が俺を求めたら…この商売辞めろ、そう言われた。見透かされたと思った。元々好きでこんなこと始めたわけじゃなかったから。貧しい家はこうでもしないと生きていけない。でも、辞めて私はどうなるの?

「…迷いがあるなら辞めちまえ」

私の頬に触れながらゾロはそう言った。ロロノア・ゾロ、賞金首らしいけれど正直そんなことどうでもいいの。からかった、そしたらケンカを売られた。ただ、それだけ。そんな関係なの。

「やだよ」
「あ?」
「生きたいもの」
「…生きる希望があるならもっと他の事をやれよ」
「そうね、私バカみたいね」

だから、この気持ちに名前を付けるなら、それは意地だ。私の意地、負けるわけにはいかないの。そう言えばゾロはまた、ニヤリと笑った。そして私の腕を掴んだ。

「お前の意地、砕いてやるよ」

押し倒されて背中が痛い。大きな体のゾロは私を簡単に包み込んだ。もう何日目だと思ってる。お前と俺の勝負は、ゾロ達は海賊だ。いつまでもこの島には居られないことは知っていた。もうすぐいなくなることも分かってる。きっと心の何処かで思っていたの。誰かが、私の意地を砕いてくれることを。だからあの日…。

「ねえ、暇?」

声をかけたの。この人なら私を救ってくれるんじゃないかって。その読みは当たり。バカみたいに私の誘いに毎日乗ってくれて、バカみたいに一緒に過してくれて…。

「本当、バカみたい」
「お前がな」
「そうね、本当にバカよ。大バカ」

貴方のこと、いつの間にか心の中で大きくなっていった。毎日毎日会えるの楽しみになってた。でも、認めたくなかったの。もう、恋はしないと決めたから。

「…お前の負けだ」
「そうね。私の負けよ」

サヨナラね、触れた唇は少ししょっぱくて、海の男って感じがした。もうお遊びは終わり、会うことも無いでしょう。にっこり、最後ぐらい笑わせて…そう思って笑顔を作れば、名前、聞かせろよ、そう言われた。

「なまえ…」
「そうか、いい名だ」
「今更何?貴方とはもう終わりよ」
「いや、まだだ。勝負は引き分けだしな」
「え?私の負けだって…」
「俺も負けてる。毎日お前のこと、考えてたからな」

そう言って抱きしめられる。また、必ず会いに来る。だから、娼婦なんか辞めろ、少し汗の匂いがする大きな体、いつもなら悲しい気持ちになったのに、何故か幸せな気分になった。これが愛されると言うことなのかな…。

「明日出航する。だがまた会いに来る。その時までに強くなって、俺がお前に教えてやるよ。幸せって奴をな」
「…何ゆってるの、私に幸せなんか」
「いらねーってか?じゃあ海賊らしくいくわ」

お前のこと奪うそう言って、ゾロは私から離れた。これはロロノア・ゾロと私の意地の勝負だ。


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