とうとつ
思い返せば、
とっつぁんがアポをとって屯所にくるなんざ、おかしかったのに。
「どうやら俺に重大な話があるとか……怖いよォォォォ!!!トシィ、同席してくれなぁい??」
指先をツンツン合わせながら、上目遣いでモジモジと頼まれて
「"近藤さんに"話があんだろ?俺の出る幕じゃねェってこったろ」
一度は…いや、三度くらいは突っぱねたものの
「頼むぅ!!!押入れとか床下とか天井とか!!!どこでもいいから!!!!どこでもいいからそばにいて!!!!!!お願いお願いお願い!!!!お!!ね!!が!!い!!!!」
腕を捕まれ根負けした俺は、どーせいつものくだらん話だろうと
「忍者か俺は!!!普通に行くわ!!!」
承諾した。
今夜が、俺の人生を左右する
始まりの日になるなんて知らずに。
ーーーーーーーーーー
「アポとっといて、日付変わってんじゃねェか」
疲れた。
今すぐ寝たい。
適当に話をつけてさっさと寝よう。
あくびをしながら近藤さんたちのいる部屋に向かうと
「いくらとっつぁんの頼みでも、それは聞けねえ!」
近藤さんの"らしくない"声色に、つい眉間を寄せる。
ったく。今回もろくな話じゃなさそうだな。
戸に手をかけると
「勘違いすんなァ。俺ァ頼みに来てんじゃァねェ。命令しに来てんだ」
とっつぁんもまた、いつもより低い声で、ゆっくりと話している。
何事かと考えても、いつものくだらん無茶振りしか浮かばない。
「命令でも聞けねェ!!!」
「聞くか聞かないかなんつー選択の余地はねェ!それが命令だァ!!」
ハァ…。
確実に面倒なことになる。
っていうか、もうなってんのか。
このまま仕事が終わらなかったことにして戻…………れるわけねェ…
朝まで押し問答していそうな2人のやりとりに
ゆっくり息を吐き
寝ることに諦めをつけて、戸を開ける。
「ッ!!チッ!!トシ呼びやがったなァ?!」
「こんな大事な話に、副長が参加しないわけないだろ!」
「残念でしたー、なんの話かなんて事前に言ってませーん。おっちゃんそんな凡ミスしませーん」
机に足を乗せて身を乗り出し、3センチの距離で睨み合っている2人が、同時に俺を見る。
とっつぁんの隣には、見るからに訳アリなガキ。
歳は…12、3ってところか?
誰がどー見ても"コレ"が元凶、だな。
こじんまりと座っているくせに、どことなく不気味な雰囲気を放つガキを横目に
「とりあえず2人とも落ち着け」
近藤さんの隣に腰掛ける。
こんな時間にガキ連れて、近藤さんをここまでにさせる話…
妾の子
とか?
「こんな子どもをここに置くわけにゃぁいかねえ!!」
なんだ、やっぱり、
いつものくだらない話、か。
肩の力が抜け、
タバコに火をつけ深く腰掛ける。
「童(わっぱ)だぞ?!新選組に入隊させろなんて無理だ!!!」
「入隊ィィィ?!!!????アッツーーーーー!!!!」
思わぬ言葉についタバコを落とし、慌てて拾い上げる。
オイオイオイ、いくら妾の子でも、テメーの子どもだろーが。
「いつ攘夷志士が乗り込んでくるかもわからねえこんな場所に、そんな子どもを置いておくなんて、命の保証ができねぇ!」
「その心配はいらねェよ」
「オイジジイ。うちは託児所じゃねェんだ。妾の子を匿いたいなら他を当たれ。俺も断固反対だ」
肩の力、抜いてる場合じゃねえ。
タバコを灰皿に押し付けて、ガキに目を向ける。
…なんだこの違和感は。
色白で小さくて、その辺で迷子になって泣いてそうなガキなのに、
思わず目をそらしたくなる
この感じ。
「妾の…」
隣で近藤さんが呟いて、少しだけ俺を見る。
そんなことに気づいてもいないクソジ…とっつぁんは
「だァからァ、オメェらに意見なんぞ聞いちゃいねぇ。上手く使えば必ず役に立つ。死なんてもんも心配無用だァ」
妾の子は、死んでもいい、か。
「さ、ほら立って。このゴリ•••おじさんの言うこと、よーーーーーく聞くんだよ。今日からここが、お前ェの家だ」
立ち上がって帰ろうとするクソジジイの腕を掴む。
「待ちやがれクソジジイ!認めねぇっつってんだろ!」
「そうだ!絶対にダメだ!」
反対の腕を近藤さんが掴む。
「しつけェんだよ!!め!!い!!れ!!い!!上司からの命令を簡単に反故にすんじゃァねえ!!!」
「なァにが上司だ!!おもっきし私的利用だろォがっ!!!」
「そうだそうだ!」
両腕を掴まれて動けなくなったクソジジイは舌打ちをして
「面倒くせェな。私的利用なんかじゃねぇ。これはお上の御意志だ。入隊させろ」
「お、おか•••み••••••?」
将軍の、命令…?
息を呑む音が、近藤さんと重なる。
冷たい光を放つ目でギロリと睨まれて、冗談だろなんて言う余地はない。
本気の目だ。
「どういうことだ?」
将軍が、こんな子どもをうちに置きたがる理由…
頭を巡らせても1つも浮かばねぇ。
「この子の話を聞かせてくれ。名前も歳もわからねぇんじゃ困る」
近藤さんの落ち着いた声で、この人は粗方覚悟を決めたんだと悟る。
「この話、他言したら命はねぇ。が、それでも聞くか?」
「当たり前だ」
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好きだけじゃやってけない