脈打つ鼓動と火照っているであろう顔は今は誰にも見られたくねぇ…。炎天下の中声のする方に駆ける。体にはほのかにフローラルな香り…制汗スプレーだな、きっと…。そう思ってポケットに手をやり絶句する。

「鍵がNaい…?!」


2:厄日×動悸×狼狽


「はぁ〜…」

大きな溜め息を付けば猪里に、虎徹が溜め息とか明日槍が振るっちゃ。止めや、と言われたが溜め息も付きたくなるぜ。ランニング中見かけた女の子を助けたと思ったら襲われそうになるし、野球部の皆に心配かけるし、挙げ句の果てに部室の鍵無くすし!牛尾主将はスペアがあるから大丈夫だよ、虎徹くんって言ってくれたけれど…あー、マジでどこで落としたんだよ。

「はぁ…」
「虎徹、溜め息付くと幸せ逃げるっちゃ」
「猪里ィ…俺は今センチメンタルなんDa…放っといてくれYo…」
「キザトラ先輩がおセンチになる事なんてあるんスねー」

猿野が笑っているが今は怒る気にもなれない…。つーか、アレはもしかして据え膳って奴だったのか?!童貞捨てるチャンスだったのか?!考えれば考える程頭が痛い。こんなのキャラじゃねぇのに…。目に見えて凹んでるせいか、さっきまで凹んでいた猿野は慌てだし、子津にフォローをされている。もうどうでもいい…そう思った時、部室前に人影が見えた。それに皆も気づいたのか足を止める。

「おや、誰だろ?」
「お、んなの子?みたいっスけど…?」
「マネージャー希望の子かな?」

皆が口々に言う話を聞いて人混みを掻き分け噂の女の子(?)を見ようと猿野に連れられ乗り出せば絶句する。え、嘘、なんで?

「キザトラ先輩!かわいい子っスね!って先輩?」
「…あ、あぁ、そう」
「…虎徹、おまん好みの女の子ばい。ナンパせんと?」
「虎徹くん、具合でも悪いのかい?」
「え、いや、あはは、大丈夫っスよ」

ナンパしないだけでこの言い様は少し傷つくが、ナンパなんか出来ない。だって、あの子は…。猿野の後ろに隠れる様にしていると、すみません、と声を掛けられた。近くで見ると間違い無い。さっきの女の子だった。

「こちらは十二支高校の野球部さんで合っていますか?」
「ああ、そうなのだ。何か用なのだ?」
「実は…あら?」

バチ、目が合った。綺麗な吸い込まれそうな瞳…さっきはよく分からなかったけど、髪も艶やかで顔も整ってるし…本当にいい女だぜ。そう思ってると、また手を握られた。さっきはありがとうございました!ってすっごい極上の笑顔で。

「さっき、とは?」
「あ、申し遅れました。私、名字名前と申します。先程道端で具合が悪くなったところをこちらの方に助けて頂いて…」
「なーんだ、虎徹先輩やっぱりナンパしてるんじゃん!」
「いや、俺は本当に何も…」
「そうか。そんな名字くんは十二支高校野球部に何の用だい?」
「コチラを届けに…」

そっと握らされた物は今日失くしたと思っていた部室の鍵。つまりあの時に落としたって事かよ…。思い出したら恥ずかしい。お届けに来たんです!と言う彼女にしどろもどろになりながらお礼を言えば、こちらこそありがとうございました!とまた手を握られる。それを見ていいなぁ〜と声を漏らす男共。いいわけあるか!いや、普段なら嬉しいんだけどよ…今回はちょっと気が引けるっつーか、なんつーか…。

「キザトラ先輩も隅に置けないっすねー、こんな綺麗な子を仕留めてたなんて!」
「さ、猿野!」
「虎徹のナンパは今に始まったことじゃなかと」
「猪里ィ…」
「てか、引っかかる女の子もいるんだァ!ねー司馬くん!」
「…」

好き放題言われているが、それよか彼女の胸元に大量のキスマークが付いているのに目が離せない。この子は本当に…ヤリ…。

「…えっち」
「っ!」

見ていたのがバレたのが小声で言われる。途端耳が熱い。何だコレ。俺は遊ばれているのか?!皆には聞こえなかったのか助けてくれない。さっきまでキラキラうるうるだった瞳は曇り、妖艶さが見え隠れした。それにまたドキリとしていれば、いい部ですね!とまた満面の笑みで言われた。

「また遊びに来たいなぁ…」
「えっ?!」
「うわ〜本当に?!お姉ちゃんなら大歓迎!」
「ありがとう、また来てもいい?」
「ぜひ来てください!」
「えっ、ちょ、まっ…」
「じゃあ、私は塾があるのでこの辺で」

またね、と手を離した彼女はくるりと振り返り手を振った。宙に浮いた手は空気に触れて冷たい。またフローラルな制汗スプレーの香りがした。それに鼓動が早くなって、脈打つ。

「虎徹先輩やるぅ!あんな可愛い女の子捕まえるなんて!」
「虎徹くんも隅に置けないな」
「あれ、先輩…」

顔、赤いっスよ…と犬飼に言われてハッとする。見とれてる場合じゃない。あの女の子またね、と言っていた…。また来るのかよ。項垂れているとポケットがカサリ、と音を立てる。まさかと思ってみると四角い紙切れと…

「こ、こここここここ!」

先を歩いていた皆が一瞬振り返ったがすぐに笑顔を作って何ともない振りをした。ジャージのポケットにコンドームが入ってた。そして書かれていたのは電話番号と[いつでも電話待ってます*名前]と言う文字。本当に本当に…。

「厄日だZe…」







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