「兄ちゃん!」
愛おしい声に呼ばれて振り向けば、駆け寄って来るのはやっぱり団蔵で、俺は嬉しくなって姿勢を低くして手を広げ、団蔵を受け入れる体勢をとっているとかわいいかわいい団蔵が胸の中に飛び込んできた
((ああ、至福の時…))
なんて廊下で悦んでる場合じゃなかった。用事あったんだっけ?てか用事より団蔵が大切ですよね!なんて思って強く抱きしめれば、道行く人をちょっと気にした団蔵が離れた。お兄ちゃんショックだよ
「団蔵どうしたんだ?」
気を取り直して話を聞けば、照れたように笑いながら、用事は無いけど、兄ちゃん見つけたから…なんて言うからたまらないよね!
「か…」
「か?」
「かんわいい!団蔵っ!」
「わっ!兄ちゃんっ…恥ずかしいよー」
「なんだなんだ?恥ずかしがる歳になったか?」
「でも、嬉しいっ!」
くっ、なんたるかわいさ!お兄ちゃんなんか爆発しちゃいそうだよ!てかしちまうよ!
「ところで兄ちゃんは何してるの?」
「あー保健室に呼ばれててな…」
たぶん、善法寺先輩お話したいんだってと言いながら団蔵と手を繋いで保健室を訪れれば“いらっしゃい”なんてなんとも胡散臭…いやいや、天使の笑みを浮かべる善法寺先輩が部屋にいた
「おや、団蔵も一緒かい?」
「そこで会ったんでつれて来ちゃいました」
「…僕は2人っきりがよかったなぁ」
「はい?」
「何でもないよ!それよりお茶をどうぞ」
「ありがとうございます!」
差し出されたお茶を団蔵は嬉しそうに見てるけどちょっと待てよ。これ飲んで大丈夫なのか…?なんか薬入ってるんじゃ…なんて思ってちらっと善法寺先輩を見れば、団蔵はもう飲んでるよ?疑り深いね名前って言われた。あぁ、後の祭り
「団蔵、疑いなさい」
「え?」
「名前は失礼だね。何も入ってないよ」
「うー」
「唸らないの。先輩が作ったお茶飲まない気?」
「…う、飲みます」
そう言って意を決してお茶を飲めば少し熱かった。後味に独特の苦味があっておいしい。善法寺先輩お茶作るの上手いなぁ…なんて思ったら、ガタンと言う音がして隣の団蔵が倒れた
「え!?団蔵!?ちょっとしっか…!っあ…」
「くす、効いてきたかな?」
「…何入れたんすか先輩」
「害は無いよ。団蔵も一緒だからね…ゆっくりおやすみ」
「せん、ぱ…」
善法寺先輩に目を覆われ、意識がどんどん遠退いていく。最後に見たのは笑顔の善法寺先輩だった
「んぅ…」
目を開ければ体がすごく重い。いつの間にか布団で寝ているところからして、善法寺先輩が寝かしてくれたんだろう
((あの人何がしたいの))
なんて思いながら団蔵を探して起こそうとした瞬間、なんだか違和感。手が小さいぞ。俺は元々小さい方だけどなんか小さいぞ。まさかと思って隣に寝ているらしい団蔵を見れば何故か俺がいる。ちょっと待て、一旦整理しようか。俺は加藤名前だ。間違いない。でも隣にいるのは間違いなく俺、だ
((まさか…))
「…だんぞー?」
「んぅー?」
恐る恐る声をかければ目の前にいる俺があたかも団蔵のように反応した。どういうことだ訳が分からない。団蔵は体を起こして欠伸をしている。まだ事の重大さに気がついてない。おはよう、と声をもう一度かけてみた。団蔵も返事をして視線が合った瞬間、時間が止まった
「え、僕?」
「名前兄ちゃんだ」
「え!?兄ちゃんどこ!?」
「だーかーらーここ。ここにいるよ」
手を伸ばして笑顔を作れば怪訝な顔つきの団蔵が見えた。よもや団蔵に嫌がられる日がこんなに早く来ようとは…兄ちゃん寂しい
「お前そんな顔すんなよ…兄ちゃん泣いちゃう」
「僕が泣いてる」
「団蔵意外と冷静だな。兄ちゃんパニック起こしてるのに」
「中身入れ替わっちゃったの?」
「おう、そうみたいだな」
「僕昔乱太郎の薬で虎若と中身入れ替わったことあるから…」
結構平気かも。慣れたかな、なんていう団蔵が不憫でならない。乱太郎くんも何してんのさ…とか考えていれば、気がついた?なんておめおめと部屋に入ってきた善法寺先輩。ムカついたから蹴ってやろうと思ったけど、まだ体の感覚が掴めなくて安定しないから止めた。くっそ
「気分はどうかな?」
「最悪なんですけど」
早く元に戻してください!と団蔵が声を上げる。それに対して善法寺先輩はくすくす笑って団蔵ってゆーか俺の体に抱きついた
「な!?」
「中身が団蔵なのはあれだけど大人しい名前に抱きつけるなんて幸せだな」
「やめてください善法寺先輩…」
「団蔵に抱きつくなー!」
剥がそうとしても団蔵の力じゃ無理だ。殴ってやる。団蔵の力なら全力で殴ったって平気だろうと思って拳を構えた瞬間、聞き覚えのある声がした
「名前ー授業始まるぞーって善法寺先輩何してるんですか!?」
「あー私の名前に抱きつかないでくださいっ!」
「あわわ…」
((三郎に私のって言われるとムカつくけど離れた!))
ガッツポーズをしたのもつかの間、今度は三郎が抱きついてる。ああ、鳥肌たった
「名前、今日は大人しいな。ついに私の愛が通じた…!」
「んなわけねーだろ!」
「ぶはっ!」
「兄ちゃん!」
思いっきり三郎の顔にドロップキックをかませばびっくりた兵助が団蔵の体基俺を抱き上げる
「団蔵、いくら兄を守りたいからってドロップキックはまずいのだ」
「団蔵もやっぱりお兄ちゃん大好きなんだねー」
「うん!大好き!」
「…名前には聞いてないぞ」
今雷蔵の言葉に俺の体基団蔵が声を上げたけど、気が付かれなかった。その後庄左ヱ門くんが団蔵を迎えに来て団蔵は俺の体のまま、教室に行こうとしてしまい、土井先生に拳骨を食らっていた
((ごめんね、団蔵!))
そのあとはちたちに連れられた団蔵は居なくなってしまった。あの子に高校生の授業が受けれるわけ無い…
「善法寺先輩…」
「しばらくたったら戻るって」
「本当でしょうね…」
睨みをきかしても善法寺先輩はしれっとしている。ムカつくムカつく!
「団蔵巻き込んだこと…あとできっちりと落とし前つけるからな」
「ふふふ、楽しみにしてるよ」
「ちっ!」
そう言って医務室を出れば庄左ヱ門が“名前先輩に似てきた?”なんて言われた。本人ですなんて言っても伝わんないから団蔵の振りをする事にした
((問題はあっちに行った団蔵をどうするかだな…))
「団蔵置いてくよー」
「え、あ…待って!」
体が入れ替わってから数分、土井先生の授業を受けてるけど、高等部へ連れて行かれた団蔵が心配でならない
((勉強ついていけないだろうな…てか三郎にセクハラされてないだろうか))
「団蔵…」
「はぁ…」
「団蔵!!」
「ふぇ!?」
どうしようかと思っていれば急に虎若くんの顔が目の前に映って焦った
「俺かな?」
「団蔵どうしたの?さっきから呼んでるのに。当てられてるよ?」
「まじ?」
見れば胃を押さえている土井先生の顔が見えた。すみませんと謝って黒板の前に立つ。この数式懐かしいなぁなんて思って書けば、土井先生がびっくりした顔をしていた
「何か…?」
「いや、これ公式の応用だから少し難しいと思っていたんだが…よくできたなぁ」
そう言って感心され、みんなから尊敬の眼差しを向けられた瞬間思い出した。俺今団蔵だった!普通に問いちゃだめだった!怪しまれる!
((団蔵の評価があがるから良いかもしれないけど…))
てかとにかく団蔵の元に行かないとまずいよなー…いかないとなーなんて思い、席には戻らず土井先生の方を向けば、先生は“どうした?”ってこっちを向いた
「先生っ頭が痛いです!きっと知恵熱です!保健室行きます!」
そう言い残して教室を出れば 団蔵待てー!なんて声が聞こえた
((ごめん団蔵うそつけなくて俺…))
団蔵の小さい足で一生懸命走って高等部2年ろ組の教室に入れば、教室の一角に半泣きの俺基団蔵が見えた
「げっ!団蔵!」
「兄ちゃん…助けて…」
「名前どうした。お前次番だぞ?」
「はち…くっそ!だん…にーちゃーん!」
俺に気づいた先生を無視して団蔵に抱きつけば団蔵も俺に抱きついてきた。泣き出している団蔵は極限状態だったらしい
「団蔵、どうしたんだ!?」
「竹谷先輩。僕兄ちゃんのそばにいたくて…」
「そうは言ってもな…」
「だめですか…先生…」
瞬時に目薬を指して、うるうるした団蔵の瞳で先生を見つめれば、今回だけだぞ、と一緒にいることを許してくれた。よし、第一関門クリア!
「団蔵もう大丈夫だぞ」
「ありがとう兄ちゃん」
団蔵に抱っこしてもらって小声で言えば笑顔になった団蔵に抱きしめられた。俺が団蔵抱きしめる時いつもこんな感じなのかなぁって思いながら授業を受けた。答えるのは団蔵で俺がこっそり答えを教える
「それにしても名前が調子悪いときあるんだね、三郎」
「…うん」
「三郎?」
この時三郎が怪しい目で俺ら兄弟を見ていたことを俺はまだ知らない
「名前」
授業終わり、今日はさぼって1日を団蔵と過ごそうと考えていたら三郎に呼び止められた
「話があるんだ」
((団蔵、いやって言え))
「なんです…いやだ!」
「良いから来なさい」
そう言って三郎が団蔵基俺の腕をつかんだ。それによって俺が寒気に犯された。身震いをしていたら団蔵が三郎に抵抗しているのが見えた
「兄ちゃ…団蔵も一緒じゃなきゃやだ!」
「…団蔵も一緒に」
((なんだこの悪寒…))
何かが怪しいと思いながら三郎について行くと人気のない校舎裏にやってきた
「名前」
「はい?」
がしっと肩を掴まれる団蔵基俺、そのまま好きだ、とか抜かして、三郎は団蔵に近づいていく
「え、え!?」
「名前…」
「きっもいんだよてめぇ!」
「げほっ!」
渾身の力を込めて三郎の脇腹にパンチすれば三郎はよろめいて団蔵から手を離した。やっぱり団蔵だと力弱いななんて思っていれば、やはりな…なんて呟く三郎。ゆらゆら揺れて気持ち悪い
「こっちは団蔵なんだな」
「なっ!」
「それでこっちが愛しの名前か」
「きしょいんだよ馬鹿たれ」
「潮江先輩みたいに言うなよ名前」
「つかなんで分かったんだよ」
「抱きついたときの名前がいつもと違った」
「この変態」
鼻血垂らしながら言うんじゃねぇよ。なんて思っていれば、何してんのー、なんて集まってくるいつもの面子。ばれたからにはしょうがないってゆーか元々隠してもなかったけど、ことの事情を説明すればみんな信じてくれた
「だから今日名前、様子おかしかったんだ」
「お、俺は分かってたよ!」
「はち嘘つくな」
「…おほー団蔵にはちって言われた」
「僕言ってませんよ?」
「違和感があるってことだよ、団蔵」
「尾浜先輩」
「それにしても大人しい名前は新鮮だな」
「久々知先輩っ…」
「兵助すりすりすんな」
「とにかく善法寺先輩のとこ行って戻してもらおうよ!」
雷蔵の一言でみんなで保健室に移動することになった
「やぁ、またあったね。その様子だとみんなにバレたかな?」
保健室に行けばあざとい笑顔の善法寺先輩が出迎えた
「別に隠してませんから」
「そう、少しは凹んでると思ったらいつもの調子だね」
「てか早く戻してください」
「んー…名前がキスしてくれればいいよ」
「断る」
「名前にキス!?いくら善法寺先輩とは言えそれは許せません!てか私がしたい…」
「三郎は黙って」
「ナイス雷蔵。とにかく嫌です。だいたい今団蔵なんだから団蔵の唇でキスするわけでそんなこと俺以外にさせたくないっつーかふざけんなって話っつーか…」
「落ち着け名前」
兵助に肩をぽんぽん叩かれながらそう言われると“名前は戻りたくないんだ?”なんてお茶をたてながら話す善法寺先輩
「戻りたいです」
「じゃあキスして」
「嫌です」
「団蔵でもいいよ?」
「団蔵にキスなんかさせねぇ…」
「じゃあずっとこのままだよ?」
“どうする?”なんて促されて団蔵の顔基俺を見れば悲しそうな顔で“兄ちゃん…”と呟いた。団蔵にそんな顔をさせてるのは誰だ。俺だよな…
「わかりました。キスします」
「名前!」
「ただし、元に戻ってからです。今すぐは嫌、です」
「…わかったよ」
そう言って、善法寺先輩は薬を出してきてたてていたお茶に溶かして俺と団蔵に渡した。2人で目を見合わせてお茶を飲んだ瞬間急激な眠気に襲われて横たわった
((ちゃんと戻ってて…))
しばらくたって目を開ければ心配そうに顔を覗き込むみんなと小さな体。団蔵だった
「兄ちゃんっ!」
「団蔵…よかった。戻ったのか」
「僕は解毒剤もきちんと作るよ?」
そう言って現れた善法寺先輩に抱き締められて頬にキスされた。びっくりして何事かと思ったけど、暴れ出した三郎を見てたら冷静になってきた
「これで許してあげる」
でも諦めないから、なんて囁かれてどきっとしたのと焦ったのとで固まってしまった
((二度と保健室遊びに来てやんないもん…!))
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